IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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stage 4 『剣道小町と北欧の魔女』

「ところで織斑、お前のISだが準備まで少々時間がかかる」

 

「へ?」

 

「予備機がない。だから少し待て。お前の機体は学園で用意するようだ」

 

「???」

 

前の時間に習った専門用語を書いたノートに、千春から貰った辞書を用いて翻訳していて気づかなかったが、今は二時限目らしい。

突然振られた言葉に思い辺りがあるはずもなく、俺がちんぷんかんぷんでいると、教室中がざわめいた。

 

 

「せ、専用機!?一年の、この時期に!?」

 

「つ、つまりそれって政府からの支援が出るって事で……」

 

「ああ~。いいなぁ……私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 

一体全体どういうこと?

なにがそんなにうらやましいのか。

 

「教科書六ページ。音読をしろ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、そこ中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、その全てのコアを作る技術は篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状態にあります。

しかし博士はコアを一定数以上作る事を拒絶しており、各国家・企業・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取り引きする事はアラスカ条約第七項に抵触し、全ての状況下で禁止されています』

 

 

「つまりあれだ、国家にも属してなくて企業なんかにも属してない俺は特別待遇と」

 

「理解が早いのか悪いのかわからんな。そうだ、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される事になった」

 

 

にしても専用機か…なんかこう、胸が熱くなるな。

 

「あ、あの先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なのですか?」

 

 

女子の一人がおずおずと挙手して千冬姉に質問する。

 

……まあ、篠ノ之なんて名字はそうそうないし、いつかはバレるよな。

 

 

―――篠ノ之束(たばね)。

ISをたった一人で作成し完成させた稀代の天才。千冬姉の同級生で、そして箒の実姉。

天才なんて言葉でくくり付けておくのも愚かしい程の天才。

 

もはや人外魔境、『鬼才』とか『神才(しんさい)』と呼んだほうが正しいだろう。

 

 

「ああ、篠ノ之はヤツ―――篠ノ之束の妹だ」

 

 

 

おい教師、個人情報バラしてもいいんかい。

 

大体、束さんは今超国家法に基づいて絶賛手配中の人物だ。

犯罪者というわけじゃないが、各国には国の思惑があり……

 

 

(まぁ、束さんにとっちゃどうでもいい話なんだろう)

 

 

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内が二人もいる!」

 

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」

 

授業中だというのに箒の周りに女子がわらわらと集まる。

 

おお、これは端から見てるとなかなかおもしろい光景かもしれん。道理で俺の時にも誰も助けてくれないわけだ。

 

(そういや千春が鍛えてくれるって言ってたが、一体どんな感じになるんだろ。放課後に第三アリーナだったっけ)

 

 

 

「あの人は関係ない!」

 

突然の大声。俺は思考を中断されて、ぱちくりと瞬きした。

 

見ると、箒に群がっていた女子達も軒並み同じような表情をしていた。

 

「……いきなり大声を出してすまない。しかし私はあの人じゃない。教えられるようなことはなにもない」

 

 

そう言って、箒は窓の外に顔を向けてしまう。

女子は盛り上がったところに冷や水を浴びたような気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。

 

(……箒…)

 

背中から箒の表情がわかるはずないのに、何故か俺には箒の表情が手に取るようにわかった。

 

 

「さて、授業を続ける。山田先生」

 

「はっ、はひ!」

 

こんな状況でも構わずマイペースな千冬姉を尊敬するよ。

 

山田先生も箒の事が気になる様子だったが、そこはやはりプロの教師。

慌てながらも授業を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 

はぁ、なんで休み時間早々俺の席にやってきて腰に手をあてて偉そうなポーズとってんですかセシリアさん。

 

お前好きだねそのポーズ。

別にどうでもいいが。

 

 

「まぁ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

 

 

ガリガリガリガリ。

 

ノートに先程習った事を書き写す。

辞書を用い、専門用語を理解した上で書き写すので、よく理解できる。

 

 

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

「人の話しをお聞きなさい!」

 

バシンッ。セシリアか机を叩き声をあげる。あ、ノートが落ちた。

 

 

「あぁウザったいなあんたはもうっ!!あんだよ、珍しく猛勉強中の俺を止めやがって!フェアだかフェラだか知らねぇが少し黙っててくれ!」

 

「はっ、はは破廉恥ですわ!これだから男はっ!」

 

「呆れたならどっか行けよ!これだからドリルはっ!」

 

「なんですって!?」

 

「なにおう!?」

 

むぎぎぎぎぎっ!!

 

額と額をぶつけて一進一退の攻防。

 

このドリル、なかなかやる。天を穿つドリルは伊達じゃないぜ。

 

 

「まぁまぁ落ち着け一夏、セシリアさんも落ち着いて」

 

 

そんな俺とセシリアの間に割り込んで来たのは千春。

 

 

「千春…」

 

「み――ブリュッセルさん…」

 

「千春でいいよセシリアさん。でさ一夏、今日の訓練なんだけど篠ノ之さんも連れてきてよ」

 

クスリとセシリアに笑い、次いで俺に微笑みかける。

 

 

ん?

 

「なんで箒?」

「なぜ私が!?」

 

ガタッと音がすれば、箒が慌てたように立ち上がっていた。

 

 

「あ、ちょうどよかった。打倒セシリアさんのためにどうしても力を借りたいのよ」

 

千春はセシリアをチラと見てから両手を合わせて頭を下げた。

 

 

その一連の動作を見てセシリアはふふんと鼻を鳴らす。

 

「わたくしに勝利出来ないのを知りながら、無駄な努力ですわ」

 

「やってみなきゃわかんねぇじゃねぇか!」

 

「わかりますわ。あなたとわたくしには歴然とした実力の差がありますもの。例え専用機を得たところで、素人に変わりないあなたを下すなんて赤子の手を捻るが如くですわ!」

 

 

セシリアは今にもおーっほっほっほっほっ!と笑い出しそうな勢いだ。

 

 

「おーっほっほっほっほっ!」

 

あ、ホントに笑った。

 

「…………」

 

箒と言えば、ぶすっとどこかむくれたような顔で千春を見ていた。

ぶすっとと言ったが別に箒がブスなわけじゃない。

幼馴染みの視点から見させてもらっても美人だし、スタイルもなかなかのものだ。

箒の彼氏になる奴は幸せものだな。

 

「一夏に剣の修行を付けて貰いたいのよ」

 

頷かない箒に、それでも千春は頭を下げる。

 

「……わかった。わかったから頭を上げてくれ」

 

 

箒が折れた。

 

「ほんと!?ありがと篠ノ之さん!」

 

「っ!?は、はなれろっ」

 

ああ~羨ましいなぁ千春のハグ。

 

「ああ、ごめんなさい。と、言うことで作戦会議と行きましょうか!」

 

千春は俺と箒の手を取り上機嫌で歩き出す。

 

「ちょっ、千春!?」

「どこへ行気だブリュッセル!?」

 

「ノンノン、千春でいいよ篠ノ之さん。作戦会議=仲間会議。仲間になるには『裸の付き合い』か『同じ釜の飯を食う』かだ。さすがに『裸の付き合い』は無理でしょう?」

 

「と、当然だ!」

 

「いや、別に俺はバッチ来いなんだが……って冗談ですゴメンナサイっ!?」

 

隣を歩く箒からの殺気が痛いぜ。

 

 

 

 

 

 

 

「でだ。二人にはISを用いた剣道の訓練をして貰います」

 

 

学食のラーメンを啜りながら千春が切り出す。

三人の位置は、俺の隣に箒、そして俺の前に千春だ。

 

ちなみに俺と箒は和食ランチ。

 

「ISで?」

 

「そ、篠ノ之さんは中学生の女子剣道全国大会で優勝した猛者と一夏から聞いてるわ」

 

 

そう言えば昨日の夜、風呂から出だ後箒のこと話したっけ。

 

 

「んで、私は一夏にIS を教えるから、篠ノ之さんに一夏に剣道を教えてもらいたい」

 

 

「そういう事なら……わかった、受けよう……その…千春。私は箒で良い」

 

 

箒はそう頷き、千春を名前で呼んだ。

 

「……ん、わかったよ箒」

 

嬉しそうに、本当に嬉しそうに千春は笑った。

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