IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 41 『Engage』

 

 

「揃ったな。……現状を説明する」

 

あれから五分。旅館の最奥に設けられた宴会用の大座敷『桜花の間』では、俺たち専用機たちと、数人の教師陣が集められていた。

 

証明を落とした薄暗い室内に、ぞうっと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

 

「現在より十八時間前、ハワイ沖で試験稼働中であった米国、イスラエル共同開発の第三世代型の軍用無人IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走。監視空域より離脱したとの報告が国際IS委員会から連絡があった」

 

いきなりの説明に付いていけない俺を他所に、他の皆の表情は真剣そのものだ。

俺や箒とは違う国家IS代表候補生や国家に属する者たちなのだから、こういった不測の事態の訓練を受けているのだろう。

 

「……無人機」

 

千春も、今はもう真剣な表情になっていた。

 

「その後衛星による追跡の結果、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』はこの空域を通過する可能性がある。時間にして約二十五分。この福音を山田先生を隊長とし、四機一隊の小隊が迎撃することになった。また、学園にいる教師、代表候補生と連携し海上の封鎖も行われる」

 

 

千冬姉の言葉通り、確かに山田先生やIS操縦に特化した先生の一部が見当たらなかった。

 

 

「専用機持ちであるお前たちには、この旅館周域でISを展開、もしもこの小隊が抜かれた後の迎撃を担って貰う。何か、意見はあるか?」

 

「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します。」

 

早速、挙手したのはセシリアだ。

 

「構わんが、ただしこれらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩(ろうえい)した場合、諸君らには査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

未だに状況が飲み込めずにいる俺に対して、セシリアをはじめ専用機持ちの面々と教師陣は開示されたデータを元に相談をはじめる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型IS。……わたくしと千春さんのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。……しかし、厄介だわコイツ。それにスペック上ではあたしの甲龍を上回ってる。この中で純粋にスペックで上回ってるのは白式と……箒のISだけ、かしら?。そんな奴が無人機なんて、アメリカはなに考えてんだか。戦争でもしたいの?」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。リヴァイブ用の防御パッケージでも、連続しての防御は難しいだろうね」

 

「ああ。それにこのデータだけでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん」

 

「機体能力だけならまだ対処はできたんだけどね。どうやら、無人機のシステムも公表したくないらしいよ、奴等(アメリカ)は。自分っちの失敗の癖に反省は全くしてないと来た。……正直、この暴走ってのが信用出来ないよ。無人機の『テスト』なんじゃないかと思わされるくらいだね」

 

セシリア、鈴、シャル、ラウラ、千春。国家に深く関わった専用機持ちの五人が真剣な表情で相談を続ける。

 

「ブリュッセル、滅多な事は言うな」

 

千冬姉の言葉に千春は小さく首肯で返した。

 

 

 

 

「山田先生!センサーに感有り、福音と思われます!」

 

僚機の一人からの報告に、フランスの量産型IS、深緑装甲色のラファール・リヴァイブを纏った山田真耶は首肯で答えた。

 

山田真耶。かつて日本の国家代表IS操縦者になるため、青春の多くをISに捧げた操縦者の一人だ。

 

勉強も運動も出来ず、ダメダメだった麻耶が、唯一『優秀』と評されたのが、ISだった。

 

IS適性値『S』。各国の国家代表IS操縦者のほとんどがこの最高値のSだ。その『S』の評価を山田真耶は持っていた。

適性だけならば、山田真耶は世界最高ランクの操縦者だったのだ。

 

打ち込んだ。

 

唯、唯一の才能を活かすため、真耶は努力した。

 

得意でなかった勉強も、運動も、努力で人並み以上になった。

 

ISの操縦も、当時のIS学園に入学して、半年もせずに学年が上の先輩達に勝てるほどに成長した。

 

 

 

―――だが、上には、上が居た。

 

 

 

織斑千冬。当時自分の二つ上の三年生であった彼女は、優秀と褒められ、速くも力を開花していた山田真耶に、影をも踏ませぬ勢いだった。

 

――――最強。

 

これほど、最強と言う言葉が似合う人などいないのだろうと麻耶は思った。

 

悔しかった。けれど、それ以上に、憧れた。

 

 

だからこそ、織斑千冬が国家代表を降りた後、その後継たる地位に座る事をしなかった。

 

彼女を越えてもいないのに、彼女の代わりなど、勤まらない。

 

そう、自分に誓った。

 

真耶がIS学園の教師になったのも、彼女を追っての事だった。

 

現在、ISに乗れない(・・・・)彼女の代わりになれるのは自分だけだ。

山田真耶はそう自分に言い聞かせ奮起した。

 

 

「私を先頭にフォーメーションA(アロー)を組みます。福音の得意距離を突貫します!」

 

 

「「「 了解! 」」」

 

真耶の号令に僚機三人が答える。

 

真耶は、眼鏡を外した。

 

 

 

「弾幕、張ります!」

 

福音を視認した真耶がミサイルランチャーを展開する。

それに続き、僚機の三人もそれぞれミサイルランチャーやバズーカを展開する。

 

「…………」

 

高速で迫る福音を、真耶は睨んだ。

生徒の皆に見せたら似合わないと言われそうだな、と思考の端で思った。

 

 

 

 

 

 

―――――………… 女性の姿を型どったような全身装甲(フル・スキン)。その、福音の両眼が鈍く光る。

 

 

「発射します!!

 

ドドドドドドドッッ!!

 

カチッとトリガーを押し、十数基の弾頭が間断なく放たれる。

僚機の三人も続いて連射する。今や百に届かんばかりの弾頭が福音に殺到する!

 

 

 

―――……その全てが、一斉に爆発した。

 

 

 

「山田真耶、突貫します!」

 

ミサイルランチャーを投げ捨てながら真耶は加速する。両手にはアサルトライフル『レッド・バレット』。

 

戦乙女(ヴァルキリー)級の実力を持つ麻耶、彼女は爆炎に焦がれた空を疾駆する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、ようやく始まったようだな」

 

 

男は大きなディスプレイに写された映像を眺めて呟いた。

 

「ケッ…こんなちまちました事してねぇでさっさと奪っちまった方がはえぇじゃねぇか!」

 

ガタンッと蹴られた椅子が音を立てて転がる。その椅子を蹴った主は、茶色のロングヘアーの美女。しかし、その端麗な顔を怒りに歪ませていた。

 

「そう言うなら今すぐ君が一人で取りに行けば良い。上も、成果を出せば文句は言えんだろうしな」

 

「黙れ!テメェとなんざ会話をした覚えはねぇんだよ!」

 

ロングヘアーの女は怒り顔のまま、男に食って掛かる。

 

その様子を見て男はやれやれと言った調子でソファから立ち上がる。

 

「……はぁ、今日は良く吠えると思ったら、上の連中の慰み物になった後だったか。男嫌いなのはわかるが、仕事は仕事だ。諦めて汚されてろ、オータム」

 

オータム…。そう呼ばれた女は顔を怒気と共に赤くし、目には涙が溜まる。

 

「!!……ヴィヴァルディ…、テメェッ……殺してやる!!」

 

歯を剥き出しにし今にも襲いかかろうとするオータムにヴィヴァルディと呼ばれた男は溜め息と共に、右腕を前に突き出す。その手首には、黒い手鎧(・・・・)があった。

 

「やれるなら、何時でも殺してみろ……と常日頃から言ってるはずなのだがな。 仕方ない、調教の意味を込めて、相手をしてやろう。今回は無様に泣きわめいても止めないぞ?鼻水と涙に顔を汚しながら謝る姿は上の連中に好まれてるらしいからな」

 

今にも殺し合いを始めそうな雰囲気を壊したのは、美しい容貌の女性だった。

 

「やめなさい、二人共。オータムも、これは必要な事なのよ?説明はしたはずよね?」

 

リクルートスーツに身を包んだその女性は、オータムの頬をなで微笑む。

それだけで、先程まで殺気を振り撒いていたオータムの顔に、幸福が満ちる。

 

「……ご、ごめんスコール…」

 

「いいのよオータム。……ほら、今日は疲れたでしょう?。一緒に寝てあげるから準備して待ってなさい」

 

「わ、わかった」

 

まるで恋人のような二人のやり取りを男はさも興味がないといった目で見て、視線をディスプレイに戻した。

 

 

 

(漸く半分…と言った所か。奴と箒が出てこない所を見ると、やはり世界は動き出せているようだ。……まぁまだ大した差は生まれんだろうがな。

しかし、山田真耶。彼女がどれだけ優れてようと、互角の技術を持ち圧倒的な性能差を持つ福音は止められん。奴が出てくるのが遅いか速いかの差だ)

 

男はディスプレイを見つつも、その意識は別の事を考えていた。

 

 

(千春・フレイヤ・ブリュッセル………本来、原作では既に死んでいて登場しなかった人物(キャラクター)……―――)

 

ニヤリ、と口角が歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、……世界征服の足掛かりだ」

 

 

男は閃光が走り、爆炎が照らす戦場を、ディスプレイ越しに眺めながら呟いた。

 

 

 

 

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