IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 39 『渚に散る鮮血』

「……どうしたものか」

 

 

篠ノ之箒は悩んでいた。

 

「わ、ミカってば胸おっきー。また育ったんじゃないの~?」

 

「きゃあっ!?も、揉まないでよぉっ!」

 

「ティナって水着だいたーん。すっごいね~」

 

「そう?ステイツでは普通だと思うんだけど……」

 

 

……こういった雰囲気の中、裸体を晒して水着に着替えるか、否かで。

 

篠ノ之箒。彼女を一言で表すなら『侍美少女』、だ。……一言なのだ。

 

その、侍美少女の篠ノ之箒は頭の中もいろいろ古風だ。

みだりに素肌を晒すものではない、とか水着なんて破廉恥だ!……と本気で思っている。

 

しかしそんな古風な箒も、恋の病には敵わない。

破廉恥だ破廉恥だと言っていた水着、しかもビキニを店員に勧められるまま購入してしまった。それも全てはあの一夏に振り向いて欲しいがためだ。

大事を成すため誇りを切り詰めた箒の、最大の頑張りがこのビキニ水着だ。

 

ところがどっこい、大衆の前でビキニ姿を披露することなど考えていなかったため、箒はいまこの更衣室で悩んでいたのだ。

 

「……それに」

 

 

「や…めてぇ…っ」

 

「ふふ、ミカ可愛い~っ。お持ち帰りしてにゃんにゃんしたいな~」

 

「ひゃっ!?」

 

 

………………ところかしこで友人の身体を弄っている者がいるのはどういう事だ。

しかも。今まさに友人ミカの胸を揉みしだいている女子生徒は、箒の席の近くで比較的仲の良い方の級友だ。自分が脱いだら標的がこちらに移りかねんと思った箒は制服を脱げずにいた。

 

「箒じゃない。どうしたのよ突っ立って」

 

「え!?…り、鈴音(リンイン)か。いや、なんでも、ない」

 

突然声をかけられて驚いた箒の隣に来たのは凰鈴音(ファン・リンイン)。一夏いわく、二人目の(セカンド)幼馴染みらしい。

幼馴染みの渾名を冠しているだけあり、一夏の多くの事を知っているらしい。そのひとつに、一夏は油断したりしてると左手を閉じたり開いたりするらしい。

 

 

まぁしかし、一夏の最初の(はじめて)幼馴染みは私なのだがな……ふ、ふふふ………

 

箒が不気味な笑みを漏らしながら制服のボタンを外すのを、凰鈴音は横目でチラリと盗み見た。

 

 

 

 

 

 

(くっ、やっぱり千春の次点は箒ね。私も、身長と胸だけで見るなら負けてるし……くぅぅ~っ、なんでこんなに、一夏の周りにはライバルが多いのよ!)

 

 

鈴は制服を脱いで下着姿になった箒の胸部を見て戦慄した。学園でも十指に入るであろうその巨乳。

正直、羨ましい。

 

「………少し」

 

「?……どうしたのだ鈴?」

 

「少し……寄越しなさいよ!!」

 

「なっ!?血迷ったか鈴!そんなこ…ふぁっ!?」

 

もみもみもみもみもみもみもみ。

 

 

「やめっ…んぁっ!」

 

 

こうして箒の胸は、大衆にさらされ、その胸の大きさに嫉妬した少女達の遊び道具となったのでした。

 

「それそれそれ~」

 

「うわっ、凄い柔らかっ!」

 

「ええのんか?ええのんか?」

 

「箒さんって肌綺麗だね~」

 

 

 

 

 

もみもみもみもみもみもみもみ………

 

 

 

 

 

「あっ、あ……あぁっ!だめえぇぇっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?……今だれかの悲痛な声が聞こえた気が……ま、気のせいか」

 

旅館の海に面した場所にある別館、そこの奥の奥にある男子用と書かれた紙が張られた更衣室から現れた一夏は、聞きなれた声の悲痛な叫びを聞いた気がした。気がしたのだ。

 

「にしてももう三年ぶりか?海に来たの。千春がアイスランドに帰ってからは行ってなかったしな」

 

ちなみに、水着は千春から貰った青色のトランクス型だ。

 

「あっ、織斑君だ!」

 

「う、うそっ!わ、私の水着変じゃないよね!?大丈夫だよね!?」

 

「わ、わ~。体かっこい~。鍛えてるね~!」

 

「織斑くーん、あとでビーチバレーしようよ~」

 

更衣室から浜辺に出ようとしてすぐ、丁度隣の更衣室から出てきた女子数人と出会う。

各人、可愛い水着を身につけていて、その露出度にやや照れてしまう。

 

「おお、時間があればいいぜ?」

 

軽く手を振りながら砂浜へ行くと太陽に熱された砂が容赦なく足裏を焼く。

 

「あちっ、あちぃ~っ」

 

そんな事でさえ少し楽しくて、はしゃぐように走りバシャバシャと音を立てて海へ入る。見れば女子はみんなサンダルを履いているようだ。

 

「さて、入る前に準備運動だ」

 

波打ち際に立った俺は身体を伸ばしてから準備運動を始める。ちゃんと身体を解しておかないと脚を吊ったりするからな。

 

「い、ち、か~~~っ!」

 

ん?この声、り――

 

「のわっ!?」

 

「あんた真面目ねぇ。一生懸命体操しちゃって。ほらほら、終わったんならおよぐわよ」

 

いきなり俺の肩に飛び乗って来たのは鈴だった。

こいつ、小学校の時も、中学校の時も水着になるとやたら抱き付いてきて、俺の両肩を座席代わりにしやがるのだ。

ちなみに今の鈴の水着はスポーティーなタンキニタイプ。オレンジと白のストライプでへそが出てる奴。

 

「お前、前に千春に買って貰った水着はどうしたんだ?。あの子供用の」

 

「……夏休みに千春と逝く予定のプール時に着用する、予定です」

 

「うわ、丁寧っぽくなった」

 

流石に学友達の前では披露出来なかったらしい。

 

「つーかお前準備体操したのか?足つっても知らないぞ?」

 

「おー高い高い。遠くまでよく見えていいわ。ちょっとした監視塔になれるわよ、一夏」

 

無視と来やがった。

 

「なっ…何をしてらっしゃいますの!?」

 

咎めるような声。ふと見ると、パラソルとシートを両腕に抱えたセシリアが驚愕したように目を見開き、口をわなわなと開閉していた。

 

「んー?……えへへ~、移動監視塔ごっこ~」

 

「このうらやま…うらやまっ…恨めしい!お退きなさい鈴さん!一夏さんに迷惑ですわよ!?」

 

「なんでアンタにわかんのよ?。それに海に来たら毎年してたからもう慣れっこよ、ねー一夏?」

 

「まっ、毎年!?……こ、この泥棒ネコさん!」

 

「付き合いはアタシの方が長いわよ?寧ろアンタがそれなんじゃない?」

 

「ぐぬぬっ…」

 

「ふふん。…ま、アンタだって一夏に何か頼みに着たんでしょ?だったらお相子じゃない」

 

「くっ…そ、それはそうですけどっ……」

 

お前はなんで偉そうなんだよ鈴。つか、アレ?俺ナチュラルに人権無視?。

 

 

「何々~?揉め事ー?」

 

「きゃっ!リンちゃんが織斑くんに肩車されてる~っ」

 

「なん…だと……」

 

「私も!私もして織斑くーんっ!」

 

「きっと順番なんだわ!」

 

「そして早い者勝ちなのだわ!!」

 

「はいはーい。整理券配るよ~」

 

 

 

クラスの女子達がセシリアと鈴の騒ぎを聞きつけ集まり始めた。

ヤバイ。このままじゃヤバイ。彼女等(やつら)の目は本気(マジ)だ。

 

「おい鈴っ、降りろ!でなけりゃ俺の羞恥心が有頂天だっ!」

 

「わけわかんない事言ってないで、男なら走りなさい一夏!」

 

「ああもうっ!楽しそうだなぁおいっ!!」

 

「あっ!織斑くんが逃げた!」

 

「おえーっ!」

 

「お待ちなさい鈴さん!一夏さーんっ!!」

 

 

 

 

鈴を肩車したまま全力疾走した俺は、一つ教訓を覚えた。

 

無闇に人を肩車しない。

 

…………ちくせう、千春の水着姿に癒されてぇ。

 

 

 

 

「はぁ、…はぁ……おのれ鳳 鈴音、この恨み、必ず晴らさせてもらうぞ……」

 

人のいない更衣室に、箒はいた。

 

揉みくちゃにされたのか、制服や下着がずれていてとても扇情的だ。

よろよろと立ち上がった箒は既に息絶え絶えだ。

 

 

「箒?どうかしたの?」

 

「ん…千春か。いや、なんでも…んなぁっ!?」

 

箒は驚愕した。

 

「どしたの?」

 

「い、いやっ……ち、千春…それは……水着…なのか?もはや布切れと紐にしか見えないが…」

 

 

千春が纏う水着は、箒が購入したビキニよりもさらに肌色面積を増やす水着だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、これ?。……うん。少し恥ずかしいけど、一夏が喜んでくれたら嬉しいな……って思ってね」

 

 

箒は確信した。

 

(……やはり、千春は………一夏を…)

 

 

 

 

 

 

「あ~、ひどい目に会った…くそ、鈴の奴め」

 

あの後、結局女子たちに捕まりお姫様抱っこを要求され抱っこし、更にセシリアが日焼け防止のオイルを塗ることを求めて来たのでオイルを塗り、また女子たちがオイルを塗ってとせがんでまた逃げて………

 

 

「もう十二時か、……ん~、飯でも食おうかな」

 

確か旅館で昼飯が出るらしかったな。

 

待機状態の白式に触れると、空中にディスプレイが投影され、一秒一秒と時を刻んでいる。

 

時刻を確認して旅館へ向かおうと踵を返した所で、

 

「あっ、一夏。ここに居たんだ」

 

声に呼ばれた。振り向くとそこにはシャルロットと……――

 

「ん? ……なんだそのバスタオルお化けは」

 

奇妙奇天烈。バスタオル複数枚で頭の上から膝下まで覆い隠している。

 

こんな南国の島でバスタオルのミイラを見るとは思わなかった。

 

 

「ほら、出てきなってば。大丈夫だから」

 

「だ、大丈夫かどうかは私が決める……」

 

……ん?今の声は………ラウラか?

弱々しい声で一瞬判断が遅れたが……。

 

「ほーら、折角水着に着替えたんだから、一夏に見てもらわないと」

 

「ま、待て。わ、私にも心の準備と言うものがあってだな……」

 

「もー。そんなこと言ってさっきからぜんぜんバスタオル脱がないじゃない」

 

そう言えば、シャルロットとラウラは同室になったらしい。先月までは互いを敵視していたのだが、今では普通にクラスメートとして仲がいいようだ。

 

「うーん……ラウラが出てこないんなら、僕も一夏と遊びにいこうかなぁ」

 

「な、なに?…」

 

シャルロットが意地悪な言葉でラウラを困らせる。しかし、シャルロットがラウラに背を向け、俺にウインクをした事で、シャルロットの意図を俺は理解した。

 

「そうだな、ラウラが出てこないんじゃ仕方ない」

 

「仕方ないよねぇ~っ」

 

シャルロットが俺の手を取り、自然な動作で腕を絡ませて来た。

俺は腕に当たる感触に思考能力をショートしかけながらも目的のため行動する。

 

やべ、鼻血出そう。

 

 

「ま、待てっ。わ、私も行こう」

 

俺とシャルロットが恋人よろしく、腕を組んでキャッキャウフフしながら歩き出すと、バスタオルお化けばもぞもぞと動きだした。

 

俺とシャルロットは互いに目を合わせニヤリと笑う。

 

「でも、その格好のまんまで?」

 

シャルロットが決め手の言葉を放つ。

 

「くっ……ええい、脱げばいいのだろうっ、脱げば!!」

 

観念したラウラがバババッッとバスタオルを脱ぎ捨てた。

ちなみにそれ旅館のバスタオルだろ?後で返しておくように。

 

 

ついに、ラウラの水着が陽光の元に晒される。

 

 

「わ、笑いたければ笑うがいい……!」

 

黒のビキニ水着。しかもレースをふんだんにあしらったもので、一見するとそれは大人の下着(セクシー・ランジエリー)にも見える。

さらにいつもの飾り気のない伸ばしたままの髪は左右で一対のアップテールになっていた。

慣れない水着にお洒落のせいか、恥ずかしそうに頬を赤らめる。

その様子は実に保護欲を掻き立てられる。

我が親友ならば

 

「ロリ最高ーー!!」

 

とでも腕を振り上げ叫ぶことだろう。

 

しかし俺は正真正銘の紳士。小さな女の子に劣情を催す男ではない。

 

いや、まぁ千春がラウラみたいな背のちいちゃな女の子だったら話は変わってただろうが。

 

「おぉ。似合ってて可愛いぞラウラ」

 

鈴いわく女の子は素直な誉め言葉を欲しがるらしい。

 

「かっ、かか、可愛い…だと……!」

 

しかし、俺の言葉が予想GAYだったのか、ラウラは驚きに一瞬たじろいだ後、そのままカーっと顔を赤くした。

 

 

――赤っ!なんかもう、林檎くらい赤くなってるぞ!?。

 

「しゃ、しゃしゃ社交辞令などいらんぞ!?」

 

「え、いや。世辞じゃあねぇよ。つか赤いぞラウラ?大丈夫か?」

 

真夏の太陽の目下でバスタオルにくるまってたらそりゃ暑いさ。もう耳まで真っ赤である。

それにしても、普段肌が白いから余計際立つな。

 

「なっ!、ば、馬鹿者!顔が近い!」

 

「ぬあっ」

 

顔を近づけたら押し返されたでござる。

 

 

「おっりむらくーんっ!」

 

「さっきの約束!ビーチバレーしようよ!」

 

「わー、おりむーと対戦~。ばきゅんばきゅーん」

 

ふと声がした方を向くと、先程俺をビーチバレーに誘ってくれた女子達が手をふっていた。

 

「おーうっ!。…そだ、シャルロット、ラウラ、ビーチバレー一緒にやらないか?」

 

腕を振り上げて答え、俺はシャルロットとラウラを見る。

シャルロットとラウラはコクコクと頷き返してくれた。

 

「うし。こっちはシャルとラウラでちょうど三対三だな。うし、はじめ…――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その勝負、ちょぉぉっっと待ったぁっ!」

 

 

 

 

 

突如として発せられた声。

 

その凛とした声の先に彼女は居た。

 

 

 

「この千春・フレイヤ・ブリュッセルを忘れてもらっちゃ困るわ!」

 

淡い栗色の膝まで届くほどの長髪。

美の女神でさえ嫉妬し、惚れてしまうほどの顔。

健康的ながらも倒錯し、溺れたくなるその魅惑の身体。

 

この俺織斑一夏の初恋の女性がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………すごくえっちな水着を着て。

 

 

 

 

 

 

 

涙の雫(ティア・ドロップ)』。名の通り雫をイメージした水着で、女性の大事な所しか隠していない、隠しきれてない水着だ。

問答無用で大人の下着(セクシー・ランジエリー)並みにエロい水着だ。

 

 

千春は白の『涙の雫』に、白のパレオを巻いていた。

 

 

 

 

「ぶはぁっ!」

 

「い、一夏!?」

 

「お~、おりむーがはなぢ出した~!」

 

「くっ、先を越されてしまいましたわっ!」

 

無問題(モーマンタイ)!あたし達も乱入よ!」

 

「鈴にセシリア!……よーしっ、箒!私達のコンビプレー見せるわよ!?」

 

「ま、待ってくれ千春!こ、この水着では、その……」

 

「………………」

 

「一夏っ、一夏っ!……ってラウラまでぇ!?」

 

 

 

混沌としながらも俺たちはこの後ビーチバレーをした。

 

敵方に回った千春のせいで俺は足手まといになってしまった……………ちくせうっ!ありゃ卑怯だぜ!!

 

「なに笑いながら鼻血吹いてんのよ変態っ!」

 

「ごふぁっ!?」

 

後頭部にビーチボールが飛んで来やがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハワイ米軍基地。そこにはアメリカが有する最大戦力の内の一つ。軍用(ぐんよう)ISが存在する。

アメリカとイスラエルとの共同開発されたそのISは現在、

 

「くっ…そんなっ……手も足も出ず……」

 

「………………」

 

漆黒のIS(・・)に踏みつけられるように地面に這いつくばり、行動不能にされていた。

 

その一対の銀翼も、エネルギー・シールドを貫通する光の銃弾により破壊され機能せず、無用の長物と化している。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。広域殲滅を主眼に置かれた高機動型第三世代IS。本来のスペックは同世代機の先鋭、イギリスの『ブルー・ティアーズ』、ドイツの『シュヴァルツェア・レーゲン』らさえ大きく凌駕するものだ。

 

一機で十機のISを、と言う無謀な設計思想を可能にしたこのISが、

 

 

たった一機のISに手も足も出ずに、戦闘不能にされた。

 

 

「一体、何の目的で……っ」

 

銀の福音のIS操縦者、ナターシャ・ファイルスが苦悶の表情を浮かべる。

 

 

 

「……聞きたいか?」

 

「……え?」

 

基地では警報(アラート)が鳴り響き、怒号が走り、爆音が人を蹂躙する。

 

その、静かだとは到底言えぬ世界の中で、その()の声はやけにくっきりと聞こえた。

ナターシャ・ファイルスは目を見開く。自分の言葉に敵が反応した事ではない。そんな、粗末な事出はない。聞き間違えでなければ、これは『男の声』だ。全身装甲(フル・スキン)の漆黒のISから、確かに男の声がした。

ISは女性しか操縦できない。

その事実は確かにある少年より否定されているが……まさか二人目がいる、とは思うはずもなし、ましてやその二人目が眼前にいるとは、誰も思えないだろう。

 

 

「物語と言うのは、どんな読み手であろうと、どんな書き手であろうと、その話の大筋は変わらない。三国志やアーサー王伝説………古代より続く物語たちも、書き手により細部は違えど、その終局に大差はない。それは何故か?……それは、物語の大筋を意図的に変えると言うことは『世界』を敵に回す事になるからだ。俺はこの物語を『ある程度』まで進め細部を作り替え、そして……世界を味方(・・)に引き込もうと思っている」

 

 

間違いない。男の声は、ISのコア・ネットワークを通して聞こえている。

 

「つまりは世界征服ってわけ?……今どき、頑張りやな悪者ねっ!」

 

「動くなよ?。別に、貴様の首を切り落とした所で代替え品は其処らに有る。……そうだな、無実の一般人を巻き込みたくなければ動くな。……どうだ?悪人っぽいか?」

 

「!……性悪ね、悪人に向いてるわっ」

 

それはどうも、と男が話を切り上げた所で、基地から大きな爆音がし、それに呼応するように基地から深い蒼色のISが飛び出す。

 

「お疲れ様だM(エム)。随分不機嫌だな」

 

「…………雑魚ばかりだ。虫酸が走る」

 

「それはなによりだ。さて、では先に帰投しろ。俺は福音に処理を施す」

 

バイザー型のハイパーセンサーを装着しているその蒼いISの操縦者は、その男の言葉通り不機嫌のようで男の言葉に舌打ち一つ。

返事も言わずに飛び立っていった。

 

「処理……って、この子に何をする気なの!?」

 

「ISを子呼ばわりか、……理解できんな」

 

「理解しなくて、構わないわ」

 

「そうか、それはなによりだ。……なぁに、少し悪事の片棒を担がせるだけさ。福音を破壊しようなんて思ってはいないよ」

 

「!!!」

 

咄嗟に、まだ生きていた脚部スラスターを全開にしてナターシャは逃げようとする。

逃げなくては、不味い(・・・)と国家IS操縦者としての勘が告げていた。

 

「遅い」

 

がしかし、確かに遅かった。

 

逃げるのなら、この男に、漆黒のISに対峙したその時でなくてはいけなかった。いいや、それでも逃げられない。

 

 

 

 

―――……そもそも、対峙してはいけなかったのだ。

 

 

ザクッ………――。

 

 

 

 

「っ!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!」

 

 

叫ぶ。叫ぶ。

 

ナターシャは襲い来る激痛と、『恐怖』に叫ぶ。

身体中を犯され、蝕まれていく感覚。怖いと、怖いと哭く。

 

 

「……そう、物語の大筋は直に変えてはならない。……しかし、その大筋にも、土台が存在する。ではその土台を壊してみては?……細部を作り替え、『ある事象が起こる可能性』をつくりあげれば?……ふふ……世界は、『if(もしも)』の世界には寛容的だ。その為に、貴女には頑張ってもらいますよ?……そう…―――」

 

 

空には銀の翼が世界を照らす姿が見える。

その姿は神々しく、その実狂気の具現だ。

 

「貴女が言うような……世界征服のために……ね?」

 

男は全身装甲に隠れた表情に愉悦を浮かべた。

 

 

 

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