IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

29 / 50
stage 28 『シャワー・イン・レディ』

 

 

 

「ま、ラウラのことはこれくらいだな。……憶測ばっかであれなんだが、まあ外れてないんだろな」

 

重くなった空気をどうにかしようと、出来るだけ明るく言ってみる。

 

「さ、着替えて飯食いに行こうぜ!いやぁ、シャルルとやり合ったせいか腹が減ってさ!」

 

俺達はまだISスーツだ。早く着替えてしまいたい。シャルルの肩を軽く叩き、皆を見る。

 

 

「そう……だな、各自シャワーを浴びてから食堂に集合でどうだ?」

 

箒が乗って来てくれた。

 

「ではそれで。皆さん、先に失礼致しますわ」

 

セシリアは髪を靡かせながらさっさと行ってしまった。何を急いでんだ?。

 

「では私も行こうか」

 

「あたしも行くわ。一夏、アンタ遅れるんじゃないわよ?」

 

「シャワー浴びるだけだろ?そんなに遅れるかよ」

 

続いて鈴と箒も歩き出す。

 

さて、俺もさっさと着替えて食堂に行きますか。

 

「よしシャルル、さっさとシャワー浴びっか」

 

「え、あ…あぁ。そうだね一夏。じゃ、じゃあ僕、先に部屋に戻ってるよ」

 

「は?……なに言ってんだよシャルル。ここにもシャワーはあるじゃんかよ。ロッカールームのひとつが男子専用になってんだしさ、使わない手はないだろ?」

 

「え、ぼ、僕は部屋のシャワーが好きだから………」

 

 

慌てたように目を逸らす。

 

またこれだ。シャルルはこの五日間、頑なに俺と着替えようとしたりシャワーを共にしたりしない。ロッカールームのシャワー室なんだが、もともと集団で一気に使う奴やので一人で使うには広すぎる。これが浴槽ならまだいいのだが、シャワーとなると一人は寂しい。折角の男同士、裸の付き合いってのがあるんだし。

 

 

「シャルルってさ、俺と着替えたりするの嫌がるよな」

 

少しムッ、とした表情になってしまうのは許して欲しい。

これが五反田弾なら、互いの釣竿の大きさで一喜一憂したり他愛ない話をしたりするのだが、シャルルはそれをしてくれない。

男同士の気さくな付き合いがしたいんだが………

 

 

「そ、そんなことないよ?…」

 

「そんなことあるだろ?たまには一緒に着替えようぜ」

 

「え、えと…」

 

「連れないこと言うなって!」

 

少々強引だが、シャルルの肩に腕を回す。これでもうシャルルは逃げられん!さてさて、シャルルの好みの女の子の話とか色々聞くぜ!特に千春関係のだが。

ここでシャルルのタイプが千春以外なら俺はシャルルと親友になれる気がする。うん、気がするんだ。

 

 

 

「う……っ」

「う?」

 

 

「うっ、うわああぁっ!!」

「のわっ!?」

 

 

 

叫び出したシャルルが俺を突飛ばし、駆け出して行く。

 

「…………俺が悪いのか?」

 

それともあれか?男の俺に襲われるとでも思ったのか?

外国は日本よりそう言うのが多いらしいし………だとしたら心外だ。俺は男同士の友情を深めようとしただけだ!

 

けど、俺が悪いように見えるのは確かだな。

 

 

 

 

 

夕日が校舎の壁を緋色に変える中、俺はアリーナから寮への一本道を一人で歩いている。

 

一人、と言うのは色々な意味でもて余すものだ。考えたく、思いだそうとしないでも嫌なことを思い出す。

 

 

 

 

(貴様がいなければ…教官が大会二連覇の偉業をなし得たであろうことは用意に想像できる。だから私は―――貴様の存在を認めない……ッ!!)

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生。千冬姉の教え子。俺の存在を否定する少女。

 

 

(…織斑千冬がいなければ、一夏が誘拐される、なんて事はなかったんだッ!!そう…いなければ良かったんだ!それがなんだ?存在を認めない、だと?……口を慎め、でなけりゃ肉片すら残さずぶち殺すぞ!!?)

 

 

千春・フレイヤ・ブリュッセル。アイスランドの元代表候補生。俺の初恋の相手。

俺の存在を全身全霊で肯定してくれる千春と俺と言う存在を否定するラウラ。

 

俺としてはラウラの気持ちもわかるから憎しみ合う関係にはなりたくないし、千春にはあんな顔をしてほしくない。

 

多分俺とラウラが和解すれば済むんだろうが………はぁ、考え過ぎて頭が痛いぜ。どうすればラウラと和解出来るのかがわからん。

 

 

 

「なぜこんなところで教師などと!」

 

「やれやれ…」

 

 

ふと、曲がり角の先から声が聞こえて、俺は注意をそちらに向ける。

何せ知った声だったからだ。

 

一人は件のラウラ・ボーデヴィッヒ。そしてもう一人は千冬姉だろう。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。ただそれだけだ」

 

「このような極東の地で、何の役目が有ると言うのですか!」

 

あの氷の転校生ことラウラ・ボーデヴィッヒがこうまで声を荒げていると言うのは他にないだろう。

話の内容は千冬姉の現在の仕事についての不満や思いの丈をラウラがぶつけているようだった。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

 

「何故だ?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど――――」

 

「そこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ………!」

 

その千冬姉の覇気のある言葉にラウラはすくんでしまった。

言葉は途切れたまま、続きが出て来ない。

 

「少し見ない間に偉くなったものだな。十五やそこらでもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は……」

 

ラウラの声が震えてるのがここからでもわかる。恐怖なのだろうか、多分。

 

 

「さて、私は忙しい。寮へ戻れ」

 

「…………」

 

声色を戻した千冬姉がせかして、ラウラは黙したまま早足で立ち去っていった。

 

 

 

 

「ふぅ………で、そこの男子、盗み聞きか? 異常性癖は関心せんぞ?」

 

やっぱりバレてたか。つか異常性癖って!

 

「なんでそうなるんだよ、千冬姉」

 

「学校では織斑先生と呼ばんか馬鹿者」

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ。千冬姉がドイツに行った時の生徒なんだろ?自分を慕ってくれる生徒に、あの態度はないんじゃないか?」

 

「……聞いたのか。……人の事より己のことを気にした方が良いのではないか?なぁ劣等生」

 

「うぐっ……痛い所を」

 

「ふん、このままでは月末のトーナメントで初戦敗退だぞ?寮に戻り予習復習に励め」

 

「はいはい」

 

初戦敗退…確かに今のままじゃ負けちまうな。鈴やセシリアになんて手も足も出せずにやられちまうし……

 

 

「……織斑」

 

「ん?」

 

「…………いや、なんでもない」

 

「?……じゃあ行くぜ?」

 

「ああ、勤勉さを忘れるなよ?」

 

「あいよ」

 

 

夕日が落ち始め、空に黒が現れ始めた頃、俺と千冬姉は互いに背中を向け歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

すっかり日も落ちた頃、俺は寮の自室に戻っていた。

 

自室と言ってもシャルルと一緒なのだが。

 

 

「ただいま~。シャルル、居るか?」

 

部屋に入ると同時にシャルルを呼ぶ。千冬姉との会話から部屋に来るまで、俺は新しい技の研究(妄想)をしていた。しかし特にこれと言った物が浮かび上がらず、俺以上に俺の癖からなにやらを理解しているシャルルに指示を仰ごうとしたからだ。

 

 

返事がない。まだ風呂か?そう言えばシャワーの音がする。今日はやけに長いな、いつもは鳥の行水並みに早いのに。

 

 

あ、そっか。ボディーソープが切れてたんだっけか、シャルルは慌ててるに違いない。

 

 

「シャルルー、ボディーソープ無いだろ?昨日買って来てたの忘れてたぜ」

 

今更だが、寮の各部屋にはバスルームがある。浴槽のないシャワールームだ。

 

シャワールームは洗面所兼脱衣所とドアで区切られている。

そして洗面所とシャワールームを隔てるバスルーム特有の曇りガラスのドア。

 

俺はボディーソープを届けるためにその曇りガラスをスライドさせた。

 

「い、一夏?……ありがとう、洗面所に置いておい……て……」

 

 

 

 

シャアーーーー……―――

 

 

 

シャワーの音がやけに大きく聞こえる。

 

 

 

 

 

 

「え………シャ……ルル?」

 

「うっ、うわぁ!?…」

 

顔を赤くし、すぐさま膨らんだ胸と股を腕と手で隠すシャルル。

 

『膨らんだ』……?

 

シャワーのためかほどいた金髪は長く、腰はくびれ、形の良いお尻は安産型だろうか。

いや、なに考えてんだ俺。

相手はシャルルだぜ?男のシャルルをまるで女の子を相手にするような反応するってどうよ?

 

 

正常な俺「いや、気づけって混乱した俺」

 

混乱した俺「何を気づけって言うんだいmyブラジャー」

 

正常な俺「混乱し過ぎだバカ。myブラザーだろうが」

 

混乱した俺「HAHA HAHA HAHA!まさかシャルルが男の娘だったなんて!」

 

正常な俺「現実をみろバカ野郎!おっぱいだおっぱい!千春のと比べたら自己主張は小さいが、れっきとした女の子のおっぱいだ!つか普通の視点でみたら十二分に巨乳なレベルのおっぱいだぞ」

 

混乱した俺「まあ千春のあれは卑怯だよ」

 

正常(?)な俺「確かにな。男だけを殺す兵器かよ!?(ビルギット)って感じに狡いよな」

 

混乱から回復した俺「狡い狡い。…………さて、それらを踏まえた結果、目の前にたってるボンッキュッボンッなシャルル似の女の子は?」

 

正常な俺「シャルルだろ」

 

回復した俺「双子の妹説は?姉でも可」

 

正常な俺「ないだろ」

 

回復した俺「ですよねー。……――つまり、」

 

 

 

 

 

バスルームにいたのは……女体化してしまったシャルルだった。

 

 

 

 

 

正常な俺「違うだろ!?」

 

 

 

 

 

 

「あ、上がったよ…」

 

「お、おう」

 

 

シャワールームから髪をほどいたシャルルが現れた。

服装はシャープなラインが格好いいスポーツジャージ。……なのだが、女の子だと言うことがバレてしまったのだろうか、胸を隠すための特別製コルセットをしていない。その上で身体のラインがくっきりと浮かぶ服装をしているものだから、胸があることが思いっきりわかってしまう服装になってしまってる。

 

やはり、胸がある。

おっぱいが、そこにある。

 

 

「えっとだな……単刀直入に聞こう、シャルル」

 

「!……」

 

シャルルは自分のベットに腰かけて俺と向かい合い、俺から声をかけるとびくっと身を震わせた。

 

あ~あ、緊張しちゃって。仕方ない、シャルルの緊張を(ほぐ)すため、敢えて汚名を被るか。

 

 

 

「シャルルのスリーサイズって、いくつなんだ?」

 

 

 

変態と言う、ね。

 

 

 

「え?」

 

「いや、だからさ。シャルルって女の子なんだろ?実は」

 

「う、うん……今まで…騙してて…ごめ…―――」

 

「いやいや、千春と比べたらアレだが、中々のボンッキュッボンッ……だな、胸はまだ箒やセシリアに劣るが、総合的なパラメーターなら千春につぐ第二位だ!」

 

「……え?……」

 

「で、だ。幾つ…なんだ!?」

 

「な、なんでそんな事…聞くの?」

 

「そりゃお前……俺が俺である事を確かめるためだ」

 

「ど、どういう意味!?」

 

「いや、待てよ………シャルルって女の子なんだよな?」

 

「う、うん……今まで…騙してて…ごめ…―――」

 

「俺、シャルルのお尻見たよな?」

 

「え、……あ、あああぁ…っ」

 

シャルルの顔が真っ赤になる。さて、あともう一頑張りだぜ。

 

 

「ぷるっぷるだったな~……もうちょっと見ておくんだった」

 

「いっ、一夏のえっち!!」

 

「なっ!?えっちって……せめて紳士と」

 

「なんでこの会話で紳士って呼べるの!?」

 

「ですよねー…………よし」

 

「な、何がよしなの!?」

 

「そろそろ緊張も解れたろ?……よかったら話してくれよ、シャルルが性別を偽ってまでここに来た理由を、さ」

 

「あ……一夏」

 

シャルルが申し訳なさそうな顔をする。

 

「『よかったら』だからな?無理して教えてくれなくていい。別にバラしたりしないからさ」

 

「……はぁ、一夏って以外と細やかなんだね」

 

「俺は何時だって細やかだぜ?」

 

「ふふ、ISを使うときはいつも大雑把なのにね?」

 

「うぐ、痛い所を…っ」

 

「……ありがとう、一夏。お陰で気分が良くなったよ。………じゃあ……話すね?」

 

「良いのか?」

 

「うん。一夏には知っていて欲しい…かな」

 

「わかった」

 

短く、かつ即座に頷いた。打ち明けようとするシャルルに不安さを与えないためだ。

 

 

「何から話そうかな、……僕が男のフリなんかしてたのは実家の方からそうしろって言われたからなんだ」

 

「実家っていうと…デュノア社の―――」

 

「そう。僕の父がそこの社長。その人からの直接の命令なんだ」

 

……?どうにも妙な違和感を感じた。特に実家の話を始めてから、シャルルの顔が顕著(けんちょ)に曇りだした。

 

 

「命令って……親だろ?なんで自分の娘にそんな――」

 

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ」

 

……絶句。俺だって普通に世間を知る十五歳だ。『愛人の子』と言う言葉の意味がわからないほど世間に疎くもなければ純情でもない。

 

「引き取られたのが三年前。ちょうどお母さんが病気で亡くなったときにね、父の部下がやって来たの。それで色々と検査をする過程でIS適応値が高い事がわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

シャルルは、おそらくはいいたくないであろう話をそれでも健気に喋ってくれた。

だから俺は、ただ黙ってしっかりと話を聞くことに専念した。

 

「父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活しているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなぁ。本妻の人にね?殴られちゃってさ。『泥簿猫の娘が!』って。参るよね、母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

 

あはは、と愛想笑いを繋げるシャルルだったが、その声は乾いていてちっとも笑ってはいない。俺も、流石に愛想笑いは返せない。

そしてそれはシャルルも望んでいないだろう。

沸々とわいてきた訳のわからない怒りを堪えようと俺は拳をきつく握った。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「え?だってデュノア社って量産機ISのシェアが第三位なんだろ?」

 

「そうだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発って言うのはものすごくお金がかかるんだ。ほとんどの企業は国からの支援があってやっと成り立っているところばかりだよ。それで、フランスは欧州(おうしゅう)連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防のためもあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨なことになるんだよ」

 

 

 

そう言えばセシリアや千春が言ってたっけ、今、欧州では次期主力機の選定中だとか。セシリアがIS学園に来たのも実稼働データを取るためだ。………おそらくドイツからラウラが転入した来たのもその辺りの事情が絡んでいるのだろう。

ちなみに千春は欧州連合からの『イグニッション・プラン』参加の要請を無視してるらしい。『グラデーション』が次期主力機になんて祭り上げられたら、その設計者の千春は『国』に拘束されるかららしい。

 

 

「話を戻すね?それでデュノア社でも第三世代型を開発してたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、中々形にならなかったんだ。それで、政府からの通達で予算を大幅カット、それで次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったの」

 

「なんとなく話はわかった。けど、それがどおしてシャルルの男装に繋がるんだ?」

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔、それに――――」

 

シャルルは俺から視線を逸らし、どこか苛立ちを含んだ声で続けた。

 

「同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータを取れるだろう……ってね」

 

「それは……つまり、白式のデータを――――」

 

「そう、盗んでこいって言われてるんだよ。僕は、あのひとにね」

 

 

 

 

 

なんだ、これは。話を聞く限り、その父親はただ一方的にシャルルを利用しているだけだろう。たまたまIS適応があった、それなら使おう、と、それくらいにしか思ってないはずだ。

 

なんだよ、それは。

 

親だろ?親なのに…なんで自分の子供が、自分の親を他人行儀に見るような扱いしてんだよ。

 

 

「とまあ、そんなとかろかな。でも一夏にバレちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まぁ……潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕に取ってはどうでも良いことかな」

 

「……………」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、……本当に、今までウソをついててゴメンね」

 

深々と頭を下げるシャルルを見て、俺は思わず問うた。

 

 

 

「それでいいのかよ」

 

 

「え………?」

 

 

「それでいいのかって聞いてんだ!いいはずがないだろう!?親がなんだ、親だからってだけで、自分の子供の自由を奪う権利があんのかよ!んな事おかしいだろうが!!」

 

「い、一夏……?」

 

 

シャルルが戸惑いと怯えの表情をしている。けど、…嗚呼、畜生言葉が止まらない、何より感情が止めどない。

 

「親がいなけりゃ子は生まれない。そりゃそうだろよ、けどなぁ、だからって親が子供に何してもいいなんて、そんな馬鹿な事があってたまるか!!生き方を選ぶ権利は子供にだってあるはずだ、それを……親なんかに邪魔されるいわれなんてないはずだ!………親だったら…親だったら!、子供の生き方を見てやれよっ!祝福してやれよっ!!なんで……なんでっ!――――」

 

 

 

 

 

 

俺と千冬姉を……捨てたんだよ。

 

 

 

そう、言っていて気づいた。……これはきっと、シャルルの事を言ってるんじゃない。おそらく自分の事を言ってるんだ。

 

俺が生まれて間もなく姿を消した両親。

まだ子供だった時に千冬姉に、『なんで僕にはお母さんとお父さんがいないの?』と聞いた時の千冬姉の顔が思い浮かぶ。

 

そして、千冬姉は俺のため『大人』であり続けた。まだ、当時今の俺よりも年が下だった千冬姉………千冬姉の『子供』を奪ったのは俺であり蒸発した両親だったのだ。

そう、俺は二度も千冬姉の人生を狂わせたのだ。

 

 

「ど、どうしたの? 一夏、変だよ?」

 

「……悪い、熱くなっちまった」

 

「いいけど……本当にどうしたの?」

 

 

「多分知ってるだろ?俺は―――俺と千冬姉は両親に捨てられたんだ」

 

「あ……」

 

おそらく俺と接触する前に資料で知ってるだろう『両親不在』の意味を理解したらしく、シャルルは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

「その……ゴメン」

 

「気にしなくていい。俺の家族は千冬姉だけだ。親なんかに今さら会いたいとも思わない。それより、シャルルはこれからどうするんだ?」

 

「どうって…時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生を下ろされたよくて牢屋とかじゃないかな?」

 

「それで良いのか?」

 

「良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないんだから、仕方ないよ」

 

そう言ったシャルルの微笑みには、絶望すら通りすぎた諦観(ていかん)がそこにあった。

 

「……だったらここにいれば良いさ」

 

「え?……」

 

「学園特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてはありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

そう、これは使える。そう思うと途端に頭が冷えて来て、暗記していたテキストの文章が気持ち悪いくらいすらすらと言えた。

 

「―――つまりは、だ。この学園にいれば、少なくとも三年間は大丈夫だろ?それだけ時間があればなんとかなる方法だって見つけられるさ。別に急ぐ必要だってないだろ?」

 

「……よく覚えられたね一夏。特記事項って五十五個もあるのに」

 

「勤勉なんだよ、俺は」

 

「そうだね。……ふふっ」

 

 

やっとシャルルが笑った。その表情には屈託がなく、歳相応しい少女の笑みだった。

 

「そうだ、千春に相談してみようぜ。千春だったら秘密にしてくれるからさ」

 

「え?…千春?」

 

「ああ、千春ってば色々コネがあるみたいだしさ、ちゃんと話したら協力してくれるさ」

 

また千春を巻き込んでしまうかもしれない。しかし、千春ならなんとかしてくれるだろう、なんて甘い考えで俺は提案した。後々後悔するのだが、この時の俺は最良の策を出したと息を巻いて喜んだ。

 

「……千春は、多分ダメだと思うな」

 

「は?……えっと、なんでだ?」

 

「一夏は千春の……ううん、『ブリュッセル』の裏の顔を知らないんだよね?」

 

「裏の顔って……物騒だな」

 

「実際少し物騒だよ。世界最高の大富豪『ブリュッセル』。やろうと思えば、世界を裏から操る事も可能なんだ」

 

 

裏から操る…なんだか悪役みたいだな。

 

「アイスランドだって、実質の最高権力者は『ブリュッセル』だ。世界各国……特にこの日本は『ブリュッセル』の言葉には無下に逆らえない。……そう言う家なんだよ?そんな家の出の千春が僕なんかを………」

 

「家は家だ。シャルルは、千春がお前を見捨てるようなやつに見えるのかよ!……」

 

「…………少し、そう思ってる。千春は僕のラファールのデータを抜き取ってた。しかも、『データを抜き取った』と言う痕跡をわざと残してね。……今思えば千春には最初からバレてたんだろうね…」

 

「絶対に大丈夫だ。千春は誰かを見捨てるような奴じゃない」

 

自分でも少しムキになってるのがわかる。

 

 

「……わかった。一夏を信じるよ」

 

「シャルル……ああ、任せとけシャルル」

 

俺は力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン。

 

「一夏さん、いらっしゃいますか?よろしければ食堂までご一緒に行きませんか?」

 

「「!?」」

 

突然のノックと呼び声に俺とシャルルは二人揃って身をすくませる。

 

「一夏さん?入りますわよ」

 

まずい。まずいまずい。それはとてもまずい。今のシャルルの姿を見たらどんなに鈍い奴でも女だとわかってしまうだろう。(つまりは一夏でもわかる)

 

「ど、どうしよう一夏?」

 

「何かないか何かないか」

 

 

俺はどこかの青狸の困った時の常套句を呟きながら辺りを見回して思考をフル回転させる。

 

「と、とりあえず身を潜めて―――」

 

「だあっ!なんでクローゼットなんだよっ。ベッドベッド!布団の中で大丈夫だ!」

 

「あ、ああっ、そっか!」

 

ばたばたとあわただしく動く俺&シャルル。―――ガチャ。ドアが開く音がした。

 

ヤバイ、間に合わん!

 

「待ったセシリア!、い、今シャルルが着替えてんだ!」

 

咄嗟に出た言葉、我ながら秀逸だと思うぜ。

 

「あ、あら。それは仕方ないですわね」

 

何が仕方ないのかはわからんが、どうやら部屋に入るのを諦めてくれたらしい。

 

「シャルル、今のうちに着替えろっ」

 

「う、うんっ!」

 

「ば、バカっ、ここで着替えるなよっ!」

 

「ご、ゴメン一夏っ」

 

ISスーツと制服を持ってシャルルが脱衣所に向かう。

 

前途多難、だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドアから出た俺とシャルルを待っていたのは、

 

「な・ぜ、食堂で集合のはずなのにお前がここにいる?」

 

「箒さんこそ、何故ここにいらっしゃるのかしら?」

 

互いに睨み合う修羅二人。

 

 

この後、二人に両腕を絡め取られ、エスコートと言う名の、衆人環視の中の羞恥プレイを強制され、食堂に着いたときに身動き出来ない俺の顔に、鈴が飛び蹴りを放ち意識を掠め取られた事をここに記載する。

 

 

 

ああ、不幸だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。