「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「はい!」
一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。出てくる返事も妙に気合いが入っている
しかしてこの織斑一夏。今この時目の前の現実から目をそらすことなど出来なかった!
「~♪」
「…………ッ!」
目の前に立ちはだかるは、『千春』のお尻。
背中がぱっくりと開いたISスーツからは肩甲骨がばっちり見える。
エロい。エロ過ぎる。
ゲシゲシッ
『アンタ、何処見てんのよッ』
『一夏さん!?何処を見てらっしゃいますの!?』
ISのコア・ネットワークを通して鈴とセシリアが俺に向け叫ぶ。
せんせー!後ろのちっちゃい子が蹴ってきましたよ!先生!せんせーい!
「さて、今日は諸君に模擬戦を見て貰う。―――凰(ファン)、オルコット前に出てISを展開しろ」
「ええっ~…」
「な、何故わたくしまで……!」
なんと、俺の祈りが通じたのか、二人は千冬姉に指名を食らった。
「仮にも代表候補生が尻込みしてどうする。いいから前に出ろ」
鈴とセシリアは大きくため息をついて列から外れて前に出る。
「少しはやる気を出さんか。――――アイツに良いところを見せられるいい機会だろうに」
千冬姉が二人に何かを小声で言った。すると、ピクッと身体が跳ねてから俺を見て、二人は前に一歩出た。
「やはり!ここはわたくし、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットの出番ですわ!」
「ま、実力の違いを見せつけなきゃね、専用機持ちの」
セシリアはいつもの腰に手を当てたポーズ、鈴は拳をもう片方の手のひらに打ち付け、ニヤリと笑った。
「それで?お相手はどちらで?鈴さんとの勝負でもわたくしはよろしくてよ?」
「ふふん。こっちのセリフよセシリア!返り討ちよ」
二人は互いにISを展開して不敵に笑う。
「慌てるなバカども。お前達の対戦相手は―――」
キィィィィン……
ん?何この音?空気を裂く音にすごくよく似てるんだが、まさか…―――
「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」
空から山田先生が降ってきた。すげぇスピードて。つかヤベぇ、明らかにこっちに向け突撃して―――あれ!?なんで皆退避完了してんだ?
「一夏っ!伏せろ!」
退避してた人垣から、千春が飛び出してきた。
俺を押し倒すように抱きついてきた千春。そして次の瞬間、落下音がグラウンドに鳴り響く。
むにゅ。
「ひゃんっ!」
なんだろうか?この手のひらと顔に感じる柔らかな感触は?。触れるだけで気持ち良くなるし……何より、すごい良い匂いだ。俺は顔を埋めたまま柔らかな感触と、スンスンと香りを嗅いだ。
むにゅむにゅ。
「やっ、…はぁっ、んっ……」
?何故か千春の声が聞こえ――――
もみんもみん
「ら…めぇっ、一夏ぁっ…」
まさか…まさかまさか………ッ!?
ビュンッ!
「ち、千は――ひぃっ!?」
俺が顔をあげると、そこには仰向けになった千春。どうやら俺は千春の胸に顔を埋め、さらに胸をわし掴み、揉みし抱いていたらしい。
現代進行系で胸をわし掴んでるし。
そしてそれに気づいた瞬間、先程まで頭があった部分をレーザービームが掠めて行った。
「ホホホホ……残念です。外してしまいましたわ……」
顔は笑っているがその額にははっきりと血管が浮いているのが見てわかる。
蒼穹の狙撃手、セシリア・オルコットの『大逆鱗バージョン』だ。うわぁ…
ガチィッ!……ブンブンブンブンッ!
何かが噛み合ったような音がして、次いで何かを振り回す音が聞こえた。
「…………」
あれ?鈴、今のって確かあれだろ?『甲龍(シェンロン)』の近接武器双天牙月を連結した音だよな?
確か連結したら投擲も可能になるっつってたな、そうそう、そんな感じで振りかぶって―――
「だあああっ!?」
躊躇いなく首を狙い投げつけて来やがった。
ダンッダンッ!
ガキィンッ!
短く二発、火薬銃の音が響く。弾丸は正確に『双天牙月』の両端を叩き、軌道を変える。
キンッキンッ、と薬莢が跳ねる音を聞きながら、俺はピンチを救ってくれた相手を見る。
「大丈夫ですか織斑くん?凰さんにオルコットさん、危険ですので許可なく武装を相手に向けてはいけませんよ?」
そこには、うつ伏せから上体だけを反らして、スナイパーのように銃を構えた山田先生がいた。
いつもの子犬のような雰囲気ではなく、大人の様相。クスと笑って俺を見た山田先生に思わずドキッ、とした。
「…………」
どうも驚いたのは俺だけでなく、セシリアと鈴は勿論他の女子も唖然としたままだった。
「山田先生はこう見えて元代表候補生だ。しかも代表候補生の中でも特に秀で、私は所謂ヴァルキリー級のIS操縦者と言っても過言ではないと思っている。この程度射撃は造作もない」
「そ、そんな事ないですよ。候補生止まりでしたし…」
滅多に人を褒める事のない千冬姉が山田先生をベタ褒めしたのを見て、俺は山田先生が難しい射撃を難なくこなした事よりも驚いた。
山田先生は武装をしまい、ずれた眼鏡をかけ直した。……ああ、この仕草はやっぱり山田先生だなぁ。千冬姉に褒められちょっと照れているらしく頬が赤かった。
「さて、小娘どもいつまで惚けている。さっさと始めるぞ」
「え?あ、あの、二対一で……?」
「いやいや、さすがにそれは……」
「ふっ………安全しろ、今のお前達では例え三対一でも、一撃すら当てられず負ける。そうだな、五分もったら褒美でも考えるか」
千冬姉がニヤリと笑いセシリアと鈴を見る。
負ける、と言われたのがカチンと来たのか、セシリアと鈴はその瞳に闘志を燃やし、その身に覇気を纏う。
二人が纏うは『絶対強者』の存在感。二人が放つ凄まじい威圧感に俺は思わず唾を飲み込んだ。
「いいでしょう…手加減はしませんわ!蹂躙なさい、ブルー・ティアーズ!
!」
「じょーとー、さっきのは本気じゃあなかったしねっ!!」
二人は武装を展開し脚部スラスターを吹かし上昇していく。
「い、行きます!」
言葉こそいつとの山田先生だが、その纏う雰囲気は一変した。
「あの二人、キツイかもな」
頬を赤くし、脚を震わせながら立ち上がった千春は飛び立った山田先生を見て呟いた。
「だ、大丈夫か千春?」
「んんっ……だ、い丈夫。」
千春の肩に触れれば、千春は身体をぴくんと跳ねさせてから頷いた。
「三対一…でもか」
千春は首のチョーカーに触れながらじょうくうを見上げた。
そこは既に、戦場と化していた。
◇
「ちぃっ、なんで見えない砲撃を見切ってんのよっ!」
鈴は衝撃砲を放ちながら舌打ちした。
『衝撃砲』……空間に圧力をかけて砲身を作り出し、その余剰で生じる衝撃を砲弾化して打ち出す、第三世代型IS『甲龍』の特殊兵装。その特性は『見えない砲弾』『あらゆる射角に対応する』。
しかし真耶は、見えないはずの砲弾を正確に回避していた。
「くっ、行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
セシリアが四基のビットを展開し、真耶を狙う。
ガガガガガッ!
しかし、そのうち二基が連続で放たれた弾丸に撃ち貫かれ爆散する。
残った二基がレーザーを放つも、『急降下』と『急上昇』の連続使用で避けていく。縦にジグザグとした機動だ。
「すげぇ……」
俺は思わず呟いた。山田先生の動きを一言で言うなら、『基本』だ。
戦闘が始まり一分ほどたっただろうか。
その間、セシリアと鈴の熾烈な攻撃を一撃も受けず避けきっている山田先生。その機動に奇抜さはない。
だからこその驚きだった。
『洗練された基本機動』それが山田真耶の機動だ。
「…………織斑先生」
「なんだ?ブリュッセル」
俺の隣で戦闘を見ていた千春が、千冬姉に視線を向けず、大空を見上げたまま声をかけた。
千冬姉の口元はニヤリ、と笑っていた。
「三対一でも……と言いましたね?」
「ああ、言ったな」
「確かめても?」
「やってみろ」
ふふん、と千冬姉が鼻で笑う。
どうやら千春が山田先生と戦いたがると予想していたようだ。
「『グラデーション』!」
灰色の装甲を纏った千春は翼を広げ飛翔する。
「鈴!セシリア!加勢するよ!」
『千春さん!?』
『癪だけど、強いわよ山田先生』
「わかってるさ。セシリア!、ブルー・ティアーズは使わないで、狙撃に専念して!1.1.3(いちいちさん)の間隔で移動(ムーブ)!」
『了解しましたわ!……っ!』
セシリアは弾頭型のブルー・ティアーズを放ってから離脱。『スターライトmkⅢ』を展開し狙撃のタイミングを待つ。
「鈴は突撃して!私が援護するわ!」
千春の纏ったISの装甲色が蒼く染まる。
中距離戦仕様のモード、『蒼き水面(ブルー・アース)』
「わかったわ千春!うりゃああぁっ!!」
鈴が青龍刀を振り上げ突撃する。
戦局が大きく動き出した。
◇
『山田君』
「え?あ、はい。なんでしょうか織斑先生」
その後、セシリアが放ったレーザーを避け、鈴の放った衝撃砲を盾で防ぎ、千春の放ったビームを避け、各人に弾丸を見舞っていた真耶に千冬から通信が入る。
『そろそろ五分になる。決めてしまえ』
あれから四分を過ぎたが、三人は一度も真耶に有効打を与えられていなかった。
「は、はい!」
真耶は両手に二挺の五十一口径アサルトライフル『レッドバレット』を展開し、
急加速で突撃した。
「瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?」
驚愕の声は俺か千春か。いや、鈴とセシリアの二人同時にだろうか。
「貰います!」
瞬時加速で距離を詰めた山田先生が、二挺の銃口を千春に向けてトリガーを引く
ズガガガガガガガッ!
アサルトライフルから無数の弾丸が放たれる。
その魔弾全てが千春に降り注いだ。
ここで、一夏やセシリア、鈴ならばその弾丸の雨を浴び、撃墜されるだろう。
しかし『北欧の魔女』の名は伊達じゃない。
弾丸の雨を身体を捻るように回転しながら弾丸を回避して距離を取る。
「モードセレクト、『深緑の大地(グリーン・ガイア)』!」
千春の『グラデーション』が深緑に染まった。
実弾武装のみの遠距離戦特化モードだ。
ズガガガガガガガッ!
四十七口径アサルトライフル『スケアクロウ』を展開しトリガーを引く。
キンキンッ、と弾丸と弾丸が激突しあう。
そう、千春は放たれた弾丸を、『弾丸』をもってして防いでいるのだ。
目には目を、と言うが、 弾丸を弾丸で打ち落とすのはどうだろうか。
だがしかし、彼女は確かに『ヴァルキリー』クラスの猛者だった。
「くっ、……もう見切られてきてる!」
山田先生は片手のアサルトライフルを狙撃ライフルに変え、的確に千春を狙い打つ。
千春は他人とは違い、数多くの回避パターンを持つ。
そして千春はその数多の回避パターンの中で、最適な回避パターンを『意識的』に行うことが出来る。
回避パターンは詰まる所、回避する際の癖だ。
IS戦において相手の回避パターンを見極めるのは一つの大きなアドバンテージとなる。
何せ癖だ。直そうとしても簡単に直せるものじゃない。
それを千春は数多く持ち、不利な回避パターンだと理解すれば意識的に変えることが出来る。
そう、千春には数多くの回避パターンがある。
山田先生は、その数多くの回避パターンを『見切ってきている』
『千春!』
鈴が山田先生に衝撃砲を放ちながら千春を目指す。
しかし、山田先生は盾で衝撃砲を防ぎながらも減速せず千春を執拗に狙い続ける。
「指揮官を先に狙う、か。セオリー通りだな」
何故千春ばかり?と思った俺の質問に答えるように、その少女は呟いた。
「え?なんでだ?」
「馬鹿か貴様は。指揮官がいなくなれば指揮する者がいなくなるだろうが」
「あ、そっか。ありがとなラウラ」
「ふん、べつに構わ…………」
ラウラと目があった。
「ん?どうしたんだ?」
「ふんっ!こんな事も理解出来ん奴が教官の弟だとわな…」
ラウラは全力で俺を睨んでから離れていってしまった。
いや、わかってたんだが………すげぇ嫌われてんな俺。
「はぁ………デュノア、山田先生のISの解説をしてみせろ」
千冬姉?今俺の事見てため息ついたな?こんちくしょう。
「あっ、はい」
空中での戦闘を見ながら、シャルルがしっかりとした声で説明をはじめた。
「山田先生の使用されてるISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付け武装が特徴の機体です。現在配置されているISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、七ヶ国でライセンス生産、十二ヶ国で制式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと、多様性役割切り替えを両立しています。こと操縦の簡易性においては、同種の開発思考の下に開発された『グラデーション』を凌ぎ、装備によって格闘・射撃・防御と言った全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています」
「流石だなデュノア。ではブリュッセルのISの解説をしてみろ」
「えっ……僕が、ですか?」
解説をし終わったシャルルに、直ぐ様解説をさせようとする千冬姉。マジ鬼畜。
スッパーンッ!
「ああ、『知っている』のだろう?」
「…………有名、ですから」
俺を出席簿で叩きながらも視線はシャルルに向けたまま。
つか突っ込まなかったけど、なんで野外授業で出席簿を……外にも安息の地はなかったか………。
「えっと……ブリュッセルさんのISはアイスランド、と言うよりブリュッセルさんの機関による開発の『グラデーション』。この機体の特筆すべき点は一点。ブリュッセルさん自身が提唱・開発させた、エネルギー転換率の変加により、機体性能を変化させる機構『モード・セレクト』にあります。
例えば緑色の装甲の時は『深緑の大地(グリーン・ガイア)』と呼ばれています。『深緑の大地』時は、エネルギーの多くをシールドエネルギーに回し、『深緑の大地』時にのみ展開される二基の固定型部位のショルダーシールドによる二重の盾による高い防御力を持ちます。しかし、この状態の『グラデーション』はエネルギーの大半をシールドエネルギーに回しているためエネルギーを消費する光学兵装は使用出来ません。
また、遠距離戦仕様と名されてますが、その実、高度な電子戦が可能な仕様で、ISのハイパーセンサーにまで影響を及ぼすジャマーや高い索敵能力を有しています」
シャルルが空を見上げながら解説を続けた。
「ああ、いったんそこまででいい。……終わるぞ」
シャルルの説明に聞き入っていた俺は、戦闘がどうなっているのかを完全に忘れていた。
「くっ!?」
「……!」
二挺のアサルトライフルを連射しながら千春に肉薄する山田先生。
千春が回避しようとするが、回避先を完全に読まれた千春は、その弾丸をすべからく受ける。
勢いよく削られていくシールドエネルギーに焦りを感じる千春。山田先生から一瞬だけ視線を逸らし、シールドのゲージを見た。
だがしかし、それがいけなかった。
「!?また瞬時加速!!?」
ズガガガガガガガッ!!
懐に入り込まれ零距離で銃撃を食らう。
「しまっ……くそ!」
咄嗟に展開した近接ナイフで山田先生に攻撃を与えようとした千春。だが、ナイフを持った腕の肩を、伸ばした『脚』で止められ、攻撃できない。
ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!…………
ドォオーンッ!
千春はそのまま至近距離で連続で放たれた銃弾を食らい続け、最後にアサルトライフルのアンダーバレルに付けられた発射口からグレネードを食らい爆発に巻き込まれた。
『千春!?……んのぉ!!』
『行きなさい、ティアーズ!』
鈴とセシリアが撃墜された千春の仇伐ちとばかりに突撃したが、それからは酷いものだった。
山田先生の射撃がセシリアを誘導し、鈴の死角に誘導されぶつかった所でグレネードを投擲。
爆発が起こり、煙りの中から二人が落下しそうになるも体勢を直し、直した瞬間、二挺に装着されたグレネードを各人にぶつけて無理矢理地面に叩き落とした。
「ぐぇ………」
「くっ、うう……まさかこのわたくしが……」
「あ、アンタねえ……何面白いように回避先読まれてんのよ、千春はあんなに避けれてたのに!」
「り、鈴さんこそ!近接格闘戦を挑むべき時に何故ばかすかと衝撃を撃つんですの!?」
「こっちのセリフよ!なんで千春に注意されたのにビット展開するのよ!ビット展開してる時はただの的じゃないのよアンタ!」
「なんですって!?」
「なによっやんの!?」
「ひでぶぅ………」
三人寄ればかしましいと言うが………ただ仲が悪いだけだなこりゃ。つか退いてやれ二人共、千春が下敷きになっちまってる。