IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 42 『戦士たち』

 

 

 

「っ………」

 

ズガガガガガッ!!

 

 

音速の弾丸をばら蒔きながら、真耶は歯を噛み締めた。

 

 

 

強い。

 

 

福音との戦闘が始まり、既に二十分が経った。

戦場を舞うのは真耶と銀の福音のみ。

 

 

降り注ぐビームの雨を紙一重で避けながら攻撃を行う真耶に対し、福音はその攻撃の全てをビームで焼き付くしながら真耶を追撃する。

 

どちらが優勢なのかは誰が見ても明らかだ。

 

真耶が、押されていた。

 

性能差は覚悟していた。しかし、ここまで無人機が完成していた事に、真耶は戦慄した。

 

真耶は生来の性格のせいで、自分の実力に余り自身を持てていない。

それでも、代表候補生として戦乙女級のIS操縦者との戦いを経験していた。

しかし、福音のそれは真耶が今まで戦って来た操縦者達、そして真耶と並ぶ技量。

 

それにIS自身の高い性能。

 

こんな物が無人機で量産されれば、驚異でしかない。

 

 

「っ!? あうっ!」

 

連射していたライフルがビームに撃ち貫かれ、ライフルが爆発を起こす。

その爆発の熱波と衝撃に麻耶が声を上げる。

 

体勢を崩しかけた真耶。隙が、生まれる。

 

そして、その一瞬を逃す福音でもなかった。

 

その数二十を越えるだろう。福音から放たれたビームが、真耶に殺到する。

 

「! まだっ、やられません!」

 

だがしかし、真耶はやはり、戦乙女級であった。

二十を超えるビームの雨、その全てを避ける事が叶わないと瞬時に思考した真耶は、福音に対する攻撃を諦め、ビームコート処理をされた近接用コンバットナイフを両手に持ち、迫るビームを切り裂いた。

 

だが、やはりその全てを防げるわけでもない。

喰らっては致命傷となるビームのみを瞬時に見極め、それ以外は極力避ける用にする。

 

頬を熱波が掠め、肩を貫かれ、それでも致命傷だけは切って防ぐ。

 

刹那の攻防。

 

真耶は千冬すら諦めるであろう数のビームの雨を捌ききっていた。

 

(織斑先生なら、防がずに突破出来る弾幕ですね)

 

こんな所でも、千冬との力量の差を痛感しながら真耶は笑った。

 

 

 

 

 

「ラファール・リヴァイブ、二番、三番、四番機、戦闘空域を離脱完了!」

 

「一番機の損傷率、二十七!戦闘に支障はありません!」

 

「中国軍から伝令、『五分後二国家代表ヲ戦線二送ル。ソレマデ健闘サレタシ』、です!」

 

大広間にて急遽設立された対福音のIS学園本部。

 

その一室にてオペレーターの教師達から知らされる情報を処理しながら千冬は決して、戦場を写したディスプレイから視線を移す事はなかった。

 

「二、三、四番機は十分以内に一機だけでも出せるようにしろ。数機の装甲を解体しても構わん、急げ!。 山田先生に国家代表の援軍が来る事を伝えろ!五分で良い、と!」

 

千冬の言葉に声を張り上げ返事をしたオペレーターの教師達。

 

慌ただしくインカム越しに叫ぶ彼女達を尻目に、千冬は小さく舌打ちをした。

 

 

(量産機とはいえ、あの真耶をここまで完璧に押さえるか。……VTシステムか? いや、私の勘がそれを否定している。では……一体…)

 

彼女は戦慄していた。山田真耶と全く同じ懸念にだ。

 

ヴァルキリー級の操縦者を簡単に相手取る性能。こんなものが量産されればそれこそ押さえる事が出来ない。

 

千冬は右手首を押さえて奥歯を噛んだ。

 

(こんな身体でなければ、私が出るものを………すまない、真耶)

 

千冬は今まさに死闘を繰り広げる真耶を見ながら、内心で謝罪した。

 

かつての好敵手であり、半身ともよべる大切な後輩に、千冬は謝る事しか出来なかった。

 

 

 

 

「防ぎ…切れないっ」

 

熱波が身を焦がす。既に百を超えるビームを捌いた真耶の身体は、怪我をしてない部位が無いほどにボロボロだった。

 

致命傷こそ避けてはいた。しかし、血を流し過ぎては不味い。

 

熱波と衝撃によりボロボロになった身体。その身体を酷使しながらも、戦力差が一刻一刻と開いて行く。

 

 

その時だった。

 

 

咆哮(パオシャオ)!!」

 

 

空中から飛来した何かに、福音が吹き飛ばされた。

 

「!」

 

海面に叩きつけられた福音に、麻耶は咄嗟にバズーカを叩き込む。

 

ドカァァンッ!

 

爆音と共に、水柱が上がる。

 

『ヒュー、流石は真耶ネ。咄嗟の反応がコレとか、もうチートアルヨ?』

 

オープン・チャンネルを通し、知った声が聞こえ麻耶は空を見上げた。

 

「その喋り方…まさか、(マオ)さんですか!?」

 

そこに居たのは、灰色の装甲のIS、第二世代型IS『虎狼(フウレアン)』を纏った国家代表IS操者。

 

黒髪に二つのシニヨンの髪型。名の通り猫を思わせる切れ長の目を持つ美女、李・猫(リ・マオ)の姿だった。

 

『久しぶりネ、真耶!。前に会てもう三年も経たアルヨ。さぞおっぱいがおっきくなったと見たネ!!』

 

「えっ、ええぇーー!!な、なんでこんなときにそんな話しなんですか!?」

 

『おっぱいソムリエ故、やむ無しネ』

 

「か、変わりませんね(マオ)さんも」

 

『真耶は変わたネ。具体的に言うと三センチくらい!』

 

「何処を見て三センチって!」

 

「おっぱいネ!」

 

まるで滑るように空を飛んだマオが、真耶の隣に降下した。サムズアップして良い笑顔だ。

 

「と、とにかく!。中国からの援軍というのは、マオさんなんですよね?」

 

頬を真っ赤にしつつマオの言葉をスルーした麻耶は頭を戦闘に切り替えつつもマオを見た。

 

「勿論、私ネ」

 

「助かりました、マオさん」

 

「無問題」

 

マオもまた、思考を戦闘にシフトチェンジしたのか、切れ長の目が、更に細くなる。

 

猫科の動物を思わせる瞳で、マオは海面を見下ろす。

 

 

「アイヤー、手応えは有たと思たのに、まるでダメージ無しヨ。これはプライドに傷が付いたネ」

 

傷付いたと言いながらも、マオはISを纏った腕を軽く回して口角をつり上げた。

 

海面に現れた福音を見て、二人は臨戦体勢に入った。

 

「先程の攻撃、空間圧縮兵装・衝撃砲ですよね?」

 

「流石真耶、もう見切たカ?。その通りネ。うちの代表候補のISと同じ、衝撃砲。ま、連射は出来ないが威力はダンチ、一撃の威力なら自信はあるネ」

 

「わかりました。……前衛を任せても、大丈夫ですか?」

 

真耶の言葉に、歯を剥き出して笑ったマオが叫ぶ。

 

 

「無問題ッ!!!」

 

ISの腕を振り上げ、『虎狼』が加速する。

 

『虎狼』は中国が作り上げた白兵戦特化のISだ。

その真骨頂は高い機動力と両腕に装備された、いや……両腕にも(・・・・)装備された白兵戦特化の特殊兵装『爪牙』。

あり?

一般のISと比べ比較的大きな腕から伸びる指の一つ一つが鋭く尖り武器となる『牙』。そして両足の脛に当たる部位に伸びる高周波ブレード『爪』。

つまり、ISでありながらその四肢こそが武器と言わんばかりの装備こそが『虎狼』の特徴だ。

 

 

 

虎狼の加速に合わせ福音がビームを放つ。勿論、その数は軽く二十を超える。

 

「なんとーー!!」

 

マオが叫びながらそのビームを掻い潜る。ビームが当たった?まさか。真耶が乗っている汎用機であるラファールならともかく、特に機動力に特化した機体だ。

 

掠りすらしない。

 

まるでビームから避けているようにすら錯覚するほどに洗練された回避。

 

これこそが国家の頂点に立つ実力者。

 

李・猫(リ・マオ)。中国最強の乗り手は、自身の相棒である『虎狼』を完全に乗りこなしていた。

 

「アチョー!!」

 

『牙』。

手刀の形で放たれた一撃は、ISに対し十二分に通用する刺突武器。

 

ガキンッ!

 

福音のシールドエネルギーに『牙』が突き立つ。しかし衝撃は伝わる。衝撃に揺れ、福音の視線は大きく揺れた。

喰らい付いた。

 

後は、喰らい付いた獲物を『爪』で裂くだけ。

 

「ホワチャー!!!」

 

脚部スラスターを吹かしての運動エネルギーを込めた大振りの蹴り。

高周波の『爪』で切り裂き、蹴り砕く、『虎狼』の必殺の一撃だ。

 

 

 

 

 

それを、福音は防いだ。

 

 

ガンッ!

 

鋼と鋼の鈍い衝撃音と共に、マオの表情は驚愕に染まった。

 

マオの視線は脚部の先の先。人で言うなら足首の部分を掴んでいる、福音の姿。

 

「まさか…っ初見で見切たか!?」

 

マオの言葉に答えるように、福音は腕をゆっくりと持ち上げた。

 

 

 

ブォン。

 

福音の手首の先から、翠色のビーム刃が現れる。

福音はそれを、振り抜いた。

 

 

 

 

 

「防がれたのはビクリしたけど、喰らてあげるとは、言てないネ!」

 

 

『虎狼』は、それを避けていた。

 

虎狼の脚を掴かんでいた腕を空いていて脚で蹴り、その衝撃で空中で一回転を決めて攻撃を避けたのだ。

スラスターの細やかな挙動とPICをフル活用しての回避。

 

一瞬でも判断が遅れていたら、シールドエネルギーに直撃を喰らっていただろう。マオは冷たい汗を背中に感じた。

 

 

ズガンッ!

 

 

ビーム手刀を振り抜いて隙の生まれた福音の頭部に、正確無比な射撃が弾丸を叩き込む。

 

 

「ナイスネ真耶!愛してるネ!!」

 

「あ、あ、愛してるなんて!や、やめて下さいマオさん!わ、私たち…女の子同士だなんて!」

 

「照れた真耶も可愛いネ!」

 

「あっ!ま、まままた冗談ですかっ!?」

 

スナイパーライフルから放たれた一発の弾丸は当たった。

 

射線上には『虎狼』を纏ったマオも居た。それでも僅かに生まれた、隙間を、合間を縫って弾丸を当てたのだ。常に流動する戦闘の最中にそれを当てる。まさに神業と言って差し支えない。

 

その技量、代表候補生を辞めて尚健在。

 

かつての好敵手の変わらぬ技量に嬉しくなるなと誰が言えよう。

 

李・猫は嬉々とした声で突撃する。

 

敵の能力は自分達と比べ格段に上。麻耶とマオの連携でも奴を沈めるには至らないだろう。いや、敵わないだろう。

 

それでも、李・猫は嬉々として戦う。

 

「このままでは終われぬヨ!」

 

せめて一矢、報いなくては気が収まらない。

 

特命として与えられた任、時間稼ぎ(・・・・)の任務を放棄し、李・猫は疾駆する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなッ!」

 

織斑千冬。かつて世界の頂点、初代ブリュンヒルデの座に居た戦士は、怒りと後悔の思いを顔に表しデスクを叩き砕いた。

 

「お、織斑先生……」

 

心配する教師達の言葉すら、今は届かない。

 

「はい、そうですかと、答えられるわけがなかろう……っ」

 

携帯端末の小型ディスプレイを忌々しげに睨んだ千冬は、戦場を映した大型ディスプレイに視線を写し、呻いた。

 

「…………一夏を…戦場に出せ…だと?…」

 

小型ディスプレイに映された言葉は、『銀の福音を織斑一夏の白式によって撃破せよ』の一文のみ。

 

確かに利には叶っている。

 

白式の単一仕様能力『零落白夜』には、対象のシールドエネルギーを切り裂き、絶対防御を発動させエネルギーを大幅に削り取る必殺とも言って良い技だ。

 

『零落白夜』にて不利な戦況を打破する。

 

 

 

 

 

利には、利に利には叶っている。が、この一文を送って来た者達の思惑は明らかだ。

 

 

 

『世界で唯一の男性IS操縦者が行う実戦データ』

 

それを、欲しているのだ。

 

 

データと言うのは貴重だ。それが、生死を掛けた一戦なら尚更。

 

唯一の肉親を利用される事に怒り、そして、こんな世界に巻き込んでしまった事に後悔した。

 

 

「…………織斑一夏、聞こえるか」

 

 

オペレーターの一人からインカムを貰い、千冬は一夏の名を呼んだ。

 

 

『え? あ、どうしたんだ千冬姉?』

 

「…………」

 

イヤフォンから聞こえた声はいつもの弟の声。普段は少し抜けているが、いざとなれば発揮する強い意思と行動力に千冬はいつも驚かされて来た。

 

唯一の、もはや彼だけが、彼女の唯一の肉親だ。

その弟を戦場に出す事を、千冬は良しとしない。

しかし、ここで一夏を出さなければ、今戦場にいる後輩と、好敵手は撃墜されてしまう。

 

実戦での撃墜は死と同義だ。

 

それだけは、阻止したい。だが………実の弟を実戦に出すのか?

 

『あっ、す、すみません織斑先生!。どうかしたんですか?』

 

千冬が思考している間を、姉と呼んだ事で怒られると勘違いした一夏が、付け焼き刃の慣れない敬語で言い直す。

 

「……織斑、一夏………出撃の準備をしろ」

 

 

織斑千冬は、断腸の思いで、出撃命令を発した。

 

 

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の迎撃戦が始まり既に四十分。福音が来るであろう南東方面に防衛線を張った俺たち専用機持ちは、いつでもISを展開、迎撃ができるように海岸付近に待機していた。

 

唐突に、白式の通信回線が開いた。

どうやら箒に鈴、セシリアとシャル、ラウラ。……そして、千春の通信回線も開いたようだ。

全員に対して通信、オープン・チャンネルだろうか?。

 

まさか、突破されたのか?。

 

皆、そう思ったのか、表情に緊張が走る。

 

 

 

『織斑一夏。聞こえるか?』

 

オープン・チャンネルから聞こえたのは、千冬姉の声だった。

 

「え?、あ、どうしたんだ千冬姉?」

 

福音が来るのか?と身構えていた身としては、突然自分の名を呼ばれ驚いたと言うより、拍子抜けたのだろう。

 

え?、なんでここで俺?みたいな感じ。

 

 

『…………』

 

千冬姉は俺の呼び方に不満らしく、黙り込んでしまった。

 

あ、いや、学校では先生と呼べとあれほど言われてたじゃないか。

 

 

「あっ、す、すみません織斑先生っ!。どうかしたんですか?」

 

俺の対応は素晴らしく速かった事だろう。

注意を受けるより速く、謝れたんだから。(ドヤァ)

 

にしても今日、と言うより今の千冬姉は少し変だ。なんと言うか、覇気がないと言うか………。

 

 

と、思考の海へ沈みかけていた俺の意識を叩き起こしたのは、千冬姉の言葉だった。

 

『織斑一夏、出撃の準備をしろ』

 

 

 

 

 

 

……え?。出……撃?

 

 

 

 

 

 

『現在、山田先生と中国の国家代表IS操者が福音を抑えてはいるが、その実劣勢だ。これに対し国際IS委員会は福音の確保ではなく撃墜を決定。

織斑、お前の任務は白式の『零落白夜』を使い福音を撃破することだ』

 

 

オープン・チャンネルを通し聞こえる言葉に、俺は混乱し続けていた。

 

……俺が、福音を?。

 

千春に鈴、セシリアの三人を相手取っても、全くの無傷で三人を撃墜してみせたあの山田先生。その山田先生と国家代表選手の二人を持ってしても止められない福音を、……俺が?。

 

 

 

『ふざけるなッッ!!!』

 

突然、オープン・チャンネルに千春の怒鳴り声が響く。

俺の出撃命令に唖然としてた鈴やセシリア、シャルも俺と同じように驚いていた。

 

 

『織斑先生……一夏はISの『操縦』訓練を受けただけの一般人なんですよ? なんで、その一夏が実戦に出なければいけないんだ!』

 

『国際IS委員会が決めたことだ。私に決定権は無い』

 

『あんたはブリュンヒルデだろ!?なんであんたが出ない!』

 

『機密事項だ。話す事は出来ん』

 

『!……自分の弟を、戦場に出す姉があるか!!!』

 

千春の罵倒に答え続けていた千冬姉。その千冬姉が、俺の名を呼んだ。

 

 

『一夏』

 

「は、……はぁ」

 

『これは確かに命令だ。国際機関からの、特命だ。……しかし、覚悟がないなら無理強いはしない。お前が決めろ』

 

 

 

 

覚悟。

 

 

そんなもの、有るはず無かった。俺は代表候補生達のように、有事の際の訓練なんてしてないし、こんな突然の戦闘だ。

 

覚悟なんて有るはず無い。

 

でも、俺は約束したはずなのだ。いつの日か、約束を、したはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――  

 

 

 

 

「なんで……来たの?」

 

「…俺は、さ。……嫌なんだよ」

 

「嫌?」

 

「ああ。嫌なんだ」

 

「……何が…嫌なの?」

 

「目の前で、俺の近くで人が傷付いてるのを見て、それを黙って見てるのが。」

 

「……そんなこと、どうせ嘘よ」

 

「そんなこと、無いさ」

 

「……え?」

 

「だって、君の助けてと言う言葉に、俺は答えられた」

 

「…………貴方は…」

 

「約束するよ。俺は、俺の届く範囲でだけど……人を見殺しになんてしない。助けてと言う言葉に、無視をしない」

 

「…っ」

 

「そして俺は……」

 

 

―――――……君を守る。

 

 

 

 

 

 

「…………千冬姉」

 

「…なんだ、一夏」

 

織斑…ではない。千冬姉は生徒ではなく、弟としての俺の言葉を待っている。

 

なら、答えるしか無いだろう?

 

「やります。……いや、俺にやらせて下さい!」

 

俺は僅かでも及び腰になっていた自分を蹴り砕いた。

 

 

『一夏!?』

 

「止める気なら、無駄だぜ?千春」

 

予想通り、千春は信じられない物を見た時のように両目を見開き、驚いていた。

 

 

『っ……わ、私が……い、言わないから?…私の……事をっ!』

 

目に涙を溜め込んだ千春が、声を震わせる。

 

違う、違うよ千春。違うんだ。そんな、些細な理由じゃない。

 

 

「……鈴、さっきは悪かったな。似合わない役を押し付けちまってさ」

 

「!……あんた…。……ま、セカンドとは言え、幼馴染みだからね」

 

鈴には酷い役回りをさせちまった。けど、思い出せたのは鈴のおかげでもある。

 

本当に、良い幼馴染みを持ったもんだ。

 

 

「織斑先生。今から向かえば良いですか?」

 

『ああ。しかしその地点から戦域までの距離を最大戦速で飛行すれば白式のエネルギーが切れかね――』

 

『でしたら、誰かのISに一夏を乗せれば良いんじゃないでしょうか?』

 

千冬姉の言葉を遮ったのはシャルロットだった。

そして、そのシャルロットの言葉に怒りを表したのは、千春だ。

 

『シャルロットッ!!お前ッ、一夏を守る騎士にとッ!誓ったはずだ!!それをッ――』

 

『勘違いして貰っては困るよ、千春。僕は誓いを破る気なんて、これっぽっちもないよ』

 

激昂する千春を戒めるよう、ゆっくりと、一言一言に力を込めてシャルは答えた。

 

 

『僕は世界が敵になっても、一夏の味方だよ。…………そう、一夏(・・)の、味方だ。だから僕は一夏の意志を護る』

 

 

『シャル…ロットッ!』

 

怒りに震える千春の声。何故そこまで俺を想ってくれてるかはわからないが、少し嬉しくなってしまう。

勘違いかもしれないが。

 

 

『現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?』

 

ラウラがオープン・チャンネルで全員に問う。それにすぐに答えたのは、

 

『それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうど本国から強襲離脱用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ています。最高速度は二千三百キロ、勿論超高感度ネオ・ハイパーセンサーも搭載してありますわ』

 

イギリスの国家IS代表候補生、セシリア・オルコットだ。

 

『オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?』

 

『二十時間です』

 

『ふむ…それならば適任――』

 

だな、と言おうとした千冬姉を、いきなり底抜けに明るい声が遮った。

 

 

 

『待った待ーった!その作戦はちょっと待ったなんだよ~!』

 

突如、空中に投影ディスプレイが浮かび上がる。

そこに現れたのは篠ノ之束(しのののたばね)さん。

 

ウサギの耳を思わせる着脱式の機械を頭につけているその人は、ニッコニコと笑っている。

 

『何用だ、束』

 

『ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!』

 

『切るぞ』

 

『聞いて聞いて!ここは断・然!『紅椿』の出番なんだよっ!』

 

『何?』

 

『姉さん!?』

 

『今そっちにデータを送るよん♪』

 

ディスプレイ上の束さんが手を動かすと、どうやら千冬姉の元にデータが送られたのだろう。千冬姉の回線から電子音が鳴る。

 

『……っ!?………確かに、コレならば成功率が飛躍的に上がるな。数値通りの結果が出ればな』

 

『お、お待ちください!私とブルー・ティアーズなら確実に作戦を……』

 

セシリアが慌てて会話に入って来る。

 

『今は時間が惜しい。10分以内にパッケージの量子変換が可能なら、『紅椿』の代わりに出ろ』

 

『そ、それは……』

 

痛い所を突かれたのかセシリアは口ごもる。

そこに、束が重ねるように言い放つ。

 

『ちなみに『紅椿』の調整は五分で終わるよん。『展開装甲』の微調整だけだからねっ』

 

投影ディスプレイ上で束さんがダブルピースをする。

 

 

 

 

『私の『アヴァロン』なら今すぐ発進出来ます』

 

 

 

そこに、千春が割って入って来た。

その目にあるのは怒り。その一色だ。

 

 

『何?』

 

『超音速飛行、及び戦闘が可能なパッケージだと思ってください。一夏を出すなら、私も出してください』

 

『……超音速下での戦闘訓練した時間は?』

 

『210時間です』

 

『『『『!?』』』』

 

専用機を持つセシリア、鈴。シャルとラウラが驚いたように息を飲んだ。

確かに、すごい。

代表候補生達のIS起動時間は平均でも三桁、つまり百を越える。しかし千春が言ったのは超音速下での戦闘訓練だけで三桁を越えているのだ。

セシリアの十倍以上の時間を費やしていることになる。

 

だが、その驚くべき情報を聞いてなお、千冬姉はそれを切って捨てた。

 

『ダメだ』

 

『なっ…なんでですか!?』

 

当然だ。訓練時間も長く、今すぐ展開出来るならばセシリアが言われた条件をクリアしてる。……セシリアに言われた条件、ならば。

 

『今の貴様では正常な判断が出来るとは思えんからだ』

 

焦るような言葉に何か思う所があったのだろうか。千冬姉は冷たい声で千春を否定する。

 

『ッ! 一夏を黙って戦場へ見送って、それで一夏に何かあったら……私はっ、死んでも、死に切れない!』

 

『命令だ。貴様は待機だブリュッセル。尚、この命令を守らない場合は貴様を拘束し、ISを取り上げる。』

 

千春が俺の身を案じてくれている。それだけで嬉しく思ってしまう。

けど、そんな事はさせない。俺はまだ力不足だから……千春を守れる力がないから…。

 

『!!……こ…のッ』

 

「千春、大丈夫だ」

 

尚も千春は千冬姉に食らいつく。そんな千春を止めようと声をかけると、千春の声色が急激に変わった。まるで、親に怒られた子供のような、そんな声に。

 

『い、…一夏っ』

 

「千春は忘れちゃったかもしれないけどさ……俺、昔千春に約束したんだ」

 

『!!?……お、覚えてる。……覚えてるよ一夏。けど、けど一夏!』

 

覚えていてくれた………ああ、ちくしょう。嬉しいぜ千春。

 

「俺はあの時の言葉を嘘にしたくない」

 

『!』

 

約束を盾にしてズルいな、俺は。……だけど、それでも嘘はついていない。

 

「約束を守れないなんてこと、嫌なんだ。だから、必ず帰ってくる」

 

 

 

 

 

「頼むぜ、箒」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さない……が、今は緊急事態だ」

 

作戦の性質上、移動の全てを箒に任せるので、つまりは俺が背中に乗っかる形になる。

 

箒は『紅椿』に搭載されて特殊兵装のシステムチェックをしながら、やけに機嫌良く答えた。

 

「しかし、たまたま私たちがこの海域にいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせれば出来ないことなど無い。そうだろう?」

 

「おいおい、あんまり浮かれ過ぎるなって。千春が言ってたけど、これは実戦なんだぜ?。気を引き締めてねぇと、何か起こっても…――」

 

「無論、わかってるさ。ふふ、どうした?千春の前では威勢が良かったな?怖いのか?」

 

「そうじゃねぇって。あのな、箒――」

 

「ははっ。心配するな。お前はちゃんと私が送り届けてやる。ちゃんと掴まっていろ?」

 

「…………」

 

こんな調子だ。専用機が手に入って嬉しいのはわかるんだが、どうも浮かれすぎじゃないだろうか?。

 

箒の専用機は、起動して半日も立ってない。いくら束さんがパーソナライズとフィッティングをしたと言っても、操縦者の方はそうもいかない。

そう思ってたのが顔に出たのだろうか。クスクスと笑い声と共にISの投影ディスプレイが目の前に浮かび上がる。

 

『はっきり言って、一夏の方が普通はビックリなんだぜ?』

 

白式の投影ディスプレイに現れたのは千春だ。先程までの怒りの様相は欠片も見えない。

 

「そ、そうなのか?」

 

『白式と箒の専用機…紅椿って言ったっけ?その二機は初めて一夏がIS戦をした時に状況が似てる』

 

確かに似てるな。一次移行(ファースト・シフト)もしてないし。

 

『あの時と比べると、機体の性能もその搭乗者の練度も、今の方が圧倒的に高い。現地の二人とも連携を取れば、高い確立で勝てる』

 

そりゃそうだ。束さん曰く、最高性能の機体らしいからな、箒の『紅椿』は。

それに操縦者も、初心者丸出しだった頃の俺と、量産機で千春を追い詰めた箒だ。

 

天と地の差だ。

 

『イレギュラーでも入らなきゃ、負けることはない。……箒、一夏をお願い』

 

『!……ああ、任せてくれ千春!』

 

確か箒は千春の事をライバル視してたはずだ。

友であり好敵手である千春から頼まれた事を嬉しく思ったのか箒は先程までの余裕そうだった雰囲気を拭い捨てて答えた。

 

『一部の隠蔽された銀の福音(シルバリオ・コスペル)の情報は解析し次第、随時データで送るわ』

 

俺と箒は同時に首肯する。

それに千春も首肯で返すと、千春は俺を見て、少し悩むように口ごもるが、意を決したように口に出す。

 

『……一夏。……私、ちゃんと、話すよ。……私が、……一夏に隠してた事』

 

それは、どれくらい勇気が居る事なのだろうか。その震える声に込められた思いに、今の俺は気づけていた。

 

「……千春」

 

『だから、無事に帰って来て…一夏』

 

返す言葉は、一言で良い。

心配させないよう、ただ強く返せば良い。

 

 

「応っ!」

 

 

 

ディスプレイ上の千春に笑みが溢れる。

 

そしてディスプレイは閉じた。

 

 

 

「暫時 衛星リンク確立。情報照合完了。『展開装甲』起動。――― 一夏、一気に行くぞ?」

 

「頼む!」

 

 

「うむ。……篠ノ之箒、『紅椿』。……発進する!!」

 

 

俺たちは暗雲で曇り始めた空を切り裂くように飛び立った。

 

 

 

 

 

「見えた!」

 

速い…。疾風迅雷を起動した白式と比べるのはアレだが、それでも専用機持ちのISの中ではトップだろう。

俺たちは海岸から発進してから、数分もせず戦闘海域に近づいていた。

 

「……俺も捉えた!」

 

通常のハイパーセンサーの白式が福音を捉える。福音の情報が流れてくるこの一瞬も戦場へと高速移動していく。

 

山田先生と中国代表選手、そして福音が空を駆け巡り、死闘を繰り広げていた。

凄い。その一言で足りうる激戦だ。約一時間もの間戦い続けている二機は、装甲の所々を破損しそれでも尚銃を、拳を福音へ向けている。

 

白式から情報が流れ込む。どうやら二機は既に限界の状態だ。エネルギーは尽きかけ、弾薬も数える程。間に合って、良かった。

 

 

「仕掛けるぞ、一夏!」

 

俺たちに気がついたのか、山田先生と中国代表選手の人が福音に距離を取りつつ攻撃する。

 

「ああ!……零落…」

 

更に加速した『紅椿』の上、箒の背に乗っかる形の俺は『雪片・千秋』を展開し、エネルギーを流し込む。

 

―――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を発動します―――

 

「白夜ァアアアッ!!」

 

『雪片・千秋』が可変し、蒼いエネルギーの刃が形成される。

福音と俺を乗せた『紅椿』が交錯するその瞬間に、俺は『零落白夜』を展開した『雪片・千秋』の一撃を叩き込む。

 

 

ブオォンッ!

 

大振りながらも速度のある一撃は、空を切り裂いた。

 

「避けられたっ!?」

 

知覚するより早く理解する。

 

流石はヴァルキリー級の山田先生達二人を圧倒するだけある。

 

避けれて当然。この程度なんかじゃ堕ちてくれないか……。

 

「奴の反応の方が一枚上手だったか…一夏、『疾風迅雷』と『零落白夜』を同時に使い仕留めろ!」

 

「やっぱそれか。……良し、箒!」

 

「応!」

 

「駆けろ白式!『疾風迅雷』!!」

 

箒からから離れ、準単一(ワンオフ)仕様能力《セカンド・アビリティ》『疾風迅雷』を発動。白式の装甲全身に亀裂が走り、装甲がスライドする。

金色の光を纏い、白式が加速する。

疾風迅雷を発動し、全身のスラスターで行う最速の瞬時加速(イグニッション・ブースト)。その名も『瞬時加速(イグニッション)(アルティマ)』。

 

かつて箒に使った神速の突き。その速度は一瞬ながら『亜光速(サブ・ライトベロシティ)』へと到達する。

 

神速を持って放たれる斬撃を、福音は身をよじり紙一重で避けた。

 

 

 

「!?なっ、なんなんだよコイツは!!」

 

 

一夏を襲った衝撃は並大抵の物ではなかった。確かに箒には防がれた。だが、あれはまだ偶然と言える。偶然と言えるはずだ

 

が、今、コイツは完全に見切りやがった。

 

初見(・・)なら千冬姉でさえ落とせるだろう神速の一撃を……初見で破りやがった!

 

「一夏!見切られているぞ!」

 

福音から放たれた無数のビームを回避しながら距離を取ると、箒が福音の追撃に入っていた。

 

「わかってる!けどこれ以上『瞬時加速(イグニッション)(アルティマ)』を使えばエネルギーが切れかねない!」

 

白式のエネルギー消費量は一定ではない。特に、疾風迅雷は燃費が悪い。白式の調子が悪いのか、今はさらに燃費が悪くなってる。疾風迅雷は使わないのが吉だ。

 

『篠ノ之さん!織斑くん!。私と(マオ)さんで動きを封じます!』

 

オープン・チャンネル越しに山田先生の声が聞こえる。その声は疲労により若干弱々しかった。

 

「山田先生!」

 

「私も足止めに回る!。好機を見落とすなよ、一夏!」

 

『紅椿』の装甲がガチャガチャと可動し、可変する。

 

「飛翔式!」

 

装甲を可変させ、運動性を高めた紅椿は一対の翼を広げる福音に突撃する。

 

 

 

 

「………この理不尽な性能…やっぱり、ISコアのリミッターを外してるっぽいな」

 

千春は七つの思考操作キーボードを展開し、隠蔽された福音のデータの解除を行っていた。

投影型ディスプレイに映る戦場を見る片手間に………解除を行っている。

 

 

「ビンゴ。やっぱり外してやがった!」

 

求めていた情報に行き着くと千春はオープン・チャンネルではなく、データとしてその情報を戦場にいる四人に送る。

一瞬一秒が命取りになりうる戦場では直接話すよりデータで送った方が良いのだ。

 

「あれだけ高出力のビームを雨みたいに降らして、今だにバテない方が可笑しいんだよ。けど、リミッターが外れてるならそのスタミナも理解出来る。

エネルギー総量のリミッターを限界まで外せば、それこそ一般のISの数十倍のエネルギーが確保出来る。そりゃ一機で十機の相手が出来るわけだよ」

 

データ解析をしながら呟く千春。更に投影型キーボードまで呼び出し、解析スピードを上げて行く。

 

「!?」

 

投影型キーボードに走らせていた指が、ピタリと止まる。いや、千春の思考が、氷付いた。

 

「……そうだよな。無人機なんて、簡単に作れるわけがない。無人機が、あんな動きをするものか」

 

空中に投影されたデータ。そこに写し出されたのは、ブロンドの髪に軍服を纏った女性。ナターシャ・ファイルス大尉の証明写真。そして、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が、ナターシャ・ファイルス大尉の専用機である事等の情報。

 

 

そして、衛星が捉えていた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)暴走の瞬間、その映像だった。

 

 

 

「くっ。…ここに来て、更にビームが激しくなたネ!」

 

「ブリュッセルさんから情報が!……っ、やはりISのリミッターが外れてるみたいですっ!」

 

「閃光の娘とは、これは驚いたネ!」

 

「そっ、そっちですか!?」

 

俺が福音から距離を取り数分、千春から送られたデータは驚くべきものだった。

ISのリミッター解除。そして明かされた詳細なスペック。

エネルギーシールドの強度、エネルギー総量などもはやIS数機分を有していた。

 

これは、確かに一機で戦局をひっくり返しかねない機体だ。

 

中国代表選手のマオさんも、口ではおどけているが表情は凍りついている。

 

体感でも力の差を感じていたのに、データで明確に力の差を理解してしまったからだろうか。

 

「っ、速いし堅いし危ないし、またく、化物ネ!」

 

「心なしか先程より動きが良くなり初めています!速く決めないと………」

 

「ならば私が突破口を開きます!」

 

箒は紅椿の両腰に携えられた刀に手を掛け、紅椿の両翼に光が灯る。アレは……『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』!

 

「篠ノ之流、秋時雨(あきしぐれ)!」

 

瞬時加速により、一気に最高速度になった紅椿。箒はビームの雨を掻い潜り、流れるような動作で刀を鞘から抜き、居合い抜きする。

千冬姉と同じ、剣術『篠ノ之流』。戦国時代に創られたこの剣術は一対一を想定した剣術だ。その中で唯一、『一対多』の戦場にて、ただただ、敵将を倒すためにつくられた技。それが『雨の太刀』。

矢を避け槍を捌き、刃を越えて、ただひたすらに一騎の相手を殲滅する太刀筋。

 

それも千冬姉が会得したのと同じ、雨の太刀の真骨頂『秋時雨』。相手の攻撃を全て回避し、懐へ潜り込んでからの抜刀で仕留める。

篠ノ之流奥義の『秋時雨』を、箒は使ったのだった。

 

ガキィン!

 

 

最高のタイミング。会心の一撃を、奴はビーム手刀で防いで見せた。

 

「やるっ!……しかし、太刀筋を見切った所で……戦術を見切れなければ意味は無い!今だ一夏!」

 

 

紅椿の装甲から二機のビットのような物が飛び出し、奴を拘束する。

 

「うおぉぉッッ!!」

 

瞬時加速でトップスピードに至った俺は『零落白夜』を展開。福音へ、零落白夜の刃を振り下ろす!。

 

 

 

 

 

 

 

 

『一夏っ!ダメェッ!! ソレは無人機なんかじゃ、ないっ!』

 

 

「……え?」

 

 

突然頭に響いた声。千春の声だ。間違いない、間違える筈がない。

俺の身体は千春の声に答えるようにピタリと止まった。

 

いや、千春の声が掛けられるよりも、早くに止まった。

 

 

「な…んで………」

 

奴は全身装甲だ。わかる筈がないのに………なんで、『人』の息遣いが感じられるんだ!?。無人機なんだろ?なら、あの時の無人機みたいに…人を感じられるはず、ないのに!!

 

 

『それには……人が、人が乗ってるの!』

 

……人が……乗って………?。

 

 

俺は、人が乗っているISを……斬ろうとしてたのか…?。

 

 

 

「きゃああっ!?」

 

「っ! 箒!!」

 

 

箒の叫び声に驚き顔を上げると、そこには奴が、福音が、箒に向けてビームの奔流を放とうとする瞬間だった。

 

一夏だけでない。箒もまた、千春の声を聞き、動きが止まってしまったのだろう。

箒の拘束から逃れるため箒に攻撃したのだ。

 

 

そして今、拘束を解かれた福音はその死神の鎌を箒へ向ける。

 

 

 

 

―――――――――――!!!!

 

 

何か。何かとしか言えない何かが、一夏の頭の中で弾けた。

 

 

 

「箒ぃぃぃぃっ!!!」

 

 

―――/準単一仕様能力《ワンオフ・セカンドアビリティ》――――

 

一夏は刀を捨て、一直線に箒へと向かう。

残り少ないエネルギーを消費して、『疾風迅雷』を発動する。

 

もはや音は遠く、光の速度へ至るほど速く、空を駆けた一夏は、遅延する世界の中で腕を伸ばす。

 

(ちくしょう、ちくしょう!間に合ってくれ、白式!!)

 

全身のスラスターが唸りをあげる。

 

箒に迫る光弾のその数十六。

福音の攻撃を受け、体勢を崩した今の箒では、確実に食らってしまう。

 

やらせるかよ。俺の手が、腕が、届く範囲で……大切なものを、やらせるかよぉっ!!。

 

「っ!? 一夏!!」

 

「ぐぅっ、ぅあああああっ!!!」

 

 

疾風迅雷の速度のまま、箒を突き飛ばす。驚いたような箒と目が合うが、その瞬間、全身に激しい痛みが降り注ぐ。

 

ビームは白式の装甲を貫き、この身を焼き尽くす。

 

間断無く放たれたビームに晒され、蹂躙され尽くす。

 

 

「がっ、あああっ―――」

 

 

 

プツン。

 

 

度を越えた痛みに、身体が意識をシャットダウンを起こす。

 

 

 

 

 

「一夏っ、一夏っ!……一夏ぁっ!!」

 

箒の泣くような叫び声が最後に聞こえたが、俺は、それに答えられず、……――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七月六日。その日、織斑一夏は撃墜された。

 

 

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