「一夏っ」
「わかってるっ、なろっ!」
箒と俺の連撃、しかし謎のISは紙一重でその全てを避けていく。
「一夏っ、箒っ!離脱してっ!」
「「応っ!」」
鈴の声に、俺と箒が左右に散開する。
先程まで俺たちがいた場所にビームの弾幕が降り注ぐ。
「…………」
箒が来てから既に五分、奴に決定的な攻撃は出来ていない。
しかし俺はある事に気づいた。
「なあ、あれ……人が乗ってんのかな?」
「!」
「は?人が乗んなきゃISは動かな――――」
そこまで言って、鈴の言葉は止まる。
「―――そう言えばアレ、さっきからアタシ達が会話してる時、攻撃頻度が極端に減るわね……まるで会話を聞いてるような…………」
思い返すように鈴が今までの戦闘を振り替える。
その顔はいつになく真剣だ。
「一夏、いつ頃から気付いていた?」
「わりと最近。つーか俺自身半信半疑だしな」
「そうか………しかし、それは正しいんだろうな。奴からは殺気が感じられん」
「殺気っておま……――いや、確かにな。殺気ってわけじゃねぇが、アレからは人が『感じられない』……」
センサーの類いではなく自分の感覚に頼っているが、多分、アレには人が乗っていない。
「……でも、無人機なんてあり得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものだもの」
それは俺も教科書で習った。ISは人が乗っていないと動かない。
しかし、本当にそうだろうか?
それに、ISが登場してから10年。今の最先端の研究でそれが不可能な事かどうかはわからない。何せ、そのことを黙ってりゃいいのだから。
「仮に、仮にだ。無人機だったら…どうだ?」
「何よ箒、無人機だったら勝てるっていうの?」
「あぁ、我に秘策あり、だ」
箒は珍しく、クス、と笑い近接ブレードを鞘に収める。
「凰鈴音、私の合図とともに衝撃砲を全力で放ってくれ。それを足場に、私が『瞬時加速』を仕掛け……」
そう言って、俺をチラと見た後、近接ブレードの柄を掴む。
「はっは~ん、なるほど。わかったわ箒。それと、私は鈴で良いわ」
「わかった鈴。では行くぞ?」
「いやいや、俺はまだ理解してないからわけわかんねぇから」
「やって見ればわかる。行け、一夏」
「こなくそ、わかったよ、やってやる!」
雪片を肩に担ぎ上げ、謎のISへ向ける加速する。
それを見て、敵は残った腕を上げ、ビームを連射する。
しかしそれを切り裂きながら俺は奴に肉迫する。
また寸でのところで避けられ…………
「一夏っ!乗れ!!」
後ろから箒の声がした。既に『瞬時加速』を使ったようだ。
しかし、何処に乗れと言うのだ。箒に馬乗りすれば良いのか?……それは……あまりよろしくないのではかいか?青少年としては『馬乗り』になっているという事実だけでその……
箒がブレードを抜き、構えたのを見て俺はようやく理解した。
なるほど、そう言うことか。
「つあああぁっっ!!」
俺は後方から迫る、箒の持つ『近接ブレード』に乗っかった。
箒が声を上げ腕に力を込める。
ブレードに乗っかった俺を『放り投げる』ため。
「零落白夜ッ!!」
放り投げられ加速した俺は、残りのエネルギーを全てつぎ込み、奴を切り裂く。
しかし、裂いたのは薄皮一枚、『全身装甲(フル・スキン)』だけだった。
「ぐふぅっ!?」
振り上げた奴の腕に殴り飛ばされ地面に叩き落とされる。
「一夏っ!」
鈴の悲痛な叫び声が聞こえた。
だがしかし、俺は鈴の叫び声より確認したい事があった。
「狙いは?……」
一筋の光が謎のISの頭を吹き飛ばした。
『無論、完璧……ですわ』
アリーナの客席、虚空から突然姿を現したIS、セシリアが駆る『ブルー・ティアーズ』。
その手には、長柄の得物『スターライトmkⅢ』のトリガーが握られていた。
◇
『いやぁ、助かった。ありがとなセシリア』
『お構い無く。それにしてもギリギリのタイミングでしたわ』
いつ頃からだろうか、セシリアは光学迷彩を用いてずっと客席から狙撃の時を待っていたのだ。
通信越しに安堵のため息を漏らしたセシリア。
実は、箒が来てから少しして、セシリアの狙撃ポイントが千春から送られていていた。
故に俺は『零落白夜』で遮断シールドを切り裂き、セシリアがレーザーを放ちあのISを貫いた。
『セシリアならやってくれると思ってたさ』
確信じみた言葉は当然だ。セシリアの凄さは身をもって知っている。狙撃(スナイプ)に集中すれば、必ず当ててくれると、確信できた。
そんな言葉が意外だったのか、返ってきた言葉はひどく狼狽していた。
『そ、そうですの……。…………と、当然ですわね!わたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生なのですから!』
プライベートチャンネルで話すセシリアはどこか嬉しそうで、俺は思わず笑ってしまった。
『な、なんですの?……突然笑って…』
『ああ、すまん。可愛いなって思ってさ』
褒められ嬉しがったセシリアが少し子供っぽくて、可愛いと思ってしまったのだ。
『かっ!かわっ…~~~~~っ!!』
『ちょっ、一夏っ!!アンタなにナチュラルに口説いてんのよっ!!』
『そうだぞ!私も頑張ったではないかっ!』
『問題はそこじゃないわよ箒!』
『なっ、なぜ勝手にお二人がプライベートチャンネルに入って来ているんですのっ!?』
キャーキャーと騒がしくなったプライベートチャンネルを切ると、丁度千春が来るのが見えた。
「お疲れさま一夏。悪かったな手伝えなくて」
『グラデーション』を装着した千春が俺の隣に降り立つ。
「いや、千春が箒とセシリアを送ってくれたお陰で助かった。ありがとな」
「その言葉は二人に言ってあげなよ。私はちょちょいとクラックしただけなんだし」
千春は苦笑しながら箒、セシリア、鈴の三人を見る。
「にしてもセシリアが突然現れたんだけど……なんだったんだあれ?」
「ああ、アレな?。あれは所謂光学迷彩。スラスターや火器を使用しなければハイパーセンサーでも掻い潜れる優れもんだよ。短所は使い捨てのくせに、一つ作るのにIS一機作る以上にお金がかかるんだよね」
「それって…すごいんじゃないか?」
「ああ、しかも基本的にISの兵装じゃないから世間様に公表しないでOKだしな」
ふふんと、豊満なおバストを誇らしげに張ればニヤリと笑う。
いや、やっぱ千春はすげぇわ。いろんな意味で。
「ま、何にしてもこれで終わ――――」
「避けろ一夏ぁッ!!」
――敵ISの再起動を確認。警告!ロックされています!―――
突然鳴った警告音。
俺は箒の声を聞いても、それが何故かに気付かなかった。
肩のビーム砲口が光を集め、その射線に俺がいた。
「あ」
俺はひどく気が抜けた声を漏らした。
今俺はシールドエネルギーを使いきり、絶対防御も発動しない。
つまりはビームなんて食らえば身体に貫通し、『死ぬ』そんな事に気づき思わず声が漏れたのだ。
しかし、俺をビームが貫く事はなかった。そう、千春に押され、尻餅をついた俺にビームは当たらなかった。
そう、奴が放ったビームは、千春の腹を貫いて、俺に当たってはいなかった。
「千春ぅぅっっっ!!!!」
お腹から鮮血を撒き散らしながら、崩れ落ちた千春の『グラデーション』の装甲は、流れ出る鮮血と同じ、真っ赤な紅色だった。