「ようやく貴様を滅殺できるというものだ。待っていたぞ、この時を」
「そりゃよかったな。俺も、お前を倒してみたかった!」
学年別トーナメント第二回戦、 ついに俺たちと、ラウラと箒の二人組が戦うことになった。
「一夏、落ち着いてね?」
「わかってるさシャルル。冷静に行けば勝てるんだろ?」
「多分ね」
「1%でも勝てる確立があるなら十分だぜ」
シャルルと俺は横に並び、箒とラウラを見る。
ラウラは左目の眼帯を外していて、箒は薙刀を持っている。
二人とも本気だ。こっちも本気で行くぜ!
《
白式が情報を掲示する。
「行くぞ、一夏!」
箒が薙刀を構え、突撃の姿勢を取る。試合開始と共に切り結ぶらしい。
真っ向からの一騎討ち。悪いがそれには応えてやれない。
試合開始のカウントダウンが三を切った。
二、……一、……!
零ッ!
ガチャンッ…ドンッ!!
試合開始と共にラウラの左肩の大型レール砲が火を吹く。
放つは対IS用特殊徹甲榴弾。
「やらせないよ!」
シャルルが俺の前に出て実体重シールドを展開する。
重シールドに徹甲榴弾が突き刺されば、シャルルはそのシールドを蹴り飛ばしショットガンを展開し爆散させる。
その爆発により生じた爆煙から俺が飛びだし、ラウラに迫る。
「くっ!…私と戦え一夏!」
それに割って入ったのは箒。薙刀を大きく振るい、それを間一髪で防いだ俺は吹き飛ばされる。
「箒っ!」
地面と激突する直前に体勢を整え、俺は雪片を展開する。
箒はそれを見てニヤリと笑い、薙刀を横に構え、脚部スラスターを吹かす。
一瞬で近づいて来た箒は薙刀を振り上げ、それを俺に向け振り下ろす。
《準単一仕様能力、疾風迅雷、発動》
全身から出露した小型スラスターによる高速機動、そしてスライドした装甲から放出された熱量とエネルギー余剰出力が残像を生み出す。
ブォンッ!!
箒が白式を纏った俺の残像切り裂く。
そう、残像を囮にし背後に回り込み切り捨てる『影討ち』だ。
残像が切り裂かれたのと同時に俺は箒の背後から雪片を振り抜いていた。
今では呼び出すのに声を必要としないくらいはやくなった。
「私を甘く見るなよ一夏!」
箒は取り回しの難しい長柄の薙刀を捨て、振り向くと同時に近接ブレードを抜く。
『居合い』だ。その剣速は後から出たに関わらず俺を切り裂いた。
「!?」
俺は上空から迫り箒に向け『零落白夜』を発動した『雪片・千秋』を振り下ろす。
「くぅっ!?」
仕留め損ねた!直撃すればシールドエネルギーを根こそぎ奪い去る『零落白夜』を、箒は紙一重で避けた。いや、避けたと言っても直撃をだ。ダメージは与えエネルギーを半分以上奪っただろう。
今の一撃で切り裂かれた実体シールドを破棄し箒がまた接近する。
「うおおおぉぉッ!!」
全身のスラスターを稼働させ、光速一歩手前の速度で突撃する。『零落白夜』を発動した雪片を突きだして、だ。
キイィィィィンッッ!!
「―――――!!!」
「なっ!?……バカなッ」
弾丸の速度を超越した神速を持っての突き。
それを箒は、受け止めた。
「きゃああぁっ!!?」
真っ向から近接ブレードで受け止めた箒。近接ブレードは砕け、箒も衝撃により吹き飛ばされアリーナのエネルギーシールドに激突したが一夏は戦慄した。
(……冗談だろ、おい。……なんで亜光速を見切れるんだよ!)
避けようとしていたなら一撃を与えられた。それを箒は真っ向から向かえ打ったのだ。完全に見切れるのは千冬だけだろうと思っていた一夏は箒が完全に見切ったのを見て驚嘆よりどこかおかしさを覚えた。
(偶然だ。……絶対に偶然だ)
ともかく箒は武装を一つ失った。シールドエネルギーも切り裂いた。上々の戦果だ。
一夏は意識を箒からラウラに向ける。一歩も動かずシャルルの猛攻を凌いでいる。
「…………」
ラウラが俺に目を向ける。その口元はニヤリとつり上がっていた。
お前も来い、相手をしてやる。と目で語る。
「うおおおぉぉッ!」
『疾風迅雷』と『零落白夜』を解く。今の亜光速での突きを見られただろう。見られた以上すぐには使えない。『停止結界』で止められてしまえば、一撃くらって即エネルギー切れになりかねない。今もエネルギーが640あったのが413まで減っている。
そう何度も使えない。
『瞬時加速』で俺はラウラに接近する。
ガキィィンッ!
ラウラのレーザー手刀と『雪片』が激突する。
◇
「っ……く、調子に乗っていた、という事か…」
アリーナのエネルギーシールドに激突し、壁にもたれ掛かるように倒れていた箒は舌打ちをした。格上の相手である千春と互角の戦いをしたと言う自信がそのまま傲りになったと自認したからだ。私なら一夏に勝てる…と。それがこのザマだ。
「シールドエネルギーは……34、だと?……一撃食らえば終わりではないか」
打鉄のエネルギー総量は500程度だ。それが一気に400以上削られるとは……アリーナに激突したのも大きいだろうが、やはり『零落白夜』だろう。
「だが、まだ動け………!………なんと、動くのもままならんとはな」
箒は思わず苦笑した。打鉄の脚部や腕部装甲からバチバチと電気が弾けていた。
「く……」
よろよろと立ち上がる。ギギギ……、と装甲と装甲が擦れあい不快な音を鳴らす。
武装は今無い。アリーナの中心で転がっている薙刀だけだ。
一歩一歩を踏み、箒はアリーナの中心へ向かう。
まだエネルギー切れによる戦闘不能は起きていない。なればまだ戦うだけだ。箒は奥歯を噛み締めた。
◇
「待たせた、シャルル!」
「一夏!篠ノ之さんは?」
「とりあえず戦えそうにはない!」
放たれたワイヤーブレードを弾きながらアサルトライフルを打ち続けるシャルルに近づく。
「そっか!流石一夏だね!」
「『疾風迅雷』を使って無理矢理終わらせただけだ!褒めらるような終わらせかたじゃねえぇさ!褒めても何も出ないぜ!?」
六基のワイヤーブレードの猛攻を掻い潜り、もう一度接近したいのだが………。
ドンッ!!
「あぶねっ!」
接近しようとすると左肩のレール砲から徹甲榴弾が放たれるのだ。
そしてまたワイヤーブレードに動きを封じられる。
「ちっ、連続で使うまいって決めておいて…これしか手がないなんてなっ!」
ワイヤーブレードを一基切り裂いて距離を取る。大型レール砲が俺を捉えるより早く、俺は雪片を構え、発動する。
「疾風、――迅雷っ!!」
全身の装甲がスライドし、小型スラスターが出露する。
「ふん、……来い!」
ラウラは金色の左目を見開いてレール砲から徹甲榴弾を撃ち放った。
◇
「千春!?大丈夫なの?」
「大丈夫、許可も得て出てきたから安心して」
アリーナの観客席、空いていた鈴の横の席に千春が現れ座った。
腕に巻かれた包帯を見ながら心配そうな目で自分を見る鈴に、千春は嬉しく思った。
「状況は?」
「篠ノ之さんがほぼ戦闘不能ですわ」
「一夏にやられたの?」
「開幕直後に、ね。戦闘ログ撮ってあるけど見る?」
「ありがとう鈴。見せて貰うわ」
鈴が差し出した携帯端末からデータを受信。リアルタイムで更新されて行く動画を再生する。
「へぇ…二段構えの『影打ち』か…。…!?………」
千春の表情が曇る。携帯端末に写るのは一夏の神速の突きを箒が迎え撃った場面だ。
ピ、ピピ…
ピ、ピピ…ピ、ピピ………ピ、ピピ
巻き戻しては再生し、巻き戻しては再生し…………なにかを確認するかのようにその動作を繰り返す。
「千春さん?」
セシリアの声も聞こえないくらいの集中力で、千春はその動作を繰り返す。―――――――そして。
「何を…『視ていた』んだ…箒」
信じられない物を見たような表情で、千春は視線をアリーナへ向ける。そこでは、激戦が繰り広げられていた。
◇
「こんのおおぉぉぉッッ!!」
五基のワイヤー全てが俺を目掛け飛来する。その機動は三次元的だ。
徹甲榴弾を切り裂いて突撃した俺を待っていたのは網のように絡めとるワイヤーだった。
「なんで…捉えきれてんだよォッ!」
『疾風迅雷』を発動しているというのに、ラウラは分身に惑わされず的確に俺を狙ってきていた。
「一夏!…うわぁっ!」
シャルルが援護に入ろうとしたが、ラウラの徹甲榴弾を喰らい吹き飛ばされる。
「シャルル!!…のわぁっ!?」
肩を掠めたワイヤーブレードを切り裂いて、俺は飛翔した。
ガチャン、ドンッ!!
距離が離れた途端にワイヤーブレードを納め、ラウラは大型レール砲を用いての砲撃戦に変えてきた。
「行くぜ白式ぃッ!!」
『零落白夜』を発動し、俺は地表へ向け加速した。
ラウラが俺に向け右腕を突きだした。………――――来る!。
◇
「AIC?……なんだそりゃ」
鈴とセシリアからラウラと戦った後に聞いた話だ。
「シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器よ。アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略。慣性停止能力のことよ」
「ふーん」
「ちなみに一夏さん、PICはご存じですわよね?」
「……知らん」
「―――…はぁっ!?バカじゃないのアンタ!ISの基本でしょうが、基本!!全てのISはこのパッシブ・イナーシャル・キャンセラーによって浮遊、加速、停止、そして同時に空力制御を行ってんのよ。これがないとアンタ、身体が潰れんのよ?」
「あ、どっかで聞いた事あったと思ったらそれなのか」
「アンタねぇ……」
「はいはい、漫才はそこまでにして、対策を考えますわよ。……正直、わたくしも実物を見るのは初めてでしたが、あそこまでの完成度を誇っているとは思っても見ませんでした」
「あー、確かに、あたしも同意見だわ。あそこまで衝撃砲と相性が悪いとはね………」
「ところでよ、理屈としては衝撃砲とおんなじなのか?エネルギーで空間に作用を与えるっていう……」
「ああ、そうね。大体同じだと思うわ。厳密には違うんでしょうけど、空間圧作用兵器と似たようなエネルギーで制御してるはずよ」
「じゃあよ、アレも斬れるのか?」
「出た、切り裂き魔発言」
「うるせぇな!じゃあどうしろってんだよ!」
「それを考えるのがアンタの役目でしょうが!」
「……ごもっとも」
結局、その時は確実な手段で慣性停止能力を破る方法は思い付かなかった。
しかし、千春が気づかせてくれた。
◇
「うおおおぉぉッッ!!」
亜光速での突撃だ。刹那を超越した一瞬の速さ。
しかしそれはラウラの眼前で、見えない鎖に絡め取られ止まってしまった。
やはり、AICを切り裂くことはできなかった。
「貰ったぞ、織斑一夏…」
右腕を突き出したラウラの口元が愉悦に歪む。
徹甲弾を大型レール砲に装填し、それで俺を撃つつもりだろう。いや、この状況でそれ以外があるなら知りたいぜ。
勝ち誇ったラウラを見て、俺はクス、と笑ってしまった。
「何がおかしい?……気でもふれたか?」
「ひでぇ言い様だなおい!……つかラウラ、お前気づいてないんだな?」
愉悦の表情をしていたラウラに苛立ちが見えた。
「なんだと?……」
「だってそうだろ?……お前、『後ろにシャルルがいるのに』気づいてないじゃないか」
「何!?……ぐぁっ!?」
ラウラが振り向くよりも早く、シャルルが放った弾丸がラウラに襲い掛かる。
ガガガガガッ!
シールドエネルギーが消費され、なおかつラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに衝撃が走る。そこで………不可視の楔がほどかれた!
「お待たせ、一夏!」
「シャルル!この勝負、勝てるぞ!」
そう、今ので確信した。AICには致命的な弱点がある。それは『停止させる対象物に意識を集中させていないと効果を維持できない』だ。
千春戦で、折れたブレードがAICを発動していたラウラの視界に入った途端にAICが切れたのはこれが理由だ。
シャルルの攻撃がラウラの集中力を奪い、俺は解放された。
「この……死に損ないがぁッッ!!」
ラウラの咆哮とともに、シュヴァルツェア・レーゲンの大型レール砲がシャルルを捉え、轟音と共に徹甲弾が放たれた。
「やらせるかよ!!」
シャルルの前に仁王立ちした俺は雪片で徹甲弾を叩き切った。
ドオォォンッ!!
両断した徹甲弾が爆発し、俺とシャルルが爆煙に包まれた。
静寂は一瞬、煙幕の中からシャルルが飛び出す。
飛翔しながらシャルルはアサルトライフルをラウラへ向け放つ。
ガガガガガッ…
銃撃が止んだと思ったら、持っていたアサルトライフルが、一瞬にしてスナイパーライフルへと姿を変えていた。
高等技能『ラピット・スイッチ』。武装の量子化、収納、違う武器の展開、の三つのプロセスを、一瞬にしてこなすという離れ業。
シャルルが持つ技能だ。
「く!…しかしこの距離ならば我が停止結界で……――!?」
左腕を振り上げたラウラは、この時間違えを犯した事に気づいた。
爆煙の中からこちらへ迫る純白の機体。
『白式』が、腕を振り上げた懐へ潜り込んで来たのだ。
……しかし、まだ終わりではない。ラファールをAICで止められずとも、この憎き織斑一夏を仕留めることは容易。もうこいつに多くのエネルギーは残っていまい。一撃加えれば充分だ!右腕のレーザー手刀で終わらせる!…―――。
ラウラはレーザー手刀を展開した腕を突き出した。
ダンッ!…――――。
カランッ…カランカラン………
鳴ったのは銃撃の音と、落ちた薬莢の音。
「忘れたの?それとも知らなかったのかな?……僕たちは――二人組なんだよ?」
スナイパーライフルから放たれた弾丸はシュヴァルツェア・レーゲンの腕を弾くには充分な威力を有し、一夏もまた、『零落白夜』を発動するエネルギーは無いが、エネルギーを使用せずに大打撃を与える武装を『今この時』有していた。
それは純白の装甲に不釣り合いな緋色の大楯。まるで、
カシュッ…――
軽い、空気が抜けるような音とともに
その大楯から覗いたのは、リボルバーと杭が融合ような形の武器。
単純な威力ならば現行IS武装最強と謳われる………巨大釘打ち機《パイルバンカー》。
六九口径パイルバンカー『灰色の鱗殻《グレー・スケール》』。通称、
「喰らえ!『盾殺し《シールド・ピアース》』!!」
一夏は引いた腕を勢いを付けて突きだし、パイルバンカーの銃剣をシュヴァルツェア・レーゲンへと突き立てた!
「一夏の言う通り、僕たちの勝ちだね」
シャルルはニコリと笑った。それは天使のような美しい笑顔でありながら、絶望を届ける死神の笑みのようでもあった。