何よ、武器を出そうともしないなんてふざけてんの?
凰鈴音はカウントが終わる刹那、憤りを持っていた。
いや、アイツが勿体ぶってる時は何かしらある。
あたしの誕生日の時にやった、トランプの大貧民(または大富豪)の時もそうだった。
あのバカは切り札がある時こそ『待つ』のだ。
なら様子見するか?
んなわけないじゃない。あたしを誰だと思ってんのよ?
凰鈴音!中国の代表候補生にまで上り詰めた女!
あのバカの切り札なんて無理矢理ねじ伏せてやるわよ!
ブザーがなり終わる刹那、一夏目掛け突撃しながら鈴は不敵に笑う。
あたしと、あたしの甲龍(シェンロン)相手にどこまでやれるの一夏?。
巨大な青龍刀を振り上げたその刹那、期待を胸に鈴は心の中で問う。
ブンッ!!
降り下ろした剣は…………
一夏を真っぷたつに叩き割った。
アリーナの会場に悲鳴が走った。それもそうだろう。人間が一人、真っぷたつに叩き割られた光景等見て驚かない者などそうそういない。
しかし、真に悲鳴を上げ、驚きたかったのは、叩き割った本人だった。
「なっ!?」
なんで……手応えがないのよ!!
そう、叩き割ったはずなのに手応えがない。まるで空を切ったようにからぶった。
そして、叩き割ったはずの一夏は、目の前から消え失せていた。
鈴の頭の中に一つの解答が浮かびあがる。
偽物か?
それが一番説得力が高いだろう。あれを叩き切る瞬間まで、それを『白式』だと『甲龍』は認識していた。
しかし、鈴の直感はそれを違うと否定した。
いや、『そんな安易な答えであるはずがない』と否定したのだ。
では一体なんなのか?
そんなの勝ってから問い詰めればいい。余計な思考などで時間を食い、負けてしまえば代表候補生としての誇りが傷つく。
これだけの思考を、凰鈴音、彼女はコンマ0.2秒の間に行っていた。
しかし、その0.2秒が命取り。
「千秋ぃっ!!」
背後から声が聞こえた。振り替えるより速くその声の主が一夏だと理解した。
◇
準単一仕様能力、その名も『疾風迅雷』。
機体全体に広がる溝がスライドし、各部位から小型スラスターがその身を表す。
『疾風迅雷』展開後の最大速度は『亜光速』。
後の歴史では、IS史上始めてにして唯一、現存するISの中で『亜光速戦闘』を行ったIS。とでも歴史書に乗る事だろう。
通常稼働でも超音速一歩手前なのだから恐れ入る。『疾風迅雷』はISのリミッターを外し、なおかつ高速機動中に、スライドした溝から放熱と共にエネルギーの余剰出力を放出する。その過程で放熱と余剰出力で形作られた『残像』が発生する。その放出された熱とエネルギーからか、他のISはハイパーセンサーでその『残像』を『白式』と認識してしまうのだ。
肉眼で見ればそこに『残像』が残っていないことなど見るだけでわかる。
しかし、ISを装着している以上絶対と言って良いほどハイパーセンサーを使用する。
ハイパーセンサーを使用する以上、この『疾風迅雷』からは逃れられない。
元より、超音速一歩手前で機動するISを、肉眼で捉えられようか?
千冬姉ならやってのけそうだ。
一夏は、右腕を引いた体勢で鈴の背後に回り込み、一人苦笑した。
音速機動による急停止、方向転換は全身から露出する小型スラスターを効率よく使用して機体制御する必要がある。しかしそこら辺は『白式』が勝手に制御してくれる。
俺はと言えば、『残像』を叩き切った鈴へ向け引いた手をつき出すだけだ。
そう、突きだしながら武器を『呼び出す』
「千秋ぃっ!!」
腕を突きだしながらの音声認識による『高速武装展開(ラピッド・チェンジ)』。
その展開速度は0.1秒。本来音声認識を用いず武装を展開する場合、操縦者のイメージにより展開速度は大きく変化する。
例えばセシリアだ。
彼女は得意な射撃武器の展開はすばやい。
しかし、苦手な近接武器の場合、その展開そくどはひどく遅い。
もたもたともたつき、最後には音声認識で無理矢理呼び出した。
授業中に千冬姉に指され、展開したときは怒られてたっけ。
しかし、音声認識にはイメージはほとんど使わない。そのくせ展開速度が速いのだ。
千冬姉曰く、音声認識は相手に使用する武器の情報が知られ、熟練した操縦者になるとその展開速度内に、その武器の対処法を組まれるらしい。
0.1秒以内に対応する相手とかどんなバケモンだよ、と俺は当時戦慄した。
何はともあれ、俺は『雪片・千秋』による高速の突きを放つ。展開速度は一秒以下、しかも背後からの奇襲により相手の反応は遅れる!
これが俺の切り札。武装もよくわからない相手を、『武装を出させる前に倒す』技。
まず武装を展開せず油断を誘い、『残像』を相手に切らせ、その隙に高速ど相手の背後に回り込み、背後から高速武装展開により、0.1秒で呼び出した雪片で切りかかる。
『残像』を囮に使う技、名付けて『影打』
そう、『影打ち』こそ俺の切り札。
取った!
俺は勝利を確信した。
しかし、その0.1秒が命取りだった。
ガンッ!
機体に、身体に衝撃が走る。
腹部に蹴りを食らった。蹴り?なぜ蹴りなんか。
鈴が蹴りを放つには、
振り向く・蹴りを放つ
と言った行程が必要なはずだ。
振り向く間際に蹴る?それも無理だ。振り向く瞬間に雪片が届いている。
ならなぜか? 何故……鈴が逆立ちのような格好で俺を『見下ろして』いるのだろうか?
「残念だったわね一夏。確かに驚いたけど、自分から居場所を知らせたら意味ないわよ?」
例えるならばそれは逆サマーソルトキック。
突きを身を屈めることで回避し、そのまま足を後ろへ振り、前転すると共に後ろへ蹴りあげる。
故に今、鈴は逆立ちして見える。決して、俺が逆立ちしたわけではないのだ。
こいつ……0.1秒で……反応しやがったのか!?
ガシャッ!
『甲龍』の両肩に存在する棘付き装甲(スパイクアーマー)の『非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)』がばかっとスライドして開く。
中心の球体が光った瞬間、俺は目に見えない衝撃に『殴り』飛ばされた。
意識が消えかける。ダメージが身体に直接響く。この武器は……食らい続けたらヤバいっ。
「今のはジャブだからね?」
ニンマリ、と鈴が口元を吊り上げた。
不味い!!本気でヤバ――――――
「がはッ!!」
地面に叩きつけられる。肺の中の空気が地面に打ち付けられた衝撃で吐き出される。
何をされた?……弾丸なんて見えなかったし、なにかが放たれた様子もなかった。
いや、あの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)がチラリと光った。あの光でやられたのか?
いや、まさか。あれはたぶん発射した時、空気と空気が擦れて起こった火花みたいなもんだ。よくわからんが、あれが砲弾なわけがない。
「…………」
ニヤリと鈴は笑ったままだ。しかし、目だけは笑ってなどいなかった。
猫科の動物のように細められた目は、獲物を見る狩人の目。
どうやら俺は、『影打ち』のせいで、雑魚から『敵』にランクアップしたようだ。
「ちきしょう…」
俺は立ち上がり、口の中に広がった血を吐き捨て雪片を構える。
鈴はそれを見て持った青龍刀をクルクルと器用に回す。
見えない弾丸を放つ特殊兵装での中距離ではなく接近戦(インファイト)。
こっちの得意分野で相手しようって?……油断や慢心ではない…つまり純粋に俺の力量を見極めようとしてか…?
上等だ。その邪魔な非固定浮遊部位ごと、叩き切る!
俺は急上昇からの瞬間加速(イグニッションブースト)で鈴に切りかかった。
「なんだ…あれは?……」
ピットからリアルタイムモニターを見ていた箒が呟く。
突然一夏が地面に打ち付けられたのを見たからだ。
「一瞬…奴の…凰鈴音のISの近くが捻れたように見えたが……」
モニターを見て怪訝な表情を見せた箒。
しかしその言葉を聞き、同じくモニターを見ていたセシリア、千冬、真耶、千春は箒を一斉に見た。
「視認…できたの?」
千春があり得ないものを見るかのように箒を見る。
「あ、ああ。僅だか捻れたような……気がしたのだが、間違っていたのか?」
「………………」
千春の表情が険しいものになる。
「『衝撃砲』。空間自体に圧力をかけて砲身を生成。その余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して打ち出す、と言った武装です……箒さんが見た捻れは……たぶん空間に圧力を加えたさいに生じたものだと思います」
山田真耶が箒の問いに答える。モニターを見ながら語るその言葉にセシリアが続く。
「わたくしの『ブルー・ティアーズ』と同じく第三世代型の兵器ですわね……見えない砲身と見えない砲弾……そして恐らく、砲身射角がほぼ無制限なしで撃てるようですわね…」
セシリアは唇を噛む。たぶん、セシリアでも『衝撃砲』を見切ることはできない。
偶然だろうか?……
セシリアは箒から視線を外す。
「一夏………」
モニター越しには一夏と鈴音が近接武器のぶつけ合いをしていた。
その様子を箒は見つながら胸を痛めた。
苦しそう。辛そう。一夏の戦う姿を、箒は身を切るような思いで見ていた。
「…………」
「…………」
そんな様子の箒の後ろ姿を、千冬と千春は睨むようなに見ていた。その二人の思考は同じ。
ハイパーセンサーをもってして、ようやく見れる空間の捻れを、何故モニター越しで、肉眼で見えたのか。
二人の思考を占めるのはただその事だけだった。
◇
「つっ!?」
「やるじゃない!『甲龍』は力自慢なのよ?」
ガンガンッと鈴が青龍刀を雪片に打ち付ける。先程から押され続きだ。
たく、何をおもいあがってたんだか、俺は。
接近戦(インファイト)は、明らかに奴、鈴も得手分野じねぇかっ!
鈴の特殊兵装にばかり気を取られ忘れていた。
千春にも言われた。箒とセシリアとも特訓したじゃないか。
『近距離、中距離を得意とした対鈴用』の特訓をっ!
「こなくそっ!!」
顔の横を『暴風』が横切った。野郎、さっきの特殊兵装をッ!
ガガガガガカッ!
連続で発射される見えない弾丸。『空気砲』を、鈴の目を見ながら着弾点を予想し、身体を捻り、避け、辛うじて致命傷を避けていく。
頭に当たったらアウトだ。エネルギーシールドにより直接のダメージこそ身体にはないが、あの『空気砲』は衝撃が身体に伝わる。
頭に衝撃が走れば、確実に意識を掠め取られる。例えそれが一秒に満たなかったとしても、鈴の前で無防備な姿を見せたらその一瞬でヤられる。
「よくかわすじゃない。衝撃砲『龍砲』は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」
鈴はさも楽しげに言う。その場から全く動かずに衝撃砲を放ちながら。
「くそぉっ!!」
全く動くことのない鈴へ向け、なんど突撃したことか。何度回り込もうとした事か。
しかして全て、あらゆる方向へむけ、発射された衝撃砲に迎撃され失敗に終わった。
どうやらあの衝撃砲、あらゆる角度、方向へ向け発射可能らしい。真下や真上、背後でさえカバーできるのだろう。
高い空間制圧力を持つと聞いたが、俺の予想は大きく逸れていた。
空間制圧力と言うより、もはや空間迎撃力だ。
中距離特殊兵装、衝撃砲。その能力が最大に生かされるのは中距離、それも敵の動きを牽制する事。
相手が近接特化……つまり白式のようなISでは分が悪い。
(ホンと、魅せてくれるよ、一夏は!)
ふと、千春の言葉を思い出した。