IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 27 『もしも、あの時』

「貴様がいなければ…教官が大会二連覇の偉業をなし得たであろうことは用意に想像できる。だから私は―――貴様の存在を認めない……ッ!!」

 

「……やっぱり、な。

ドイツ、軍人…教官。お前、千冬姉の教え子ってわけか。納得したぜ、お前が俺に喧嘩を吹っ掛けるわけがな」

 

 

千冬姉はかつてある理由からドイツで教鞭を振るった事がある………ボーディヴィッヒはその時の教え子だろう。

教え子ということ以上に、その強さに惚れ込んでいるのだろうな。

だから、千冬姉の『経歴』にキズを付けた俺が憎い、と。

まぁ気持ちはわからなくもない。俺も正直に言えば、あの時の無力な自分が許せないのだから………。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

「何!?アイツが一夏をひっぱたいたって言うドイツの転入生なの!?」

 

「一夏…お前とボーデヴィッヒの間に何があったと言うのだ」

 

ドイツの転入生と一夏の間にある険悪なムードに、箒や鈴、セシリアだけでなく辺りの女子生徒達にまでざわつきが始まる。

 

 

 

「そうか、ならば剣を執れ。動かぬ的を砕いた所で、その行為に価値はないのだから」

 

 

「…………悪いな、気分が乗らない。個人別リーグがあるんだ。勝負はそこでつけようぜ」

 

「ふん。……ならば――戦わざるを得ないようにしてやる」

 

言うが速いか、ラウラはその漆黒のISを戦闘状態へシフトさせる。

 

刹那、右肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。

 

 

「ッ!!」

 

マズイッ――俺のすぐ近くにまだ千春がいるッ!

 

万が一にでも千春にISの攻撃が当たったら……間違いなく死ぬ!!

 

 

「千春!!」

 

 

 

ゴガギンッ!

 

 

 

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようなんて、ドイツの人は随分と沸点が引くいんだね?」

 

「貴様………ッ」

 

 

横合いから現れたシャルルが俺と千春の前に割り込むように立ちふさがりシールドで実弾を弾き、同時に右腕に六一口径アサラトカノン《ガルム》を展開したラウラに向けた。

 

「……ふん、フランスの旧世代機《アンティーク》ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの新世代機《ルーキー》よりかは動けるだろうからね」

 

 

互いに涼しい顔をした睨み合いが続いた。

しかし、その睨み合いも長くは続かなかった。

 

 

 

 

「…………認めない、だと?」

 

「え?」

 

気の抜けた声は俺だ。千春だ、千春が……明確な敵意を込めてラウラを見据えていた。

 

「ふざけるな……ふざけるなよ、Schweinehunds (クソやろう)!……織斑千冬がいなければ、一夏が誘拐される、なんて事はなかったんだッ!!そう…いなければ良かったんだ!それがなんだ?存在を認めない、だと?……口を慎めッ!!」

 

 

千春が何か英語のような言葉を使った。何を言ったのかはわからないが、その雰囲気から十中八九罵倒たろう。シャルルがアサラトカノンを構えながら驚いたように口を開けた。普段のニコニコしている千春とは別人のような、殺意を剥き出しにしたその表情。俺に嫌な予感が走る。

 

 

「…………貴様、死にたいようだな。……よかろう、織斑一夏……あの愚図より先に始末してやろう」

 

「慎めと言ったァァッ!!!」

 

千春が首のチョーカーに触れ、『グラデーション』を展開する。

 

その速度は刹那。かつてみた展開速度の比ではないほどの速さで展開された。

 

 

そしてその装甲色は……、血のような―――

 

 

「紅い…装甲、あの時のっ!……鳳《ファン

》!オルコット!」

 

「わかってるわよッ!、『甲龍《シェンロン》』!」

 

「わたくしはラウラ・ボーデヴィッヒを!鈴さんは千春さんを!」

 

 

鈴とセシリアがISを展開する。

 

がしかし、展開し終わった時には既に始まっていた。

 

 

ガキィンッ!!

 

 

 

「ラウラ…ラウラ・ボーデヴィッヒッ!!」

 

「閃撃のフレイヤ…ふん。親子二代で二刀流か、忌々しい……ッ」

 

千春が瞬時に展開した二振りの近接ブレードとラウラのISのレーザー手刀が切り結ぶ。

 

連撃。連撃、連撃連撃連撃連撃連撃連撃ッ!!

千春にラウラ、互いに目にも止まらぬ剣撃の応酬を繰り広げる。

 

 

「やはり、疾《はや》い。閃撃の名に偽り無しか!」

 

一進一退の攻防、しかし、その均衡は傾いた。

 

「だが、閃撃と言えど……動けぬのならば意味は無い。我が停止結界の前に敗れるのだ!」

 

ラウラが右腕を突き出した。そして、ピタリと、千春の動きが止まった。

 

 

「!…AIC…… 」

 

「流石に知っていたか……まぁいい」

 

動きを止められた千春に向け、ラウラは左肩に装備された大型の実弾砲を向ける。

 

間に合わない。鈴とセシリア、シャルルはその光景を見ながらそう思った。スラスターをいくら吹かしても、千春は助けられない…………―――そう、三人は。

 

 

 

ザンッ!

 

ギィィインッッ!!

 

 

 

 

「織斑………一夏っ」

 

「悪いなラウラ・ボーデヴィッヒ。大切な女性《ひと》をやらせるわけにはいかなくてな」

 

 

雪片で左肩の実弾砲を切り裂いた一夏は、ラウラと千春の間に立ち塞がり、『零落白夜《れいらくびゃくや》』を発動した状態で雪片をラウラの喉元に突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 

突然アリーナにスピーカーからの声が響く。騒ぎを聞き付けて来た担当の先生だろう。

 

 

「ふん………今日は引く」

 

 

横槍を何度も入れられて興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘態勢を解除してアリーナゲートへ去っていく。その向こうではおそらく教師が怒り心頭で待っていることだろうが、あのラウラの性格からして無視してしまうのだろう。

 

 

「一夏、千春、大丈夫?」

 

「…………」

 

「ああ、なんとか」

 

 

深紅の装甲を纏ったままうつ向いた千春は、何も喋らず、シャルルの問いかけにも答えない。

 

「千春?」

 

甲龍を纏った鈴が千春の元に駆け寄り、側に寄る。

そして鈴が千春の肩に触れようとしたとき、千春の静寂が止んだ。

 

 

 

 

「お願いっ、今は触らないで!!!」

 

 

 

 

鈴に対する明確な拒絶。悲痛な声は、まるで怖がっているようだった。

 

「え…?……千春?」

 

 

鈴が後ずさる。

今まで……いや、今ではなかった拒絶に鈴が驚いたのだ。

 

「…………」

 

驚いたのは俺や鈴だけでない。箒もセシリアも、シャルルも驚いていた。

 

箒とセシリアは鈴と千春の仲の良さはよく知っていた。シャルルもこの五日で仲の良さは知ったはずだ。

周りから見れば千春が鈴に対し『依存』するかのような仲の良さを知っていた。

 

 

 

故の驚愕だ。

 

 

「……シャルル、今何時くらいだ?」

 

「え、え!?……あ、えっと…もう四時を過ぎてアリーナの閉館時間になるよ?」

 

 

突然投げ掛けられた言葉にシャルルが慌てながらもちゃんと答えてくれた。

 

「じゃあもうあがろうぜ、汗でびしょびしょだしな。……千春、夕飯は?」

 

「…………」

 

 

小さく。見落としてしまいそうになるくらい小さく、千春は首を横に振った。

 

 

「そっか、……じゃあ行こうぜ皆。また明日な、千春」

 

そう言うと俺は鈴と並び、ピットへ向け歩き出す。

 

 

「お、おい一夏…―――」

 

「ラウラの事も説明する、『行こうぜ』」

 

語尾を強調するように強く言う。

箒とセシリアはまだ聞きたがったようだが、溜め息をつき俺の後に付いてきてくれた。

 

 

 

 

「で?……何処までを話してくれるのだ、一夏?」

 

「推測でいいなら話すぞ?ラウラの事だけだ」

 

「千春さんの事は……話してくれませんの?」

 

「…………千春の事は…まぁ…解る所だけな」

 

「紅い装甲の事は一夏も鈴も知らないんだよね?」

 

「あぁ、詳しくは言えないけど、前に一度しか見たことがない。今日で二回目、だな」

 

ピットの前の通路で、俺たち五人は声を小さくして話し合っていた。

 

「では仕方ないな。……ラウラ・ボーデヴィッヒのことを聞かせて貰おう」

 

「悪いな、箒。……まず最初に、ラウラは千冬姉の教え子だ」

 

「教え子?」

 

シャルルが首を傾げる。

 

「ああ。と言っても学園でじゃなくてドイツの軍隊での、だけどな」

 

「聞いた事がありますわ。織斑先生は引退前、ドイツ軍のIS部隊の教導をしてたと…」

 

「そうだ。千冬姉は俺が作っちまった借りを返すために、ドイツくんだりまで行き、そこでISの教導なんかをしてたらしい」

 

「借り…?……軍に対し借りとは、穏やかではないな、どんな借りだったのだ?」

 

箒が腕を組みながら眉をつり上げる。やっぱり食いつくよな。

 

 

 

 

「ちょっと待ちなさいよアンタ、……まさかあのラウラ・ボーデヴィッヒとか言うヤツ……そんなしょうもない理由で喧嘩吹っ掛けてきてんの!?」

 

 

過去に起きた事の顛末を知る者の一人、鈴は三人より一歩先に理解した。

 

両拳は強く握られ、その瞳は怒りに燃えている。

 

「推測……だけどな」

 

「だから千春はあんなに怒って……っ、アタシも知ってたらあんなヤツ、ボコボコにしてたのにっ!」

 

「鈴さんは何かご存知なのですか?」

 

セシリアの言葉に、鈴はセシリアから目を逸らす事で答えた。「私が答える事じゃない」と、一夏を見て。

 

 

「俺が中学一年生の時だから―――、もう三年前になるのか?……モンド・グロッソがあったよな?」

 

「第二回、モンド・グロッソだよね?。織斑先生の大会二連覇が掛かってた大会だったから僕も見てたよ」

 

「千冬さんが棄権し、騒ぎになったあの……だな」

 

よし、箒も知ってるな。なら話が早い。

 

「そう、その大会だ。……千冬姉が棄権した理由が、俺にあるんだ。当時、俺は突然現れた黒服の男達に気絶させられて監禁された。それを知った千冬姉が、大会を棄権してまで助けに現れてくれたんだ」

 

箒、セシリア、シャルルと三人が絶句した。

当時『世界』を大きく揺るがした、決勝戦を前にしての棄権の理由が、『誘拐された弟を救うため』だったなんて……誰も考えれるはずがなかったからだ。

 

「ラウラの言い分も一理あるんだ…俺がもう少し、少しでも千冬姉の弟らしく強かったなら……な」

 

 

 

 

 

 

「んなッ、有るわけないでしょうが!このバカッ!!」

 

 

鈴が目尻に涙を溜めながらそれを否定した。

 

「なんで一夏が責められる必要があんのよ!そんな理由でっ、お門違《かとちが》いじゃない!悪いのはアンタを拐った連中でしょ!?」

 

堪えきれず涙を流しながら叫ぶ鈴。

 

「……確かに、そうなんだろうけどさ。思うんだよ、俺が誘拐されず、千冬姉が優勝でもしてたら……千春が国に戻らず、IS操者になんてならなかったんじゃないか、なんてな」

 

「!………」

 

「……だろ?あの時の千春を思い出したらな、俺が誘拐されたから、千春の人生を狂わせたんじゃないか、って思うんだよ」

 

「千春の、人生を?……」

 

「ああ。箒、例えば箒が俺と同じ状況にいてさ、俺の事を、「守れるようになるから、ごめんなさい。ごめんなさい」って何度も呟きながら、泣く千春を見てさ、どう思う?」

 

「……それは…」

 

「しかもだ、それから一ヶ月もしない内に千春は逃げるように国へ帰っちまったんだ。ブローチを渡すのだってギリギリだったしな」

 

 

千春がIS操者、並びに研究者になったのは俺のせいだ。これは推測だろうが、絶対だろう。

 

「……んで、俺が誘拐されていた場所の情報をいち早く掴んだのがドイツで、千冬姉はその情報を提供してくれたドイツに借りを返すためにドイツに行った……ってとこだろうな」

 

一夏は千春から話を戻す。

 

「俺がもう少し強くいれたなら、二人の人生を狂わせる事もなかったんだ。だから…………俺にも一因があるんだよ」

 

 

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