「くっ!……ぬおぉぉ!?」
「箒さん、今ですわ!」
「わかっている!せぇいっっ!!」
ガキンッ!
箒が駆るIS『打鉄』の近接ブレードと、『雪片・千秋』が激突する。
セシリアのビット攻撃を回避し、体勢を崩した俺に箒が仕掛けて来たのだ。
「ち…くしょうっ!」
つばぜり合いを制したのは『白式』。
出力の差で無理矢理押し勝ったのだ。
「ちぃっ…」
「くらえ!『零落白夜』!!」
押し負けるや、すぐに距離を取った箒に俺は単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を発動。
一撃で終わらせる!!
「やらせるとお思いで?……」
カシュッ、ヒュンヒュンヒュンッ!――― セシリアのビットが飛来する。
レーザーの雨が降り注ぎ、箒へと攻撃しようとした俺の進行を防ぐ。
「はああぁっ!」
「こなくそっ!」
雨が降り止み、箒が近接ブレードを構えまた襲いかかる。
俺は零落白夜を発動したまま『雪片・千秋』を降り下ろす。
「私が……真っ向からぶつかり続ける馬鹿に見えるか?」
「!?」
箒は近接ブレードで、雪片を『絡め取った』。
降り下ろした雪片を、ブレードで円を描くように振り、相手から剣を奪う『いなす』技。
出力で『白式』に敵わないと判断した箒は、技巧を凝らして『白式』を纏った俺を制した。
『雪片・千秋』を後方に飛ばされ武器を失った俺に、箒が止めの一撃を見舞おうとする。
「うおおおおおおおぉっっ!!」
しかし、食らうわけにはいかない。俺は多方向個別近距離瞬時加速により、『真横』に避ける。
突然、しかも無理矢理な加速に身体が悲鳴をあげるが俺はそれを無視。
今この時、俺は無惨にやられるわけにはいかない。這いつくばってでも勝たなければいけない………何故なら…………
「頑張って!一夏~っ!」
第三アリーナの観客席にて俺の勝利を願う千春がいるからだ。
手を振っている千春の胸が『ぶるんぶるん』と揺れていた。
ちょっとまて、あの揺れかた…………!!??まさかノーブ―――
「チェックメイトですわ」
こめかみに青筋を浮かばせたセシリアの『スターライトmkⅢ』から放たれたレーザーにより、瞬時加速中のスラスターが撃ち抜かれ、盛大にスッ転んだ。
さらに、スッ転んだ俺に箒が追撃とばかりに何度もブレードを叩きつけて俺のシールドエネルギーはゼロになった。まるでリンチだぜ箒……。
うっでぃっ!!
「ちくしょう!セシリア、お前スターライト禁止だったろうが!」
「わたくし達が貴方に特訓をつけてあげてるというのに、余所見をしていた貴方が悪くなくて?」
「そうだぞ一夏、今の訓練は私がメインだったのだ。こ、この時くらい『私』だけを見ていろ!」
「は、はぁ………」
そう、今の戦闘は特訓だったのだ。
食堂での一件の後、訓練だ特訓だと言う二人に、千春が対鈴用に提案した中・近距離戦闘の、だ。
箒とセシリアがタッグを組み、箒が距離をとったらセシリアがビット数機により俺の動きを牽制する、と言った感じだ。
なんでも、鈴のISは『白式』と同じくパワータイプのISで、なおかつ特殊兵装による高い空間制圧力を持つらしい。
一般的に有名な空間制圧兵器は、『ブルー・ティアーズ』や『蒼き水面(ブルー・アース)』のBT兵器が有名だ。
しかし鈴の操るISはBT兵器ではないそうだ。
ネタバレ禁止、と千春が教えてくれなかったのだ。
「なっ!?メインはわたくしの『ブルー・ティアーズ』ですわよ箒さん!?」
「白兵戦がメインだ!セシリアのビットは凰鈴音の特殊兵装の『代わり』ではないか!」
いや、どっちも正しいんだけどね。白兵戦&中距離戦闘を想定した訓練だし。
言い争っている二人を他所に、俺はピットへ向かう。汗だくになった身体をシャワーではやく流したい。
◇
「お疲れさま、一夏」
「うわっぷ!?」
ピットの更衣室に入った途端、目が何かによって遮られた。タオルだ。
「サンキュ、鈴。…あー、生き返る」
投げわたされたタオルで顔の汗を拭い、すぐさま水筒に入ったスポーツドリンクを投げわたされた。
汗まみれの顔はそれだけで鬱陶しいものだ。それを微妙に濡れているタオルで拭えばそれはもう気分爽快。
更にぬるめのスポドリ。熱くなった身体を考えてぬるめにされたスポドリを、俺は更衣室や部室特有の背もたれのないベンチに腰かけ、ゴクゴク音を立て飲み下す。
「さっきの見てたけど、アンタ中々やるじゃない。最後の千春の胸を見て思考が遅れたのは最低だけど」
ニヤニヤと笑いながら、俺に背を向けるようにベンチにこしかけた鈴。
俺は「悪い」、と一言謝り鈴にもたれ掛かる。鈴は昔から、運動などで疲れて倒れそうになった時はいつも背中を貸してくれた。
「もうっ、いつまでも私の背中を頼りにしないでよね?重いんだから」
呆れたように言った鈴の顔は見えない。しかしその声色は少し嬉しそうだった。
「ん、悪い。けどお前に背中預けると落ち着くんだよ」
俺も、本当に前から何も変わっていなかった鈴に嬉しく思いつい甘えてしまう。
俺と鈴を家族で表すならば姉や母だろうか?鈴からはそう言った安心感を得られる。
千冬姉?父親だろ常考。
「ばっ!?バカじゃないのアンタ!」
「む?バカってお前…」
「そういう言葉は控えなさいって前散々言ったじゃない!」
「ああ、確か小六の時に言われたっけ?「乙女心をわかってないわ!」ってさ。ははっ懐かしいなあ」
まだ昔を語るほど歳は食っちゃいない。けれど懐かしく思うくらい若輩の身でありながら許されるだろう。そう言えば―――
「そう言えばさ、酢豚は上手く作れるようになったのか?」
遠い昔にした約束を思い出し、俺は背中を預けたまま鈴に聞く。
ビクッ、と鈴の身体が震えた。
「昔約束したろ?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を食わせてくれるってやつ!なあなあ、上手くなったのか?昔っから鈴の酢豚は格別だったからなあ、それが毎日となると…………ゴクリ、楽しみで仕方ないぜ!」
昔日本にいたころ鈴の家は中華料理屋を営んでいて、当時千冬姉が家にいない時が多かった俺は親友(件のロリ巨乳バカ)の実家の定食屋と並んで頻繁に利用させて貰っていた。
その時に馳走された鈴特製の酢豚を食べ、俺は思わず涙を流した。悲しいからじゃない。鈴の酢豚を食べるたびに幸せが口の中で広がったからだ。
鈴の旦那さんになるヤツは幸せだな、羨ましいぜ。
「あれは……その、毎日はやっぱ辛いから無し。あ、でも……作って欲しかったら作ってあげるわ」
「え~、……まあ確かに毎日は辛いな。じゃまあつぎの機会を待つさ」
「……『そんな事』より、アンタどうなのよ?」
「え?…………あ、何が?」
何故か、『そんな事』、と強調した鈴に疑問が浮かぶも、
「もち、千春の事に決まってんじゃない!アンタ千春の事見て一発で惚れたじゃない?どうせ一歩も進展してないだろうけどっ!」
次の言葉で俺の疑問も違和感も吹き飛んだ。
「りっ、鈴!?」
「その様子じゃほんとに進んでないみたいね~、ほんとヘタレなんだから!まあ仕方ないか、夏休みの時、海で千春の水着見て鼻血噴いたチェリーちゃんだもんね一夏は」
背中を預けていて表情は見れなかったが、間違いない、絶対ニヤニヤ笑ってる。
これ以上いるとヤバい。主に思い出したくない過去的な感じで。
故にここは戦略的撤退に限る。
「お、俺ようじがあったんだ~、わすれてたぜ~。じゃあな鈴、あんがとよ」
軽く手をふりながらそそくさと更衣室から出ていく。
部屋から更衣室までISスーツで来たので帰りもISスーツなのだ。
「うん。ちゃんと身体洗いなさいよね?千春に嫌われちゃうわよ?」
「よ、余計なお世話じゃいっ!」
鈴は俺が更衣室を出る間際も、ずっとうつ向いていた。
◇
「たく…なんで忘れててくんないのよ…」
ひとりになった更衣室で、鈴はうつむいたまま呟いた。
「しかも意味間違って伝わってるし………はは、何期待したんだろ、アタシ………」
自分自身で忘れようと、思いでの中で封じておこうと決めた約束。それを彼が覚えていてくれた。
その嬉しさや、言葉で表せられるものではない。
もしや、……もしかして…『彼』は私の事を………なんて、甘い幻想だ。自分は理解していたはずだ。
中学一年の一学期。入学式の日、彼から初めて持ちかけられた頼み事を聞いたあの日から。
好きな子ができた、彼女と仲良くなるにはどうしたらいいだろうか?
と言った内容の相談を聞いたあの日から。
最初こそ、一夏を拐かした!とか言って彼女に突っかかっていたが、彼女と話すたび、言葉を交わすたび、
『彼女』なら一夏が惚れて仕方ない。
と納得してしまった自分がいた。彼女はとても優しい人で、私が泣いている時にはいつも優しい言葉をかけてくれて、傍にいてくれて………
私と彼女は大親友になった。
そして、私が大好きな二人が結ばれれば私も嬉しいと自分の心を騙し…………いや、結ばれて欲しいのは本心だ。そう、騙したのは、『一夏に恋した私の心』だ。
「せっかく、アタシが身を引いたって言うのに……」
身を引いたわけじゃない。もともと彼の目には彼女しか写っていなかった。
そんな事さえ騙す。さも彼女に譲ってやったとでも言うように。
「言うのに………っ、ひっ…ふぇっ」
息がし辛い。目が熱い。
「いちっ、かぁっ……やっぱり……あたしっ、一夏が……すきっ!」
溢れだす涙を腕で拭う。止めどなく溢れる涙は彼女の頬を伝い、膝に墜ちる。
うつ向いていた彼女の顔は、涙と鼻水に濡れてくしゃくしゃだった。
もう、騙せない。再会した時、彼の事が大好きだということを再確認してしまった。
彼の横顔を見るたび、トクンと鳴る胸が彼女の恋慕を知らす。
千春ですらない相手と楽しげに話していた彼を見てズキリと傷んだ胸が嫉妬を知らす。
そう、彼女は自分の本心を騙せなかった。それを理解してしまった。
故に、彼女はひとり、涙を流し嗚咽しながら騙していた恋心に心痛めた。
今までのツケはとても大きい。
鈴は、ああ、こんなに苦しいくらい彼に恋焦がれていたのか。と酷く冷静に理解した。
目頭が、頬が、胸が、身体が熱い。
それを冷やすように酷く冷静に。