IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 26 『感覚+擬音+細かすぎ=混沌』

 

「こう、ズバーッと言ってから、ガキーンッ!と言ったようにだな!」

 

「なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。はぁ?なんでわかんないのよこのバカ!」

 

「防御の際は右半身を前方へ5度、回避の際は後方へ20度ですわ!」

 

 

 

率直な意見を述べさせて貰おう。

 

 

 

「何がなんだかわからん!」

 

 

「はぁ!?ちゃんと人の話を聞いてなさいよ!分かりやすく言ってやってんじゃないバカ!」

 

「噛み砕いて教えてやってわからんとは……」

 

「お前は特に噛み砕き過ぎて擬音しかねぇじゃねぇか箒っ!」

 

「はぁ、仕方ないですわね。もう一度お教えしますわ、防御の際は……――――」

 

 

シャルルが転校してから五日が経って今日は土曜日だ。

 

IS学園では土曜日の午前は理論学習、午後は完全に自由時間になっている。とはいえ土曜日はアリーナが全開放なので殆どの生徒が実習に使う。それは俺も同じで、今日も三人の教官にダメな子のレッテルを二重三重に貼られていた。

 

 

「外装こそカスタム仕様だけど中身は純正リヴァイブのOSを弄った程度か。……データ上でだけど反応速度がコンマ0.2秒シャルルに遅れてるね。

後付武装《イコライザ》を多くしたせいで整理仕切れてない残留片《フラグメント》が疎らにあるせいだ」

 

「えっと…どうにかなるかな?」

 

「整理するだけで済むから今直ぐに出来るよ?弄っていいならやったげるし」

 

「うん、お願い出きるかな千春?」

 

「任せて任せて。っと、ピロピロピロ~」

 

「にしてもやっぱり千春は凄いね、デュノア社の研究員の人達でも見つけられなかった不具合を見つけちゃうなんて…」

 

「そっかな?それほどでもないって、不具合ってレベルじゃなしに」

 

空中に投影されたキーボードを凄まじい勢いで叩きながら、同じく投影された、高速でスクロールされる文字の羅列を見て千春は笑う。

 

「ほいっと、整理完了!ただOS自体がシャルルの固有技能《スキル》用に作られたわけじゃないから、飛躍的なスピードアップには繋がらないかな。感覚的なレベルだね」

 

「ありがとう、千春。少し動かしてみよっかな」

 

 

なんか、千春とシャルルが仲良さげに笑い合ってんだが………。

 

 

「聞いてますの!?」

 

「え、あ、聞いてるぞ?……」

 

 

ごめんセシリア、聞いてなかった。

 

 

「一夏、ちょっと相手してくれる?白式と戦ってみたいんだ」

 

追及されそうになったときにシャルルが声を掛けて来た。

見慣れていながら別物にすら見える橙色のIS。

訓練機として使われているラファール・リヴァイブのシャルル専用カスタム機だ。

 

「おぅ、いいぜ?。と、言うことでまた後でな!」

 

これでようやく三人から解放されるぜ…三人共、一人一人聞くならまだしも、三人同時に講義を受けるのはごめん被る。一人の言葉を理解したら、全く別のアプローチを教えられるのだ。

足算を教えてもらいながら引算をさせられ、横から掛け算の仕方を聞かれる、と言った感じだ。

事のカオスさは理解頂けただろう。

 

三人の不満げな視線を無視して『雪片・千秋』を展開する。

 

 

訓練だとしても、シャルルには負けられない……最初から全力だ!

 

 

《一夏》

 

 

雪片を構え、『疾風迅雷《しっぷうじんらい》』を発動しようとした俺に個人間秘匿回線《プライベート・チャンネル》で千春が声を掛けて来た。

 

 

《千春?どうかしたのか?》

 

《ん、シャルルとの模擬戦だがな、『疾風迅雷』は使わない方が良い》

 

まるで俺の行動を予見したような一言。今まさにやろうとしてました。

 

《えっと…理由を聞いても良いか?》

 

《トーナメントがあるだろ?多分一夏にとって難関は専用機持ちのセシリア、鈴、シャルル、ラウラ辺りだ。鈴とセシリアには『疾風迅雷』はバレてるけど、シャルルとラウラはまだ知らない。敵になるかもしらない相手だ、手の内は見せない方が賢明だぜ?》

 

《確かにな》

 

《それに訓練だ。『疾風迅雷』を用いずに何処までやれるか……なんてのも試せるだろ?》

 

《そうだな…よし、頑張ってみるぜ》

 

 

俺の言葉に首肯で答えた千春は俺とシャルルの戦闘の邪魔にならないようアリーナの壁際へ寄った。

 

「さて…行くぜ、シャルル!」

 

「うん、僕も行かせて貰うよ、一夏」

 

シャルルがアサルトライフルを構える。俺は雪片を下に構え、踏み込んだ。

 

 

 

 

「見てみて!織斑くんとデュノアくんが模擬戦してるよ!」

 

「デュノアくんのISって、ラファール・リヴァイブよね」

 

「いいな~、専用機!」

 

 

 

 

空中で剣撃と銃撃が交わる中、アリーナでは実習に励んでいた女子生徒達が小休憩を取り二人の男子生徒を見上げていた。

 

 

 

「へぇ、やるじゃない一夏。今のまぐれっぽいけど反応出来た、って言うのはデカイわよ」

 

「わたくしや鈴さん、箒さんとの模擬戦の成果ですわね」

 

「しかし押されているな。一夏の苦手な戦いになりつつある」

 

「シャルルのラフォール・リヴァイブには光学兵装がないからな。雪片の利点が全く生かせない相手、と言うのも大きいだろうな。基本武装《プリセット》の殆どを外して、豊富な数と種類の後付武装《イコライザ》があるんだが…その全てが実弾兵装だったんだ」

 

「いつの間にそんな事を調べあげたのだ?」

 

「さっきの残留片《フラグメント》の整理の時?」

 

「先ほどの会話、一分も経っていませんでしたのに…」

 

「ま、一夏の為だしな」

 

 

千春と鈴、箒とセシリアは目でこそ二人の戦いを見ていたが、一夏の動き、シャルルの戦闘方法での議論が起こっていた。

 

 

「この戦い、一夏が不利だな」

 

「いや、基本的に一夏は常に不利、さ」

 

「それでも特に、ですわ。近づいては離れ……この動きは千春さんにも見られますわね」

 

「ったく、じれったいわね!あの分身しながら突撃するやつ使いなさいよ!」

 

「ん、……一夏には『疾風迅雷』を使わないで戦って貰ってるよ?」

 

舌打ちした鈴に苦笑しながら千春が答えた。

その言葉に鈴だけでなくセシリアや箒も驚いた。

 

「何故だ?負けてしまうかも知れないではないか」

 

「負けてなんぼ、それに『疾風迅雷』に頼られたら一夏の成長が妨げられる。『疾風迅雷』なんて長時間使えないんだしさ……」

 

 

千春は苦笑しながら頭を掻いた。

 

「……あーあ、……多分今のままじゃ、あたし…一夏に負けるかも」

 

千春にしては珍しく弱気な呟きを三人は聞いた。

 

 

 

 

 

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや鳳《ファン》さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「そ、そうなのか?……俺としては一応わかっているつもりだったんだが…」

 

 

シャルルに手も足も出ずに負けた俺は、先ほどの戦闘に関するレクチャーを受けていた。

 

「うーん…知識としては知っているって感じかな。さっきも殆ど間合いを詰められなかったよね?」

 

「うっ……確かに『瞬時加速《イグニッションブースト》』数回使っただけで完璧に読まれるようになっちまったし…」

 

「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応出来なくても軌道予測で攻撃できちゃうんだ」

 

「直線的……か、千春にも言われたっけ」

 

 

瞬時加速を千春から習った時、瞬時加速を『教えたくない』理由として千春が言っていた。

そう言われたからこそ『多方向個別瞬時加速《マルチトリガー・イグニッションブースト》』を編み出したんだ。

 

 

いやホンと、シャルルの説明はわかりやすいぜ。ひじょーにわかりやすい。

 

 

「ふん、私のアドバイスはちゃんと聞かん癖に」

 

「あんなにわかりやすく教えてやったのに、なによあのバカ!」

 

「わたくしの理路整然とした説明の何処が不満だと言うのかしら」

 

 

あー……。自称、俺の専属コーチ×3が後ろでぶつくさ言っている。

 

ちなみに千春は、三人の説明を理解しながらも、俺にとっては無茶な説明だと知っていてか苦笑ぎみだ。

 

 

「そう言えば一夏の『白式』って後付武装《イコライザ》がないんだね?」

 

おっと、シャルル先生のお話だ。心して聞こう。

同じ男というのがさらに理解を後押しする。

今の俺はまさに水を吸うスポンジ、木の蜜を吸うカブトムシ状態だ。ごめん、わけわからんな。

 

「ああ、何回か千春に調べて貰ったんだけど、拡張領域《パススロット》が空いてないらしい。なんでもワンオフ・アビリティに容量を食われてるらしい」

 

「流石千春だね。うん、僕も千春と同じ意見だよ。……にしても普通は第二形態《セカンド・フォーム》から発現するんだけどな…。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代ISの武装なんだよ。オルコットさんのブルー・ティアーズや鳳さんの衝撃砲がそう」

 

「ほぇ~、なるほどな。……って、やっぱ初期状態から使えてたのは可笑しいのか?」

 

「初期設定の時に!?……可笑しい、ってレベルじゃないよそれ。異常事態だよ!」

 

「え!?そうなのか?」

 

 

「前例が全くないからな、しかも一夏がさっき使った単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》は千冬先生と全く同じ能力なんだ。……今まで同じ能力が別の機体で発現した例がこれまた無い。無い無い尽くしの稀有なISだよ」

 

千春が俺とシャルルに近づいて来た。

 

「千春はどう考えてるのかな?……この件について」

 

「逆に問うぜシャルル。……単一仕様能力が発動する条件はなんだ?」

 

千春が指を立てニヤリと笑う。どこか先生のような所作だ。難しそうでその実簡単な答えを導き出せない生徒を見て面白そうに笑う先生のような。

 

「条件……単一仕様能力は、各ISと操縦者が最高状態の相性になったときに自然発生する………―――まさか、有り得ないよ」

 

シャルルが口に出してから顔を真っ青にして否定した。何をだ?

 

 

「有り得ない、なんて話は無いぜ?。もとよりISなんて、その実態の5%くらいしか解明出来てないんだ。少しばかりの異常、有ると思わないとやってられないさ」

 

「で、でも!…それでも有り得ないよっ。初期状態……つまり、最初から一夏とそのISの相性が『最高状態』だなんて!」

 

ああ、そう言う事か。そりゃたしかに有り得ないな。

俺も今、事の重大かつ異常さが理解出来た。

 

 

「世界を騒がす程じゃないさ」

 

 

だが千春はなんて事はないと言わんばかりにクスと笑ってチョーカーに触れた。

 

「次は射撃武器の訓練だ。シャルル、的はつくるから武器を一夏に貸してあげられるか?」

 

「う、うん。ハイ、一夏」

 

そう言ってシャルルが俺に渡してきたのは、さっきまでシャルルが使っていた五五口径アサルトライフル『ヴェント』だった。

 

「え?他の奴の装備って使えないじゃなかったか?」

 

「普通わね。でも所有者が使用許諾《アンロック》すれば登録してある人全員が使えるんだよ。――――うん、今一夏と白式に使用許諾を発行したから、試しにうってみて」

 

「お、おう」

 

 

初めての銃器は妙な重さを感じた。実際はISのエネルギーフィールドがあるので重たくは無いはずなのだが、初体験の武器なのでそう感じるんだろう。

 

「構えはこうでいいのか?」

 

「えっと……脇を締めて。それと左腕はこっち。わかる?」

 

 

ひょいっと俺の後ろに回ったシャルルは身長差がそれなりにあるものの、ISの特性で浮いてる事から自由な動きで俺の体を誘導する。

 

「火薬銃だから瞬間的に大きな反動が来るけど、ほとんどはISが自動で相殺するから心配しなくてもいいよ。センサー・リンクはできてる?」

 

「銃器を使う時の奴だよな?さっきから探してるんだが……見あたらないんだよ」

 

 

高速状態での射撃なので、そこは当然ハイパーセンサーとの連携が必要になる。ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報を操縦者におくるために武器とハイパーセンサーを接続するのだが、さっきから白式のメニューにはそれがないのだ。

 

 

「うーん、格闘専用機でも普通は入ってるんだけど………」

 

「千冬姉曰く欠陥機らしいからな、こいつ」

 

「100%格闘オンリーなんだね。じゃあ、しょうがないから目測でやるしかないね」

 

おぉう、初めて銃を撃つというのになんと言うハンディキャップだ。しかし愚痴っても始まらん。とりあえず撃ってみよう。

 

「よし、じゃあ行くぞ!」

 

「うん、とりあえず撃つだけでもだいぶ違うと思うよ」

 

 

感覚というのなやってみなければ絶対わからないものだから、シャルルの言う通りなんだろう。とりあえず俺は一呼吸してから、千春が空中に投影した的へ銃口を向け、ぐっと引き金に力を込めた。

 

バンッ!!

 

 

「うおっ!?」

 

物凄い火薬の炸裂音に驚いてしまう。自分で撃つとこうも大きく感じるのか。

 

「ほら、次だぜ一夏!」

 

「こんのっ!!」

 

バンッ!!バンッ!!バンッ!!

 

連続で投影された的へ銃口を向け、連続で引き金を引く。

 

的の中心点から離れた場所に風穴があく。

即興で使ったプログラムでここまで出きるって……すげぇな千春。

 

「どう?」

 

「お、おう…なんか、アレだな。とりあえず『速い』って感想だ」

 

弾丸の速度はかなり速いというのはもちろんわかってはいたが、自分で撃つとそれがよりわかる。

 

それに加えて体に来る反動。ほとんどが相殺されているとはいえ、刀とは全く違うてごたえに初めての体験ということもあり心臓がバクバクと鳴っている。

 

 

「そう。速いんだよ。一夏の瞬時加速も速いけど、弾丸はその面積が小さい分、より速いんだ。だから軌道予測さえあっていれば簡単に命中させられたり外れても牽制になる。一夏は特攻するときに集中しているけど、それでも心のどこかではブレーキがかかるんだよ」

 

「だから、簡単に間合いが開くし、続けて攻撃されるのか……」

 

「うん」

 

 

……そうか、そうだったのか。だから格闘メインの箒はともかく、鈴やセシリアと戦うと一方的な展開になるのか。

なるほどな、理解も納得も出来た。

 

 

「だからそうだと私が何度も説明したと……!」

「って、それすらわかってなかったわけ!?はぁ、ほんとにバカねアンタ」

「わたくしはてっきりわかった上であんな無茶な戦い方をしているものと思っていましたけど……」

 

 

ああ、なんだろうな。呆れ声が聞こえて来た。

 

―――うん。会話って大事なんだな。

お互いを知るために、俺たちはもっと話し合うべきだった。こんなにも認識が食い違っているなだから、そりゃあこっちもあっちも話しが伝わらないわけだ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

「ねぇ、ちゅっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だっ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけと………」

 

 

急にアリーナ内がざわつきはじめて、俺は注目の的になっていた少女に視線を移した。

 

 

「…………」

 

そこにいたのはもう一人の転校生。

ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

『おい』

 

 

ISの開放回線《オープン・チャンネル》で声が飛んでくる。初対面があれだったのだからその声は忘れもしない。ラウラ本人の声だ。

 

 

明らかに俺へ向けて飛ばされている殺意と共に。

 

アリーナに緊張がはしる。

 

「……なんだよ」

 

気が進まないが無視をするわけにもいかない。俺がとりあえずの返事をすると、ラウラは愉悦の込められた笑みを俺に向けてきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば速い。私と戦え」

 

「いきなりなに言ってやがる、戦闘狂(バトルマニア)かテメェは?……生憎お前とやり合う理由が俺にはないぞ」

 

 

「貴様にはなくても、私にはある。貴様を滅殺する理由がな」

 

ラウラが吐き捨てるように答えた言葉に、千春が過敏な反応を示した。

 

 

 

ざわり、千春にどす黒い感情が沸き上がる。

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