IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 31 『連撃』

学年別トーナメント第一回戦。選手が発表されてから15分後、アリーナの中心で『打鉄』を纏った箒が腕を組んでいた。

 

(初戦の相手が千春とは……なんと言う組み合わせだ)

 

箒は静かにまぶたを閉じながら、その心中は穏やかではなかった。

 

千春と戦うのはまだ良い。箒にとって千春は友であり師であり恋敵であり良き理解者だ。

 

彼女との戦いは心踊るものがある。彼女に自分の技術が何処まで通用するのか………それを確かめてみたい。……みたかった。

 

今や箒の事など千春の頭にはない。ラウラ・ボーデヴィッヒもまた然り、箒や千春のパートナーの相川さんに意識を向けていない。

 

ただただ互いに凍てつく殺意を放ってる。

試合開始のゴングを待たず死合いを始めてしまいそうな、そんな雰囲気さえある。

 

(真っ当な試合は望めん、か)

 

やれやれと溜め息をついた箒の視線の先は灰色の装甲を纏った千春からラファール・リヴァイブを纏った相川さんに移された。

 

 

 

 

 

 

来賓用の観客席にどよめきが走った。

 

 

 

「…………」

 

カツカツと靴音を鳴らしながら視線をある一点に定めながら織斑千冬が歩いていた。

 

突然のブリュンヒルデの登場に一部を除き来賓者達は皆一様に驚いた。

 

 

「あら?……あらあらあら?」

 

そう、一部を除いて。

 

ニコニコと笑みを絶やさない女性が千冬に気付き立ち上がる。腰元まで延びるその髪の毛は淡い栗色だった。

 

 

「お久しぶりです。マリアンヌ・ブリュンヒルダ。三年前から変わりなき様子、安心しました」

 

「貴女もお元気そうで良かったわ。会えて嬉しいわ。『ブリュンヒルデ』、織斑千冬」

 

立ち上がった女性の前で立ち止まりどちらかともなく手を差し出し、そしてその手を取り握手で返す。

 

「貴女にブリュンヒルデと言われるとバチが当たりそうで怖いな。戦乙女の巫女はこの名を許容してくれるのか?」

 

「許容も何も、その名は称号のようなもの。称えこそすれ否定する要素は何一つないと思うのだけど?」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。いや、……嬉しいです、か」

 

苦笑気味に笑う千冬の様子を見て、女性は口に手をあて、くすっ、と小さく笑った。

 

「うふふ。やっぱり慣れない事はしない派ね、千冬ちゃん」

 

「すまんなマリア。今日は千春のか?」

 

「アイスランドの国家IS操縦者として召喚されたわ。個人的には千春さんに頑張って欲しいのだけれど………」

 

頬に手をあて溜め息をつくこの妙齢の女性、

名をマリアンヌ・ブリュンヒルダ。

『閃光のマリアンヌ』と呼ばれ各国の国家代表IS操縦者達に恐れられているヴァルキリーだ。

 

三年前、第二回モンド・グロッソにおいて千冬と並んで優勝候補と呼ばれたIS操者で、

彼女と千冬との試合は奇しくも彼女たち二人が始めて顔を合わせた第一回モンド・グロッソと全く同じ、準決勝戦。

 

二度の敗退を繰り返しながら、『唯一』織斑千冬に拮抗した英雄としてアイスランドでは絶大な人気を誇るIS操縦者だ。

 

 

「随分と余裕なのだな、アイスランドは。確かに、今年のモンド・グロッソでお前と渡り合えそうな選手は少ないが……」

 

「そうなのよ~。けど外交のためって押し切られちゃって…困ったわぁ」

 

 

はぁ~、と間延びした溜め息をしたマリアは視線をアリーナへ戻す。

 

「千冬ちゃんはいいのかしら?もうすぐ始まりそうよ?」

 

「山田君に任せて来たよ。彼女は優秀だ、安心しろ」

 

「あぁ~、ヤマヤちゃんね?懐かしいわぁ~」

 

くすくすと笑うマリア。……そう、山田先生が『ヤマヤ』と言うあだ名を拒絶したのには彼女、マリアンヌ・ブリュンヒルダが関わっていたのだ!!

 

「彼女の前で言ってやるなよ?」

 

「うふふ、気を付けるわぁ」

 

微笑みを絶やさないマリア。当年今年で34歳。しかし、歳を感じさせない不思議な雰囲気を纏っていて、二十代前半と言ってもまだまだ信じられる容姿をしている。

 

(一夏がいたならば解説してくれるだろうが今は待機室にいるので彼女のエロスはまたの機会に)

 

「さて…どちらが勝つと思う?」

 

「うーん…悩むわぁ。……けど、そうね…あの子が勝つわ」

 

アリーナの上空に投影されたカウントを見ながら千冬は問う。

マリアは困ったように眉を八の字にし、アリーナの中心を指差す。

 

「…………理由を聞いても良いか?」

 

「ええ、構わないわよ?」

 

くすくすとマリアは笑いながら指を降ろした。

 

 

 

「あのポニーテールの子、あの子から初めて貴女と相対した時と似たような感覚を覚えたの。間違いなく、千春さんは負けてしまうわね」

 

 

 

 

 

上空のカウントが三を切った。

 

 

 

「…………」

 

千春が腰を低くし、地面に両手を付いた。まるでクラウチングスタートだ。

 

二…―――。

 

 

「千春・フレイヤ・ブリュッセルよ……今日、ここで貴様を叩き墜としてやろう」

 

「やってみろよ欠陥品。全力で来い……言い訳なんて許さないぞ?」

 

一……―――

 

 

「千春……」

 

一夏は自分の手が真っ白になるほど強く、握りしめていた。

 

 

零!!!!

 

 

「……モード選択(セレクト)紅き痛み(スカーレット・ペイン)』…」

 

 

色彩(グラデーション)が、紅く染め上がる。

 

 

ギィイイィンッ!

 

ガキイィィンッ!!

 

加速音と全く同じ瞬間に刃と刃の衝突音が鳴り響く。

 

千春が試合開始と共に仕掛けた『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を用いた奇襲を、ラウラは糸も容易く防いでしまった。

 

「はっ、単調な動きだなカレンデュラよ。その程度で私をやれるとでも?」

 

「思っちゃいないさ。腕の一本くらい落ちて欲しいと願ったがね」

 

ガチャガチャと音を鳴らしながら鍔迫り合いが続く。ラウラはレーザー手刀で、千春は近接ブレードを両手に持って拮抗していた。

 

しかし、その拮抗を崩す。

 

 

ヒュンヒュンッ………バシュバシュッ!

 

 

「ビットだと!?……ちぃっ!」

 

弾かれるように千春から離れ、全方位から降り注ぐレーザーの雨をラウラは舌打ちをしながらも掻い潜る。

 

「ビットを展開しながらそれを隠すため瞬時加速で接近戦、やるな」

 

「何上から目線で余裕ぶっこいてんだよ!!」

 

両手の二振りの近接ブレードを二挺のビームライフルに変え、距離を取ったラウラにビームの連射を浴びせる。

 

「さて…貰ったぞ?」

 

「!?」

 

ラウラの口元がつり上がる。

 

刹那、ライフルにワイヤーブレードが巻き付く。千春は瞬時にライフルを離し、ワイヤーが巻き付いたライフルを片方のビームライフルで撃ち抜いた。

 

ドォンッ!

 

ライフルのジェネレーターを撃ち貫き爆散させる。そしてその爆発に巻き込まれワイヤーブレードが一基使用不可になる。

 

「まさかワイヤーブレードを一基潰されるとはな。……しかし、それでいい。弱者を嬲り殺すのは趣味に合わん」

 

「ちぃ……っ」

 

ガキン! と巨大なバレルの回転音が轟く。

 

左肩の大型レール砲《カノン》が砲弾を装填する。それを見るや千春は六枚のスラスターウィングを広げ、自分の領域である天空へ飛翔した。

 

 

ドンッ―――!

 

大型レール砲《カノン》から音速をもって放たれた砲弾は回避に専念した千春を捉えられずアリーナのシールドバリアーに直撃し爆発を起こす。

 

「フン。墜とし甲斐があると言うものだ!」

 

レール砲《カノン》に次弾を装填したラウラは五基のワイヤーブレードを連続投射。

 

それぞれが三次元躍動機動で千春に迫り、そのことごとくが千春に避けられていく。

 

加速中に急激な停止、停止直後に身を捩りながらの三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)で引き離す。

 

 

ガチャッ! ヒュンッ……。

 

 

二挺のアサルトライフル『スケアクロウ』のアンダーバレルに装備されたグレネードを下方、ラウラに向け放つ。

 

ドオォォンッ――!

 

 

ラウラが放っていた対ISアーマー用特殊徹甲弾とグレネードが衝突。大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「間違いない。……あの紅い装甲のモードは三種のモードを一括に纏めた特殊なモードだよ」

 

「何かわかったのかシャルル?」

 

モニターを食い入るように見ていたシャルルが座席にもたれ掛かり、こめかみを抑えながら溜め息をついた。

 

「何かわかった………と言うよりコレしか考えられないんだよ。一夏、千春の『グラデーション』の主な特徴は何?」

 

「へ? えー…っと。…三つのモードに変更できる事……か?」

 

突然の問いに変な声を出してしまった。

 

「そう。各距離に特化した三種のモードに、戦闘中に変更できる事。それが『グラデーション』の強みだよ。そしてそれが弱みでもあるんだ」

 

「なんでだ?どんな距離にも対応できるなら弱点なんてないだろ?」

 

「『グラデーション』は各モードで使える武器を制限してるんだよ。各モード毎にエネルギー効率は全く違っているからね。遠距離特化の深緑の大地《グリーン・アース》が実弾兵装しか使えないのも、深緑の大地がエネルギーの大部分を強固な守りにするためシールドエネルギーに回してるから、エネルギーを消費する武器を使うと、すぐにエネルギーが切れちゃうんだ」

 

「そうか、各色毎に使う武器や戦い方があるから…色で自分の弱点を晒してることになる!」

 

「正解だよ一夏。……だけど今のあの紅い装甲の『グラデーション』は全ての武装を使えている。BT兵器とエネルギー兵器は『蒼き水面(ブルー・アース)』、実弾兵装は『深緑の大地』。そしてあの|高機動(ハイ・マニューバ)は『黄色の閃光(イエロー・ライトニング)』……全てのモードを一纏めにしたようなモードじゃない と、あんな事は出来ない。」

 

「確かに………けどそれっておかしくないか?」

 

そう、おかしいのだ。

 

全てのモードを一纏めに……つまりは全距離対応機だ。

そんなモードが出来るなら、……元からこのモードにすれば良いんじゃないか。

 

 

「そこ、そこなんだよ一夏。……多分あの紅い装甲にはまだ何か……ううん、『グラデーション』自体に何か裏があるんだよ」

 

アリーナでは、紅い装甲を纏った千春が踊るように空を翔んでいた。

 

 

ガチィッ…ドドドドドドッ―――!!

 

 

一瞬の隙を見つけ千春は六連ミサイルランチャーを展開、ラウラに狙いを定めそれを放った。

 

「はっ、この停止結界の前ではそんな攻撃は届かんぞ?」

 

しかし、右腕を伸ばしたラウラの目の前でピタリ、と放たれたミサイルは止まってしまう。

 

 

ヒュンヒュンッ!…バシュバシュッ!

 

「爆発なんかは、その停止結界で防げるの?」

 

「!?」

 

AICで停止させたミサイル達がビットから放たれたレーザーに貫かれる。

 

ラウラは瞬時にAICを解除し腕を交差させる。

ドドオォォンッ――!

 

 

「くっ…やってくれるッ!」

 

爆発に巻き込まれたラウラが舌打ちする。大した損傷はなかったがシールドエネルギーをごっそりと持っていかれた。

 

「奴は…上か!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

 

爆煙が晴れ、ラウラが見たのは先程までいた場所、いや視界内から忽然と消えた千春。

 

ふと、自分の頭上に影が落ちたのに気づいたラウラは大型レール(カノン)に徹甲弾を装填、頭上を見上げる。頭上からは、双剣を手に持った千春が一直線に『落ちてくる』。

 

「喰らえッ――!」

 

頭上の千春に向け徹甲弾を放つ。

 

 

ドンッ―――!

 

 

当たる。この距離なら当たると踏んだ一撃はは、

 

キンッ――!

 

 

そのブレードによって叩き切られた。

 

 

ドオォォンッ――!!

 

 

真っ二つにされた徹甲弾が千春の後方で爆発する。

必殺の一撃を凌いだ代償はブレード。近接ブレードは刀身の調度まん中辺りから剣先にかけてが吹き飛んでいた。

 

半分に折れたブレードを投げ捨て、もうひと振りの近接ブレードをラウラに向け振り下ろす。

 

 

「おのれっ!…」

 

紙一重でブレードの斬撃を避けたラウラ。

 

避けると同時に距離を取ろうと後ろへ下がる。ラウラは格下と見ていた相手に危なげな戦いをする自分に苛立ちを覚えた。

 

「逃がさないッ!……」

 

そしてそれを追撃せんと肉薄する千春。威力を込めるため、ブレードを大振りに振り下ろす。

 

ガキィィィンッ!

 

『シュヴァルツェア・レーゲン』のレーザー手刀と『グラデーション』の近接ブレードが激突する。

 

 

「……ふ、ふふふ…終わりだカレンデュラ!!」

 

左腕のレーザー手刀で近接ブレードを抑えれば、右腕が空く。その右腕で、AIC《アクティブ・イナーシャル・キャンセラー》を発動して千春の動きを止めた。

 

ガキンッ!

 

大型レール砲《カノン》に次弾が装填される。そのレール砲の砲口が千春を捉えた。

 

 

「!?」

 

突如、ラウラの視界の中に何かが飛び込んで来た。

それは、先程千春が投げ捨てていた折れた近接ブレードだ。それを認識するのに一瞬、意識を向けてしまった。

 

停止結界…AICを発動させるには高い集中力を必要とする。

しかし、視界に飛び込んで来たソレに意識を向けたため、集中は途切れ、AICの効力が四散してしまったのだ。

 

ビットが飛来してくるならまだわかる。しかし飛んで来たのは真っ二つに折れたブレードの片割れ、何故それなのか?と言う思慮も集中を途切らせる要因にもなった。

 

「…………」

 

してやったり、とでも言わんばかりに口元を大きくつり上げた千春。その表情は勝利を確信した愉悦そのもの、近接ブレードを振り上げ、真っ向から両断しようと振り下ろす。

 

 

(な…んだと!?……私が…私がっ…負ける!?)

 

レーザー手刀もAICも間に合わない。後ろに下がろうとするも間に合わない。何もかも、何もかもがラウラには間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を忘れて貰っては困るぞ、千春」

 

 

ガキィィィンッ―――!!

 

 

観客までもが千春の勝利を確信した時だった。

耳をつんざくような鋼と鋼の衝突音がアリーナに響き渡る。

 

「!!?……邪魔をッ――」

 

「するなと?……生憎、タッグ戦でな。邪魔をしてはいけない、などと言う規約はないぞ?」

 

剣撃を防がれるや否や、弾かれるように距離を取った千春が表情を怒りに染め、憎々しげに歯を食い縛る。

 

「すまんな千春。私の相手もして貰うぞ?」

 

第二世代型IS『打鉄』を纏い、近接ブレードを構えながら、篠ノ之箒は不敵に笑った。

 

 

 

 

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