「電脳…戦姫……?」
山田真耶が目を大きく開いた。
「……白騎士事件の際、『アイスランド』へのハッキングを防いだと言う……あの?……まっ、まさか!その時、ブリュッセルさんは五歳児のはずです!そんな、ただの五歳の子供にっ……」
「えぇ。当時『アイスランド』へのハッキングを防いだのは私の母ですので…二代目となりますが……まあ私は母みたいにキーボード二つでそんな芸当は出来ませんから……」
千春が首のチョーカーに触れる。
「計七つの思考操作キーボードの同時使用で凌駕します」
IS、『グラデーション』を展開した千春。
腕部装甲から伸びたケーブルを機器に接続する。
「モードセレクト、『深緑の大地《グリーン・ガイア》』……セシリア、これを!」
何処からか取り出した一枚のカードをセシリアに投げ渡す。
「!……これはなんですの?」
表も裏も灰色のカードを見てセシリアは怪訝な表情を見せ、千春はクスリと笑う。
「勝利の鍵、かな?」
『グラデーション』の周囲に投影された無数のウインドウ。それらが閉じては消え、また表れては消えていく。
◇
「がぁっ!?」
地面に叩きつけられ声をあげる。
「一夏っ!?っ、こんのっ!」
鈴が青竜刀を振り上げ肉迫するも、その巨躯に似合わず、素早い動きで回避する。全身につけたスラスターをもっての出力が尋常ではない。
いや、姿からして尋常ではない。
深い灰色をしたそのISは手が異様に長く爪先よりも下まで延びている。
しかも首と言うものがなく、肩と頭が一体化しているような形をしている。
極めつけは『全身装甲(フル・スキン)』だ。
通常のISは部分的にしか装甲を展開しない。何故か?。必用がないからだ。
防御は殆んどシールドエネルギーによって行われる。
故に見た目の装甲と言うのはあまり意味を成さない。
もちろん、防御特化型のISで物理シールドを搭載しているものもある。千春のIS、『グラデーション』のモード『深緑の大地(グリーン・ガイア)』がそれだ。
しかしそれにしたって、肌が一ミリも出てないISと言うのは聞いた事がない。
そしてその巨躯もまた異形。
腕をいれると五メートルを越えようかというこのISは、姿勢を維持するためなのか全身にスラスター口が見てとれる。
頭部にはむき出しのセンサーレンズが不規則に並び、両肩には小型だが連射の効くタイプの、腕には先程アリーナをぶち抜いたビーム砲口が四門あった。
「鈴、すまんっ」
「いいわよべつにっ…にしても、面倒くさいわねほんと!」
甲龍の両肩に浮かぶ非固定浮遊部位がスライドし、見えない砲弾が放たれる。
しかしあの謎のISはそれをまるで見えているかのようにスイスイと避けて――――
「やろうっ!……このビームの出力、セシリアの『スターライトmkⅢ』を軽く越えてやがるっ」
鈴に向けられた腕から極太のビームが放たれる。
俺は鈴の眼前に躍り出て、そのビームを『雪片・千秋』で切り裂いた。
「埒が開かないわねっ…一夏っ!左右から挟み込むわよ!」
鈴が衝撃砲を連続射撃しながら謎のISに突撃する。
「うおおぉっ!」
スラスターを吹かし、俺は鈴の反対側から回り込む。『雪片』を構え『瞬時加速』で距離を詰める。
それを見て何を思ったのか、謎のISは両腕を広げぐるぐると、独楽のように回り始めた。
「!?」
「冗談じゃねぇぞ!?」
回り始めたISは……その両腕からビームを放ちながら回転し始めたのだ。
ビームの弾幕、威力こそ落ちたものの、連射性が格段と上昇し俺と鈴を近づけさせない。
そして突然、そのISはピタリと止まった。
鈴をそのセンサーに捉え――――
ドドドドドドッ!
全身から現れた発射口から、鈴へ向け無数のミサイルが降り注ぐ。
「くっ!……っ!?」
迫る無数のミサイルを衝撃砲で落としきれないと判断するや回避行動に……移れなかった。
ISが放ったビームが甲龍の脚を貫き、動きを止められた。
「きゃあああぁぁっ!?」
降り注ぐミサイル、その爆風に吹き飛ばされ、鈴は地面を転がる。
甲龍の装甲はボロボロになり、もはや戦闘を続行出来ない。
その鈴の前に無情にも降り立った謎のIS。ISは腕を伸ばし、鈴の眼前にビームの砲口を突きつける。
「ひっ――」
「鈴っ!?」
もはやエネルギーなど気にするものか。瞬時加速で瞬時にトップスピードになりISに追いすがる。
「りいぃぃんっっ!!」
間に合わない。間に合わない間に合わない間に合わない間に合わないっ――――――。
一夏は目の前で起こるだろう最悪の事態を幻視した。
鈴が、鈴が死ぬっ!!
手を伸ばし、相手の名を呼んだところで間に合わない。
ISの腕からは無情にも、光が溢れだした。
◇
「ふぅ、間に合った」
千春は『グラデーション』を待機状態にし、額の汗を拭った。
「さて、私も行こっかな」
モニターで見たが戦況は佳境。
二人を向かわせたから戦力は十二分だろう。
しかしそれでも向かいたい。親友二人が死闘の真っ最中だ。気が気でない。
「ブリュッセル」
千春のオペレーティングに呆けてしまった山田真耶の頭に腕を置いて、千冬は千春をチラ、と見る。
「なんでしょう?」
「お前は………いや、なんでもない」
千冬はまたモニターへ向き直る。
「じゃあ手助けに行ってきます」
タッ、と走り出した千春を、千冬を険しい表情で見送った。
「あれ?篠ノ之さんはどこへ?」
唐突に意識を回復した山田真耶はきょろきょろと周囲を見回した。
◇
「間に合ったようだな」
振り抜いた近接ブレード、それを付属の鞘に収め、眼前の『隻腕』になった敵へ殺意を向ける。
「あ、アンタ……」
「無事で何よりだ凰鈴音。千春から伝言を承っている。……無理をしないで、と一言な」
振り向かずに言い放った。
その言葉に鈴は泣きそうな顔になるも奥歯を噛みしめ立ち上がる。
「わかったわ。アタシがバックアップに回るわ。アタシが衝撃砲で牽制するから、アンタと一夏でアイツを押さえて。もうキレたわ。中身に多少被害があっても構わない、ギッタンギッタンのめっちゃくちちゃにしてやるわ!」
片手に持った青竜刀。それと同じ物を取りだし柄と柄を連結。両端に刃、といった異形の剣と化す。
「箒っ!!鈴っ!!」
一夏は今にも泣きそうな顔で、二人の幼馴染みを見た。
嬉かった。自分では鈴を助けられなかった。
「ああ、一夏。助力に来たぞ」
鞘に収めた近接ブレードの柄に手をかけ、箒は居合いの姿勢を取った。
「いざ、参るっ!!」
近距離瞬時加速(ショート・イグニッションブースト)で肉迫しつつ、『打鉄』を纏った篠ノ之箒は切りかかる。