IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 30 『飛翔、接敵、宣戦布告』

「一夏、今日も放課後特訓するよね?」

 

「ああ、もちろんだ。確か今日使えたアリーナは――――」

 

「第三アリーナだ。千春が先に行っていてくれと言っていたぞ?」

 

「「わあ!?」」

 

廊下でシャルルと並んで歩いていたのだが、そこにいきなり予想外の声が飛び込んできて俺達は揃って声を上げた。

その一緒ぶりが気になったのか、いつの間にか横に並んでいた三人めこと箒は眉をひそめる。

 

「……そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

 

「お、おう。すまん」

 

「ごめんなさい。いきなりのことでびっくりしちゃって」

 

「あ、いや、別に責めているわけではないが………」

 

折り目正しく頭を下げるシャルルに流石の箒も気勢を削がれてしまう。

そして謝らせてしまったことを恥じるかのように、ごほんと話を逸らす咳払いをした。

 

「ともかく、だ。第三アリーナへと向かうぞ?。今日は使用人数が少ないと千春から聞いている。早くにつけば模擬戦も出来るだろう」

 

それは非常に助かる。なんだかんだでISの実力は実稼働時間に正比例するこだから、わずかな時間でも実践同様の訓練を行えるのは有り難い。

……ん?

 

「どうして千春は遅れるんだ?なんか用事か?」

 

「それなのだが、どうやらISの受領らしい」

 

「え…装備じゃなくて…ISの!?」

 

「私も、詳しい事はわからんがな。………ん?」

 

俺達がアリーナに向かっていると、そこに近づくにつれ慌ただしい様子が伝わってくふ。さっきから廊下を走っている生徒も多い。

どうやら騒ぎは第三アリーナで起こっているようだった。

 

「なんかあんのか?」

 

「なにかあったのかな?こっちで先に様子を見ていく?」

 

 

そう言ってシャルルは観客席へのゲートを指す。確かに普通にピットへ行くより早く様子を見ることが出来ると思って、俺は頷いた。

 

「誰かが模擬戦をしてるみたいだね。でもそれにしては様子が――――」

 

ドゴォン!

 

突然の爆発音に驚いて視線を向けると、その煙を切り裂くように影が飛び出してくる。

 

 

「鈴!セシリア!」

 

特殊なエネルギーシールドで隔離されたステージからこちらに爆発が及ぶことはないが、同時にこちら側からの声も聞こえない。

 

二人は苦い表情のまま、爆発の中心点へと視線を向ける。

 

そこにいたのは漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を駆るラウラの姿だった。

 

 

「終わりか?ならば…――私の番だ」

 

ニヤリ、と口元を大きくつり上げたラウラ。その表情には余裕が見て取れた。

 

「こんのおおおぉっ!!」

 

連結した双天牙月をまるでブーメランのように投擲する。それはあらぬ方向に飛んで行った。

 

「何を可笑しな事をしてらっしゃいますの!?」

 

特殊レーザースナイパーライフル『スターライトmkⅢ』を構え、ラウラを狙撃するセシリア。その頬に汗が伝う。

 

「うっさいわよ!気が散るじゃない!」

 

衝撃砲をばら蒔くように連射しながら鈴は次の二式目の双天月牙を連結する。

 

「この程度の練度で代表候補生だと?全く、同じ代表候補生として見られるのが憤慨だな」

 

「はんっ!そのこっぱづかしい眼帯をもう片方にも付けさせてやるわ!」

 

「やってみろ、この私に対して」

 

ジャカッ、と鈴のIS『甲龍《シェンロン》』の両肩に浮かぶ非固定部位。第三世代型空間圧作用兵器・衝撃砲『龍砲』の最大出力を放つ。訓練機程度の装甲ならば一撃で吹き飛ばせるであろう一撃。牽制ではなく、本気で狙った衝撃砲の一撃が、右手をかざした『シュヴァルツェア・レーゲン』に意図も容易く止められる。

 

空気を圧縮して放たれた砲弾は、圧縮していた楔をほどかれ衝撃波になって四散する。

 

 

「無駄だ、このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

「ここまで相性が悪いだなんて……なら、これならどうよっ!」

 

衝撃砲を止められた鈴は舌打ちと共に連結した双天月牙をぶんぶんと振り回し、回転力を付けて投擲する。今度はラウラ目掛け真っ直ぐ飛んで行き、……―――。

 

ガキィンッ!!

 

先程投擲していた一式目の双天月牙とぶつかり合い弾けるように互いに飛んで行った。

 

「何を遊んでいますの鈴さん!?」

 

「うるっさいわね!アンタは黙って狙撃してなさいよ!」

 

「もう見ていられませんわ!行きなさい、『ブルー・ティアーズ』!」

 

 

セシリアが『スターライトmkⅢ』での狙撃ではなくビットでの攻撃を開始する。

 

カシュッ、ヒュンヒュンヒュン!

 

四機のビットがランダムパターンでレーザーを撃ちながらラウラ目掛け飛来する。

 

そしてセシリアは、スラスターを噴かし、加速しながらメインウェポンである『スターライトmkⅢ』を『サブマシンガン』へと変える。

 

銃身がスライドして現れたのは、本来の姿の約半分程の『スターライトmkⅢ』。

サブマシンガンとしては大型だが、近距離ではその高い連射力を発揮する。

 

ビットのレーザーと、レーザーマシンガンの二つの攻撃で牽制をかけながら攻撃を行う。

 

千春が考案したビットのランダム射撃により、目標を設定するだけでビットが目標を攻撃してくれる。故にセシリアは最低限の処理をするだけで千春に近いBT兵器の運用が可能になったのだ。

 

 

「ふん、理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度で第三世代型兵器とは笑わせる」

 

セシリアのビットによる視覚外攻撃と精密な射撃を事もなさげに避けていくラウラ。

 

またさっきのように腕を伸ばしたラウラの視線の先には、近くを飛来したビットが、なにか見えないものに捕まって空中でその動きを停止していた。

 

「動きが止まりましたわね!」

 

セシリアは、その『スターライトmkⅢ』をスナイパーライフルモードに変更し、ビットを止めるため静止していたラウラへ銃口を向けた。

 

「止まっているのは貴様もだ」

 

「なっ!?」

 

シュヴァルツェア・レーゲンの両肩に搭載された刃が左右一対で射出され、セシリアのISへと飛翔する。それは本体のブレードとワイヤーで接続されているためか、複雑な軌道を描いてビットの迎撃射撃をくぐり抜け、『スターライトmkⅢ』を捕らえる。

 

「準BT兵器の『インコム』!?」

 

「限られた者しか扱えないならば『ビット』も単一仕様能力《ワンオフ・アビリティ》と大差ない。真の兵器とは汎用性にこそある!」

 

『スターライトmkⅢ』に絡み付いたブレードワイヤーをラウラが軽く引く、その動作によりワイヤーが高速で巻き戻り、『スターライトmkⅢ』の銃身が簡単に切り裂かれた。

 

「きゃああぁっ!?」

 

『スターライトmkⅢ』のジェネレーターが爆発し、軽く吹き飛ばされたセシリアの横を通りすぎるように鈴が肉薄する。

 

「貰ったわよ!!」

 

三式目の双天月牙、二振りの刃を構えて突撃する。

 

ワイヤーブレードを収納仕切った瞬間に双天月牙が振り下ろされる。

 

 

ギィィインッッ!!

 

刃と刃の衝撃音。振り下ろされた二振りの刃を、ラウラは片腕のプラズマ手刀により防ぎきる。

 

「捕らえた……『停止結界』!!」

 

鈴の眼前に突き出された腕から、視覚出来ない無形の鎖が放たれる。

 

双天月牙を振り下ろした姿のまま、指一つ動かせなくなる。

 

「終幕だ。これで―――」

 

「あたしの、勝ちね?」

 

「……?……しまったっ!!?」

 

勝利を確信したラウラに、鈴は勝利の確認をとった。

 

その言葉と勝ち誇った表情を見て、ようやく気づきラウラは戦慄した。

 

 

 

ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンッ!!

 

 

轟音を響かせながら互いに引き合うように、『中心点』にいるラウラへ飛来する二式の双天月牙!

 

あらぬ方向へ飛ばしたのも、一投目の双天月牙にぶつけたのも、連結せずに切りかかったのも、この時のため。この一撃のため。

 

左右からの同時攻撃、そしてそれを避けさせず、防がせないために本体である鈴自身が囮となる!!

 

(貰ったわよ!!)

 

鈴は心の中でラウラにざまぁ見ろ、と叫んだ。

 

 

 

「……とでも、騒ぐと思ったか?」

 

 

 

右肩のレールカノンを至近距離の鈴にぶちかまし、『AIC』を解いて両腕のプラズマ手刀で飛来する双天月牙を防ぎ止める。

 

「ぐうぅぅっ!!」

 

レールカノンの一撃をまともにくらい吹き飛ばされた鈴、ISの装甲の各所に傷が見える。

 

「はっ、やはりこの私とシュヴァルツェア・レーゲンこそが最強!……不出来な第三世代型共とは訳が違う!」

 

「こんっのおおぉぉっっ!!」

 

上手く態勢を整えた鈴にラウラが追従するかのように迫る。

全身から六機のワイヤーブレードを射出しながらラウラがプラズマ手刀で猛攻撃を仕掛ける。

 

いくら鈴のISが格闘戦に優れていたとしても、これら全てを防ぐのは不可能だ。

やがて、片方の衝撃砲が破壊された。

 

 

「くっ!」

 

「甘いな。この状況下でウェイトのある空間圧兵器を使うとは」

 

その言葉通り、衝撃砲はその弾丸を射出する瞬間にラウラのレールカノンに貫かれ爆散する。

 

「あ……がっ!?」

 

肩のアーマーを吹き飛ばされて大きく体勢を崩した鈴に、ラウラがプラズマ手刀を振り下ろす。

 

 

「させませんわ!」

 

間一髪のところで鈴とラウラの間に割り入ったセシリアは、『インターセプト』を使い、必殺の一撃を逸らす。

 

それと同時にウェイト・アーマーに装着された弾頭型ビットをラウラへ向け射出させた。

 

 

ドカァァァァンッ!

 

 

半ば自殺行為ですらある接近戦でのミサイル攻撃。その爆発は鈴とセシリアも巻き込み、二人は地面へとたたきつけられる。

 

「無茶するわね、アンタ………」

 

「苦情は後で。けれど、これならば確実にダメージが――」

 

セシリアの言葉は途中で止まる。

 

 

「終わりか?ならば…――私の番だ」

 

霧が晴れ、そこに佇んでいたのはラウラだった。至近距離での爆発ですら、ダメージは殆ど効いてなかったかのように宙に浮いている。

ラウラは前傾姿勢になると、『瞬時加速《イグニッション・ブースト》』により高速で鈴に接近、鈴を蹴り飛ばし、セシリアに至近距離からの砲撃を当てる。

 

 

「あれはっ、『瞬時加速』!?」

 

「千冬姉の教え子だもんな、出来て当然だよなっ……」

 

箒がラウラの『瞬時加速』を見て叫ぶ。俺の十八番、『瞬時加速』は千冬姉が最初に編み出した技法だ。千冬姉を慕うラウラなら確実に取得してるだろうと思ってはいたが………。

 

 

 

ラウラはさらにワイヤーブレードを飛ばし、二人の体に巻き付かせて拘束し、ラウラの元へ手繰り寄せる。

そこからはただの一方的な暴虐が始まった。

 

 

二人のその腕に、その脚に、その身体に、ラウラの拳や蹴りが叩き込まれる。

 

シールドエネルギーはあっというまに減って機体維持警告域《レッドゾーン》を越え、操縦者生命危険域《デットゾーン》へと到達する。

 

 

「ああっ!オルコットさんと鳳さんがっ!」

 

シャルルがその惨状を見て悲痛な声で叫ぶ。当然だ。このまま行けば、ダメージが増加しISが強制解除されるだろう。そんなことが起これば冗談ではなく命に関わる。

しかし、ラウラは攻撃の手を止めない。ただ淡々と鈴とセシリアを殴り、蹴り、ISアーマーを破壊していく。

 

鈴とセシリアは大きな怪我でもしたのか、ぐったりとした様子でそれをただ受けていた。

 

そして次の瞬間、ラウラの無表情な顔に、愉悦の笑みが確かに見えた。

 

 

 

 

『やめろおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッッッ!!!!!』

 

 

 

 

気付いた時には俺は白式を展開し、アリーナに張り巡らされているエネルギーシールドを『零落白夜』を発動した雪片で切り裂いていた。

開放回線で咆哮した一夏は、準単一仕様能力『疾風迅雷《しっぷうじんらい》』を発動、最大稼働、亜光速で飛翔しセシリアと鈴を捕らえていたワイヤーを叩き切り、次いでラウラのレールカノンの砲身を切り裂いた。

 

「なにっ!?」

 

ラウラが目を見開く。当然だ、俺は叫んだのと『ほぼ同時』にラウラのワイヤーとレールカノンを切り裂き、されでいてラウラの喉元に雪片を突き立てているんだから。

 

「う……っ、一夏…?」

 

「無様な姿を……お見せしましたわね……」

 

「喋るな。……シャルル!二人を頼む!」

 

 

「え………あっ、うんっ!」

 

シャルルが遅れてISを展開し二人を抱き抱えピットへ飛ぶ。

 

それを確認してから俺は、ラウラを睨み付けた。

 

 

「どういうつもりだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。……テメェ今、殺ろうとしたな?」

 

『疾風迅雷』と『零落白夜』を解除し、雪片を量子分解する。

 

「……ふん、さてな。なんなら試してみるか?あの状態のまま続けていたら死ぬか否かを。……もちろんモルモットは貴様だがな、織斑一夏」

 

「ああ、よくわかったよコノヤロウ……お前には俺を怒る権利もあって、俺も千冬姉の弟である権利もねぇことはわかってた。…………だけど…だけどよ、お前は……お前はやっちゃいけねぇことをした」

 

嗚呼、これほどの怒りはいつ以来か、自分の醜さを突きつけられたようで吐き気がする。

 

「よくも俺の身内《ルール》を傷付け《やぶり》やがって……」

 

雪片を掴む拳に力を込める。怒りで身体が暴れないようにするためだ。

 

「だったらどうするのだ?……今ここで殺り合うか?」

 

「お前との決着は学年別トーナメントで付ける……だろ?千冬姉」

 

 

「ああ。模擬戦をやるぶんには構わん。―――が、アリーナのバリアーまで破壊される事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントまで預からせて貰う」

 

普段通りスーツ姿の千冬姉はいつの間にか現れていて、俺とラウラの合間に立ち宣言する。

 

 

「教官がそう仰るなら」

 

素直に頷いて、ラウラはISの装着状態を解除する。

アーマーが光の粒子となり、弾けて消えた。

 

 

「では、学年別トーナメントまでの私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 

パンッ!と千冬姉が強く手を叩く。それはまるで銃声のように鋭く響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

場所は保健室。第三アリーナの一件から一時間が経過していた。ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯の巻かれた鈴とセシリアがむっすーとした顔で視線をあらぬ方向へと向けていた。

 

「別に助けてくれなくてよかったのに」

 

「あのまま続けていれば勝ってましたのに」

 

感謝するかと思えばこれである。いや、まぁ感謝されたくてやったわけではないので別にいいが。

どちらかと言えば俺が切れて乱入しちまった訳だし。

 

「いやいや、二人ともたいした怪我がじゃなくてよかったよ。箒が知らせに来てくれた時は驚いたんだから」

 

煤やオイルで汚れたつなぎを腰から上をはだけ、上はタンクトップ一枚と整備士見たいな服装の千春が苦笑ぎみに笑う。

 

タンクトップを湿らす汗のせいで、タンクトップが胸にピチピチに張り付き、大きく、それでいて美しい胸の形を遺憾なく、問答無用に発揮する。

 

ちくせう、この飾りっけなさが逆にエロいぜ千春!!

 

 

「こんなの、怪我のうちに入らな―――いたたっ!」

 

「そもそもこうやって横になっていること自体無意味で―――つうぅっ!」

 

……バカなんだろうか。

 

「バカってなによバカって!バカ!」

 

「一夏さんこそ大バカですわ!」

 

酷い反撃を受けた。しかも俺は口に出してないんだが……つか怪我人が大声出すなって、傷に響くぞ?。…………ほれ、痛みで悶えてら。

 

「にしてもだ。ラウラ・ボーデヴィッヒにはほんとに困ったもんだな」

 

千春が髪を掻き上げながら溜め息を漏らす。

 

「確かに、奴をこのまま捨て置けば大きな問題になるだろうな」

 

箒が壁にもたれかかりながら同意とばかりに頷く。二人の目は戦士の眼力を放っていた。

 

「学年別トーナメントで叩き潰す敷かないわね。……あ~ぁ、もうっ。『アヴァロン』をもう少し早く作っとくんだったよ」

 

頭を掻きながら二度目の溜め息を漏らした千春からは聞き慣れない単語が出た。

 

「アヴァロン?……確か妖精が住まうって言う理想郷の名前だったね?」

 

「それが受領したと言うISか、千春?」

 

シャルルが飲み物を買って戻って来た。鈴とセシリアにそれぞれ烏龍茶と紅茶が入ったジュース缶を手渡しながら千春の言った単語に首を傾げる。

 

シャルルと箒の二人の問いに頷いた千春はまだ両手につけていた煤けて汚れた軍手を取り、それをポケットに突っ込んだ。

 

「そ、私が考案した新型ISだよ。『グラデーション』が3.5世代型なら、名付けて『番外世代型』……って感じになるのかな?。……なにしろどの世代ISにも合わないからな~」

 

汗で濡れ、身体に張り付いたタンクトップを指で軽く引っ張りながら千春はどこか疲れたように答える。

 

「番外世代型……?」

 

これまた聞き慣れない名前だ。千春は俺の言葉にもコクりと頷く。

 

「ISの為のIS……って所かな?。ま、お披露目はまだ後だね」

 

そうニヤリと千春が笑ったのとほぼ同時に、

 

ドドドドドドドッ………!

 

地鳴りのような音が聞こえた。地鳴りに聞こえるそれは、どうやら廊下から響いて来ている。しかも段々と近づいて来ているように思うのだが………多分、気のせいじゃないんだろうな―――!?

 

 

ドカーン!!

 

瞬間、保健室のドアが吹き飛んだ!

 

いや…本気で吹き飛んだんだ。本当に……

 

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

入ってきた―――なんて生易しい表現では現せられない。

文字通り雪崩込んで来たのは数十名の女子生徒だった!

 

ベッドが五つもある広い保健室なのに、室内はあっという間に人で埋め尽くされた。しかも俺とシャルルを見つけるなり一斉に取り囲み、まるでバーゲンセールの取り合いが如く手を伸ばして来たのである。

……うわぁ、軽いホラーだぞこれ。

人垣から伸びる無数の手、手、手。普通に怖いわ。

 

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

 

状況が飲み込めない俺とシャルルに、バシィッ!と女子生徒一同が差し出して来たのは学内の緊急告知文が書かれた申込み書だった。

 

「あ~、なになに?……『今月開催する学園トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締切は』―――」

 

「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」

 

申込み書を引ったくられた。し、締切はいつまでなんだ!?

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

どうして学年別トーナメントの仕様変更があったのかわからないが、ともかく今こうしてやって来ているのは全員一年生の女子だ(リボンの色で学年がわかるのだ)。学園内で二人しかいない男子である俺とシャルルと組もうと、先手必勝とばかりに勇み迫ってきているのだろう。

―――しかし、

 

「え、えっと……」

 

そう、シャルルは実は女の子なのだ。

だから誰かと組むというのは非常にまずい。

 

今後ペア同士での特訓も行うだろうし、いつどこで正体がバレてしまうとも限らない。

 

そう思ってシャルルを見ると、数秒間だけ困り果てた顔でこっちを見たのがわかった。

 

俺と視線が合うと、助けを求めているのがわかってしまうと思ったのだろう、すぐに視線を逸らしてしまった。

 

相変わらずこの遠慮深さはどうにかならないもんか。いや、そこがシャルルの美徳なのだろうが、な。

 

「悪いな、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

わあわあと騒ぐ女子群に聞こえるようにきっぱりと大きな声で宣言した。

 

 

シーン……――――。いきなりの沈黙に俺は気持ちが少し後ずさる。

や、やっぱりまずかったか?

 

 

「まあ、そういうことなら……」

 

「他の女子と組まれるよりは………」

 

「男同士っていうのも……いやむしろ…ウヒヒ」

 

 

おい、最後。何ケタケタ笑いながらGペン持ってやがる。あっ、こら!今コミケっつったな!?

 

まぁ…なんだ。取り合えず納得してくれたようだ。女子達は各々が仕方ないかと口にしながら、一人また一人と保健室を去っていく。今年の夏には薄い本が繁簡しそうだ、主に学園内で。

 

 

「ふぅ…やっと行ってくれたな」

 

「あ、あの、一夏―――」

 

「一夏っ!」

 

「一夏さんっ」

 

安堵の溜め息をついた俺にシャルルが声を掛けようとして、それを上回る勢いでベッドから飛び出た鈴とセシリアに遮られた。

 

「あ、あたしと組みなさいよ!幼馴染みでしょうが!」

 

「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」

 

 

そんな怖い表情で詰め寄られもダメなものはダメなんだ。

しかし、正直どうしたもんかね。先程の女子生徒達とは違って、こっちは説得するにも一苦労しそうな気配がビンビンする。

はぁ、不幸だ。

 

 

「いや、ダメだな」

 

 

しかし、千春が掌サイズの端末を操作しながらそれを一言で否定する。

 

「これは…先程の戦闘の映像…か?」

 

「うん。視認でだけど二人のISの損傷率はダメージレベルCを越えてると思うね。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じる。ドクターストップって訳じゃないが………学年別トーナメントの参加はやめて置いた方が無難だぜ?」

 

 

端末の画面に写しだされたのは先程の三人の戦闘。

それを見ながら千春は二人を説得する。

 

いやしかし、そんな説得でこの燃え上がる代表候補生×2が納得するのだろうか?多分無理だぞ、千春?

 

「うっ、ぐっ……!仕方ない…わよね」

 

「不本意ですが……非常に、非常にっ!不本意ですが!……トーナメント参加は辞退しますわ」

 

あれ?すごいアッサリ引き下がった。……なんでだ?

 

「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だ」

 

え?あ、あー…えーと……。

 

「……『ISは戦闘経験を含む全ての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼働も含まれ、ISのダメージがレベルCを越えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼働に悪影響を及ぼすことがある』」

 

「おお、それだ!さすがシャルル!」

 

箒の言葉に、なかなか答えられない俺に代わって、シャルルがすらすらと説明してくれた。

つまりはアレだ、『骨折している時に無理をすると筋肉を痛める』って感じだろう。

この解釈で間違えないはずだ。

 

とりあえず話も纏まったところで、俺はかねてから疑問に思っていたことを二人に訊いてみた。

 

 

「しかし、なんだってラウラとバトる事になったんだ?」

 

「え、い、いやそれは……」

 

「ま、まあ。なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」

 

「ふぅん?」

 

 

何故二人とも言いにくそうにしているのだろうか?。まぁ何かしらの挑発行為があった上でのバトルだったのは間違いないようだ。

 

しかし各国の代表候補生なんだからちょっとくらいの挑発にほいほいのったらヤバいんじゃないか?うーむ…

 

 

「もしかして、一夏の悪口――――」

 

「あああっ!たくっ、アンタはほんっと一言多いわねぇ!」

 

「そ、そうですわ!全くです!おほほほほほ!」

 

何かティン!ときたらしいシャルルを、二人が勢いよくベッドから飛び出し取り押さえた。二人から口を覆われてシャルルは苦しそうにもがく。

 

「おい、二人ともやめろって。シャルルが困ってんだろうが。それにさっきから怪我人のくせに身体を動かしすぎだぞ、ホレ」

 

一回冷静になれよとばかりに俺は鈴とセシリアの肩を指でつついた。

 

 

「「 ぴぎぃっ! 」」

 

案の定痛みが走ったらしい。二人ともおかしな言葉かつ甲高い声をあげてその場で凍りついた。

 

 

「…………」

「…………」

 

「あ、……すまんそんなに痛いとは思わなかったんだ。悪い」

 

二人の恨みがましくも痛みに悶えてるその表情を見れば、それがどれだけ痛かったのかおおよそ理解できた。

 

「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……っ…」

 

「あ、あと、で……おぼえていらっしゃい……」

 

 

うわぁ……たぶん体が元気なら二人とも俺にためらいなく鉄拳をふるまっていることだろう。しかもフルコース。断ってもデザートが着いてくるに違いない。ドリンク?勿論飲み放題だばか野郎。

 

 

 

 

6月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色にと変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かにすごく、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行った。(余談だが、来賓の誘導をしていた中に千春を見掛けた。どうやら来賓の方々に大人気なようだ。良い歳したオッサン達が目を見開いて千春の巨乳をガン見する。あからさまに見すぎているのだが、その気持ちはよくわかる。俺だってガン見する。誰だってそうする)

 

 

それからやっと開放された生徒たちは急いで各アリーナの更衣室へと走る。ちなみに俺達男子組はアリーナ外のトイレを貸しきって急場凌ぎの改造をした簡易更衣室に詰められていた。

トイレと言っても毎日四回清掃のお姉さん方が余すところなく綺麗に磨きあげたトイレは清潔そのもので、フローラルな香りがトイレと言う固定概念を払拭してくれる。

 

いや、まあトイレなんだけどね。

 

 

「すごいなこりゃ……」

 

そうそうに簡易更衣室から出た俺とシャルルは、生徒の第二待機室のモニターから観客席の様子を見る。

そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一同に会していた。

 

「三年にはスカウトが、二年生には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。まあそれ以外にも思惑はあるだろうけど………あっ」

 

「ん?どーかしたか?」

 

「ほらほら、千春だよ?相手の人は………っ!」

 

俺がモニターの中の千春を注視した辺りで、シャルルが絶句した。

 

「ん?千春の隣にいるのは確か千春の執事さんだったな。……千春と話してるのは…誰だ?」

 

俺が首を傾げた所でシャルルが溜め息を漏らすように吐き出した。

 

「デュノア社の……社長だよ」

 

「え…っ」

 

今度は俺が絶句する番だった。

デュノア社の社長と言えばシャルルのお父さんだ。

 

そのシャルルのお父さんと、ニコニコと笑みを絶やさない千春が歓談していた。

 

「小型ディスプレイの携帯端末?」

 

「え?」

 

シャルルが千春の手元にあった半透明の板のようなものに気づいた。

モニターから見たんじゃそれが何を写してるのかは、全くわからなかった。

 

 

「何の話をしてんだろうな…」

 

「うん。……千春…」

 

嘘だ。俺とシャルルは知っている。いや、多分、だが………憶測と言えど多分間違っていないだろう。

 

シャルルの事だ。

 

 

「まあ、なんだ。多分千春なら大丈夫さ。それより今は集中だ。いつ試合になるかわかんねぇんだからさ」

 

「ふふ、ありがとう一夏」

 

モニターが他の場所を写したのと見て、俺は気分を変えようと明るめの声でシャルルの肩を軽く叩く。

 

シャルルは俺の考えていることが筒抜けだったらしく、くすっ、と笑われてしまった。

 

「気にすんなって。……さて、俺達の対戦相手は誰なんだろうな?」

 

モニターがあるこの待機室にも他の女子が集まりつつあった。アリーナの正規の更衣室にもモニターはあるのだが、息を抜きたい生徒達は談話室のようなこのスペースを利用する。

 

周囲の女子生徒達を見ながら俺の脳裏にはラウラ・ボーデヴィッヒの姿が映る。

 

 

早く、アイツと戦ってみたい。

 

その言葉が浮かび上がってくる。前にラウラ・ボーデヴィッヒに対して戦闘狂と言ったが、どうやら俺もその口らしい。

 

モニターがアリーナからトーナメント表のようなものに写り替わった。

 

 

「あ!一回戦目が決まるわ!」

 

待機室にいた女子生徒が声をあげる。それに呼応するかのように無数の視線がモニターに注がれる。

一回戦は…………

 

 

 

 

 

 

相川清香、

千春・フレイヤ・ブリュッセル組と

 

篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ組だった。

 

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