IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 32 『篠ノ之箒のワイルドカード』

 

 

 

 

「くっ……キヨちゃっ…――」

 

 

千春の見る先には悔しげに下唇を食い縛る相川さんの姿。その瞳は悔しさに滲んでいた。

 

 

(試合開始から六分と二十秒、……キヨちゃんのせいじゃない、キヨちゃんは頑張った。一夏との特訓で箒自身も強くなった。接近戦に限れば鈴と互角に渡り合うほどに。むしろその箒を五分以上抑えていたんだ、褒めこそすれ責める理由が見当たらない!…………私が…私が五分以内に仕留めきれなかったせいだ……)

 

 

 

相川清香を、『使えない』と思った心を刹那の内に切り殺す。

そんな事あるものか、相川清香は頑張った。

箒はもはや一般生徒の枠を出た技量を持っていた。

いや、もともと才気があるのは知っていた。ISランクがCと言う事実に疑念を抱くほどに……。一夏や私と特訓をして、箒はメキメキと力を付けていった。一夏の成長速度にも舌を巻いたが箒のそれは戦慄さえ覚えた。

 

その箒にだ、『五分』耐えたのだ。これを上出来と呼ばずなんと言う?。

 

全て至らぬは私の責任。……相川清香の頑張りを無駄にした私の……――――。

 

 

「箒ぃッ!!」

 

『フェザー』の六基、ビット全基で殲滅する。

 

確かに箒は強くなったさ。……だけど私はやられてあげられない。まだ、まだ……箒には負けてあげない。

 

だってそうだろう?鈴にシャルルはまだわかる。だけど……専用機でもなくて……起動時間が三桁にも行ってない、箒なんかに負けたら………―――

 

私の意味がなくなってしまう!!!!

 

 

私の二年間が、一夏を守るためのこの二年間が……全くの無意味になってしまう。

 

 

そんなの………――いやだッ!!

 

 

まだ!まだ一夏の隣に居たい!まだ一夏の近くに居たい!!

 

 

まだ……―――――箒に一夏は守らせないッ!!

 

 

展開された『フェザー』が鎌首をもたげる。優美な姿のその兵器は、その実蹂躙するだけの武器だ。計六門の砲口が箒を捉え、ソレを蹂躙するためレーザービームを吹き出した。

 

 

 

 

 

「くっ!……激しても的確か…正直羨ましいな…ッ」

 

 

まるで暴風雨のように降り注ぐビームの雨に曝されながら、箒はその全てを捌き切っていた。回避し防ぎ、回避し防ぎの繰返しだ。だが確かに、箒はビームの射線を見切り的確な挙動で損害を最低限に抑えていた。

 

 

(切り札は二つ、そして鬼札は一つ………鬼札を切るタイミングは確実に勝利するとき、でなければ全くの無駄になる……故にッ)

 

 

「切り札、その一だ!」

 

 

箒は近接戦仕様のIS、『打鉄』を纏っていながら、千春との距離を取った。

 

 

 

「距離を取った……なんで?」

 

「わかりませんわ。ただ、鈴さんも知っての通り、中距離は千春さんの得手分野……箒さんに何か手が……―――っ!」

 

 

 

アリーナの観客席で箒が距離を取った様子を見て鈴とセシリアは並んで疑問に思った。

 

そしてその二人に答えを出すように、箒はISの武装を展開する。

 

それは、機械的な大弓だった。

 

 

 

 

 

 

「……ほう、珍しいモノを使う…」

 

「あらあら『神崩し(カミクズシ)』じゃない。懐かしいわぁ」

 

「たしか第一回のモンド・グロッソで使っていたか?」

 

「ええ。千冬ちゃんにはどの距離も無駄と知ってからはやめたわ」

 

一一式《イチイチシキ》『神崩し(カミクズシ)』。当初防御型のISである『打鉄』の初期装備《プリセット》として開発された大弓。威力こそ高水準を叩き出したが、エネルギー消費を必要とするビーム兵器なため、威力に見合わない高い消費エネルギー、取り回しの悪さ、連射性、命中精度など、多くの問題点を残した失敗作。

 

公式記録では六年前、第一回モンド・グロッソ以降公式戦で使用された例がない武器だ。

 

 

ギ……ギギギィィッ…―――

 

箒が弓を引き絞る。凝縮されたエネルギーは強い光りを放つ。

 

 

 

「……()っ!」

 

 

 

ブンッ――!

 

 

引き絞った光り輝く(ビーム)を放つ。

弓から放たれたそのエネルギーは、放たれた瞬間に無数の光の矢となった。『散弾』、だ。無数のビームの奔流が千春目掛けて迫る。

 

 

 

避ける、避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避ける避けるッ!!

 

 

 

当たるわけにはいかない。そう、絶対に一撃たりとも当たるわけにはいかない!。

 

 

千春は『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』で大きく後退してから、『瞬時加速』の速度のまま散弾を『無理矢理』避けて行く。

 

 

 

ミシリッ……。

 

 

腕の、脚の、腹部の…全身の骨が悲鳴をあげる。

 

 

『曲線の瞬時加速《サークル・イグニッション》』により全身を潰されるような痛みが走る。本来心の中であるはずのセーブを取り除いた瞬時加速。

 

それは、速さの代わりに身体を潰す諸刃の行為。いや、リスクの方が勝ちすぎている。

それでも、千春はやめなかった。

 

『当たるわけにはいかない』と、何度も何度も呟きながら、激痛を耐えながら飛翔する。

 

 

 

ミシリッ……――――バキッ…!――――― 。

 

 

左腕が折れた。

ひどく呆気なく折れた。

 

しかし千春はそんな事に構わず加速する。

 

そんな事では止まらない。

 

 

「う…ぐっ……ああああぁッ!!」

 

近接ブレードを展開。

 

痛みで思考出来なくなったわけじゃない。

 

愚行としりながら愚考する。このままでは全身の骨が折れ、一夏に『バレて』しまう。

 

それはダメだ。故に決着をつける。

 

 

ベキベキッ……―――!

 

 

更に無茶な加速をして肋骨が砕けた。

 

けど止まらない。絶え間なく放たれる散弾を身をよじり、『曲線の瞬時加速』で身に降りかかるその全てを避け尽くす。

 

 

距離は中距離を越え近距離、一歩踏み出せば白兵戦(インファイト)。折れた筈の左腕でブレードを横薙ぎに振り抜いた。

 

 

斬ッ!

 

 

『神崩し』を叩き切る。真っ二つになった『神崩し』を捨て、箒が近接ブレードを展開する。

 

まともに打ち合う必要はない。近距離瞬時加速(ショート・イグニッション)で距離を取り、また瞬時加速で接近し振り抜けば………―――

 

 

 

「切り札、その二だッ!!」

 

 

 

 

箒は近接ブレードをすぐさま量子分解し、収納した。

近接ブレードは千春に『近距離内での回避、又は距離を取る行動を起こさせるための囮《フェイク》』。『打鉄』の近距離武器が近接ブレードだけだと思い込んでる千春に一撃与えるための囮。

 

 

 

ISの倍以上はあるその薙刀を振り下ろした。

 

 

 

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