IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 36 『忌むべき力』

ズガンッ!!!

 

 

「ぐうぅっ!?…」

 

ラウラの腹部に、パイルバンカーの一撃が叩き込まれる。ISのシールドエネルギーが集中して絶対防御を発動して防ぐものの、そのエネルギー残量をごっそりと奪われる。しかも相殺しきれなかった衝撃がラウラの身体を深く貫いた。ラウラの表情は苦悶に歪んでいた。

 

 

「これは……セシリアの分!」

 

だがしかし、これで終わりではない。《灰色の鱗殻》はリボルバー機構により、高速で次弾炸薬を装填する。―――つまり、連射が可能なのだ。

 

ズガンッ!

 

「これは鈴のッ!」

 

ズガンッ!!

 

「これはシャルルの分!」

 

続けざまに三発を撃ち込まれ、ラウラの身体が大きく傾く。その機体、シュヴァルツェア・レーゲンにも紫電が走る。

 

「後の三つは……!」

 

ズガンッズガンッズガンッッ!!!

 

「千春の分だああああぁッッ!!!!」

 

 

パイルバンカーの連続射撃。その全てを喰らったラウラはアリーナの壁に叩きつけられた。

 

計六発、パイルバンカーの全弾を撃ち尽くした一夏は、パイルバンカーのシリンダーを出し、薬莢を排出した。

 

 

カランカランカランッ………―――。

 

 

静まり返ったアリーナに、排莢されたカートの音が響く。

 

 

「俺の分は………まあなんだ、次回にでも貰うさ」

 

 

 

途端に割れるような歓声がアリーナに響き渡る。その歓声の中、壁に激突したまま動かぬラウラを一瞥し、一夏は言い放った。

 

 

 

 

突如アラームが鳴り響く。それは勝利を報せる音ではなく、『緊急事態』を報せる警告音だった。

 

 

 

 

 

 

「何……あれ…」

 

 

アリーナ内で起こっている現象を目の当たりにして、鈴が呟いた。

 

それは観客席にいる多くの生徒の代弁をしたであろう。

 

「!…――――なんつーもんを…」

 

勢いよく立ち上がった千春が苦虫を噛み潰したような表情で呻く。

 

「千春さんは、あれが何か知ってますの?」

 

千春の言葉に反応し、セシリアが鋭い目で千春に問う。しかし、それを制し千春がセシリアに手を伸ばす。

 

 

「武器を貸して、セシリア!」

 

その切羽詰まった顔を見て、鈴とセシリアは追求できなかった。

 

 

 

 

 

 

《Valkyrie Trace System 》…………………boot,

 

 

 

 

 

 

「あ、っあああああっ!!!」

 

 

 

ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。と同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれた。

 

 

「なっ!……一体なんだ!?……――!!」

 

「一夏!…――え…?」

 

俺もシャルルも目を疑った。その視線の先では、ラウラが……いや、そのISが変形していた。

 

いいや、変形なんて生易しいものではない。装甲を型どっていた線はずべてぐにゃりと溶け、どろどろのものになって、ラウラの全身を包み込んでいく。

黒を越えた黒、深い闇がラウラを蝕んでいく。

 

 

シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むと、その表面を流動させながらまるで心臓の鼓動のように脈動を繰り返す。

 

途端、脈動が収まると、倍速再生を見ているかのようにいきなり高速で全身を変化、成形させていく。

 

泥のようなものは人形の……いや、黒い全身装甲《フルスキン》のISに似た『何か』になった。

 

あれは………あれは!!?

 

 

 

「千冬姉の……『暮桜』!?」

 

 

かつてモンド・グロッソで活躍した名機。千冬姉のためのワンオフ機。

その形状に酷似していた。暮桜は赤を基調とした機体だ。

 

そしてその手に握るは『雪片壱式(いちしき)

 

暮桜のための…『零落白夜』を運用するために開発された初代雪片。

 

俺は無意識の内に『雪片・千秋』を握っていた。

 

 

刹那、黒い暮桜が俺の懐に飛び込んでくる。居合いに見立てた刀を中腰に構え、必中の間合いから放たれる必殺の一閃。それは紛れもなく篠ノ之流古武術の技、千冬姉が得意とする技だ。

 

雪片を構えようとした腕が上に弾かれる。万歳をしたような姿になってしまった。そして敵はそのまま上段の構えへと移る。これは―――まずい!!

 

「!」

 

縦一閃、落とすような太刀筋の斬撃が俺に襲い掛かる。もちろん腕を引き、刀で受けるなんてことは出来ない。それはもう間に合わない。

 

 

「一夏ぁ!」

 

「!…箒!?」

 

 

振り下ろされた白刃の刃を防いだのは、損傷の激しい『打鉄』を纏った箒だった。

薙刀の刃の部分で斬撃を防いだのだ。

 

黒い暮桜は防がれるとすぐに距離を取り、また居合いの構えを取る。

 

しかし、その姿勢はさっきとは違うものだった。前傾姿勢のまま『瞬時加速』をした暮桜は、突きだされた薙刀の刃を、柄を、真っ向から真っ二つにしながら進む。

 

「きゃああぁっ!?」

 

「箒ぃっ!!」

 

咄嗟に薙刀から手を話した箒に、刃を振り抜いた暮桜。

 

『零落白夜』を纏った雪片の斬撃を受け『打鉄』が吹き飛ぶ。装甲がバラバラになりながら地面を転がった箒は苦痛に叫んだ。

 

箒に意識を向けている暇はない。暮桜が今まさに眼前へと迫ってきているからだ。

 

 

 

斬!…――――

 

 

 

「ぐぅっ!?…」

 

 

来るとわかっていたから、かすり傷で済んだ。

 

暮桜の放った剣撃を身をよじり無理矢理避けようとして、左肩を少し切られた。

 

しかし、エネルギーが底をついてしまった白式は光とともに俺の全身から消えた。

 

 

「…………がどうした…」

 

だが、今の俺にはどうでもよかった。

 

「それがどうしたあああっ!!」

 

 

 

 

 

てめぇ、よくも逃げやがったな!?俺と戦ってるのはてめぇだ!、偽者の千冬姉じゃねぇ!!

それなのに逃げやがったんだ!んなの許せるかよ!!

 

 

 

 

白式は呼応しない。限界までエネルギーを使い尽くし休止している。

 

黒い暮桜が雪片を振り上げる。

 

ISすら纏っていない今の俺は死ぬだろう。しかし、俺は目を逸らさなかった。

 

「一夏!何やってるの!?逃げて!」

 

シャルルが『瞬時加速』を使って急速に接近してくるが間に合わない。

銃弾はISの真下にいる俺に当たるかもしれない、と撃てないようだ。

 

雪片の刃が俺を捉える。

 

一拍おいて、雪片が振り下ろされた。

 

 

ガチャッ、バシュッ…―――!。

 

 

 

突如放たれたレーザーを、黒い暮桜は紙一重で避け俺から離れていった。

 

今のレーザーは……ブルー・ティアーズの『スターライトmkⅢ』!?。俺はレーザーが放たれた方向を見る。

 

 

「待たせたな一夏。……助けに来たぜ?」

 

セシリアのように『スターライトmkⅢ』を構えた千春が俺にウインクをした。

 

今の絶対俺にウインクしたから!…はぁ!?ぜってー俺だし!

 

 

 

「偽物とはいえ、織斑先生が相手か…たく、面倒なことこの上ないな…」

 

 

首をコキコキと鳴らしながら『スターライトmkⅢ』を構え治した千春は、『色彩《グラデーション》』を青い装甲から黄色の装甲へと変更した。昨日ラウラにもぎ取られたその翼は、パーツが余っていたのか新しい翼が付いていた。

 

 

「けど……退けないんだよね!」

 

千春はライフルモードからマシンガンモードへ変え、レーザーを乱射しながら暮桜へ突撃する。

 

暮桜が刃を下段に構え飛翔する。

 

 

 

「ちくしょう………俺に力があれば…!」

 

 

右腕に待機状態である白式を見ながら俺は舌打ちをする。

 

怪我人の千春に戦わせるなんて俺は何をやってんだよ!女の子に守られるだけなんてのは嫌だ……守る男でいたいんだよ、俺は!。特に、千春は!!!

 

 

 

「ぐぅ!?…このっ、バケモンかよ、強すぎ――…きゃあぁっ!!?」

 

 

『空中戦』を繰り広げていた千春が押され始め、今では完全に劣勢。

『スターライトmkⅢ』を叩き切られ蹴り飛ばされる。

 

 

 

「ちぃっ…くやしいが、任せる…しかないか…。箒!、箒!!」

 

 

逃げに徹した千春が箒を呼ぶ。

 

 

「千春?……何故お前が…?」

 

気絶していたのか、空を見上げた箒が問う

 

「怪我はない!?、まだ戦える!?」

 

箒の質問を制し千春が言葉を続ける。気遣ってられない、焦りが感じられる。

 

「私は無事だ!しかし…『打鉄』が…」

 

「これがある!」

 

千春は『瞬時加速』を使い地面へと加速する。

 

 

ガガガガガガガガッ!!

 

地面に激突する瞬間姿勢を起こし、土埃を上げ地面を滑りながら着地した。

 

「早く乗って、箒!」

 

滑りながらも『グラデーション』から降りた千春が前転して受け身を取り、箒を促す。

 

 

「千春!?……く、私ではもて余すぞ!?」

 

「箒のデータを入れといた!後は戦いながらデータを更新して!」

 

「私はお前のように器用ではない!自分でも嫌になるがな!」

 

千春の行動に箒が文句を言いながらも、目の前でズシャァ…!と音を立てて止まったグラデーションに乗り込む。

 

グラデーションが起動し、灰色の装甲が黄色に染まり、手に近接ブレードを持つ。

 

「頼んだ!」

 

「応!」

 

『グラデーション』を纏った箒が千春に向け飛来した暮桜を迎え打つ!

 

 

「箒!……くそっ…俺は何も出来ずに…見てるしかねぇのかよ!」

 

箒は戦っている。なのに俺は拳を握るだけしか出来ない。

 

「白式のエネルギーがあれば…っ!」

 

歯を噛み締めガントレットを見る。当然、白式は全く反応しない。

 

 

「一夏!速く逃げるぞ!」

 

千春が息を切らし駆け寄って来た。

 

「……ダメだ。俺は……逃げたくない」

 

「は?……一夏、ISが動かない以上、攻撃を食らえば死ぬんだぞ?」

 

「わかってる。……だけど、俺は逃げたくない。ラウラの奴を一発殴らないと気が済まない」

 

千春の言葉を真っ向から拒否する。千春は俺が好きな女の子だ。だがしかし、その好きな女の子の言葉とて聞けない時がある。

 

これは俺のプライドの問題だから。

 

「アイツは俺の数少ない逆鱗に触れた。許せねぇ」

 

ちなみに俺の幾つかある逆鱗の中で最上位に当たるのは、『千春をナンパした』だ。

 

いやらしい事とか口走りながらナンパした際には全力でボコボコにする。

 

 

「…………はぁ、…まあ一夏が望むなら応えるさ。急ごう、箒を待たせちゃ悪い」

 

「僕のリヴァイブだね?」

 

「ああ、シャルルのリヴァイブならエネルギーバイパスを通して白式にエネルギーを渡すことも可能だ」

 

 

 

「本当か!?だったら頼む!早速やってくれ!」

 

「けど!」

 

シャルルが俺にびしっと指を指して言う。

珍しくその言葉は強く、有無を言わせぬものだった。

 

「けど、約束して。絶対に無茶しないって」

 

「善処、……します」

 

なんかダメな政治家みたいだな。

 

「ダーメ!無茶したら明日から一週間一夏は女の子の制服で通ってね?」

 

「え゛っ、いやそれは……ああ、もういい!とりあえず頼むシャルル!」

 

恥を忍んで頼む。多分絶対無茶をしそうだから。

 

「じゃあ、はじめるよ。……リヴァイブのコア・バイパスを開放。エネルギー流出を許可。――――…一夏、白式のモードを一極限定にして。それで零落白夜が使えるようになるはずだから」

 

「おう、わかった」

 

リヴァイブから伸びたケーブルは籠手状態の白式にと繋がれ、そこにエネルギーが流れ込んでくる。ふつふつと沸き上がる力の奔流。それを感じながら、俺は不思議な感覚を受け止めていた。

 

 

 

(これは…あの時、初めて動かした時と同じ感じだ…)

 

まるでずっと昔から知っているような、不思議な一体感と懐かしさ。そして新生する世界を垣間見たような悟りの境地。

 

 

「…………」

 

これがなんなのか、とりあえずそれは今はいい。

それよりも目の前の事だ。

 

「もう少しだからね、一夏」

 

「わかってる。頼むぜシャルル」

 

両目を閉じ、呼吸を整える。肩の傷の痛みが和らいだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィンッ!!……――。

 

これを持って十七合、黒いISと剣撃をぶつけあった。

 

 

 

―届かない。このままでは届かない―

 

 

千冬さんの偽者はとてつもなく強かった。迫力や何かはないが、やはり太刀筋は千冬そのものだった。

 

 

―届かない。こんな力じゃ届かない―

 

 

 

かつては早すぎると思った『グラデーション』の反応速度が遅く感じるのだ。

 

白兵戦特化の『黄色の閃光《イエロー・ライトニング》』でさえ、今の私の反応速度に付いて来れない。

 

私は確信していた。

 

私は強くなった。強くなったのだ。

 

私に専用機があれば、今では千春すら凌駕出来ると自負している。

 

 

そう、専用機が欲しい。そして、一夏の力に……いや、一夏に頼られたい。

 

 

だから私は……―――千冬さんの偽者を倒す為に……これ以上の力を欲した。

 

 

 

「千春っ!!」

 

 

千春が見上げ私を見たのを確認し、私は飛翔する。

 

「あの紅い装甲色っ――ッ、私が乗っていて使えるかっ!!?」

 

 

飛来する黒いISの剣撃を回避しながら私は叫んだ。

 

 

 

「!?……」

 

千春の表情が強ばったのを俺は見た。

 

「千春!箒には「紅き痛み《スカーレットペイン》」はっ……――」

 

「わかってる。けど、そうでもしないと箒がやられる。それに箒なら使えると踏んで、準備は出来てる。……箒!私に続けて!……「code of 」!」

 

シャルルの言葉を首肯で答え、千春は声を張り上げて叫んだ。

 

「わかった!……「code of 」!!」

 

箒が千春に続き、『グラデーション』のシステムが作動する。

 

投影型ウィンドウが箒の視界の隅に現れ、何かの言葉を待つ。

 

 

「…………っ、…『紅き痛み《スカーレットペイン》』だ!!」

 

一度躊躇し、しかし見上げたまま、千春は続けた。

 

「くっ!……行くぞ、モード選択、『紅き痛み《スカーレットペイン》』!!」

 

鋭い剣撃を紙一重で避け、距離を取って箒は唱える。

 

刹那、黄色の装甲が血を吸ったように紅く染め上がる。

 

 

 

 

 

「ぐぅっ!?……」

 

突如流れ込んで来た、膨大な量の情報の奔流を処理しきれず、頭に走る痛みに呻く。

 

 

(これが…『グラデーション』の本来の……)

 

その情報の中で、私は千春や『グラデーション』の起源に触れた。

 

これは千春のための兵器だ。千春でなくては本来の力を出しきれない。

 

そう『身体がぐちゃぐちゃになっても直ぐに再生するような身体』でなくてはこの機体は扱えない。

 

 

わかったのだ。本来セシリアや鈴達代表候補生に届かない千春が、何故ラウラと戦って互角に渡り合ったのか…………それは、痛みを

恐れず、むしろ痛みを力に変えたから。

 

常人では耐えられないような加速、停止。そしてどうやらPICの一部も稼働してない。これでは襲いかかるGで身体が潰れてしまう。

 

しかし千春ならば身体が潰れてもすぐに再生できる。

 

「……見える!」

 

黒いISの剣撃を、先手を打って制する。黒いISが打ち込む前に打ち込み、やがて攻防が逆転する。

 

「これが『紅き痛み』!……これならば…」

 

私は黒いISに一撃叩き込み、距離を取る。刀身で防がれたが、威力を込めた一撃なため、一瞬の隙を作ることが出来た。

 

 

「完全な形で鬼札を切れる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「完了、リヴァイブのエネルギーは残量全部渡したよ」

 

その言葉通り、シャルルの身体からリヴァイブが光の粒子となって消える。

 

それに合わせ白式は再度俺の体に一極限定モードで再構成を始めた。

 

「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」

 

「ちくしょう、せめて空へ上がれなきゃ………」

 

俺が舌打ちをして空を見上げたとき、俺の視界に影が落ちた。

 

「だったら、私が空まで運んで上げるわよ?」

 

フフン、と鼻を鳴らしてどこか偉そうに言ったそれは、俺に手を差しのべた。

 

「ほら一夏、さっさと乗りなさいよ!」

 

それは、まだ完全に治りきっていない第三世代型IS『甲龍《シェンロン》』を纏った鈴だった。

 

「鈴!?大丈夫なの?」

 

「損傷レベルはBまで下がったわ。それに黙って見てるなんて、あたしも、あいつも嫌なのよ」

 

千春の言葉にニカッ、と笑って答えた鈴。俺は鈴の腕に乗り、雪片を握りしめた。

 

「頼む!」

 

「任せなさい!!」

 

高速で飛翔する『甲龍』。俺は振り下ろされないように掴まる。

 

見上げた先では剣撃を繰り出し合う箒と黒い暮桜が見える。

 

 

 

 

 

 

ヒュンヒュンッ…――バシュッ!

 

高速で飛び交うそれは、箒が作り出した隙を正確に狙い、暮桜に標準を合わせレーザーを放った。

 

「これは!?……オルコットか!」

 

「援護しますわ!箒さんは一夏さんのために突破口を開いて下さいます?」

 

四基の青いビット、『ブルー・ティアーズ』が暮桜へ向け迫る。

 

放たれたレーザー全てを糸も容易く避けていく暮桜。流石は千冬さんの動きだ。

 

「関心してる場合ではなかったな」

 

見れば鈴の腕に乗り、一夏が空まで上がって来た。その手には雪片……零落白夜を当てるつもりか!

 

「突破口…か。その任、任された!」

 

襲いくるGに軋む身体を無視し、箒は近接ブレードを上段に構え、暮桜へ向け『瞬時加速』を仕掛けた。

 

ギィィィンッ!!

 

加速によるGが容赦なく襲いかかる。しかし、奥歯を噛み締めそれに耐える。

 

暮桜が雪片を上段に構え、直進する箒に向け振り下ろす。

『瞬時加速』中の箒は避けられない……―――。

 

 

 

 

 

 

 

一閃。

 

例えそれが偽物だったとしても、千冬の剣技を持つそれは、最強の剣技を持つに等しい。

 

振り下ろしただけ?馬鹿言え、踏み込みと同時に放たれる振り下ろしは刹那を凌駕する速度で振り下ろされる。

 

瞬間的な速度なら、『疾風迅雷』と互角だ。

 

そんな一撃を、箒は『瞬時加速』中でありながら真横に向け『瞬時加速』を使う事により回避した。

 

 

『多方向個別近距離瞬時加速《マルチトリガー・ショートイグニッション・ブースト》』だ。

 

白式と同じく二基のスラスターウィングを持つ『グラデーション』なればの回避技。

 

しかし箒は回避しただけでは終わらなかった。

 

 

「はああああぁぁッッ!!」

 

片翼での『瞬時加速』で真横に回避し、剣撃を避けた箒。しかし箒は、さらにもう片翼のスラスターウィングで体勢を整え、脚部スラスターで瞬時加速を使った。

 

イメージとしては反復横とび。横に飛び直ぐ様元の基点へ戻る。そんな感じの動き。

視界から消えたと思ったら真横から奇襲されると言った感じだ。

 

がしかし、簡単に言ったがこれはもの凄く難しい。俺が考えた多方向個別近距離瞬時加速《マルチトリガー・ショートイグニッション・ブースト》は一方通行だ。真横に避けるだけ。近距離で使えば追撃が難しい。

 

千春もかつて俺に使ったが、実はあれ小威力の加速(ブースト)での擬似的な再現だったのだ。

千春曰く、

 

 

「一朝一夕じゃ流石に無理だって」

 

 

とのこと。いや、擬似的にでも再現するのはどうよ………。

 

 

箒が使ったのは全力の『瞬時加速』だ。

あれが俺の『多方向個別近距離瞬時加速《マルチトリガー・ショートイグニッション・ブースト》』を近接戦に用いた際の完成形。

 

 

「これが……『瞬時加速・了の型』だッ!」

 

近接ブレードを振り抜き、暮桜の両腕を切り裂いた箒が叫ぶ。

たしかに、『了』の文字そのまんまの機動だが………なんつーか、必殺技みたいな感じだなおい。

 

 

切り裂かれた腕が一拍置いて再生しようと蠢く。

 

 

逃すかよ、箒が切り開いてくれた突破口を!。

 

 

「今よ、一夏!」

 

「零落ッ…――」

 

手に持った雪片が青い刀身を展開する。

 

俺は鈴の腕から跳び、黒い暮桜へと飛び掛かる。

 

 

「びゃくやあああぁぁぁッッ!!」

 

咆哮に呼応するように雪片の刀身が煌めいた!。

 

ブゥン…――

 

スバァッ!!!

 

 

黒い装甲を切り裂いて、そこから見えたラウラの腕を、エネルギーが切れて一極限定モードすら出来ずに装甲が消えた右手で掴む。

 

「来い!ラウラッ!」

 

エネルギーを消滅させられ、崩れゆく黒いIS。そこから伸ばされたラウラの腕を引っ張り上げる。

 

 

 

グボッ!……

 

 

不快な音を立てラウラから離れた黒い塊。それは重力に引かれアリーナの地面に激突した。

 

 

「ふぅ、助かったぜ箒」

 

「気にするな一夏」

 

ラウラを抱えたまま落ちるかと思われた俺は箒が纏う『グラデーション』が伸ばした腕に足を着けていた。あれだ、鷹とかを腕に乗せるような感じだ。

 

 

「にしても………」

 

抱えたラウラの寝顔………気絶してるのは寝顔なのか?。いやまぁいい。ラウラの寝顔を見て俺は小さく溜め息をついた。

 

 

「ムカついて、一発殴らなきゃとか思ったんだけどな………こんな顔見せられたら、んなことできねぇよ」

 

子供のような、安心しきった表情で眠るラウラは、年相応の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぁ………」

 

ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ラウラは目を覚ました。

 

「気が付いたか」

 

その声には聞き覚えがある。聞き覚えがある―――どころではない。どこで聞こうと一瞬で判断できる、自らが敬愛してやまない教官こと織斑千冬だ。

 

「私は……――っ!?」

 

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と軽度の打撲、それにこれも軽度だが骨への多少のダメージがある。しばらくは自由に動けないだろう、無理はするな」

 

起き上がろうとして痛みに顔を歪めたラウラ。千冬はそれとなくはぐらかしたつもりだったが、そこは流石にかつての教え子。簡単に誘導されてはくれなかった。

 

「何が……起きたのですか…?」

 

痛みを堪えながら無理して上半身を起こしたラウラ。眼帯が外されていた左目が千冬を見つめていた。

 

 

「……ふぅ、一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」

 

しかし、そう言って引き下がる相手でない事もわかっている。

 

千冬はここだけの話であるのとを沈黙で伝えると、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「VTシステムを知っているな?」

 

「はい……。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム……。過去のモンド・グロッソの各部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは……」

 

「そう、IS条約で二年前に追加され、現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用全てが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

 

「…………」

 

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志……いや願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

千冬の言葉を聞きながら、ラウラはぎゅぅっ、とシーツを握りしめた。その視線はいつの間にか俯き、眼下の虚空をさまよっていた。

 

あの時…多分取り込まれ意識をなくす直前に何者かから問われた言葉を思い出す。

 

力が欲しいか?……と。己の確変を、より強き力を望むか?と。

 

 

「私が……望んだからなのですね……貴女に、なりたいと」

 

ポロポロと瞳から熱い何かが零れ出した。

それが涙だとわかったのは千冬がラウラの頭を優しく撫でた時だった。

 

 

「きょう…かん?」

 

「人は誰しも、何かに憧れる。それを悪い事だと誰が言えようか。しかしなラウラ、憧れるだけではダメだ。『お前自身』を忘れては本末転倒だ」

 

ポンポンと頭を軽く叩き、千冬はベッドの横に置いてあった椅子から立ち上がった。

 

「『お前』は誰だ?と問われた時、貴様はどう答える」

 

「え、わ、私は…………ラウラ・ボーデヴィッヒ…と」

 

「その通りだ小娘。貴様は貴様の道で、私の元までたどり着いて見せろ。他者の真似などと言う安易な方法で生きようとするな」

 

そこで千冬はどこか自嘲と諦めを含んだ笑みを見せた。

 

「でないと…やつ……一夏が怒鳴り込んでくるぞ?」

 

 

ドキッ、とした。

 

「き、教官!」

 

保健室を後にしようとした千冬をラウラが止める。千冬は背を向けたまま言葉を待った。

 

「あ、ああああいつにっ、織斑一夏に、……すまなかった…と伝えていただけますか?」

 

何故か赤くなる顔と、動悸が激しくなる胸を押さえながらラウラは言った。

 

「馬鹿者、己で伝えんか」

 

「そっ、そんな!教官!」

 

 

ガラガラと音を立てて閉じられた扉にラウラの悲痛な叫びが飛ぶ。

 

 

 

 

「馬鹿者が……また落としたか」

 

千冬は溜め息をつきながら保健室を後にした。

 

 

 

 

 

トーナメントは事故により中止となりました

 

 

と言うのが学園側の発表だった。

 

「シャルルの予想通りになったわね」

 

鈴が醤油ラーメンをずるずると啜る。

 

「まぁある程度予想出来ますしね」

 

セシリアがパスタをちゅるっ、と食べる。

 

「そうだねぇ。あ、一夏、七味取ってくれる?」

 

シャルルがうどんの上の油揚げをスープに浸しながら視線の先の七味を欲する。

 

「はいよ」

 

「ありがと一夏」

 

 

当事者達がこんなにのんびりとしていていいのか、とどこからか批判が来そうだが、ついさっきまで教師陣から事情聴取されていたのだ。これくらいはゆるしてくれ(ちなみに千春は面倒だからと言ってバックレていた)

 

「いやしかし、まさかVTシステムと互角にやりあうだなんてな。箒ってばやっぱ才能あるよ」

 

醤油ラーメンと餃子と炒飯と言った、中華料理屋フルコースをペロリと食べながら千春は箒に視線を向ける。

 

 

「VTシステム?」

 

聞きなれない単語を聞き、箒だけでなく皆の頭にクエッションマークが浮かび上がる。俺も然り。

 

 

「簡単に言えばヴァルキリークラスの人間の動きをトレースするシステムだよ。あれは第一回モンド・グロッソの動きだな、箒の『瞬時加速・了の型(イグニッション・ドライブ)』に反応できなかったし」

 

「え?なんで反応出来ないと第一回ってわかるの?」

 

スープを飲んでいた鈴が首を傾げる。

 

たしかに、なんでそんだけでわかるんだ?

 

「いや、多方向個別近距離瞬時加速《マルチトリガー・ショートイグニッション・ブースト》なんだが………あれ実はお母さんが先にやっててさ。第一回モンド・グロッソの準決勝、その時に千冬さんが初めて見せた『瞬時加速』をその場でコピって、応用として『了の型』で一撃与えたんだよ。まぁ母さんは背部ウイングスラスターのない『打鉄』の脚部スラスターで無理矢理やったんだけどね。第二回では見切られてたからあれは第一回のデータだな」

 

 

さて、突っ込み所は何ヵ所でしょうか?

 

「………オリジナルじゃ…なかったのか。そうか、だから千冬姉は亜種って……」

 

「………イグニッション・ドライブ…!なんと言う甘美な響きか!」

 

「………子が子なら親はそれを上回るデタラメさですのね!」

 

「コピったって……ねぇシャルル、アンタ出来る?」

 

「む、無理だよそんな!確かにあの場で使ったのが最初だったけど、僕だってその分色々と計算したんだから!」

 

 

 

それぞれが思うことを呟き、溜め息をついた後に、皆一斉に何かに気づき千春を見る。

 

「え?おかあさん?」

 

皆の代弁は俺がしただろう。皆の一様に黙ったままだった。

 

 

「あれ?言わなかったっけ?アイスランドの国家IS操縦者のマリアンヌ・ブリュンヒルダは私のお母さんなんだって……」

 

 

空気がピシリッ、と凍ったような気がした。

 

 

 

 

 

「「「「「 えええええぇぇ~~っ!!? 」」」」」

 

 

食堂に俺含め五人の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ。篠ノ之箒ちゃん……だったかしら?彼女、本当にすごいわね?」

 

アリーナの管制室に現れたマリアは、大型モニタを眺めていた千冬に声をかける。

 

「貴様かマリア……ふん」

 

千冬はあからさまに機嫌が悪く、マリアを一瞥すれば不満気に溜め息をついた。

 

「あら?……偽物とはいえ、自分の技が見切られたのがそんなに悔しいの?」

 

「ふざけるな。その程度で私が悔しがると思うか?」

 

「結構負けず嫌いじゃない?貴女。……となると………なにかしら?」

 

「とぼけるつもりか?……教師用のISに細工した理由と貴様が出なかった理由を答えろ」

 

「うふふ」

 

千冬の言葉に、マリアは可笑しな事を聞いたとばかりに笑った。少女のような、あどけない笑みで。

 

「わからない?それともわからないふりをしてるのかしら?」

 

「貴様………」

 

今や千冬の表情は戦士のそれだ。マリアを戦友ではなく、敵として見ていた。

 

 

「篠ノ之箒ちゃん……彼女のちからを計らせて貰ったわ」

 

千冬にしか聞こえないような声でマリアは囁いた。

 

「!!?」

 

「随分面白い結果が見れたわ。この数値を見ると、IS適性値理論を信用出来なくなるわねぇ」

 

携帯端末を操作するマリアは苦笑する。篠ノ之箒のIS適性値はC。どちらかと言えば低い物だ。そう、IS学園に入学するには低い物だ。

 

適性値Bが普通と呼ばれるこの学園に入学出来、入学してからたった数ヶ月で代表候補生クラスのIS操縦者と互角に渡り合うなんてことは可笑しすぎる。

 

「彼女の何処を見たらIS適性値Cなんて言えるのかしらねぇ千冬ちゃん?……親友の妹さんを、世界から守りたかったの?」

 

ふと、マリアの表情が慈愛に変わる。全てを慈しむその微笑みは千冬に向けられている。

 

「…それとも………嫉妬したのかしら?」

 

クスリ、と笑ってマリアは携帯端末が示す文字を見た。

 

「私や貴女、IS適性値『S』を持つ者達でさえたどり着く事が出来なかった領域…『SS』へ目覚める可能性を持つ、『彼女』に……」

 

 

携帯端末は『S』の文字を示していた。

 

 

「偽物とは言え貴女の剣技を凌ぎ切り、あまつさえ攻撃を直撃させた。……その方法が私と一緒だったのは驚いたけれどね」

 

クスクスと笑う彼女は、とても嬉しそうだ。

 

 

 

「けど私も彼女が羨ましいわぁ。嫉妬、しているわね、私も。……そう、未だ未熟ながらも『未来予知』なんて言う破格の能力を得た……彼女にね」

 

 

 

 

 

あの後、ようやく解禁された大浴場でシャルルと裸の付き合いをしてしまったりしたといろいろな事があったが、その翌日、朝のホームルームにはシャルロットの姿がなかった。

 

あ、シャルロットって言うのはシャルルの本名な。二人きりの時はこの名で呼んで欲しいらしい。

 

先に行っていてと言うので食堂で別れたのだが、何かあったのだろうか?。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

教室に入って来た山田先生は何故かふらふらしている。朝っぱらからどんなダメージを受けたのだろうか。千冬姉もいないし……

 

(実は、マリアが山田先生の部屋に泊まると言い出し、飛び火が怖い千冬が一に二もなく了承し、朝までマリアとベッド上で受け攻めを繰り返していたのだ。千冬は本来山田先生が処理する案件を朝まで処理し、こちらはこちらでダメージを受け保健室で仮眠中だったりする)

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、既に紹介は済んでるといいますか………ええと……」

 

何やら山田先生の説明はよくわからないが、……何?転校生?

 

クラスのみんなもそこに反応したらしく、一斉に騒がしくなる。今のこの時期、というより今月は二人も転校生が来ているのにまだ来ると言うのだろうか。

 

一体どうなってんだ?

 

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します」

 

 

え………?この声って……―――

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 

ぺこり、スカート姿のシャルロットが礼をする。俺を始めクラス全員がぽかんとしたまま、これはどうもご丁寧にと言わんばかりにぺこりと頭を下げ返す。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。と言うことです。はぁぁ………また部屋割りの組み直し作業が始まります……」

 

なるほど、山田先生の憂いはそこにあったか(実は追い討ちだったりする)

 

 

……あれ?……待てよ?

 

 

「え?……え!?デュノア君って……女の子だったのぉっ!!?」

 

「おかしいと思った!!美少年じゃなくて美少女だったわけね!?通りで肌がきめ細やかだと思ったわ!」

 

「って、織斑君!同室だから知らないってことはないわよね!?」

 

「ちょっと待った!確か二組の子が、昨日大浴場から二人が一緒に出てきたって所を見たって…………」

 

ザワザワザワザワッ!

 

教室が一斉に喧騒に包まれ、それはあっと言う間に溢れ変える。

 

 

―――あ、まずい。まずい気がする。だってこれだけ騒げばシャルロットが女だったって伝わってるはずだ。

 

で、一緒に出てきた所を見たのは二組の子で…………ほら、殺気がこっちに向かって来て…………?何故かこのクラスにも殺気が……?。

 

 

バコオオォンッッ!!!

 

 

突如、一組の黒板が爆発した。

 

 

「いぃぃぃちぃいかあああああぁッッッ!!!!」

 

 

うわああああぁっ!!来たっ!来た来た来やがった!

 

マジ切れモードの鈴が来やがった!!

 

黒板が爆発した所から現れた鈴は猫科の動物のような鋭い目を俺に向けて来た。

やべぇ、額に青筋が浮かんでやがる!

 

クラスが喧騒から混沌に変わる。皆、一様に自分の命が危ないと知り、ワー、キャー、と喚きながら逃げようとする。

 

 

「しねえええぇぇっ!!」

 

非固定部位のスパイクユニットが唸りをあげる。衝撃砲の最高出力だ。

 

死ぬ!マジ死ぬっての!ちくしょう!せめて皆逃げてくれ!

 

……ああ、最後に千春に告白しとくんだったぜ。

 

 

俺が死を覚悟し、走馬灯を見てから数秒、まだ衝撃は身体を襲ってこない。

 

恐る恐る目を開けた俺の目に入って来たのは黒い装甲のIS、『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラだった。

 

「た、助かったぜラウラ、サンキュな。……っていうかお前のISもう直ったのか?すげぇな」

 

「……こ、コアは無事だったからな。予備パーツで組み直した」

 

「へー。そうなん――うぉっ!?」

 

いきなり、である。いきなり腰に手を回され抱き寄せられたのだ。顔がちけぇ。

 

 

「そ、そその、だ。私は貴様に謝るぞ。いろいろとすまなかった。……教官の時のことも、……私が戦いから逃げた時のことも…」

 

「え?……」

 

「貴様の声が聞こえた。そう、お前と戦っていたのは私だった。それなのに、私は私でない何かになってしまった………だからそれを謝りたい」

 

 

俺が内心で叫んでいた言葉を、ラウラは聞いたらしい。間違えて全周波で喋ってたか?。

 

 

「そ、そしてだ。……これは礼だ…」

 

抱き寄せられた状態から、さらにぐいっと引き寄せられ、あろうことか―――唇を奪われた。 なんつーか男らしいキスだこと。

 

 

「むぐぅっ!!?」

 

驚天動地。何が起こったのか俺にわかるように教えて欲しい。箒を始め、その場の全員が…―――千春は寝てたいた―――…あんぐりと口をあけていた。

 

俺だってしてる。あ、あんぐりしてたら舌いれられた。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「……婿じゃなくて?」

 

混乱のあまりそんな冷静な突っ込みが出てしまう。俺はもしかしたら物凄い大物なのかもしれない。――――以上、混乱による自己陶酔でした。

 

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』と言うのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を嫁にする」

 

誰だそんなデタラメ言ったやつは!間違っちゃいないが責任者出てきやがれ!

 

――ん?

 

 

「あ、あっ、あ………!」

 

顔を真っ赤にして口をぱくぱくと動かし、声にならぬ声をあげている鈴。なんか金魚みたいだ。

 

 

「アンタねええぇぇッ!!」

 

ガチィッ!

 

青龍刀を連結させた鈴が青龍刀を振り上げる。

 

 

ガキィィンッ!

 

刃と刃がぶつかり合う!

 

「どういうつもりよ…アンタ」

 

「言っただろう?……一夏は既に私の嫁だ。手出しはさせん」

 

…………あれ?なんでセシリアISを展開してんだ?

 

「一夏さん?わたくし、少々一夏さんとお話がしたくおもいまして……はやくラウラ・ボーデヴィッヒさんの腕から降りてくださいまし」

 

「いやいや、無理だって!今身動きとれ………」

 

カチャッ…

 

「ほう………動きたくない、と?……」

 

箒が日本刀を鞘から抜き払い構える。――いやいや、話は最後まで聞こうぜ!

 

カランカランッ…カシャッ、ジャキィンッ!

 

薬莢が転がる音とシリンダーが連結する音。

 

 

「しゃ、シャルロット?」

 

後ろを見ればラファール・リヴァイブカスタムを纏ったシャルロットが―― 

 

 

「にこっ」

 

「に、にこっ」

 

天使の笑顔を見せていた。俺もシャルロットの笑顔を真似て返す。結構自信がある笑顔が出せた。

 

「一夏って他の女の子の前でキスしちゃうんだね。僕びっくりしたなぁ」

 

「あのー……シャルロットさん?僕はされたんであってしたわけではないし、……なぜになぜにパイルバンカーを起動してるんでせうか?」

 

「なんでだろうね?」

 

 

 

四人の修羅が殺気を纏う。

 

 

「さぁ始まりました、一夏争奪戦!実況は私、千春・フレイヤ・ブリュッセルでお送りしたいと思います。さて、解説の山田さん?この完全バトルロワイヤル、誰が勝ち残ると思いますか?」

 

「えぇ!?な、なんで私解説になってるんですか?皆さんやめてくださーい!縄ほどいてくださーい!」

 

 

涙目になりながら解説席に亀甲縛りにされ、縛りつけられている山田先生。実況はマジックペンをマイクに見立てた千春。 面白そうな事を嗅ぎ付け起きたらしい。流石自他共に認める愉快犯。

 

「お姉様、嫁を頼む」

 

ラウラが実況席の千春に俺を渡す。いや渡すって…………ん?お姉様?

 

「ん!ではISファイト!レディー…………」

 

千春に片腕で強く抱き締められた俺は千春の下乳を顔半分で押し上げてる状態だ。胸に顔を埋めてると言っても過言じゃない。実際そうだし。

 

この重量感と柔らかさはやべえええぇぇっ!!

 

思わず身動きできねぇぜ!主に下半身的な事情で!!

 

 

「グオーーォっ!!」

 

ここに戦いの火蓋は斬って落とされた。みんな俺を狙って来てるのはなんでさ。バトルロワイヤルなんだろ?……ねぇ?。

 

 

 

ドカアアアアァンっ!!!

 

その日のホームルームは轟音と爆音、そして絶え間無い衝撃でクラスが文字どおり揺れた。

 

 

グラグラと。

 

 

 

 

 

 

 

「むーん……」

 

一言で言えばガラクタの山。しかし目を凝らせばそこらにあるガラクタのそのひとつひとつが現代にあってはいけないようなオーパーツ。

例えば、反重力発生装置だとか、粒子変換装置とかタヌキ型ロボットとか全自動卵割り機とか………ちなみに最後卵割り機、卵をセットするのは手動だ。

 

そんなガラクタの山に腰かける女。その名を篠ノ之束。その姿はまた異質。空のように真っ青なワンピースに純白のエプロンと背中の大きなリボン。一言で言うなら『不思議の国のアリス』のアリスだ。ご丁寧にウサギの耳までついてる。センサーや盗聴機の類いが内蔵されたハイテク機だがな。

 

目の下に大きな隈をつくった彼女は、退屈げに溜め息をついた。

 

 

「はぅ~。しーくんはやく帰ってこないっかな~」

 

ガラクタの山に腰かける束はもう一度溜め息をついた。

 

 

 

ぱらりろぱらりろぺら~♪

 

 

「こ、この着信音は!……とうっ!」

 

ガラクタの山から聞こえたゴッドファーザーのテーマに過剰な反応を見せた束はガラクタの山へルパンダイブ。ゴチンッ!と鈍い音がしたが気にしない。

 

 

「ぷはぁ!……もすもす終日《ひねもす》~?ハァイ!みんなのアイドル、田む…篠ノ之束だよん!」

 

 

電話越しから確かにブチッ、と音がなったのが聞こえた。

 

「ああ待って!待って箒ちゃ~ん!」

 

ぐぬぬと言いながら電話を切ろうとした妹を止める。

 

 

『……ね、姉さん…じつは』

 

電話越しから聞こえたのは箒の声だった。

束からは先程までの退屈感など吹き飛んでいた。

 

「やあやあやあ!久しぶりだねぇ箒ちゃん。うんうん、言わなくてもわかるよ?欲し~んだよね?もっちろんあるさぁ! 君だけのオンリーワン、代用無き物、……箒ちゃんの専用機が!」

 

 

箒が息を呑んだのを悟り、束のテンションが更に加速する。

 

「高性能にして規格外!そして白と並び立つ者!その名は…………

 

 

 

『紅椿』――――」

 

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