IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

34 / 50
stage 33 『散る翅』

 

 

 

 

「……何故だ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「………ふん。こいつは私の獲物だ。手出しをするなら貴様も一緒に相手をしてやろう」

 

「……先程までやられていて、よく言えるっ………」

 

 

シン、と静まりかえったアリーナ。終始押されぎみだった箒の逆転攻撃。それにより決着が着くだろうと思われていた試合はまだ、決着がついていなかった。

 

「……どういう…事よ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

避けられない。と、最悪の事態を想定していた千春は、訳がわからない、と表情に出して問う。

箒が降り下ろした薙刀を、そのレーザー手刀で受け止めたラウラに。

 

 

「……有り体に言えば甘く見ていた……とでも言うのだろうな。貴様の戦闘レベルを修正する。……貴様を、この私とシュヴァルツェア・レーゲンの敵であると認めよう」

 

 

ラウラはレーザー手刀を納め、右腕を左目を隠すように翳す。

 

 

「!!?」

 

 

咄嗟に瞬時加速で千春がラウラから離れる。その表情は後悔が見てとれる。

 

「やはりな。……私のこの瞳を…知っていたな?」

 

ラウラの左目を覆っていた眼帯はなくなっていて、代わりに見開かれた金色の瞳が異彩を放っていた。

 

 

「なればわかるだろう。これで貴様の勝利が万に一も無くなった事が………これが、私の本気だ。その翼有る限り凌いでみせろ」

 

 

千春を過去最大の敵と認め、油断や慢心をラウラは棄てた。

 

「この瞳を使わせた……それを誇りとし墜ちるがいい」

 

左肩のレール砲《カノン》が唸りをあげる。

 

 

 

 

 

 

「何事だ真耶?」

 

携帯端末に振動がおこり、それを千春は懐から取り出した。

相手は山田真耶。アリーナの完成室にいるはずの彼女からの呼び出し《コール》だ。

 

『た、たたた大変です織斑先生!!緊急事態です!!』

 

端末の向こう側から真耶が声を張り上げて叫ぶ。

 

「緊急事態?……」

 

『はい、そうなんです!先程から試合を終わらせるブザーが鳴らなくて…!』

 

「?……わからんな。そもそも何故試合を破棄するのだ。まだ続いているが?」

 

千冬は眉をひそめる。視線をアリーナに向ければ空を千春が飛び、それを捕らえんが如くラウラのワイヤーブレードが飛び交っていた。

 

 

『ブリュッセルさんはっ、もう試合ができる身体じゃないんです!ISからの情報では、千春さんの健康状態《コンディション》はステージレッド!今すぐ緊急入院しないと…っ!』

 

 

絶句。

 

絶句した。『ステージレッド』、それはISから送られる情報信号の一つで、IS操縦者の『操縦者危機的瀕死域』。操縦者生命危険域を越える危険な状態だ。

目の前で行われていた試合が、人命にかかわるほどの大事になっていたのだ。

 

 

「わかった、今からそちらへ向かう。…………しかし…なぜ、その瀕死状態でブリュッセルがあそこまで戦えているのか………」

 

「あら?……なぜ、そこで私を見るのかしら?」

 

「貴様も解せんからだ。……何故、自分の『娘』が死にそうになっていると言うのに平気な顔をしていられる」

 

 

端末の通話ボタンを切り、隣にたたずむマリアを見据える。

 

当のマリアは歳に似合わぬ、しかし容姿には似合う少女のような笑みを見せる。

 

 

「案外平気じゃないのよ?我慢してるだけよ」

 

「やはり知っていたか」

 

「あら…引っ掛けなんて酷いわ」

 

「ふん、…………解せんな」

 

「何がかしら?」

 

何かに気づいたらしい千冬が憎々しげに呟く。

 

 

 

「貴様、自分の娘にナノマシンを投与したな?」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?………」

 

今のは危なかった。あの瞳を使ってから、ラウラの動きが変わった。

ラウラの動き一つ一つがこちらを倒すための動き。

こちらの動きに対応し最善の動きで返してくる。

 

「これで二基目…あと四基だ」

 

既に二基の『フェザー』をワイヤーブレードで破壊された。

腕を組んだままワイヤーブレードだけを飛ばしてくるラウラに舌打ちし、ビームを連射する。

 

 

斬ッ!……――――

 

 

「ぐっ!……」

 

「貰った!」

 

連射を続けていたライフルを薙刀で叩き切られる。箒だ。

箒はラウラが展開したワイヤーブレードの包囲網の合間を器用に潜り抜けながら接近してきたのだ。

 

「甘いよ、箒!」

 

しかし奇襲でもない接近戦など恐るに足らず。回し蹴りを見舞い、アサルトライフル『スケアクロウ』を構え弾丸を乱射する。

 

それと同時に、展開していた『フェザー』で箒を囲むように『全距離《オールレンジ》攻撃』を行う。

 

「当たらなければ…どうと言う事はないっ!」

 

回し蹴りを喰らい、体勢を崩しかけた箒は三次元躍動旋回《クロス・グリット・ターン》で体勢を整えながら四方から放たれるビームを紙一重で避けて行く。

 

 

…………強くなっている。

 

先程まで防御の姿勢を取りながら捌いていた『フェザー』を、今はまるで『未来予知』を行ったかと思えるほど完璧に避けている。

 

『フェザー』の数が減ったから? まさか…その程度でこんな真似出来るわけがない。

 

ビームが放たれるより早くビームの射線軸からの回避を成功させるなど不可能だ。

 

ラウラでさえ、発射後のビームを『見』切っているのだ。

 

もし、箒が専用機を持ったなら……私は既に負けていた。

 

 

がしかし、幸か不幸か箒は専用機を持っていない。

……そして私には奥の手がある。必ず、必ず箒の動きを一瞬だけ止める秘策が……

 

「まだ…箒には負けてあげられないんだよ!」

 

「私にも、負けられない理由がある!勝たせてもらうぞ、千春!」

 

薙刀を量子分解し、ビームの雨を掻い潜りながら箒が迫る。

徒手空拳の状態で迫る箒を見て、千春は確認した。

 

箒が狙っているのは居合い………勝機だ!

 

ラウラとの一騎討ちには箒は邪魔になる。……まず、箒を打ち倒す!

 

展開していたビットを戻し、手にアサルトライフルを構え迎撃する。

 

ガガガガガガガッ!

 

アサルトライフルが火を吹く

 

箒が『打鉄』の実体シールドを展開し、銃弾を弾きながら迫る。

 

「貰うぞ、千春!」

 

箒は居合いの構えを取り、瞬時加速《イグニッション・ブースト》駆ける

 

 

フォンッ――……

 

ザシュッ…――

 

 

「!?……なっ………ちはっ…」

 

「墜ちろ、箒」

 

エネルギーシールドにぶつかるはずだったブレードは、千春の左肩を切り裂いた。

傷は浅い。だがしかし、『ISを装着された人間に対し、通常の装備での直接攻撃は出来ない』と言う固定概念を持つ一般人……つまり箒は思考能力を一瞬奪われる。

 

そこが狙い目。勝機。

 

『フェザー』を展開と同時に箒の腹部に蹴りを放つ。もちろんエネルギーシールドにぶつかり箒自身にダメージはない。

 

蹴りにより距離が開く。

箒が体勢を整えるよりも速く、四基の『フェザー』はビームを放つ。

 

 

「ぐっ…ここまで…か……!」

 

『打鉄』のエネルギーが尽き、箒は戦闘行動が不能になる。

IS戦においてエネルギーが尽きた者が基本的に敗けとなる。

箒には勝った、後は…―――。

 

 

 

 

シュルルッ……―――グンッ!

 

 

「しまっ―――!?」

 

 

『グラデーション』の脚にワイヤーが三本絡まり、思い切り引っ張られる。

箒を倒した一瞬の気の緩みを突かれた。

 

 

ダァンッ!!

 

「ぐぅっ!……」

 

ワイヤーに引かれ、地面にうつ伏せに叩きつけられる。

全身を襲う衝撃に一瞬意識が遠ざかる。

それを無理矢理制し、ラウラへ視線を…………、

 

 

ガシャンッ!!

 

「っ!?」

 

背中から衝撃が伝わる。それは、ラウラが私を踏みつけた衝撃だった。

 

「ふん、奴め…私と貴様との戦いに横槍を入れよって………」

 

ギリギリと力を込められ、私は押し潰されていく。

 

「ふ、フェ…―――」

 

「翅など使わせん」

 

ビットで射撃をするより速く、ラウラの放ったワイヤーブレードがビットを貫く。

 

 

「これで、私の勝ちだな。武装も近接ブレードしか残っておるまい。……選べ、ここで無惨に破れるか、自ら敗けを認めるか…な」

 

ラウラが『グラデーション』の固定部位のスラスターウイングを掴む。

 

 

「ふ…ざけ…っ、私はっ!!」

 

起き上がろうとするも、『動きを止められて』は動けない。

 

片手で翼を掴み、もう片手でAICを発動されている。

 

 

万事休す。どうしようもならない。だがしかし、今の千春は自分から、負けたとは言えなかった。言いたくなかった。

 

まだ武装はある。近接ブレード一振りだとしても、だ。

まだ動ける。シールドエネルギーが尽きるまで。例え残りが少なくても、一夏を馬鹿にしたラウラに、言いたくなかった。

 

 

 

「そうか、そうでなくてはつまらん。…………しかし、今回は私の勝ちで終わりだな」

 

 

ビシッ、…バキィッ!…ブチブチ…

 

 

スラスターウイングが引き千切られる。内線が音を立てて切れていく。

 

 

 

「翅を失い、それでも翔べるか、妖精よ?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。