「…………」
織斑千冬。かつてISの世界大会モンド・グロッソにて最強の称号を手にした、人類……いや、霊長最強の女。
しかし、その織斑千冬とて人類である人間である人である。
当然人に威圧されればたじろぐ事だってあるのだ。
今みたいに。
「千冬姉ッ!!千春はっ、千春はどうなんだッ!!」
「お、落ち着け織斑。それと学校では織斑先生と……」
「千冬姉ッ!!!」
「っ!だ、大丈夫だ。当分は絶対安静だが、一週間もすれば普段の生活に戻れる」
今この場に冷静な人物がいれば驚愕することだろう。
『あの織斑千冬が、弟に詰め寄られ、今にも泣きそうな顔であたふたしている』のだ。
「本当なのか千冬姉ッ!?」
「ほ、本当だ。ビームが綺麗に貫通していたお陰だそうだ………でだな……織斑、ここは病室の前なのだ…その、少しは音量を下げろ」
しかし、今冷静な者などこの場にはいなかった。
一夏も、箒も、セシリアも、鈴も。冷静になどいられるわけがなかったのだから。
「はぁ………よかった…」
「織斑先生、千春を見舞うことはできないのですか?」
「それは……!い、今は絶対安静なのだ、お前達の気持ちは痛いほどわかる!しかし今はブリュッセルの事を想え。面会が出来るようになったらすぐに知らせる。だからお、落ち着け織斑」
箒の問にできないと言おうとし、口を開け反論しようとした自分の弟の言葉に被せる。
「くっ………わかった…千冬姉」
「(ほっ)そ、そうか…ではここで解散だ。織斑、あまり思い詰めるな。自分が無力に感じるならば強くなれ」
「…………どうすれば…強くなれんだよ」
「まずは飯を食らえ。それから身体を動かせ。ISを起動しろ。……わかったな、一夏」
「わ、わかったよ千冬姉…」
大人しくなり始めた弟に、安堵のため息をつき、千冬は弟の頭を優しく撫でた。
頭を撫でれ、唇を尖らせながら恥ずかしがる一夏を見て、ようやく千冬は本調子になった。
「フッ……お前は私の弟だからな、いつか開花するさ」
「ああ、絶対強くなって、千冬姉や箒、セシリア、鈴…そして千春。俺の大切な人達を守れるようになってやる!」
一夏は拳を握り、誓うように千冬を見た。
「うっ……ぉあ……ンンッ、そうか。では期待しておこう」
千冬は頬が赤くなるのを感じた。どうやら一夏のまわりの小娘達も同様のようだ。
熱い視線を送ったり、そっぽ向いてからチラチラと見たり。
正直、一夏が何か強い意思を持って誓った時の顔は卑怯だ。姉だと言う事を差し引いても、異性として惹かれてしまう。お姉ちゃんにその顔は禁止だ。わかったな一夏?。
その思考速度は0.1秒を切る。平静を装いつつ千冬は今や貸切状態になった保健室へ入った。
「全く、貴様のせいでとんだ目にあった。いや、しかし………一夏のあんな顔を見れたのは……まあ僥倖だったが………」
保健室の一角、カーテンで仕切ったベットを一瞥し千冬は甘いため息を漏らす。
少し威圧されたが、激情の男らしい顔。そしてもう一つ、決意をした『男の顔』
ふたつの顔を見れて千冬はほくほくだった。
個人的には後者の方が好みだが、たまには前者のような表情も悪くはない……
千冬が惚けた顔で思考の海に浸かり始めた頃、保健室の戸がノックされた。
「織斑先生、山田です。いらっしゃいますか?」
「ああ、山田君か…入りたまえ」
キリッ、表情を整えた千冬。
山田真耶が一礼し保健室へ入って来た。その手には数枚の紙があり……
「織斑先生に言われ、あのISを解析したところ、やはり無人機でした。そして更に…………登録されていないISのコアが検出されました」
真耶は紙の束を千冬に渡しながら、紙に書かれた答えを述べる。
その表情は強張り、何かに怯えるようだった。
「ん、……やはりな……。手間をかけさせた。すまないな山田君」
「い、いえ…。織斑先生……なにか心辺りが、あるのですか?」
やはりな、と言った千冬に、真耶は怪訝そうな顔をする。
「いや、ない。今はまだ―――な」
そう言って千冬はまた紙に目を移し、保健室にあったシュレッダーに資料を突っ込んだ。
その顔は自分の弟にデレデレだったブラコンのそれでなく、かつて世界最高位に座していた、伝説の戦士の顔だった。
「所で、ブリュッセルさんの容態はどうだったんですか?」
少しの間が空き、会話を続けようと真耶が新たな話題を切り出す。
「…………三日で完治するそうだ」
「え?……」
真耶に振り返った千冬の顔。それは戦士のままだった。
「三日って……さん日のことですよね?」
「無論だ」
「……三日でって……そんなの可笑しいじゃないですか、あんなのをうければ、普通死んじゃうかもしれないんですよ?……なのに三日だなんて…」
「しかし事実だ。現にブリュッセルの腹部の傷はもう塞がった」
「!?」
今度こそ、今度こそ言葉を失った。驚愕により、言葉を失った。
「医師がサジを投げたよ。一言、異常だと言ってね……見てみるか?私も見たときは驚いた…いや、戦慄を覚えたな」
苦笑しながらソファに座った千冬を見て、失礼します。と一言いい、真耶はカーテンの中へ入った。
「えっ!?そんなっ………」
予想通りの声。山田真耶ならばああいう反応をするだろうと予想していた千冬は予想通りで苦笑する。
「ブリュッセルさんがいませんよ!?」
「なにぃッ!?」
◇
「……千春?」
「むしゃむしゃむしゃっ、カッカッカッカッ。ズズズズス~……ゴクッ…ぷはぁ~
、生き返る~!」
テーブル一杯に広げた、肉やら野菜やら米やら肉やらスープやら肉を凄まじい速度で平らげて行く千春を見て俺以下三人は唖然とした様子で見ていた。いや、学食にいる全員が唖然としてた。
なんと言っても患者着でそんなものを食ってるのが驚愕の理由の大半だろう。しかも背中が開いていて中が見えるタイプのだ。不謹慎だろうが言わせてくれ。エロい。
お腹や太ももに包帯を巻いてはいるが、他のところには全く衣服が着用されていないのだ、下着でさえ……あとはわかるな?(キリッ
「つかなんで千春が!?絶対安静じゃなかったのか?」
「いや、お腹減っちゃってさ。ほら、思考操作キーボード使ったでしょ?私ってばほら、頭使うとお腹減るし」
「いや、そう言う問題じゃないだろ!」
「大丈夫大丈夫。私が平気なんだから大丈夫!」
元気よくサムズアップする千春に、思わずため息だ。
「まあ、千春だしね」
「千春だからな」
「千春さんですしね」
「千春……だからなぁ」
最後は無論、俺だ。昔から千春は規格外だったからなぁ。我姉と同じく。
ドドドドドドッ!!!!
「ブリュッセルはいるかぁっ!!?」
「ここにいるぞー!」
「こんの馬鹿者がぁっ!!」
地響きを轟かせながら食堂へ現れた千冬姉。その言葉に反応し立ち上がった千春は顔面に出席簿を叩きつけられた。
どうやったら出席簿の面の部分を叩きつけられんだよ千冬姉………
「貴様は絶対安静なのだ、来いッ!!」
「ぐえ、首が、首が絞ま――――おろ?」
すぐさま千春の着ている患者着の首元を掴み、引っ張る千冬姉。
しかし諸君。ここで考えてほしい。
今千春の着ている物は患者着だけだ。
しかも脱ぎやすいように考慮され、背中の部分がマジックテープで止められた簡易の服。
それを引っ張ればどうなるか、諸君らは想像に容易いだろう。
バリバリ、とマジックテープが外れる音と共に現れたのは……包帯を各所に巻いただけの千春。
その大きな胸はぷるんと震え、桜い――――
「ガン見してんじゃないわよ!この馬鹿っ!!」
「こっ、このえっちめ!成敗だっ!」
「はっ、破廉恥ですわっ!」
三人の鉄拳を食らい意識を掠め取られた。
南無三。