IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 43 『空を切り裂いて』

ザーザーと、雨が音を立てて降っている。嵐のような豪雨。

 

その雨の中、一人の少女が血だらけの少年を抱き抱えながら泣き叫んでいた。

 

目を開けてくれと、起きてくれと、泣きわめいていた。

 

その光景を、私はただ、ひたすらに、眺める事しか許されなかった。

 

眺めるしか、なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在、福音は岩礁海域で停止……いや、休止している。委員会はアメリカへの執行とし、ISコアの保有個数を二個少なくし八つとする事を決定した。何か質問はあるか?」

 

 

現在IS学園の作戦本部として機能しているこの大広間にて、織斑千冬は室内に集まった顔ぶれを一瞥してからそう、言った。

 

 

「先生」

 

挙手をしたのはシャルロット・デュノア。

いつもの柔らかな笑みは消えていて、真剣な表情だ。

 

「なんだ、デュノア」

 

「執行が行われたと言うことは、やはり無人機ではないのですね?」

 

「……ああ。ブリュッセルが調べ上げた通り、アレにはアメリカの国家代表選手が乗っていた」

 

「その情報を隠蔽し、何を狙っていたのでしょうか?」

 

セシリアが溢した呟きに、千冬とラウラの表情が鋭くなる。

 

「一夏に、殺させるためだろうな」

 

千冬の言葉に専用機持ちの生徒だけでなく教師陣さえも驚いた。

 

「なっ、なんでですか!」

 

鈴が立ち上がり、叫んだ。その言葉はここに居る者達の代弁だ。

 

「織斑を今回の作戦に参加するよう仕向けたのはアメリカ側が委員会に進言したかららしい――――」

 

「つまり……一夏に自国の代表選手を殺させ、その代償に一夏を引き込もうとした……と言うことでしょうか?」

 

千冬の言葉にラウラが続く。状況を理解した千冬とラウラ以外、誰も声が出せなかった。

 

「確定情報ではない。推測の域もでていない。……しかし、」

 

「無人機だと偽った理由も、一夏を戦場に出す理由も、「自国の代表選手を故意ではないとしても殺されたのだから、その殺した張本人を寄越せ」とでも言えば。男性で唯一のIS操縦者。織斑一夏を自国に連れ込むことができる。一夏を連れ込むためなら説明がつく」

 

ラウラが言った言葉はもはや狂気の沙汰だ。

一夏を引き入れるため、人一人を犠牲にしようとしたのだ。

 

「…………この事、千春には言えないわね」

 

鈴が言った呟きに、セシリア、シャルロット、ら四人の三人は内心で同時に頷いた。

 

「……あの、一夏さんや山田先生達の……容態は?」

 

次に挙手をしたのはセシリア。

 

「………織斑の生死に問題はない。しかし、深いダメージから昏睡している。山田先生達も、療養すれば今後に問題は無い」

 

千冬の言葉に、暗い表情だった専用機持ち達の顔に笑みがこぼれる。

 

「……各自、現状を維持。専用機持ちは直ぐにでも出撃出来るようにしておけ」

 

「「「 はい! 」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は、今にも泣いてしまいそうになる自分を殺し、包帯で身体中を巻かれて身動きしない一夏を見ていた。

 

彼の傍らに居るのは千春だ。

戦場から離れ、血だらけのボロボロな身体に急場凌ぎの治療を受けただけの少年の傍らに、彼女はずっと居た。

 

ずっと、彼の手を両手で優しく包んでいる。

 

…………その姿を見て、箒は泣きたくてもなけなくなった。

 

だってそうだろう?。一夏が撃墜されてから、彼女はただその傍らに在り続けていたのだ。

 

弱音を吐かず、錯乱せず、ただ彼の(そば)から離れず、見守っている彼女の前で、誰が泣けようか。

 

 

「……すまない。千春」

 

 

だから、謝る事しか出来なかった。

 

「大丈夫。箒は悪くないよ」

 

慈愛に溢れた優しい声色。まるで泣いた子供をあやすように千春は返す。背を、向けたまま。

 

「私はっ……千春、お前の頼みを聞けなかった。一夏を頼むと言われたのに………この体たらく。……すまない」

 

箒は泣かないと決めた。決めていたはずなのに、瞳からは涙が溢れ落ちる。

 

「………だから、大丈夫だよ?…箒が悪い所なんてない。誰が悪いか、なんて不毛な話はやめよ?」

 

変わらない。千春は箒の言葉に、またしても優しい声色で答える。彼女の手は、一夏の手を優しく包んでいた。

 

「しかしっ!わ、私は約束を守れなかった!。……約束を(たが)えたのだ!……私が、一夏の代わりにやられていればよかっ――――」

 

叫んだ。懺悔を求めるように、罰を欲するように。

 

 

「っ!?……」

 

しかし、その慟哭(どうこく)は遮られた。

 

パァンッ!

 

「……誰かのせい、なんてない!。だけど……だけど!助けた箒にそんなこと言われて……一夏は嬉しく思わない!」

 

雨の音の中で響き渡った音。

 

箒は自分の頬にじんわりと痛みと熱が生まれて来て、ようやく自分が千春に叩かれた事に気がついた。

 

涙を流していた。千春は、涙を流していた。

 

「箒は悪くなんてない。一夏も悪くなんてない!悪いのは福音に手を加えた何かだ!。だから……自分を悪く言うのは、ダメだよ!」

 

千春が箒を抱き締める。強く、それでいて優しく。

 

「箒は頑張ってた。私が、それを知ってる!。箒は悪くない……だから、一夏が助けた箒を……自分を否定するような事、言わないで」

 

 

箒は、千春に抱き留められたまま、彼女の胸で泣いた。

 

啜り泣いた。

 

 

 

 

一夏とは別室、山田真耶が運び込まれた部屋に千冬は居た。真耶の傍らに正座で座ると、その気配に気づいたのか真耶は目を開いた。

 

 

「……ぁ…せん…ぱぁい」

 

「ああ、私だ。真耶」

 

いつもだったら先生と呼べと訂正したところだが、千冬は昔の呼ばれ名を許容した。

 

「すみ、ません。……織斑くんを、守れなくって……」

 

無理に起き上がろうとした真耶を千冬が手で軽く押さえると、彼女はその手を掴み、俯き泣いた。

 

「馬鹿者。お前は守ったではないか。撤退する際追撃してきた福音から、織斑を……――」

 

「そんなのっ!、うっ!?………そんなのは、はぁ…はぁ……、守っただなんて、言えません」

 

叫んだ真耶は身体に走る激痛に顔を歪ませて、苦痛に喘ぎながらも頭を上げた。

 

真耶の瞳に溜まった涙が、ポロポロと零れる。

 

「私はっ、せんぱいの力に…っ、なれなかった!」

 

「そんな事はない。真耶、私はお前に多くの事を感謝してきた」

 

「でもっ!わ、私はっ!……ふぇっ…ふえぇぇっ…」

 

泣き崩れた真耶を、優しく、そして強く千冬は抱き止めた。

 

包帯を巻かれた身体を支えるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒が去った部屋に、千春は立ち尽くしていた。

 

「箒は悪くない。……なら、私はなんなんだろ」

 

約束を違えたと、箒は哭いていた。

 

しかし、あんなのは約束なんかじゃない。一夏を支えて欲しかっただけだ。

 

私以上に強くなった箒。そして、私のISを凌駕する性能のIS。

 

彼女なら、自分では届かない…一夏の隣を歩いて行けると思ったから。

 

けど、どうしても一夏の傍に居たかった。あの安らぎを、手放したくなくて。

 

約束を違えたのは千春自身なのだ。あの時、一夏の前で泣きながら約束したあの言葉を、千春は自身の心一つで裏切ったのだ。

 

本当に守りたいなら、一夏を何処かへ縛り付けてしまえば良かった。

一夏を傷付けられたくなければ、一夏を外に出さなければ良かったのだ。

 

なのに何故、千春は一夏を戦場へ送ったのか。

 

 

かつての約束を……一夏が守ってくれると言った言葉。

 

 

 

守られたかった。物語りに出てくるお姫様のように白馬の王子さま(おりむらいちか)に守られたかっただけだ。今では時代錯誤と言われてしまいそうなロマンチックな乙女の夢を、千春は望んだだけだった。

 

 

 

それが、許されないから一夏は傷ついた。

 

それはそうだ。王子さまと化け物なんて、誰も望んでいない組み合わせだ。

 

 

望まれるはず、ないのだ。

 

 

プシュッ。

 

 

「使用期限は七時間……」

 

 

腕に注射器を差し込み、薬品を身体へ流し込んだ千春は空になった注射器を捨てる。

 

「戦術は七十三通り。シュミレートでは八割の確率で撃墜される」

 

身体の身を包んでいるのはISスーツだ。露出度の高い特注品。

ISは人間の神経や筋肉の動き、更には肌の微弱な電位差を読み取り稼働する。

ISスーツはその電位差などを『人の身体を防護しながらも伝えるよう作られたスーツ』だ。その情報伝達速度はほぼダイレクトと言っていい。

 

しかし、千春は肌の露出を出来るだけ多くして、自身の動きをISにダイレクトに伝え安くするためISスーツの露出を高めた。

 

 

 

(そう言えば、一夏褒めてくれたっけ)

 

初めて一夏と戦った時、このISスーツが似合うと言ってくれた。

 

こころに暖かい物が溢れたのを感じた千春は、思考に移る。

 

「二割に賭ける。価値はあるはずだ」

 

 

 

千春は眠り続けている一夏の傍らに膝立ちして頬を撫で……そして、軽く唇を重ねた。

 

「…………行ってくるね、一夏」

 

今だ目覚めぬ一夏の頬を撫で、一夏の傍らから千春が離れる。

 

外は先程以上に雨が強くなり、風も強く吹いていた。空は濃い灰色。その灰色の空へ千春は手を伸ばす。

 

「『色彩(グラデーション)』、展開!」

 

灰色の装甲をその身に纏う。

 

「モードセレクト、深緑の大地(グリーン・ガイア)!!」

 

深い緑色が装甲を染め上げる。

 

「八つ当たりなのはわかってる。だが、……黙ってられないんだよッ!!」

 

 

千春のヘアバンドが淡く光り、髪が解ける。

 

 

現れるは白亜。50m程の小型船程の大きさを持つブースターの塊。突き出た円柱はエネルギータンク。

ただただ高速で移動する事を追求した重爆撃機。

 

 

 

幻想の都(アヴァロン)!!!」

 

 

 

その巨躯はまるで方舟の如く。厄災の雨を退け進撃する。

 

 

疾風雷火の如くそれは飛ぶ。

 

ただただ、殲滅する事を追求した、騎士王が住まう精霊の都。

 

妖精は福音を砕くため、都を率い剣を握る。

 

 

 

 

 

 

「……私が…もっとしっかりしていれば」

 

ザーザーと降る雨を眺めながら、篠ノ之箒は嘆いていた。

 

彼女の目の前で撃墜された織斑一夏。彼を、任せると千春に言われたのに………。

新しい力と、憧れていた彼女からの言葉に浮かれきっていた。

その、せいだ。私の、せいだ。

 

千春は悪くないと、否定してくれていたが……私は、どうしてもそうとは思えなかった。

 

もし、音速機動の経験のあるセシリアや千春が出ていた……何か、変わっていたのでなないか。自身の力、技術の無さに箒は嘆いていた。

 

 

バシッ!

 

思考の海に呑まれていた箒の背を、誰かが勢いよく叩いた。

 

「っあ!?…だ、誰だ!」

 

「全く、なぁに辛気くさい顔をしてんのよ、箒」

 

「お前は……鈴音」

 

一夏の二人目の幼馴染みであり、千春の親友。中国代表候補生、凰鈴音。

 

「何故…ISスーツを……着ているのだ?」

 

現在、専用機持ちには自室待機が命じられてており、箒もIS学園の制服を着ていた。セシリアやラウラ、シャルロットらも、同じく学園の制服を着ていることだろう。

 

なのに、鈴は未だに……いや、新たに纏ったのだろう。

戦装束である、ISスーツに。

それが意味する事は何か?。

 

「ん?奴をボコって来んのよ」

 

鈴は、何時ものふてぶてしい態度で言ってのけた。

 

「奴…福音と、戦うのか……」

 

「まぁね。うちの国としては国家代表がやられて焦ってんだろうけどで……無謀も良いとこよねー」

 

はぁ、とため息をつきながらも箒の隣を通りすぎた鈴。その様子は、何時も通りだった。

 

こんな緊急事態に(・・・・・・・・)何時も通り。

 

「何故だ!国家代表や……あの山田先生らが死力を尽くしても勝てなかった相手だぞ! それに、奴が無人機ではないことは知っているのだろう!?」

 

「…………アンタ、国家代表候補生って、なんだかしってる?」

 

「え?……」

 

望んでいた答えどころか、質問され返された。

 

わけがわからず黙っていると、鈴はニヤリと笑い、右腕の待機状態になっている甲龍を見せ付ける。

 

「候補生なのよ。……国家代表の、ね」

 

特徴的な犬歯を見せながら笑う鈴。しかし、彼女の纏う覇気は触れれば切れる刃の如き。

 

「候補といえ国家の代表であり、国家の犬なのよ。勝てないからとか、そんな理由で止まる訳にはいかないのよ」

 

「だがっ……死ぬかも、知れないのだぞ…」

 

消え入りそうな箒の言葉。

一夏はまだ、幸運だった。あそこで、殺されていたかもしれなかったのだ。

奴に挑めば……次こそ、殺されてしまうかもしれない…!

 

「ふぅん。……アンタ、今さら怖くなってるんだ」

 

「な!……今さら…だと?」

 

「当然じゃない。ISは兵器よ?。兵器で戦うんだから、間違えれば死ぬ事だってあるのよ?」

 

鈴は心底呆れたようにため息を付いた。

 

「そ…それは……」

 

「じゃあ何?アンタ……もう戦わないとか言うわけ?戦う力を持ってるって言うのに……ISを使わないっての?」

 

当然だ。学校でのIS戦ならともかく、戦場に関しては死傷者がでかねない。

 

確かに、恐ろしいのだろう。死ぬかもしれない。

誰かを傷付けてしまうかもしれない。

そんなISは……力は、要らない。

 

「……私は…戦わない。………ISは……もう…つか―――」

 

使わない。そう言い掛けて箒は、鈴に頬を殴られた。

 

 

「ざけんじゃないわよ!!」

 

「ぐっ…」

 

壁に叩きつけられて呻く箒の胸ぐらを鈴が掴み、強く引く。

 

「専用機持ちってぇのわねぇ!ハイそうですかって……気安く成れたり、辞められたりできるもんじゃないのよ!」

 

鈴の瞳には、先程の覇気ではなく、殺意が芽生えかけていた。

 

 

「う……ぁ…」

 

「アンタは専用機持ちを目指す全ての人間に、唾を掛けるような行為をしたのよ?わかる?」

 

「わ、私は……」

 

「アタシが、セシリアが……死ぬほど努力して、勝ち得た極少数の椅子。それが国家代表候補としての専用機!アンタは……それを姉妹だって理由で専用機を得た!!違う!?」

 

強く、胸ぐらを掴む。

 

「専用機を持つ資格なんて、アンタにはない。有って良い筈ない!。……けど、アンタは持ってしまった、……専用機を」

 

鈴の手が離され、箒は壁に寄りかかったまま、ズルズルと床に力なく座った。

脚に力を入れる気力がなかったのだ。

 

 

「アタシが二年も掛けてなった、専用機持ちにっ! アンタはズルをして成ったんでしょうが!!だったら!!!……せめて、戦いなさい。力を、持ってるだから。力を得たんなら!!」

 

 

パァン!

 

千春に叩かれた頬に、もう一度平手打ちを食らう。

 

 

「…………くっ…くく…ははははっ!!」

 

 

嗚呼、困ったものだ。鈴音め、恨むぞ?。

 

「何よ…何がおかしいのよ」

 

「ははっ…何、ようやく目が覚めたようだ……」

 

脚に力を込めて立ち上がった箒の表情は何処か晴れ晴れとしていた。

 

「私は並び立つと誓った。それを、思い出した。………そして、千春もそれを願ってくれていたのだ。それに、気付けなかった」

 

強く、強く拳を握る。

活力が、身体中を駆け巡る。

 

「鈴音、私も着いて行こう。戦力は有るに越したことはないだろう?」

 

「は?…正気?。箒、アンタ代表候補生でもないのよ?わかってんの?」

 

「応。理解しているさ。故に、私は自由だ。そして……『紅椿』も、私の所持品(・・・・・)だ」

 

口角を上げて笑った箒。鈴は、箒の意図を理解した。

 

「あたしは国家代表候補として……アンタは仇討ちとして……良いじゃない」

 

犬歯を見せて笑った鈴に、箒も笑う。

そして、二人が踵を返すと、そこには鈴と同じくISスーツを纏ったセシリア、シャルロット、ラウラ。

 

「バカが箒以外にも居たなんてね」

 

「鈴音、ISを展開しろ。今すぐ決着をつけてやる」

 

言葉には棘があるが、二人の表情は笑みのままだ。

 

「僕は第三世代機の福音のデータ取りだよ。スペックデータがISの全てじゃない。実際に見て、戦ってみないと分からない事もあるから。……だから、僕も一緒に戦うよ」

 

クスリと笑ったシャルロットが、首にかけた待機状態のラファール・リヴァイブに触れる。

 

「わたくしは代表候補生としてのプライド……そして同じオールレンジ攻撃を主体とした機体同士。ティアーズと銀の福音、どちらが上を競うためですわ!」

 

フフンと笑うセシリア。

 

「私には独自作戦行動が許されている。そして、このまま福音を捨て置くのは危険だと判断した」

 

ラウラは眼帯を外しており、腕を組みながら言う。

 

もはや、何も言うまい。箒よりも、彼女らの方が戦場の事を知っているだろう。

 

「……奴を、仕留めるぞ」

 

左手首に巻いた紐。それに付いた金と銀の鐘に触れる。

 

「抜刀、『紅椿(あかつばき)』!」

 

「躍りなさい、『ブルー・ティアーズ』」

 

「壊すわよ、『甲龍(シェンロン)』!」

 

「行こう、僕の『ラファール・リヴァイブ』」

 

「撃滅する。『シュヴァルツェア・レーゲン』」

 

五機のISが起動する。

 

 

彼女らは疾駆する。曇天を切り裂いて。

 

 

 

白亜の方舟は蒼白い光を放ちながら、雨の中を一直線に飛んでいた。

 

白亜の方舟、その名はアヴァロン。

 

ISでありながら到底ISと呼べぬ姿はまさに方舟。

その巨躯には20を越える砲門を有し、その加速力と多数の砲門は圧倒的な力を持つ。

 

一機で複数機の敵を相手取ることが可能な重爆撃戦闘機。

その開発思想は皮肉な事に福音と良く似ていた。

 

「敵機確認。……仕留めるわよ、千春」

 

暴風雨の中、その銀色の機体を見つけた千春は自分に言い聞かせるように呟く。

 

アヴァロンの砲台が可動し、その砲口を福音へと向ける。その砲台の数24。その一つ一つが高出力のビーム砲だ。

 

「当たれえぇぇっ!」

 

千春が叫ぶ。

それに呼応するかのように砲台から光の奔流が放たれる。

 

しかし結果として、24もの砲台から放たれたビームは、一撃たりとも福音には当たっていなかった。

 

24のビームの奔流。それ以上のビームが福音から放たれたのだ。

アヴァロンのビーム砲から放たれたビームと福音のビームがぶつかり相殺し合い、その数を上回った福音のビームが超音速で迫る千春を襲う。

 

「そんなの、効くかっ!!」

 

福音のビームは、千春の全面に展開されたエネルギーシールドによって完全に防がれた。

 

モード深緑の大地(グリーン・ガイア)

 

その特徴はエネルギーシールドを前面に一極展開する事で高い防御力を持つ。

 

本来のエネルギーシールドであれば、ビームの威力を軽減する程度で熱波や衝撃は防げないだろう。しかし、一極展開することによって強度が増したエネルギーシールドは、福音のビームを完全に弾いて見せた。

 

「フルバースト…ッ」

 

色彩(グラデーション)の武装を展開する。

右腕にガトリングガン。左肩にリニアカノン。左腕にシールド内蔵ランチャーポッド。全ての標準を福音に捉え、撃ち放つ。

 

24のビーム砲だけでなく、ガトリングガンから放たれる特殊焼夷弾(しょういだん)。リニアカノンの徹甲弾。そしてグレネード。

 

ビームと実弾が織り混ぜられたその一斉射撃に、不利と見たのか福音が上空へ逃げる。

 

 

「逃がさないよ!『剣の妖精(ソード・オブ・フェアリー)』!!」

 

ビーム砲台が飛翔する。

 

アヴァロンが搭載するビーム砲台、その全てがBT兵器なのだ。24機のビットが空を舞う。

 

 

 

 

「―――――♪―――――」

 

 

 

 

 

それは歌。福音は祝福の、歌を謳う。

 

 

「!!?」

 

福音の歌と共に福音の全身に光りが集まり始める。

不味いと感じた千春がビット全基で福音を狙い撃つ。24ものビットから放たれるビームは蹂躙に他ならない。

 

しかし、その全てが、掻き消えた(・・・・・)

福音の纏う光に触れた瞬間霧散した。

 

より高出力のエネルギーと衝突したビームが弾けたのだ。

 

つまり、あの光は、エネルギーの塊。

 

あの光に触れたビームが霧散するほどの、高出力。

 

 

 

瞬間、暗雲を切り裂き空に光の柱が現れた。

 

 

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