IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 17 『乱入者』

「…………」

 

 

あの時、千春が言っていた言葉を思い出す。

 

ちくしょう、形のいい千春のエロいお尻しか頭に浮かんでこねぇっ!!

 

「なにアンタはニヤついてんのよ!」

 

「うわっ!?」

 

こいつっ、衝撃砲で人の妄想邪魔しやがって!…………あれ?なんで妄想してたんだ?

 

 

 

ガンッ!!!

 

 

 

腹部に衝撃が走る。鈴の衝撃砲が放たれたのだ。

そして、その衝撃で俺は、思い出した。

 

 

(にしても、三次元躍動旋回の応用は本当に驚いたよ一夏。初見なら鈴も驚くだろうね)

 

 

 

そうだ。千春はそう言っていた…。

 

 

これだ、これしかない

 

 

これがダメならエネルギーの問題で間違いなく負ける。『疾風迅雷』を用いても良いが、そんなことしたらすぐにエネルギーが切れる。『影打ち』の時のように瞬間的に『疾風迅雷』を使っても、『零落白夜』が使えなくなる。

 

もう、これしかないのだ。接近し、『零落白夜』を叩き込むのは。

 

 

「うおおおぉぉっっ!!」

 

腹部の痛みを我慢し、鈴に向け突撃する。両腕を前で交差させ、それを簡易の盾にする。

 

 

「無謀な事してっ…いいわ、お望み通り叩き落としてあげるわよ!」

 

俺は鈴の舌打ちを聞き逃さなかった。

 

鈴は今俺に呆れたか、その程度かと見限った。しかし、それで良い。

 

ガッ、ガガガガガッ!!

 

 

交差した腕に立て続けに衝撃が走る。止まるわけにはいかない。

 

ガッ、バキィッ!

 

片腕が弾け飛ぶ。その腕の装甲は、ミシミシと音を立てていた。

 

「落ちなさい、一夏っ!」

 

 

出力を上げた衝撃砲が放たれる。

 

 

ドンッ!

 

弾かれた腕の、肩装甲が爆散する。

痛みで思考が遅くなる。

俺はバランスを悪くしたようにグラッとふらつき、それを立て直すように『三次元躍動旋回』を行おうとする。

 

 

「やらせないわよっ!」

 

青龍刀を振り上げ機動を邪魔しようと鈴が迫る。

 

 

―――かかった。

 

 

俺は鈴が振り上げた剣を『跳んで』回避、そのまま背後へ回り込む。

 

「なっ!?」

 

「うおりゃぁっ!」

 

「っ!?」

 

一瞬驚いた鈴は振り替えるのに一瞬遅れ、一夏は鈴が振り替えるより速く、瞬時加速を使ったタックルをかます。

 

ガンッ、と一際大きく衝突音が鳴り、鈴は吹き飛ぶ。

 

そして吹き飛ぶ鈴にそのまま瞬時加速を使い追いすがる俺。

吹き飛ばされ体勢を崩した鈴。今しかない、立て直しなんてさせるかっ!

 

「りぃぃぃんッッ!!」

 

「くっ、こんな風にっ」

 

 

『零落白夜』を発動。相手の『絶対防御』を直接攻撃し、シールドエネルギーを消滅させる一撃必殺技。

しかし、自身のシールドエネルギーを大量に消費するため、ハイリスク・ハイリターンな諸刃の剣だ。

 

雪片の溝がスライドし青い刀身が姿を表す。

 

刹那。

 

刹那の時が無限に感じられた。

 

振り上げた刃、それを見る鈴の悔しげな顔。

 

そして――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏は振り上げた刃を身体を捻り、鈴と一夏の上に向け振り上げた。

青い刀身は、遥か上空から落ちて来た赤い光の奔流を切り裂き、鈴と一夏、二人を守った。

 

 

「バカッ、避けろ鈴ッ!!」

 

「えっ?」

 

赤い光の奔流に乗り、黒い塊が飛来する。

 

突然の事に身体を強張らせた鈴は、抱き寄せられひどく気の抜けた声を漏らした。

 

 

―――――突然、第二アリーナ全体に衝撃が走った。

 

ステージ中央では高く砂塵が舞い、その砂塵から黒い影が姿を表した。さっきの衝撃はアリーナの遮断シールドをぶち抜き影が落ちて来た衝撃らしい。

 

 

「さっきのビームはあいつの仕業かよ、ちくしょう、人の試合の邪魔しやがって」

 

 

鈴を抱き寄せた腕に力が入る。

 

 

「あっ…」

 

腕を腰に回され、強く抱き寄せられた鈴は、当然一夏と近づく。肉体的に、顔がとても近くに。

 

鈴は混乱していた。

赤い光の奔流。それを切り裂いた一夏。先程まで自分がいた所を落下し、アリーナに落ちた黒い塊。

 

そして、力強く抱き寄せられ、唇が届くほど近くに迫った一夏の横顔。

 

鈴は混乱しながらも、

 

(一夏って、やっぱりカッコいいなぁ)

 

と、しみじみ思うのだった。

 

 

 

「千冬姉!、空から遮断シールドをぶち抜いてISが落ちて来やがった!」

 

『こちらでも確認した。織斑、学園の教員がそちらへ向かっている。それまで耐えられるか?』

 

「ああ、俺達は奴を食い止める。つか試合の邪魔をしてくれた礼をしなくちゃな」

 

 

通信越しに、すぐに応えてくれた姉にニヤリと笑う。

 

『そんな!織斑先生、危険過ぎます!あの未確認機体はシールドを突き抜けるほどのビーム兵器があるんですよ!?生徒さんにもしもの事があったら――――』

 

 

山田先生の声はそこまでしか聞こえなかった。

 

敵ISが巨大な腕を持ち上げ、掌からビームを放って来たのだ。

 

 

「ちっ……ハッ!敵さんはやるき満々みたいだぜ、鈴?…………鈴?」

 

「っ!!?はっ、離しなさいよ!えっち!変態!王子様っ!」

 

「うわっ、暴れんな鈴っ、いてっ!こらっ、つか最後の別に罵倒じゃねぇだろ!」

 

 

ビームを雪片で切り裂く。光学兵器やシールドを切り裂く雪片は、ビーム兵器などに対しては盾ともなる。

 

殺す気で放って来たであろう相手に一夏はニヤリと笑う。

腕の中でおとなしかったお姫さまが暴れだす。

 

 

 

 

「もしもし!?織斑くん!織斑くん聞いていますか!?凰(ファン)さんも!聞いてますー!?」

 

 

通信越しに、一夏と鈴が反応しなくなり、山田真耶は色んな意味で涙を流しながら叫ぶ。

先生の話は聞いてくださーいっ!!

 

 

「落ち着きたまえ山田君。コーヒーでも飲め、糖分が足りないからイライラするんだ。私のように冷静沈着になるには……しょっぱっ!?―――」

 

「…………」

「…………」

 

「何をジロジロ見ている。それよりも何故塩がある?」

 

「いや、大きく塩と書いてあるから間違えるような事は………」

「あ!やっぱり弟さんのことが心配なんですね!?だからそんなミスを―――」

 

 

 

ガシッ!×2

 

 

「最近握力が下がってしまってね、ん?手伝ってくれるのか?ブリュッセル、山田君。それは助かるな」

 

 

「あだだだだっ!先生ーっ!?千冬先生!?いまこんな事やってる場合じゃ…あだだだだっ!?割れる!もげる!?」

 

「いたたたぁー!?織斑先生ごめんなさーいっ

!!」

 

 

満面の笑みを見せたら千冬は二人にむけ必殺のアイアンクローを放つ。

 

悪鬼羅刹の修羅の王。殺戮の武神は頬を赤くし照れ隠しに攻撃した。

 

 

「先生!わたくしにIS使用許可を!すぐ出撃できますわ!」

 

「そうしたいのは山々なのだがな、――これをみろオルコット」

 

 

ブック型端末の画面を数回叩き、表示される情報を切り替える。そこに写し出された数値はこの第二アリーナのステータスチェックだった。

 

ちなみに二人は頭を抱え、うずくまっていた。

 

「アリーナの遮断シールドレベルが4に設定?……しかも全ての扉がロックされて―――あのISの仕業ですの!?」

 

「恐らくな。これでは避難することも救援に向かうこともできん」

 

実に落ち着いた調子で話す千冬だが、良く見るとその手は苛立ちを抑えられずせわしなく画面を叩く。

 

 

「で、でしたら!緊急事態として政府に―――」

 

「学園外への通信妨害まで行われている。無理だな。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。扉のロックさえ解除できればすぐに部隊を突入させる」

 

言葉を続けながら、益々募る苛立ちに千冬の眉がびくっと動く。それを危険信号ととったセシリアは、頭を押さえながら溜め息を漏らす。

 

 

「はぁぁ、……結局、待っていることさえできないのですね……」

 

「何、どちらにしてもお前は突入隊に入れないから安心しろ」

 

「な、なんですって!?」

 

「お前のISの装備は一対多向けだ。多対一ではむしろ邪魔だ」

 

「そ、そんなことはありませんわ!このわたくしが邪魔だなどと―――」

 

そこで千冬は一度溜め息をついた。

 

 

「では連携訓練はしたか?その時のお前の役割は?ビットをどういう風に使う?味方の構成は?敵はどのレベルを想定している?連続稼働時間―――――」

 

「わ、わかりましたわ!もう結構ですわ!」

 

「ふん。わかればいい」

 

 

放っておいたら一時間でも続きそうな千冬の指導を、セシリアは両手を揺らして止める。

『降参』のポーズだ。

 

 

「はぁ、……。言い返せない自分が悔しいですわ……」

 

 

近くに席に腰かけたセシリアに、思わぬ所から救いの手がさしのべられた。

 

 

 

「連携時はセシリアはバックアップ。ビットではなく『スターライトmkⅢ』による遠距離狙撃。味方は織斑一夏、凰鈴音。敵はレベルⅣ、殲滅対象と想定。セシリア、貴女は狙撃ポイントと抜け道をナビゲーションするから戦闘準備をして、今すぐに」

 

 

髪をかきあげながら立ち上がった千春、その目は普段の『愉快犯』と呼ばれる女子高生ではなく、『北欧の魔女』、まさしく戦士の目だった。

 

 

「え?で、ですが、扉がロックされていて――」

 

「そんなの、私が開けるわよ―――」

 

 

 

 

 

「私はね、これでも『電脳戦姫』と呼ばれたことのある…………ハッカーなんだから」

 

 

その両目は、本来の碧色の瞳ではなく、黄金の瞳だった。

 

 

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