IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 38 『エチケット袋完全装備』

 

「うぅぅぅぅみぃぃぃぃだああぁぁぁぁっっ!!」

 

 

 

臨海学校初日、夏特有の大きな雲とどこまでも続く青い空。俺達一年一組が乗る移動バスがトンネルを抜けた先には、太陽に照らされ眩い光を放つ、一面の海。陽光を反射する海面は穏やかで、心地良さそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。

 

「ち、千春!危ないぞ!?」

 

「おぉ、すまん!。う~み~わ~広い~な~大きい~な~っと♪」

 

冒頭の台詞は勿論、千春である。窓側席にいた千春がバスの窓を開けて、そこから頭を出して叫んだのだ。

俺が座る席の前、千春の席の隣で焦る箒もなんのその。千春は高いテンションのまま、開けた窓から見える大海原へ向けてその歌声を披露する。

 

「はは、…千春ほどじゃないが、やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」

 

「う、うん?そう、だねっ」

 

バスで俺の隣になったのはシャルだった。しかし、どうも出発してからずっとこんな感じでわ今一話を聞いてない。今も、返事だけしてからまた手元に視線をやってる。

 

「えっと……それ、そんなに気に入ってくれたのか?」

 

「えっ?…あ、うんっ。まあ、。えへへ」

 

左手首にシャルロットがしているブレスレットは、昨日とある買い物に付き合ってくれたお礼として俺がプレゼントしたものだった。

シャルロットは銀色のそれをニコニコと眺めては、時々思い出し笑いでもするかのようにクスクスと笑みを漏らす。

 

それにしても、こうまで気に入ってくれると、あんまり高いものじゃないのが逆に申し訳ない。

 

「うふふ♪」

 

うーん、ものすごいご機嫌だな。

 

「まったく、シャルロットさんたら、朝からえらくご機嫌ですわね」

 

通路を挟んで向こう側、セシリアが若干むすっとした顔で言ってくる。

 

「うん、そうだね。ごめんね。……えへへ」

 

セシリアの言葉もなんのその、笑顔で返すシャルロットだった。

にしても、本当に凄いご機嫌だよな。そんなに海が楽しみなのか?いや、まぁ俺も楽しみではあるのだけど。

 

「ふんっ。昨日、途中に二人だけ抜けたと思ったら、まさかプレゼントとは……不公平ですわ」

 

「あ?……あー、……まあ、その、なんだ。いろいろ助言して貰った礼だったりするわけで……セシリアにはまたの機会にな?」

 

どうやらセシリアがむすっとしてる理由はプレゼントが貰えなかった事に起因するらしい。

子供と言うには静かに、しかし大人と言うには口を尖らせて怒るセシリアは可愛らしく、拗ねていた。

 

「や、約束ですわよ?」

 

「おう。あんまり高いのは無理だけどな。なんなら、指切りするか?」

 

「指切りと言えば、あの……っ、僥倖(ぎょうこう)ですわ!」

 

そうして、指切りをして約束し、セシリアは満足したように微笑んだ。

にしても、こうしてお金を使う機会が増えるとなると、またバイトでもしないとなぁ。

貯金を切り崩すのはなんかヤダしな。

 

 

 

 

「…………」

 

にしても、シャルロットと並んで不思議なのはセシリアの隣でずーっと大人しくしているラウラだった。

かと思えば、ときどき挙動不審になり周囲をキョロキョロと眺めた後、自分の荷物の中を見て顔を赤くしたりしてる。

あんまり反応がないも心配だ。俺は席から立ち上がり、セシリアの席の奥にいるラウラに声を掛けた。

 

「おい、ラウラ大丈夫か?朝からずっとそんな様子だけど、どうした?」

 

「………………」

 

「ラウラ?……おーい、ラウラ~?」

 

声を掛けても反応しないので、ラウラの顔を覗き込むと、そこでようやく気付いたのか、何故か顔を赤くしたままラウラが、

 

「!?なっ、なんっ……なんだ!?ち、近いぞ!ば、馬鹿者ぉ!」

 

「ぬあっ」

 

鼻を思いっきり手のひらで押し返され、可笑しな声が出てしまう。その様子を見てた千春がゲラゲラと笑う。

好きな女の子に笑われると言うある意味極刑を受け、俺の硝子の心(グラスハート)は粉砕、玉砕である。……ん?大喝采はって?……ああ、それなら千春の楽しげな表情を見て心の中で大喝采中です。

 

まあ、ラウラは心配せずとも大丈夫だろう。自己管理しっかりやってそうだし。

俺はツボに入り、声を上げて笑わず、腹を抱えて悶える千春の姿に苦笑していた箒に声を掛けた。

 

「なあ箒、向こう付いたら泳ごうぜ!確か泳ぐの得意だったよな?」

 

「そう、だなっ。昔はよく一緒に遠泳したものだな」

 

?……なんか箒も箒で様子が微妙におかしいきがする。

落ち着きがない、というよりはさわそわしていると言った風にだ。

 

 

 

「そろそろ目的地に着く。全員席についておけ」

 

千冬姉の言葉で全員さっとそれに従い席につく。流石千冬姉、指導力抜群だ。

 

 

ほどなくして、千冬姉の言葉通りにバスは目的地である旅館前に到着。

四台のバスからIS学園一年生がわらわらと出て来て整列した。

 

「ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

 

「「「 よろしくおねがいしまーす 」」」

 

千冬姉の言葉の後、全員で挨拶をする。この旅館にはIS学園の創立時からお世話になってるらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生さんも元気があってよろしいですね」

 

歳は三十代前半くらいだろうか、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせている。

 

仕事柄笑顔が絶えないからなのか、その容姿は女将という立場とは逆にすごく若々しく見えた。

 

「では各自部屋分けされたメンバーで行動、荷物を指定された部屋に置いてから自由時間だ。海に出る者は別館の方で着替えられるようになっているので、それを利用しろ。場所がわからなければ従業員の方々へ聞け、以上だ」

 

女将の言葉の後にそう千冬姉が締め、一年生女子一同は直ぐ様旅館の中へと向かう。

とりあえずは荷物を置いて、そこからなんだろう。

 

ちなみに初日は各自自由時間。食事は旅館の食堂にて各自とるようにと言われている。

 

「ね、ね、ねー。おりむ~」

 

こ、この呼び方は間違いなく布仏本音(のほとけほんね)、通称のほほんさんだ。

 

振り向くと、例によって異様に遅い移動速度でこっちに向かって来ていた。眠たそうな顔は多分素なんだろうな。

 

「ねーねー、おりむーって部屋どこ~?一覧に書いてなかったー。遊びに行くから教えて~」

 

その言葉で、回りにいた女子達が一斉に聞き耳を立てるのがわかった。

 

「いんや、俺も知らないんだよな。廊下にでも寝んのか?」

 

「わー、それはいいね~。私もそうしようかなー」

 

夏だしちょうどいいかもしれない。いや、そんなわけ無いか。

 

ちなみに女子と寝泊まりさせるわけにも行かないということで、俺の部屋はどこか別の場所が用意されるらしい。らしいというのも、山田先生がそう言っていただけで明確には聞いていないからだ。

 

「織斑、お前の部屋はこっちだ。ついてこい」

 

お、千冬姉のお呼びだ。待たせるわけにはいかないので、俺はのほほんさんに「またあとで」と言って別れた。

 

「えーっと、織斑先生。俺の部屋はプレハブとかってないですよね?」

 

「ほぅ、よくわかったものだな。しかし残念ながら違う。私はその案を推したのだがな。珍しく山田くんが力強く否定するもので、プレハブは廃案となった」

 

 

危うく俺は臨海学校をプレハブで迎えることになってたわけだ。

山田先生、マジでありがとうございました!!

 

しかし、ここで俺の頭にひとつの疑問が浮かんで来る。

 

「織斑先生、もし俺がプレハブだったらどこら辺に置くんですか?旅館内には置けないだろうし……何より一生徒のために一々プレハブ買ったりするんですか?……あ、いや、プレハブはレンタルとかあるか、いやしかし、レンタルでもお金がかかるか」

 

そう、お金と場所である。特に場所においてはプレハブ一つ置くだけで旅館の外観が変わりかねないのだ。

 

「それについては安心しろ。米軍払い下げのプレハブが捨て値で手に入れられる。窓がないから換気は出来んし、季節により暑かったり寒かったりの差が激しい粗悪品だ。場所は更衣室の隣にでも、と思っていたんだがな。……さて、ここだ」

 

さてさて、俺はマジで山田先生にお礼を言わないと不味いみたいだ。つか安心なんてむしろ出来ません。……って、

 

「え?……いや、ここって………教員室って」

 

そう。生徒達の襖で仕切られた大部屋とは違い先生方はどうやらドアのある個室らしい。ドアに「教員室」と書いてある紙が張られてる。

教員室って言うことは……山田先生か千冬姉と同室か?わざわざ他クラスの先生と同室にするはずもないし。

 

「そして、最初は個室という流れだったのだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押し掛けるだろうと推測してだな…」

 

心辺りがあるのか、千冬姉は言いながら溜め息をついた。

 

「結果、私と同室になったわけだ。これなら、おいそれと近づかんだろう」

 

「そりゃまぁ、俺なんかのために虎穴に入って鬼と戦うなんて猛者いないよ」

 

「ふん。……一応言っておくが、あくまでも私が教員だと言うことを忘れる」

 

「は、はい、織斑先生」

 

「それでいい」

 

そういって千冬姉がドアを開け部屋へと入ると、俺もそれに続く。

 

 

「おおー、すげー!」

 

部屋の中は二人部屋だというのに広々とした間取りで、外側の壁が一面窓になっている。

そこから見える風景がこれまた素晴らしい。

青い海がこれでもかと言うぐらいに見渡せる。すげー、海が綺麗すぎる。

それに東向きの部屋だから、これなら日の出もバッチリ見えるだろう。

年末年始にこの部屋を予約するお客さんもいそうだ。

 

 

「一応大浴場も使えるが男のお前は時間交代制だ。本来ならば男女別になっているが、何せ一学年全員が使うからな。お前一人のために残りの全員が窮屈な思いをするのはおかしいだろう。よって、一部の時間のみお前は使用可能となる。深夜、早朝に入りたければ部屋の方を使え」

 

「部屋の?……あ、ホントだ。わかりました」

 

千冬姉の言葉通り、この個室にも浴槽がある。浴槽は大きめで、男の俺でも脚が伸ばせるくらい広くてゆったり出来そうだ。

 

「さて、今日は一日自由時間だ。荷物も置いたことだ、好きにしろ」

 

「はい。……えっと…千冬姉(・・・)、買った水着とか忘れてない?持って来てある?」

 

千冬姉の眉が心外だとばかりにつり上がる。

 

「貴様は保護者か。流石に何かを忘れたりはせん」

 

溜め息をつきながらジロリと俺を睨む千冬姉。

 

しかし千冬姉、忘れ物は絶対にしないだろうけど、物はいろいろ無くしたりしたこと有ったからな~。千冬姉部屋の片付け出来ないし。

 

「そっか。じゃあさっそく海にでも…」

 

「ああ、羽目を外し過ぎるなよ?」

 

千冬姉の注意に首肯で返し、俺は部屋を後にする。荷物から取り出した軽めのリュックサックには、水着とタオル、それに替えの下着を入れてある。

 

 

さぁ、いざ行かん!天使舞う海へ!!

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