IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 34 『黒兎』

 

 

今は学年別トーナメント一日目夜の8時だ。千春達の戦いから既に六時間もたっていた。

 

 

「いやぁ、心配かけてわるかった!」

 

ぱぁんっ!、と上半身だけ起き上がり、両手を合わせて頭を下げた千春が保健室に居た全員に謝った。

メンバーは俺に箒、鈴にセシリアとシャルルと何時もの面子だ。

 

先程まで相川さんが居たが千春と少し話てから嬉しそうに笑いながら寮へ戻っていった。千春が心配だったのか目元には涙が溜まっていた。

 

「心配かけた、と………」

 

「言われてもねえ?……」

 

「千春は別に何も悪い事はしてないじゃない」

 

 

セシリアと鈴が顔を合わせ、シャルルが二人の言葉を代弁する。

 

「む………」

 

それに反応したのは箒。千春の腕に巻かれた包帯を見て、口を尖らせた。

 

 

試合後、傷口から血を流しながら気絶してしまった千春は担架に運ばれ保健室へ。ここの保健室、医療道具が揃っていて、医療室としても使えるのだ。

千春は先程まで気絶していたらしく、漸く面会が出来たのだ。

 

「いやいや、箒は悪くないって。私が裏技使って自滅しただけだから」

 

いじけていた箒に苦笑した千春が包帯の上から腕を突ついた。

 

傷は浅いものだったが、痛みは酷く、それで気絶してしまったらしい。

 

「わざとくらってビックリさせないと私がやられちゃいそうになっちゃったからさ~……いやしかし、箒ってばすごく強くなったね。次やったら私の負けだね」

 

頭を軽く掻きながら千春が溜め息を漏らした。

 

「ほんとほんと、どうしちゃったわけ?あんた。前にIS乗った時は一夏にも負けてたのに」

 

鈴が千春のベッドに腰掛け不思議そうに問う。

そう、トーナメントの数日前。アリーナの使用が出来る最終日に俺と箒が戦った時は俺が勝った。

それより以前に技に破れた俺は、箒の技を警戒しながら戦い勝利を納めた。

 

やはり箒も俺と同じく千春に勝てなかったのだが……。

 

「むぅ………」

 

箒はなにやら面白くないような表情をしていた。

 

「箒?……どうかしたのか?」

 

「あぁ、すまん。……それなのだが…私にもわからなくてな」

 

 

腕を組んだ箒は両目を瞑り、うーん、と唸りだした。

 

「わからない?」

 

これに首を傾げたのはセシリア始め箒以外の皆だ。

 

「ああ、なんと言うかだがな……身体が勝手に動いた、と言うか…なんとなく攻撃の来るばしょがわかったと言うか」

 

またうーんと唸りながら箒は考え込む。

 

「あの弓や薙刀は、対千春用に用意したんだろ?」

 

「一夏、流石にそこまでなんとなくで用意はせんぞ?」

 

箒が憤慨したように口を尖らせる。

まあ確かに、千春の動きを録画した動画を何度も何度も見てたしな、箒。対策を練って向かったのは確かだろう。

 

「ま、なんにせよ一夏とシャルルも一回戦を突破して二回戦目だ。箒共々頑張れよ?」

 

「ラウラと箒に当たるまでは負けたりしねぇさ」

 

千春が突き出した拳に軽く拳を当てる。

 

 

ガラガラガラ!……

 

 

拳を当てたのとほぼ同時に、保健室の扉が音を立てて開けられた。

 

 

「お前は!」

 

 

箒が思わず身構える。扉を乱雑に開けたその人物は、……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「居たか、千春・フレイヤ・ブリュッセル」

 

 

千春を倒したラウラ・ボーデヴィッヒその人だった。

 

 

ガタッ!

 

 

 

「どういうつもり、アンタ?病室でやり合おうってゲせた考えを持ってるわけではないわよね?」

 

「何用ですの?ラウラ・ボーデヴィッヒ。お相手でしたらわたくし達が承りますわ」

 

ラウラの登場に鈴とセシリアが怒り立つ。先日の件もあり二人はラウラに対してあまり良い心象を持っていない。いやまあ俺やシャルルも持っていないが。

 

 

「愚かものが……私は貴様ら有象無象に興味はない、黙っていろ」

 

 

鈴やセシリアを見ずに切り捨てる。その態度に鈴の堪忍袋の緒が切れる。

 

 

「アンタねぇッ!!…――」

 

 

 

「鈴、押さえて………ラウラも、私に用があるんでしょ?なら皆を刺激しないで。それに大切な人を侮辱されたら、私も冷静でいられなくなる」

 

ISを部分展開しようとした鈴を押さえたのは千春だった。

 

フン、と鼻を鳴らしたラウラは千春の目の前まで近づいた。その所作は軍隊の上官が部下の値踏みをするようだった。

 

「千春っ……」

 

「大丈夫だ、一夏。戦りに来たわじゃなさそうだから」

 

ベッドに腰かけたままの千春が俺の言葉を制し、ラウラを見る。

そのラウラは、ニヤリと笑った。

 

「千春・フレイヤ・ブリュッセル。我が『黒ウサギ隊《シュヴァルツェ・ハーゼ》』へ来い。貴様を最上級の歓待を持って迎えよう」

 

相変わらず見下した態度のラウラが、なんか言った。しゅば…なんだって?

 

 

「は?……シュヴァルツェ・ハーゼとはなんなのだ?」

 

 

 

「なんですってっ!?」

 

「ざけんじゃないわよッ!」

 

「ウソ、あの黒ウサギ?…」

 

 

四者一様、ラウラの言葉に驚いていた。

 

シュヴァルツェ・ハーゼ…か。どういう意味だ?。

 

「フン、私は千春・フレイヤ・ブリュッセルに問いている。黙っていろ」

 

鈴やセシリアが騒いだのを一瞥して吐き捨てる。言っている事は正しいが態度が気にくわないと、鈴は殺気を容赦なく放ちながらラウラを睨み付ける。

しかしラウラは涼しい顔でスルーだ。すげぇ、肝が据わってやがる。

 

 

「……私が、ねぇ。……理由を聞いても?」

 

ラウラが待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う。

 

「貴様の操縦技術には特筆すべき所が幾つかあり、その一つは突撃力。二つにISの深い知識による瞬時の状況判断だ。そして一つ目の突撃力は我が部隊に欲しいモノでもあり………―――いや、これも上層部を説得するための後付けだな。……貴様は私と私のシュヴァルツェア・レーゲンに唯一拮抗し、何より私に越界の瞳を使わせた。それが何よりの理由だ」

 

ラウラは眼帯を取り千春を見た。

千春は、頬を掻きながら溜め息をついた。

 

 

「今すぐに答えは出せない」

 

「…………織斑一夏がいるからか?」

 

千春が首を横に振ったのを見ればラウラは怒りを込めた目で俺を睨み付けて来た。

いや、なんでそこで俺を睨むんだ?。

 

 

「……よかろう、学年別トーナメントにて織斑一夏、貴様を完膚無きまでに叩きのめしてやろう」

 

そう言えばラウラは長い銀髪を靡かせ、小気味良い靴音を鳴らしながら保健室を退室していった。

 

 

 

「な、なんか、嵐見たいな人だね、ボーデヴィッヒさんって」

 

 

静まり切った保健室の中、シャルルは暗い空気を無くそうと努力したが、思いっきり外した。ドンマイ、シャルル。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、それにしても予想が外れちゃったわねぇ」

 

アリーナの管制室、そこでキーボードを叩くマリアの姿があった。

その膝の上にはプルプルと泣き出しそうになりたがら耐える山田真耶がいた。時たま真耶の豊満な胸に触れ、真耶の声や反応を楽しみながらタイピングを続ける。

 

 

「元より私より貴様寄りだったじゃないか。『神崩し』に薙刀、戦い方も貴様の戦方を篠ノ之なりにアレンジしていたからな」

 

そんなマリアの変態行動を半ば諦めたように眺める千冬は、後輩の助けを無視しながは管制室の大型モニタに視線を移した。

助けたら魔の手がこちらに延びてくるからだ。流石に後輩の前で恥態は見せられない。まぁ人身御供には山田くんは適している、と自分に言い聞かせながら千冬は砂糖を四杯、ミルクをたっぷり入れた甘々なコーヒーを味わっていた。

 

 

「あら、だから負けて当然だと?意地悪ねぇ、千冬ちゃんは」

 

あひゃぁ!と、山田くんの嬌声が響く。

 

「……私はそう言う意味で言ったわけではないのだがな」

 

「あらそう?……っと、これでお仕舞いよ?。千春さんにしては随分と簡単なプロテクトだったわぁ」

 

マリアが立ち上がり、山田くんがチェアに座る。背もたれに寄りかかる山田くんの息は荒い。

 

「すまんなマリア」

 

「気にしないでいいわ。楽しませて貰ったし」

 

そういってマリアが見たのは山田くんだ。

 

「じゃあまたね千冬ちゃん」

 

 

そう言って軽く手を振ったマリアは管制室を後にした。

 

 

「…………」

 

マリアに解いて貰ったのはブリュッセルが仕掛けたトラップ。

 

戦闘中に止められないように細工したものらしい。

 

「全く、親子ともども問題しか持ってこんな」

 

私は山田くんの肩を軽く叩きながら溜め息をついた。

 

 

ビクンッ!と大きく肩を震わせて山田くんは気絶した。

 

 

「…………少しは自重しろ、親子ともども…」

 

 

私はまた大きな溜め息を漏らすのであった、まる

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな一夏、明日の試合は見に行くからな?」

 

「いや、ダメだろ!?安静にしてなきゃ!」

 

「あ、そっか」

 

 

 

明日も学年別トーナメントがあるから、と千春に促され、俺達は保健室を退室する。

 

 

「ちゃんと静養していてくれよ?」

 

「わかったわかったって、お休み一夏」

 

出る間際、軽く釘を刺すと千春は両手を広げお手上げのポーズを取る。

 

患者着の袖口(半袖)から脇と横乳がッ!!?

 

吹き出そうとする鼻血を押さえいそいそと退出する俺、情けねぇ。

 

 

「何前屈みになってんのよこのバカッ!!」

 

丁度前屈みになった姿勢が箒のスカートを覗き込もうとした体勢なっていたらしく、鈴の声に気づいた時にはもう、への字になって空中に浮いていた。…………つまりはまぁ屈んだ所に、蹴りあげを食らっただけなんだけとね。

 

 

「ぐっ、うぉおっ、……鈴、てめっ、げふぅ」

 

食らっただけと言いながら、身体が浮く程の衝撃だ。正直死にそうなくらいいたい。

膝をついてorzの体勢で見上げようとして、鈴の足で頭を踏まれた。

 

グニグニと痛くない程度に力を込められている。……いるんだが………この体勢だと広げた足のせいでスカートの中の下着丸見えだぞ鈴?。なんてったってあれだ、港で足置いてかっこつける体勢で俺の頭を踏んでんだから。

スカートの端で下着を隠そうとするくらいならやめろよ鈴……

 

 

「そうだぞ鈴!一夏だって健全な青少年なのだぞ?……わ、私の下着くらい盗み見たくなるのは必然と言っただな…」

 

「じゃ、じゃあアンタ、このバカがセシリアのスカートに顔突っ込んでたらどうよ」

 

「滅殺、だな」

 

「物騒すぎるわ!」

踏まれながら最後の抵抗を試みようとする俺。

そうなのだ、俺はかつてセシリアの脚に顔を埋めた事がある。あの時の再現は困るのだ。

 

「何を仰いますか箒さん!一夏さ…ん、は健全な青少年なのですよ!?いくらわたくしの魅力的な脚線美に惹かれ顔を突っ込んだとしても、それを咎めるのはおかと違いなのではありませんこと?しかも一度されてますし!」

 

「な、ななならアンタ、この…バカが箒の胸に顔埋めたらどうなのよ?」

 

顔赤くしてもじもじするくらい恥ずかしいならやめろって鈴!俺もやんわり心が痛いし!。これをご褒美とか言える奴らはすげぇな。…けど俺も千春だったら大丈夫だろうな。

 

あ、このっ、スカートから手離しやがって!

丸見えじゃねぇか鈴!少しは隠せっつの!

俺以外の男子がいたら………あ、ここ女の子しかいなかったっけ。

 

「それはもう……撃滅、ですわ」

 

「笑顔でサラッと怖い事言うなって!」

 

 

いや、一応男子は他にもいたか。

 

…………あれ?

 

 

「シャルルはどこだ?」

 

 

さっきまでは確かにいたんだが…さきに行ったのか?。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり来たかシャルル。一夏達は?」

 

「先に帰ったよ、千春」

 

 

保健室には、立ち上がっていた千春とシャルルがいた。

 

「まぁなんだ、長話になるかもだから……」

 

ニヤニヤと笑いながら千春は、フィンガースナップをする。

 

パチンっ!

 

「お呼びでしょうかお嬢様」

 

 

ドアを引いた音もなく、シャルルの後ろに現れたのは燕尾服を纏った180cmはあるだろう老年の執事。左目にはモノクル(片眼鏡)を付けたその老人は、柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「何か飲み物をお願いできる?」

 

「畏まりました。少々お待ちを」

 

そしてまた、引戸を音を鳴らさずに開け、一礼して閉めた。

 

 

「……今の人は?」

 

「うちの執事の倉木順一郎。父様が小さい頃から私に付けてくれた、物凄く優秀な執事だよ」

 

苦笑しながらベットに腰かけた千春はシャルルにも椅子に座るよう目で促す。

 

「で、何から聞きたい?」

 

シャルルの表情が強張る。やはりバレていたか、と大きく溜め息を漏らす。ニヤニヤしてる理由はこれか、と思い知る。

 

 

「単刀直入に聞くよ千春」

 

「あぁ、いいぜ?。皆がいるときに聞いて来なくて助かったからな、大体の事は話すよ」

 

「ありがとう、千春。……それで、あの紅い『グラデーション』は、ちゃんとエネルギーシールドが発動してるの?」

 

沈黙、今度は千春の表情が強張った。

 

 

「ああ、『紅き痛み《スカーレット・ペイン》』はシールドが張れない仕様になってる。シールドが発動するとエネルギーがすぐ尽きるからな、回避する事を前提にした高機動特化のモードだ」

 

「『紅き痛み』って言うんだ、あれ。『紅き痛み』、多分だけど、あれが本来の『グラデーション』姿だよね?」

 

「……クククッ…良く解るなシャルル。そうだ、『グラデーション』は本来『モード選択』なんてもの、搭載する予定はなかった。モード選択は後々に搭載したシステムだよ」

 

千春は自分が愉快になってるのに気がついた。このまま全て話してしまおうかと思った程に。

 

「『モード選択』が…主軸のISじゃあなかったの!?」

 

「あんなものは『世界』を欺くための隠れ蓑さ。『紅き痛み』は本来、完全な第三世代型なのさ」

 

首につけたチョーカーを軽く突つき、千春は愉快げに笑う。

それに対しシャルルは驚きを通りすぎて唖然としていた。

画期的なシステムをあんなもの、と切り捨てる千春。世界を欺く、とは穏やかではない。

 

 

「『色彩』の本来のシステムは……『思考可動《サイコ・トレース》』。完全なる思考によるISの操縦だ」

 

あーあ、と千春は内心舌打ちした。打ち明ける相手が欲しかったのはわかるが……と。

 

「思考可動?……」

 

「簡単な話しだシャルル。例えば……四肢が潰れようが思考できる脳と、心臓があればISを動かせるって寸法さ。本来ISを動かすには、腕を、脚を動かす事が必要だったろ?補助装置により自分自身の身体のようにISを動かせたが、『思考可動』は自分の身体以上の早さで四肢を動かせる。いや、四肢がなくとも動かせる…………これが『色彩』の第三世代型のイメージインターフェースを用いた特殊兵装、『思考可動』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃあ、千春」

 

「ああ、明日は頑張れよシャルル」

 

あれから話を続け、今は九時過ぎ。もう少しで十時になると言った時間だ。消灯時間は過ぎている。

 

 

軽く手を振りながら見送れば、千春は盛大な溜め息をついてベットに寝転がった。

 

「お嬢様、よろしかったのですか?」

 

ティーセットを片付けていた倉木が、その笑顔を崩さぬまま問う。

 

「大丈夫よ倉木。シャルルは多分言わないし……織斑先生が黙っていてくれれば、外には漏れないわ」

 

寝転がったまま、『保健室』の外で聞いていただろう織斑千冬に意識を向ける。

 

「すまんな。盗み聞きするつもりはなかったのだがな」

 

「そう言うくせにちゃっかり倉木の紅茶は飲んでるくせに…いつからいたんですか?」

 

「ご老人がティーセットを器用に片腕で持ってくるのを見たくらいだな。中々美味しかったな」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

保健室の開いた扉からはカップをもった千冬の腕が見えた。

 

「シャルルが気づかないくらい気配を消してたと思ったら…なんで気配を現したんです?」

 

「いや、おかわりを貰おうと思ってな」

 

 

千冬は持ったティーカップを軽く突きだした。

 

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