五人の少女達は空を切り裂く勢いで、空を疾駆していた。
「……」
「電波妨害が激しい。恐らくお姉様のジャマーだろうな」
砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲン。その搭乗者であるラウラが反応しないレーダーや探索機器を見て結論付ける。
計器には雨音よりも激しいノイズが走る。
「ここまで高性能なジャマーはブリュッセル製のハイパー・ジャマーくらいしかないからね。僕らの近距離通信でさえ通信阻害が若干入るくらいだしね」
ラウラに続き防御パッケージの重鎧を装備したラウァール・リヴァイブ・カスタムの主、シャルロットが四人に向け千春の乗機である
「織斑先生に見付からずにすむと思うと、千春さんに感謝すべきでしょうか?」
『ブルー・ティアーズ』を纏い五人の先頭を爆走するセシリア。そのティアーズに装備されているのは強襲離脱用パッケージ『ストライク・ガンナー』。
主武装である『スターライトmkⅢ』にスラスターユニットを取り付け、そのユニットにバイクの用に跨がり、本来機動砲塔であるビットをスカート状に装備してスラスターとする超加速に特化したパッケージだ。
また、従来のハイパーセンサーである初期バイザー型のハイパーセンサーに酷似したネオ・ハイパーセンサーを装備している。
「んな訳ないじゃない!……千春の馬鹿…っ!」
中破した
鈴は戦場で戦ってるであろう親友を思い叫んだ。
「しかし、千春もいるなら勝率は跳ね上がる!。急ぎ参戦するぞ!」
高速飛行型に全身の装甲を可動させ
箒はその身に溢れんばかりの闘気を纏う。
箒の言葉に頷いた四人は思考を戦闘に切り替え始め、――――そこで光を見た。
「!?……何事だ!」
普段から人一倍冷静であるラウラが叫ぶ。
それもその筈だ。彼女らが見たのは極光。
天を貫く極光だ。
極光に貫かれた暗雲は一瞬にして消し飛び、一瞬にして海域は晴天となる。
そして、次いで訪れたのは、
『雨』
ビームの無数の柱だ。
先程までのビームの雨など児戯の如き量のビームが、空一面から降り注ぐ。
それはまるで神殿の柱ようで、その実破壊の権化。
「千春!!」
鈴が叫ぶのと同時に、声が響く。
『モードセレクト、
血戦が、始まる。
◇
「モードセレクト、
視界を覆う程の光に貫かれ、アヴァロンは一瞬にして大破にまで追い込まれた。アヴァロンを待機状態のヘヤバンドに戻すと、千春は雨の中を舞う。
加速する思考と比例して千春の機動は鋭敏化されて行く。
極光を放って動きを止めていた福音がゆっくりと翼を広げ、飛翔した。
「舞え、フェザー!!」
それを真紅の羽が追う。
福音は迫る真紅の羽に向けビームを放つ。
ブォンッ――――
羽は、それを切った。
「切り裂け!!」
セシリアの『ブルー・ティアーズ』を基に開発されたそれは、ブルー・ティアーズのビットより大型で、エネルギーを喰う。
しかし、千春がそれを色彩に装備させるだろうか?。
ISの技術は一部を除き、必ず公開されなければならない。公開された情報には、『ブルー・ティアーズ』も含まれていた。
公開されているのだ。なのに、なぜブルー・ティアーズと比べ低性能のビット『フェザー』を搭載していたのか。
その理由は、ビームを撃つだけではなかったからだ。
フェザーから延びた翠の光は刃を形成している。
この刃が、福音のビームを切り裂いた。
機動砲塔『フェザー』。
砲台として、そして剣としての姿を持つ機動兵器。
それが、千春がフェザーを搭載している理由。
ザシュッ!
フェザーの一基が福音の翼に突き刺さる。
ザシュッ、ザシュッザシュッ!!
二基、三基四基と続けて福音の装甲にビームの刃が突き刺さる。
エネルギーシールドを
『――――!――――』
福音が驚いたように電子音を上げる。
無理も無い。普通、エネルギーシールドを貫いて、絶対防御すら無視して攻撃出来る武器など、無いのだから。
そして、これが今まで使わなかった理由が、エネルギーシールドを貫いて直接操縦者へ攻撃をする条約違反の武装だったからだ。
「……沈め!」
フェザーのビームの刃が消え、矢となり福音を貫いた。
『!!!!!!』
ギギギギ、と唸り声のような音を出しながらも、福音はその場で持ちこたえた。
「逸らされた、か。……」
ビームが放たれる瞬間に身を捻り致命傷を避けたのだろう。暴走状態に思えない挙動に眉を潜めるも、千春の目的に変わりはない。
福音を墜とす。
それだけだ。
カシュカシュッ!
フェザーが音をたてて
ブォン―――
福音が千春へ向け高速で飛来しながらビーム手刀を展開、肉薄する。
「来い、『ウロボロス』!」
千春が展開したのは両刃の大剣。
しかし、その刃にはカッターの刃のような刀身に折り目らしき物が走っている。
ガキィッ!!――
激突。福音のビーム手刀と色彩の大剣がぶつかり合う。
「ふっ…ぐっ、ううぅっ!!」
鍔競り合いで圧される。不利と判断した千春は横に向けての瞬時加速で鍔競り合いを逃げた。
『――――――――――』
それを福音は追う。化け物じみた加速力で瞬時に千春との距離が詰められる。
「――っ、貰った!!」
急停止から後方への急加速。一瞬にして福音の背後を取った千春が剣を振るう。
ジャカッ…ジャララララララララッ!!
刃が、分裂した。
刀身が分裂した『ウロボロス』が、蛇の如き軌跡を描き福音へ絡み付く。
『ウロボロス』近接武器でありながら中距離に対応する程伸縮自在の伸びる刃。
蛇腹剣ウロボロス。
「
巻き付いた刃が切り離され、刃一つ一つが炸裂する。
ドウウゥゥッ!!
海面を揺るがす程の爆発。
その爆発を眺めながら、『ウロボロス』を元の長さま戻す。
ジャララララララララ、と音が鳴る。
「これだけやれば……いくらリミッターを外したISだからってただでは……――――!?」
ビシュゥッ!!
爆煙が弾け飛び、ビームが迫る。
まだ、撃墜には至っていなかったのだ!
「ちぃっ!」
類い希なる思考処理速度を持つ千春。その思考に機体が追従する。
バレルロールする事でビームを回避した千春。
「!?」
その千春に、福音が肉薄する。
ガシィッ!
「こいつっ」
待機状態にしたアヴァロンにより束ねられたサイドテールを、福音が掴み乱暴に引っ張る。
捕まえた。
とでも言わんばかりにビーム手刀を展開した福音の、手刀が、千春の背中を、腹を、貫いた。
ズシュッ!
「!?」
溢れる鮮血。身を貫くビームの刃は更に深く、身を貫いて行く。
「がふっ!……」
口からせり上がった血がゴボッ、と音を立てて吐き出される。
吐血した血がISスーツに掛かる。
「ご……のォッ!!」
フェザーの一基がビームを放ち掴まれていた髪を焼き切り、福音のビーム手刀から逃れる。
ビシュゥッ!
「ヅ!?……がっ…!」
貫かれる。ビームに、身体が貫かれる。
福音から放たれるビームが千春の四肢を穿つ。
ビシュゥッビシュゥッ!!
「ギッ…ああっ!!」
続けて放たれるビームを受けながら、瞬時加速で距離を取る。
「フェザー!」
六基の羽が舞い、放たれたビームを切り裂く。
「この程度で、殺ったと思うな!」
身体のあちこちをビームで貫かれなお、千春の思考速度は変わらない。
痛みと言うノイズが入らないから、思考速度は変わらない。
戦いの前に打った薬品が、痛み止めであり興奮剤だったからだ
『ウロボロス』を量子化し、次いでビームライフルを展開する。
『――――!――――』
降り注ぐビーム受けながらライフルを福音へ向けビームを放つ。
肩や脚を貫かれても問題は無い。
精確な射撃を行いながら千春の並列思考の一つは思考する。
(ビームの出力、連射、砲門数で負けている。白兵戦も負けている。唯一互角なのは、『紅き痛み』使用時の機動力のみ。……そう、機動力だけは負けられない!)
福音がウィングスラスターに狙いを変え始めたのを察知し、射撃を止め回避に専念する。
(技量の差は、『思考稼動』で追いすがる!!)
踊る。空で、千春は踊る。
身を貫こうと迫る光の奔流をその身体捌きで避け尽くす。
『
武装と言うよりもシステムと呼んで良いであろうそれ。
それは、ISの適性値を無にしたシステムでもあった。
そもそも、IS適性値とは何か。
IS適性値とは、その人物が持つISへの適合値でもある。……さて、IS適性値とはどうやって調べるのだろうか?。
これは、ISがどれだけ操縦者の動きに追従するかにより、決められている。と公式に発表される。
しかし、実際は違う。
ISが、IS自身が操縦者の身体の遺伝子まで全ての身体データを調べあげた、どれだけ『ISを動かす上で、どれだけ人として優れているか』と言う数値だ。
優れた身体能力、反射神経など、人としての才能や才覚を『数値』として表している。
それが、千春がISコアを解体し、調べ上げた事実だ。
またISは性別が女でなければ動かせないと言う大前提がある。
しかし、それも実は否だ。
一夏と言う生きた証言者もいる。
ISは、
そして『思考稼動』は、その意思をねじ曲げる。
人を守ろうとする意思の一つが『絶対防御』。
故に『思考稼動』を用いている最中はISの意思をねじ曲げているために『絶対防御』が発動しない。
ISを動かすには、身体を動かす必要が絶対にある。確かに、飛んだりするのには多少の思考を要する。
だがしかし、何よりISの動きは人の動作の延長であり、人の動作の追従だ。
そして、千春は少しマラソンをしただけで動けなくなるような子供程度のスタミナしかない。
そんな身体でISを扱っても、『一夏を守れない』。
だからこそ、他者より抜きん出た『思考速度』『並列思考』を惜しみ無く使える機体を目指した。
そして、『思考稼動』は完成した。『ISの挙動』を全て脳内で処理する事によって。
イギリスのBT兵器を元に開発された『思考稼動は』、意思をねじ曲げられたISの代わりに、全ての動作を思考して動かす。
(この際、BT適性値がセシリアと並んで、最高値だと知る)
通常の操縦者はISを身体で動かす。それができないから、千春は思考力でISを動かす。
思考をダイレクトに動きに変える。『思考稼動』によって………。
「思考速度は、誰にも負けない!!」
動くより先に考える。簡単なように見え高度な技能で福音との高機動戦に対抗する。
弾が切れたライフルを破棄しフェザーを展開しようとした時、突然その声が聞こえた。
―――コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ―――
「!………この…声は…」
頭の中へ響く誰かの声。
千春は福音のビームを回避しながら辺りを見回し、声の主を探す。
―――ナンデ、ミンナイジメルノ?ワルイコトシテナイノニ―――
ISの通信ではない。何か、何かが頭の中へ流れ込んでくる。
ズキン。
治癒したはずの腕が、痛んだ。
「そんなっ…ナノマシンを想定して作ったはずの沈痛薬がっ!」
多く血を流し過ぎたのだ。
そして、新たにナノマシンによりつくられた血には薬品は含まれていない。
薬品の血中濃度が下がってしまった。
「――ぁっ」
閃光が、千春の胸を貫いた。
ズキン。ズキンズキン。
「―――――……っ」
バツンと、千春の意識がシャットダウンした。
心臓を穿たれ、理解を越えた痛みに脳が反応したのだ。
千春の思考が絶たれればISは動かない。いや、落ちて行く。
深い青の海へ、千春は鮮血を撒き散らしながら落ちて行く。
落ちて―――行く。
◇
ざざぁぁん………ざざぁぁん
波の音が聞こえる。とても、とても穏やかな波だ。
(……なんだろう……すごく、心地良い…)
妙な浮遊感と揺れるような感覚は、疲れきった身体には揺りかごのように感じられた。
まるで胎児のようにうずくまっていた少年は目を見開き、そこでようやくこの世界を見た。
「……ここは、どこだ?」
少年が居たのは、海岸だった。
先程までの波の音は海が近かったからか。
なら、あの浮遊感は?
少年はさく、さく、と澄んだ音を鳴らしながら足元に広がる白砂を踏みしめ歩いて行く。
ふいに、水が弾けた。
水面に一滴の水が落ちたような、ぽたん。と音を立てて。
その音に振り替えると、そこには、少女が一人、佇んでいた。
潮の匂いと熱気を孕んだ風が少女の髪を揺らす。太陽の光に照らされて眩いほどに輝く白の髪。
髪と同じ色のワンピースが、風に掬われ、時折ふわりもふくらんでは舞った。
(…………)
少女はサンダル片手に波打ち際で遊んでいた。
打ち寄せる波を蹴り、足跡を濡れた砂に残す。
少年は何故だが声をかけようとはせず、近くにあった流木へと腰を下ろす。
その木は随分昔に打ち上げられたのか、樹皮は剥げ落ち、色も真っ白になっていた。
時折吹く風が心地よく、形の歪なソファに身を横にする。
ざざぁぁん………ざざぁぁん。
横になりながら少女の方を見てみると、少女が少年を見ていた。
正確には、少女から見て少年の奥にいる、男。
「やぁ。何やら、懐かしい所であったな」
見た目は二十代後半だろうか。
爽やかでありながら、歳を重ねられた面影が見える。
少年から見てもとてもカッコイイ男だと思った。
「どうした、少年。そんな所で寝ていて」
青年とも呼べる男の言葉に、少年は首を傾げた。
「おじさんは、誰?」
少年の言葉に、男はニコリと笑って少年の頭を少々乱暴に撫でた。
少し痛かったが、その行為に敵意は感じられず、むしろ優しさが感じられた。
「強いて言うなら、君の先輩だよ。人生のな」
男はそう言って、少年の隣にすわった。
ざざぁぁん………ざざぁぁん。
波の音が、世界を包む。