IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 45 『白砂を踏み越えて』

 

 

 

「よくも、千春をおぉぉぉっ!!」

 

千春が撃墜された瞬間を見せられた鈴は怒りの形相のまま双天月牙を振り回し福音へ向け吶喊(とっかん)する。

 

 

「今はお姉様より奴だ!奴を倒さない限り安全にお姉様を救い出すことは叶わん!」

 

「でしたら、連携で速やかに落としますわよ!」

 

「了解!僕はフォローに回るよっ」

 

「なら、先手は貰うわ!!」

 

「構わん。行け鈴音!!」

 

福音はこちらに気づくとボロボロの装甲から幾十のビームを放つ。

 

「鈴音!」

 

「舐めんじゃ、ないわよッ!」

 

弾幕に突撃をかます鈴に箒が叫ぶも、当の鈴は最大加速のまま弾幕を突破して行く。

 

 

バシュ!バシィン!!

 

双天月牙に触れたビームが霧散する。対ビーム兵器用のビームコートを施された双天月牙はビームの雨をバターを切るように切り裂き他機へと放たれたビームの全てを切り捨てた。

 

「受けてみなさい!龍の咆哮を!!」

 

胸部追加装甲が開き、そこへ圧縮された空気が集う。

 

「最大、『咆哮(パオシャオ)』ッ!!」

 

『虎狼』に搭載されていた空間圧縮兵装衝撃砲『咆哮』。

エネルギー消費こそ高いものの『甲龍』の両肩の衝撃砲の威力を凌駕する一撃を持つ。

 

龍がその(アギト)を開き、喰らい付く!!

 

バアアァァンッ!!

高圧縮された空気の塊が福音に激突する。

 

吹き飛ばされ装甲を撒き散らしながらも体勢を整えた福音を、ラウラの金色の左目が捉えていた。

 

「突破口はファン・リンインが開いた。続くぞ!」

 

ラウラが全ての砲門を福音へ向け、鈴が『咆哮』を放ったのと同時に一斉射撃を放つ。

 

両肩になったリニアカノンから放たれる亜音速の榴弾は的確に福音へ向け放たれた。

 

『―――!―――』

 

鈴との近接戦に移行しようとした福音に榴弾が激突する!

 

エネルギーシールドこそ貫通はしなかったものの、その運動エネルギーに吹き飛ばされた福音は体勢を崩しながらも後退した!。

 

「そこ、ですわ!」

 

巡航形体(クルーザーモード)を解除し、長大なレーザーライフル『スターダストシューター』を構えていたセシリアが体勢を崩した福音の頭部へ高出力のレーザーを放つ!。

 

しかし、レーザーは翼を焼き貫いたものの直撃にはならなかった。

 

それを、

 

「貰ったよ!」

 

アサルトライフルを構え、加速しながら弾丸を放つシャルロットが繋ぐ!!。

 

ズガガガガガガッ――。

 

一マガジン分を撃ち放ったシャルロットがパイルバンカー『灰色の鱗殻(グレースケール)』の杭を福音へ打ち込む!!。

 

ズガンッ!!

 

「金縛りにする!!」

 

全身のスラスターを全開にしたラウラが腕を伸ばしながら福音へ肉薄する。

シャルロットのパイルバンカーにより吹き飛ばされた福音を絶妙なタイミングで絡め取る。見えない鎖に捕らわれた福音は身動きを封じられた。

 

 

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉッッ!!!」

 

 

遥か上空から、深紅の流星が福音へ向け落下する。

それは『紅椿』を纏った箒だ。

無理な加速に身体が痛む。しかし、

 

「この程度の痛み……千春は笑って堪えられるのだろうな!!」

 

『紅椿』専用武装、両腰に携えられた二振りの刀に箒が触れる。

 

「篠ノ之流……ッ」

 

トップスピードのまま、福音に向け落下(・・)する!

 

シャァキィンッ!!―――

 

紅椿と福音が交錯する瞬間、二条の煌めきが走る!。

 

「―――秋時雨!!」

 

煌めきと共に、福音の両翼が切り裂かれた。

 

チャキッ。

 

箒はそのまま落下し海面スレスレで急停止して刀を納刀した。

 

ザバアアアァァンッ!!

 

間断なく続いたコンビネーションに福音が耐えきれず、海面に叩きつけられた。

 

 

「……やった…の?」

 

シャルロットの言葉にラウラは首肯で答えた。

 

「連戦に続く連戦だ。流石の奴も耐えきれなかったのだろう」

 

「そんなことより、千春をっ!」

 

「待て!」

 

鈴が海面に突っ込もうとするのを、箒が制した。

 

「何よ箒!速くしないと、千春がっ――――」

 

「まだだ。……まだ、奴は生きている」

 

箒の両眼が海面を見据えている。その瞳は、黒から、銀の輝きへと変わっていた。

 

「箒…さん?」

 

「来るぞっ……」

 

箒の言葉に呼応するように、海面から、淡い翠の光が溢れ出す。

 

箒が見た未来像の如く、海面を吹き飛ばし、強烈な光の珠が海面上に現れた。

 

五人はその光の珠の中に、青色の雷を纏う胎児のように自らを抱いてうずくまっている福音の姿を見た。

 

「!? まずい!これは『第二形態移行』だ!」

 

ラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応するかのように福音がその顔を向けた。

 

無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れない。

けれど、そこに確かな敵意を感じて、各ISは操縦者へ警鐘を鳴らす。

 

 

しかし、それは遅かった。

 

『――――――――!!!!!!!』

 

福音の産声と共に、切断された福音の翼が生えた。

エネルギーの、翼が。

 

その光の翼が、爆ぜた。

 

 

 

 

 

ざざぁぁん……ざざあぁん。

 

波音と共に熱気を孕んだ風が髪を揺らす。

 

少年は歪なソファに腰かけたまま、隣に座った男を見ていた。

 

男は隻眼だった。

 

右目を失っていた。だが、醜いわけでなく、それが逆に男の逞しさ、力強さを増しているのだ。

 

「懐かしい、場所?」

 

「ん。ああ、いつだか俺も来た事があったんだ。遠い昔に、死にかけてな」

 

男は頬をポリポリと掻きながら答える。

 

「それじゃあ……ここはどこ?」

 

少年はここが到底地獄には思えなかった。しかし、天国なら天国で寂しいなとも思った。

 

「さぁな。気づいたら此処に来てたからさ」

 

「ふぅん」

 

少年は歪なソファから降りて、男の前に立った。

 

「おじさんは、あの子の事知ってるの?」

 

勿論、あの子とは白い髪の、あの少女だ。

 

「お前は解るか?」

 

逆に聞かれてしまった。

 

「僕は…わかんない」

 

少年は頭を振った。

 

「もしかして、気になるのか?」

 

「ち、違うよ!そんなんじゃない!」

 

「はは、だろうな。お前には大好きな女の子が居るもんな~」

 

「う~、う~!!…………え?」

 

男のニヤニヤした顔に、バカにされたと思った少年は呻く。そして、何故か男の言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

「お前には命を掛けて助けたい子が居るもんな…………そうだよな。好きな女を置いて、自分のガキを置いて死ぬような男は、ダメだよな」

 

男は苦笑と共に立ち上がった。

 

「おい、がきんちょ」

 

男は少年の頭をガシガシと掻くように撫でた。

 

「守れよ、愛した女を」

 

男が手を話すと、少年は頷いた。

 

「さて、みんなが呼んでる。進まなきゃな」

 

そうして、男は歩いて行った。

 

さくさく、さくさくと、白砂を踏み越えて、歩いて行く。少年の遥かな先を、歩いて行く。

 

 

「おじさん!」

 

どんどんと小さくなっていく男の背中に、少年は声をかけた。

 

「おじさんの名前、聞かせて!」

 

男は少年の言葉に足を止め、振り返った。

 

「いつか、また会おう」

 

それが名前でないことを少年は理解した。

それは、ただの再会の誓いだ。

 

だから、名前は次の時に聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのよアイツは!?」

 

暴風雨の如く迫る無数のビームを、連結した『双天月牙』で弾きながらも回避する鈴が叫ぶ。

 

「すごい弾幕っ。このままじゃ奴に近づく前にやられちゃうよ!」

 

大楯を展開して致命傷を防ぎながら右に左に、ステップするように加速してビームを避けるシャルロットが嘆く。

 

「よくもまぁ近距離から遠距離まで、まんべんなく降り注げるものですわね!お陰で回避だけで手一杯ですわ!」

 

迫るビームを高加速で振り切りながらセシリアが、『スターダストシューター』の銃口を向けられず舌打ちする。

 

 

「全機回避行動を密にしろ!固まるな、狙い落とされるぞ!」

 

両腕のレーザー手刀で迫るビームを切り裂きながら全員に指示を飛ばすラウラ。そのラウラも、ビームの弾幕のあまりの濃さに前進出来ず苛立つ。

 

 

奴、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が第二形態移行してから、戦局は大きく傾いた。

 

形態移行した事により回復したエネルギーと、修復、変化した装甲。

 

連戦による消耗は完全に無くなっていた。

 

それだけではない。第二形態移行した事により新たな攻撃が増えた。

 

エネルギー翼からの全方位に向けての超連続射撃。

 

これにより五人は弾雨を突破出来ずにいた。

 

「……くっ。……こんな時…、千春と……一夏がいれば…!」

 

深紅(ふかべに)のISを纏い、空を疾駆する箒が、呻く。

 

箒の盾となって敵の攻撃をその身に受けた一夏。

一夏を守れず、怒りに染まり、()にその身を穿たれ海に沈んだ千春。

その二人とも、この場にはいない。

一夏は意識不明、千春に至っては生死が不明だ。

 

あの二人が居れば、こんな状況も覆せるであろうに、と箒は思考する。

 

 

それが、マズかった。

 

 

「っ!?くぅっ、あぁっ!!?」

 

「箒!今い…うわぁっ!」

 

()のビームを食らい、一瞬姿勢を崩した所で、弾幕(・・)に捉えられた。

走る衝撃、身を焼く熱波。箒はビームの雨に晒され岩礁へ落ちた。

 

それを見たシャルロットが助けに向かおうとするも、シャルロットもまた弾幕に飲み込まれ撃墜された。

 

 

 

「ちぃっ!!」

 

その二人を視界の端で見てラウラは舌打ちする。

 

「これが、軍用ISか……我々のような実験機ではなく、『殲滅』を目的とした、戦闘兵器と化したIS…!」

 

箒とシャルロットへ向けられていた分の砲口がこちらへと向いたのをラウラは感じた。先程の比ではないほど、弾幕が濃くなった。

 

装甲が穿たれる。遂に、避けきれなくなって来たのだ。

 

…………ここまで、か。

 

 

ラウラは自身が撃墜される様子を思い浮かべ、苦笑した。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁっ…何よ、残り物には、興味がない、っての?……ざけんじゃ…っ、ないわよ………っ」

 

雨は止んだ。鳳 鈴音を除く専用機持ちが全員撃墜されて。

 

白銀の翼を持つ奴が、大空で滞空したまま、眼下の鈴を見下しているように見えるのは錯覚ではないだろう。

 

「はぁ……はぁ…っ」

 

身体の内側から何か、熱い物が込み上げてくる。それが何か、鈴にはわからない。

わかるのは、奴を叩きのめしたいということだけ。

 

 

 

「……このっ、……動きなさいよっ!」

 

ギシギシと鳴るだけで一切の挙動が出来なくなったIS。ああ、本当にむかつく。

 

 

 

 

コオォォォォォォォオッッ!!

 

 

 

奴がエネルギー翼を広げる。すると、その周囲から淡い光が現れ出す。

 

 

 

「なるほど、……纏めてって、わけ」

 

 

その光はドンドンと大きくなって行く。夜明けの光かと見間違うほど大きくなった光はやがて………

 

 

 

 

 

 

 

 

空は、夕日になっていた。

 

あの夏の空のような晴天は茜色に代わり、夕焼けが身を包む。

 

ざざあぁん………ざざあぁん。

 

波の音も心なしか切なく聞こえる。

 

 

 

 

ぽたん。

 

また、水の弾ける音を聞いた。水面に落ちる一滴。

 

 

少年が振り替えると、そこには白い甲冑を身に纏った女がいた。

大きな剣を自らの前に立て、その柄頭に両手を置いて。

顔は目を覆うガードに隠されて、下半分しか見えない。

 

―――力を、欲しますか?―――

 

その鎧の女は、口を動かさずにそう、言って来た。

 

「ん。……そうだな…確かに、欲しいかもな」

 

少年は、青年になっていた。

 

 

―――何故、欲しますか?―――

 

 

青年は頬をポリポリと掻きながら苦笑した。

 

「大切な人達を守りたい。や、なんつーか、力で危険な事から大切な人を守りたいってのもあるんだけどな?……大切な人達と、一緒に居て、戦いたいだけ、なんだよな」

 

周りの奴等、皆俺より強いし。

 

青年は苦笑しながらも、どこか嬉しげにそう言い切った。

 

 

―――大切な人達………―――

 

「そう、そうなんだよ。 結局、一緒に居たいから守るなんて言ったんだろうな。一緒に居て、一緒に笑ってたくて………千春(・・)の笑顔を見たかったんだ」

 

青年………いや、一夏は自分の言葉に頷いた。

 

「俺は千春の笑顔が見たい。千春が泣くのなんてごめんだし、千春が傷つくのもみたくない。いつもの千春で居て欲しい。だから、俺は力が欲しい。千春を安心させたいから」

 

俺は、ゆっくりと空を見上げた。

 

 

空は、星々に包まれていた。

 

 

 

ざざあぁん………ざざあぁん………。

 

 

波が彼を呼んでいる。

 

彼はその波に答えるように歩き出した。

 

 

さくさく。さくさくと、白砂を踏み越えて。

 

 

 

 

 

 

散った。

 

 

「!」

 

臨界まで溜められていた光が、何者かによって、霧散された。

 

「……あれは…」

 

白銀の瞳を空に向けた箒がその何者かを捉えていた。

 

白亜の鎧に身を包み、一振りの刃を持つ者を捉えていた。

 

「一夏…一夏、なのか?」

 

岩礁に叩きつけられていた身を起き上がらせながら箒は問う。

 

箒の頬に、熱い物がながれ落ちる。

 

ぽたん。

 

涙が落ちた音に、その者は振り返った。

 

 

「ああ、待たせたな」

 

ニヤリと笑って見せた青年は、新たな姿を成していた。

 

「それは……形態移行?」

 

シャルロットの言葉に彼は笑みのまま首肯した。

 

「待って…いたのでしてよ?一夏さん」

 

待たせたな。そう青年は言った。

 

「……フッ。流石私の嫁だ。……戦えるな、一夏?」

 

任せとけ。そう親指を立てた

 

「たく……遅いのよ」

 

悪い。一夏は笑って答えた。

 

 

「……一夏っ、本当に、一夏なのだな!?体は、傷はっ…!」

 

岩礁に降り立つと、箒が泣きながら言葉を詰まらせる。その箒を見て、一夏は思い出したように何かを渡して来た。

 

「箒のリボン、焼けちまってんな。代わりといっちゃなんだけどさ、これ使ってくれよ。……誕生日、おめでとな」

 

箒が受け取ったのは焼け落ちてしまった箒のリボンとは別のリボンだ。

 

少し高い物なのだろうか。純白のリボンは決め細やかで淡く光るように見えた。

 

七月七日。七夕の日。

 

七夕は箒の誕生日だ。

 

その、プレゼントだ。

 

箒は、堪えきれず声を出して泣き出した。

 

 

 

 

「無事で…無事でよかったっ…」

 

泣き出してしまった箒の頭を軽く撫で、一夏は空に佇む福音を見上げた。

 

その形状は当初戦った時と姿が変わっていた。

 

奴もまた、一夏と白式のように次のstage(段階)へと辿り着いている。

 

「一夏!」

 

「鈴か。……(わり)ぃ、千春を頼む」

 

「あんた…知って…」

 

首肯で答えた一夏は両翼を広げ、空へ翔んだ。

四基に増えたウィングスラスターによる高速飛翔により、福音との距離が一瞬で詰まる。

 

 

「灯れ、零落白夜!!」

 

雪片から光が延び刃を形成する。 その刃を一夏は振るう。

 

「うおおおおおぉぉッッ!!」

 

大きく振り上げた光刃を勢い良く振り下ろす!

 

「ぐっ……そうだよな、見切られてんだよなぁっ!」

 

振り下ろした刃を避けられ、その勢いで回し蹴りを放った福音の蹴りを腕で受け、一夏は獰猛な獣のようにニヤリと笑い蹴り返す。

 

「さぁて…じゃあ新装備のお披露目といきますかぁっっ!!」

 

距離を開けた一夏が左腕を福音へ向ける。

 

カシュ、と乾いた音と共に左腕に装備(・・)された武装が可動(・・)し、左腕の可動部分から砲門が現れる。

 

 

雪羅(・・)ぁッ!!」

 

砲門から漏れるエネルギー。数秒のチャージ後に、光は放たれた!!

 

『―――!!―――』

 

エネルギー翼から収束された光が、福音から放たれる!!

 

 

キイィィィィィ――――ッッ!!

 

一夏の放つ荷電粒子砲と、福音が放った高出力のビームが衝突し合い、高周波音となり、次いで爆発音が周囲を包んだ。

 

 

「今のは…荷電粒子砲!?」

 

シャルロットが声を上げる。

原初にして頂点を誇っていたISである白騎士も装備していた荷電粒子砲。

 

射撃装備が装備できない白式に、荷電粒子砲が搭載されている!。

 

 

 

「行くぜ、福音。……今回は負けないぜ?」

 

雪羅を福音に向けたまま、一夏は笑って見せる。

 

決戦の刻が、迫って来ていた。

 

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