IS ~北欧生まれのカレンデュラ~   作:蛙の卵

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(※前半部分を加えて投稿してなかったので修正しての再投稿になります。真に申し訳ないです)


next stage 2 『Vivaldi』

夏休み。

 

それは世界中の学生達が許された、一夏限りのアバンチュール。

 

夏休み。

 

それは全世界の学生達が追い求める一夏の理想郷。

 

その夏休みが、

 

 

「終わって遂に始業式かぁ」

 

IS学園に幾つか散在するIS戦闘訓練用に建造されたアリーナ。

 

その第三アリーナのピッチに白の鎧を纏った少年がいた。この物語の主人公である、織斑一夏だ。

 

この日は夏休み終了と同時に学校の始まる始業式である九月一日。

 

今の時間は朝の六時時半だ。

 

一夏は夏休みの間に衰えたであろう戦闘訓練のために朝早くからアリーナの使用申請を申し出ていたのだった。

 

「なんつーか、無駄に長かった気がするな。臨海学校が七月の半ば頃だったろ?……もう半年以上経った気がし―――」

 

『んなくだらない事言ってないでさっさと来なさいよ一夏!』

 

「――…っ、わかったわかった!今から行くからどなるなって!」

 

ISのオープンチャンネルから二人目の幼馴染みに怒鳴られながら、一夏は白の鎧……白式をピッチのカタパルトユニットに接続させる。

ガシッ、と音を立ててISの脚を固定したカタパルトユニットを確認し頷く。

 

『織斑くん、どうぞ!』

 

朝早くからのアリーナの使用のためにきて貰った山田先生の声がオープンチャンネルで聞こえる。

 

カタパルトのシグナルが点灯し、赤から青に変色し出撃可能を示す。

 

「はいっ。織斑一夏、『白式』…行きます!」

 

ぐんっ、と身体を強く引っ張られる感覚に一瞬息を止めてしまうが、一瞬にして空中に放り投げられた一夏は空中で姿勢制御機動を取りな がらアリーナの中心で腕を組み不敵に笑っている少女、凰鈴音目掛けて加速する。

 

「やっと来たわね?」

 

鈴音が組んでいた腕を解き、片手に巨大な剣、双天牙月を量子展開する。

 

どうやら剣による打ち合いがご所望らしい。

 

「たく、急かすなよな」

 

一夏もまた、左手に『雪片』を展開し、正眼に構える。

 

「早く白式の第二形態と戦ってみたかったのよ」

 

「夏休み中は片倉機関に一時接収されてたからな。……本格的な戦闘訓練は今日が初めてだ」

 

一夏が言い終えると共に静寂が広がる。

鈴と、一夏は互いを見据える。

 

数十秒か経った後に、事態は動き出した。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉっっっ!!!」

 

一夏だ。

 

四基に増設し、更に大型化したスラスターが蒼白い炎を吹き上げ白式を纏った一夏を加速させ一瞬にして鈴との距離を詰める。

 

((はや)いっ!)

 

単純な加速ながら、その爆発力は|瞬時加速(イグニッション・ブースト)に迫り、鈴の予想を上回っていた。

 

「けど……っ、」

 

「!?」

 

「捉えきれない速度じゃ、ないわよ?」

 

一夏が突き出した切っ先を弾いた鈴が、今度は逆に距離を詰める。

剣を振るうには近すぎる距離。もはや接触しかけない距離で鈴は口元を大きく吊り上げた。

 

ブォンッ!

 

「なっ…ガハッ!」

 

「剣持ってりゃ振って来るだろうなんて、甘い考えしてんじゃないわよ!」

 

「だからって…蹴りかよっ!」

 

至近距離で放たれたのは、大振りの蹴り。

 

「ハッ!……だから、考えが甘いってのよ!」

 

「!……そう言うことかっ」

 

ガシャッ、と鈴が纏う甲龍の両肩付近に浮かぶ球体の非固定部位がスライドする。

 

「龍砲を発射するための展開時間と、発射距離の確保…ってか!?」

 

「フフン。ご名答!」

 

言い終わるが早いか、球体のユニットから、見えない砲弾が放たれる。

 

「こなくそっ!」

 

肉眼、ハイパー・センサーで捉えられない不可視の砲弾を、右側のスラスター二基を吹かして緊急回避することにして無理矢理避ける。顔面スレスレを轟音と共に砲弾が駆け抜けて行った。

 

「そうそうポンポン避けられちゃ――…困るのよ!」

 

「連射か!?……なら、これで!!」

 

側転回避(バレル・ロール)により崩れた体勢を脚部スラスターや残り二基のウィングスラスターにより整えながら、一夏は左腕を突き出した。

 

「雪羅ッ!!」

 

白式の左腕に増設された攻防一体の特殊兵装、多機能武装腕(タクティカル・アームズ)『雪羅』。

 

雪羅が可動し、一夏の目の前の空間に、蒼穹の光の幕が広がる。

 

「!?……まさか、それ!!」

 

鈴は驚愕した。一夏に向け放たれた龍砲の不可視の砲弾が、シールド状のソレに阻まれたのか、一夏に対してダメージを与えられないのだ。

まるで、|掻き消された(・・・・・・)かのように!

 

「アンタの、零落白夜の!!」

 

「ご名答!」

 

鈴の言葉に笑みで返した一夏が、雪羅から突き出ていた()を掴みながら突撃する。

 

「けど、パワーならアタシの勝ちよ!この距離ならっ」

 

突撃してくる一夏に対し、鈴はまた肉弾戦を仕掛ける。

 

刀や剣を振るうには近すぎるその距離ならば、肉弾戦でパワーが数段上の甲龍に軍配があがる。

 

「考えが甘いぜ、鈴!」

 

そう、雪片が、使えなければ(・・・・・・)……

 

「二刀連撃…――」

 

「!?」

 

「――零落白夜!!」

 

「うそでしょぉっ!?」

 

一夏が抜き放ったのは雪羅に搭載された短刀型の『雪片』、その名も『氷雪(ひょうせつ)』。実剣部分に纏うように展開された零落白夜が蒼白く光る!

 

「これで終いだああぁぁッッ!!」

 

叫びながら振り抜いた『氷雪』は、

 

「……やっぱ考えが甘いわね」

 

「は?……」

 

指二本で鈴に止められた。

 

 

 

「あっはっはっはっ!前半後半ストレート!!一夏、なんか奢んなさいよ?」

 

「ぐ、ぐうっ…」

 

白羽取りを受け龍砲の零距離連射を受け撃墜され前半終了。後半は距離を取りつつ雪羅の荷電粒子砲を撃ちながら戦っていればエネルギーの使いすぎで撃墜されストレート負けで幕を閉じた訓練。

アリーナのピッチに戻ってからきげん良さそうに笑う鈴の言葉に悔しさを一夏は覚える。

 

「ちくせう、パワーアップした今なら勝てるかなーって思ったんだがなぁ」

 

すると自然に愚痴も出てくる。

 

「パワーアップの仕方が極端なのよ、白式は。零落白夜を使用する武装が三つ増えておまけにエネルギーバカ喰いの荷電粒子砲一門。……そんなごり押し装備、工夫無くバカスカ使ったんじゃ勝てるもんも勝てないわよ。現に後半はエネルギー切れで負けたようなもんじゃない。

敗因はスペックを理解仕切れてないアンタの甘さと技量不足、って所かしら?」

 

「ぐ、ぐううっ」

 

人差し指をピンと伸ばしてしたり顔で言う鈴。

 

確かにその通りなのだが、こう、なんと言うか…鈴に小難しい説明を受けるとなんとなく腹が立つ。

 

いや、本当になんとなくなのだが。

 

 

「二人とも、お疲れさま」

 

「流石だな鈴音。あの白羽取りには震えたぞ!」

 

俺たちが話していると、シャルを始め箒にラウラ、セシリアと、いつものメンバーがピッチへ入って来ていた。

 

「嫁よ、新型とは言えあそこまで一方的に負けるとは……私は旦那として恥ずかしいぞ」

 

「逆!ラウラそれ逆だよ!」

 

「なに?……情報伝達の齟齬か?」

 

「それ以前の問題だと私は思うのですが…」

 

ラウラの突飛な発言は置いておいて、確かにこんな一方的に負けるとは思わなかったぜ。

 

「所で千春は?まだ来てないの?」

 

「千春さんでしたらもうすぐこちらへ来ると先程…あ、噂をすれば、ですわね」

 

鈴の問いに答えたのはセシリアだ。

 

ピッチへ入ってきた千春を見て、セシリアはクスリと笑った。

 

「いやー、すまんすまん!色々手間取ってさー!やっと終わったぜ!」

 

長い栗毛をサイドテールで纏めた千春が、満面の笑みを振り撒きながら駆けて来た。

 

「おはよう、千春。……ってその制服…」

 

「ん?……あ、コレか?どうよ!私専用の制服!みんな色々カスタムしてるだろ?私も制服のが欲しくてさ 」

 

駆けて来た千春の制服は、いままでの標準な物では無く、コートのように長く、それでいて腰より下の前面が開いており、ピンクのミニスカートが目立つ。

千春の美脚が映えるこの構成…プロだな。

 

「何見とれてんのよ変態!」

 

「チョバムッ!?」

 

見とれてたら鈴から中々のアッパーを食らった。

 

「所で鈴と戦るって聞いたんだが、今からか?」

 

「ううん。もちろんアタシの圧勝で終わったわ!」

 

アリーナの管制室で観戦していたシャルやセシリア達とは違い、今来たばかりの千春は勝敗を知らなかったようだ。

 

「圧勝って……俺もそこそこ頑張ったと思うんだがなぁ」

 

「二刀連撃。アレは確かに惜しかったが他はほぼ圧勝と称して間違えはないのではないか?」

 

「射撃精度も良いとは言えませんでしたわ。一夏さん本来の技量もあるのでしょうが、やはりIS自体に射撃特性がないのが痛いですわね」

 

一夏の呟きに箒とセシリアが食いつく。

 

ぐぬっ、確かにその通りだが………ちくせう、やっぱ色々体得しなきゃならんか………。

 

 

「なるほどな。新型ってのもあるだろうが、やっぱりエネルギーを多大に消費するのが痛いのは変わらず、か。ま、そこら辺は要領の良いシャルやラウラ、近接は鈴と箒、射撃戦はセシリアとこれまたシャル。専門家それぞれに弟子入りすれば一夏のスキルアップは間違い無しだ。頑張れ、一夏!」

 

…………プハァー!……この一言の為に生きてるってもんだぜ!

 

「所で千春の方は?同じ新型って言うなら『グラデーション』も形態移行しちゃったから、色々大変だと思うんだけど……」

 

シャルが千春のブローチを見る。鳳仙花をあしらったそのブローチは俺が昔千春に贈ったものだ。

 

「ん、その点は大丈夫。完熟訓練は終わって今は戦略訓練に入ってる。モードセレクトは使用不可だけど、その分一つ形態に訓練の時間を割けるから、むしろ前より扱いやすくなってるよ」

 

そう言って千春はISの待機状態であるチョーカーに触れる。

 

「専用機になった…って所なのかな?」

 

「確かに形態移行を想定せずに運用するグラデーションは千春さん専用……と言うには少し違う気がしますし…」

 

「お姉様の戦闘方法は読みづらいからな。……ある意味用途がハッキリしているグラデーションでは役不足感は否めなかったのは確かだ。その点はどうなのだ?」

 

「へっへーん!新型らしく新兵装を搭載してるぜ!。……そーだ、一夏!私とも一戦しないか?。白式のスペックも確認したいしさ。新兵装のお披露目も兼ねて…どうだ?」

 

「え?……あ、ああ。別に良いぜ?エネルギーの補給は済ませたし……」

 

「良しっ、じゃあすぐしようぜ。時間も勿体無いし」

 

見ると時計は七時十七分。始業式が八時から始まるから四十分辺りにアリーナを出れば余裕を持てる。

 

「そうだな。…つーことで皆はどうする?……見てくか?」

 

一夏が千春以外の皆に問うと、シャワーを浴びたいと言う鈴以外は見ていくと答えた。

 

「咲け、オブコニカ』!!」

 

千春が胸元のブローチに触れると淡い光と共に鮮やかな菫色の装甲が千春を包んで行く。

 

「紫色?……」

 

疑問の声を漏らしたのは鈴。しかし、その言葉は千春以外の者の代弁だった。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)暴走事件と名付けられたあの事件。あの時形態移行をして現れたグラデーション…いや、旧グラデーションと呼ぼう。形態移行した旧グラデーション、現『スプレンデンス』は輝く桃色だったはずだ。

それが何故か紫色をしてるのだ。

 

「ん?……あー、コレ? これに関しては後々わかると思うぞ?。……唯一グラデーションが残した特徴…って言えるかも」

 

そう言ってカタパルトに乗った千春は、「先にいってるぜ?」とウィンクして出撃していった。

 

 

 

「さて……行くぞ一夏?」

 

「おう!!」

 

菫色のIS『スプレンデンス』を纏う千春が、髪を靡かせながら問う。

それに答える一夏は計器の最終チェックを終え戦闘体勢に移る。

 

「なら……先行はいただきぃ!」

 

先手を打ったのは千春だ。

 

腰部スラスターユニットに火が点き、側転回避しながら実弾のマシンガンを放つ。

 

 

「ちぃっ…簡単には、いかないか」

 

千春が最初に居た地点を荷電粒子のビームが走り抜ける。

 

千春の回避から一拍して放たれたビームは一夏の反応速度の遅さを示す。

一夏も先手を打とうとしたが、千春の方が一枚上手だったのだ。

 

「ほいっと!鉛弾のフルコースだぜ!」

 

「ちっ、まだまだぁっ!」

 

側転回避から三次元的な動きをしながら銃弾を浴びせてくる千春。

実弾の雨を迂回するように加速しながら千春へ一夏が迫る。

 

「なら、榴弾(グレネード)のデザートはいかが?!」

 

「食後に頼む!」

 

思っていたよりも高い速度に接近を許してしまった千春が、片手に展開したアサルトライフル、そのアンダーレールに取り付けられたグレネードランチャーを放つ。

一夏は、ボンッ、と言う食う気音と共に放たれた榴弾を雪羅から展開されたビームクロウで切り裂きながら加速する。

 

「うへぇっ、加速力が半端ないな!瞬時加速の真似事がポンポン来るぜ!」

 

「エネルギーの消費量も半端じゃ――ないけどなっ!」

 

振ったビームクロウがマシンガンを切り裂き小爆発を起こす。

 

「ぐっ……んじゃ、そろそろ行きますか?」

 

「?……なっ!?」

 

追撃をしようとした一夏に対し、千春は不敵に笑う。

 

思わず一瞬攻撃を躊躇り一瞬ながら硬直した一夏。そして、直ぐ様攻撃に移ろうとした一夏は二度に渡り硬直した。

 

 

 

「…色が!」

 

「へへ…」

 

先程まで紫色だった装甲が、桜色に発光していたのだ。

 

 

 

 

――Over Drive――

 

 

「こっから本番!」

 

「こなくそっ!」

 

千春の自信満々な笑みに時間を掛けては不味いと判断した一夏が至近距離で荷電粒子砲を撃ち放つ!

 

「…ふふふ」

 

「!?」

 

ほぼ回避不能な距離で放った荷電粒子砲を、確かに千春は回避出来なかった。

故に、荷電粒子は千春を貫いた。

 

胴体に風穴を開けた状態の千春は、体の半分以上を焼き貫かれながらも笑みを崩さない。

 

「ちっ、千春!!……なっ、!?」

 

思わず駆け寄ろうとした一夏だが、体の半分を失った千春の輪郭(・・)が崩れた事により思考出来ずに立ち止まる。

 

――単一仕様能力、『朧月華』発動――

 

湖面に移る月のように、風に吹かれ散る華のように、千春が、千春の姿を写していた光が消し飛んだ。

 

その瞬間、背後から襲って来た荷電粒子(・・・・)のビームを喰らい、一夏は撃墜された。

 

 

 

 

「あー、見事にやられたわね一夏」

 

第三アリーナ管制室。

一夏対千春の戦闘訓練が五分以内に終わった事に、鈴を始め専用機持ちの全員が驚いていた。

 

「IS自体の性能は対して伺えませんでしたが……最後のアレ、一体なんですの?

……掻き消えたと思ったら突然一夏さんから見て上空に現れ………単一仕様能力(ワンオフアビリティ)でなくてもそれに順ずる武装でしてよ?」

 

「そんな事、言われずともわかっている。……ふふ、滾るな」

 

「う、うわぁ……。箒、今凄い楽しそうな顔になってるよ?」

 

「単一仕様能力……では福音戦、そして先程の白式の荷電粒子砲に対し見られた光学兵器の歪曲現象はなんなのだ?

……白式と同じく、準単一仕様能力(ワンオフ・セカンドアビリティ)か? ……それとも光学兵器の歪曲現象も、単一仕様能力の作用の内……と?」

 

「だとしたら応用度高すぎ。はっきり言ってチートレベルよ。それに多分、アレとコレは別系統だと思うわ」

 

「……ほう、何故だ? 鈴音」

 

「勘よ」

 

千春のISに対する論議が加熱するなか、ピッチ内に戻ってきた千春と一夏の映像が映る。

 

『先生! 山田先生!!』

 

「はっ、はい!? なななんですか!?」

 

白式のエネルギー補給を始めるや否や、一夏が秘匿回線を用いて管制室の山田真耶を呼ぶ。

始業式の開始時間から逆算し、まだ余裕があるなぁ、と呑気にコーヒーを味わっていた山田真耶は、その怒鳴り声にも近い一夏の声に大いに驚いた。

 

『もう一戦やらしてください!』

 

「え、ええ!? だ、だけど私にも始業式の準備が……――」

 

「何よ一夏。悔しいの? 千春に手も足も出せずに負けて」

 

山田真耶の言葉を差し置いて鈴が問う。

 

その言葉に、一夏の声が詰まる。

図星だ。

 

「次に五分なんかで撃墜されるような醜態見せたら……そーねぇ。ここに居る全員の言う事を一つ、なんでも聞く…なんてどう?」

 

「「「「「!!??  」」」」

 

『なっ、なんだよそれ!』

 

当然反論する一夏だが、そんな言葉では凰鈴音の悪巧みは止まらない。

 

「じゃなきゃ無理よ? そーでもしないと山田先生だって仕事があるんだから。ねぇ、先生?」

 

鈴の視線は、山田先生ではなく、何故かシャルロットへと向けられていた。

 

「ふふ…。そそ、そーですよ織斑君。それくらいしてもらえないと、割りに合わないです!」

鈴と視線が合ったシャルロットは、鈴の真意に気づき、声帯模写した山田先生の声で一夏に答えた。

 

「えっ、デュノアさん!? それ私のこ…っ!? ……キュゥ…」

 

「無力化完了だ」

 

それを止めようとした山田先生も、ラウラの手刀を喰らい気絶。

 

「……それで、どうするのだ一夏?貴様も日本男児だろう。ならば………覚悟を決めろ、一夏!」

 

そして最後に発破を掛ければ、

 

『……上等だ!』

 

一夏は乗って来る!

 

「では以後の管制は私、セシリア・オルコットが勤めさせていただきますわ。――千春さん、よろしくて?」

 

『ん? なにー?』

 

セシリアがインカムを装着しながら千春を呼ぶと、間延びした声が返される。

 

「一夏さんが再戦を御所望ですわ。お受け、致します?」

 

『……へぇ 』

 

セシリアの確かめるような言葉に、千春の雰囲気がガラリと変わる。

 

『もう一回戦る?……一夏』

 

『……ああ。次は負けない』

 

『……ヒヒッ…OK! 私もやるよセシリア!』

 

千春の答えが返ってきた時、管制室は無言の歓声に包まれていた。

 

「ではお二人とも準備を。一夏さん、再充電にはどれくらい掛かります?」

 

『三分、いや、二分で終わる!』

 

「千春。白式の再充電が終わり次第開始だよ。がんばってね!」

 

「千春、一撃で仕留めるんだ。いいな?」

 

「お姉様、瞬殺だ」

 

『へへっ、任せろー!』

 

『おいちょっと待て! なんつーアウェーさだよ! IS学園(ここ)は俺のホームグラウンドでもあるだろうが!』

 

「問答無用よ、バーカ」

 

ピッ、とセシリアが繋げていた回線を鈴が切った。

 

 

「ぐぬぬ。鈴の野郎、嵌めやがったなっ」

 

ついカッとなって了承したが罰なんか受けるんじゃなかったと反省。

 

「ご、五分だ。五分持てば良いんだよ!」

 

しかし今はそんな事を考えている暇はない。ポジティブな思考に切り替え、俺は先程の千

春との戦闘を思い出す。

 

千春の色彩(グラデーション)……いや、極彩(カレンデュラ)に荷電粒子砲は効かなかった。千春に当たる前に大きく曲がって、逸れてしまうからだ。白兵戦に持ち込もうにもそもそも近づけられないし、さっき見せた分身みたいな技………技かどうかは疑問だけど、ソレがある。

 

現状、勝てる見込みは少しも無い。

 

それに千春の武装も問題だ。千春はビームやレーザーのような光学兵器は持っていなかった。使わなかっただけなのならそれまでだが、恐らく千春は使わないだろう。

マシンガンやバトルライフルのような実弾兵器を使っていた。

 

白式の弱点……ではないけど、白式に有効な火器を選択している。

 

はぁ……考えれば考える程勝てる気がしないぜ。

 

ピピッ。

 

「お。溜まったぞ」

 

『それでは早速始めましょう。千春さん、一夏さん、準備をお願いいたしますわ』

 

『りょーかい!』

 

セシリアに続き千春の声が聞こえた後に、ピッチ内の三つ並んだランプが赤くなる。

 

「結局、勝算は全く無いけど……。今度は何もできずに負けるなんて事はしない!」

ピッチ内のカタパルトに乗った俺は、ピッチから覗くアリーナに意識を向け、姿勢を低くした。

 

『発進、よろしくてよ!』

 

『うしっ! 行きまーす!』

 

セシリアの言葉に千春が答え、白式のセンサーに千春のIS、『オブコニカ』が表示される。

 

「白式、出る!」

 

ランプが赤から青に代わり、カタパルトが俺をアリーナへ引きずり込む。

 

「第二ラウンドだ、一夏!」

 

アリーナに飛び出た俺を待っていたのは、紫色の装甲を身に纏う千春。

 

「行くぜ、千春!」

 

雪片(ゆきひら)』を量子展開し、俺は千春に向け突撃した。

 

 

 

 

 

サアアアァァ………。

 

「…………」

 

ほぼ織斑一夏専用となってしまった第3アリーナ西側最奥のロッカールーム。

少し熱めに設定されたシャワーから放たれる湯を頭から浴びながら、一夏は汗を流していた。

 

「罰ゲームは来週から、か」

 

キュッ、とシャワーのコックを閉めた一夏は小さくため息をついて、隣のシャワーを隔てる半透明の壁に掛けてあったバスタオルに手を伸ばす。

 

スカッ。

 

(……あれ?タオル掛け忘れたか?)

 

一夏の鳩尾辺りの高さしかない壁に掛けていたはずのタオル。そのバスタオルが、何故か見当たらない。

 

「あれ?落ちちゃったか?……」

 

バスタオルがタイルに落ちてびしょ濡れになってしまう事がたまにあるのだが……

 

「……それも見当たらない」

 

困った。

 

衣類を詰めたロッカーはシャワー室近い物を選んで使っていたのだが、床を濡らす事に躊躇いを持つ一夏はまたため息をついた。

 

「さっきから溜め息ばかりなんて、幸せが逃げちゃうわよ? お姉さんの使いかけでよければ使う?」

 

とそこへ半透明の壁の上から腕が伸びて来た。その手にはバスタオルが一枚。

 

「え? 良いんですか? ありがとうございます! 

いやぁ、どうやらバスタオルをロッカールームに置きっぱなしにしちゃったらしいんですよ 」

 

「んふふ。おっちょこちょいなんだね、キミは」

 

「ぐっ、反論出来ない……」

 

「使ったら返してくれる?……お姉さんそれがないとキミに裸見られちゃうから」

 

「あ、そうですね。すみません、……っと。ありがとうございまし―――」

 

頭と身体を軽く拭き、またぬっと伸びて来た手に返すと、次の瞬間には、青い髪をしたその女の子が身体にバスタオルを巻いて一夏の前に現れた。

 

さて諸君、ここで問題だ。

 

先程からバスタオルを貸してくれた人が居るが…………この女の子は、一体だれ?

 

「んふふ、な・い・しょ♪」

 

ですよねー………って!?今俺の思考を…!

 

「んふふ。キミって考えてる事が凄く顔に出てくるのね?」

あっ、そうなのか…そう言えばよく言われるような……。

 

「じゃない! い、一応ここ男子専用のロッカールームになってるはずで――」

 

「いやん。タオル外れちゃった♪」

 

「ぶふぉぉっ!?」

 

ち、躊躇なくタオルをはだけやがった!

 

箒と双璧をなすだろう大きさのおっぱいが、ぷるんっ、と……!!

それに一瞬だけだったが、腰のくびれや脚のラインも締まっててモデルみたいだ…!

 

 

 

 

まあ、千春には劣るんですがね

 

スパアアアァンッッ!!

 

「今他の女の子と比べて劣ってるって思ったでしょ?」

 

「ぐっ、ぬおおぉぉっ!」

 

この人っ、笑顔で鉄扇を叩きつけて来やがったっ!

ん?……この人、今バスタオル巻いただけの姿なのにどこから鉄扇を?

 

「さて……キミとこうして遊んでいたいんだけど、どうやら終わりみたいだね」

バッ、と広げた鉄扇には達筆でgame overの文字が……

 

「おーい、一夏 ? そろそろ時間ヤバイぞ ?」

 

「………………ち、…千春ッ!?」

 

少し間延びした、よく知った声が聞こえたと思ったら千春だった。

シャワー室の扉にうっすらと写る姿は間違い無い、千春だ。

 

「お、やっぱ居たか。もうそろそろで全校集会に間に合わなくなりそうだったから知らせに来たんだ。早く出ろよ一夏? でないと千冬さんに怒られちゃうぞ?」

 

思わず叫んだ俺の声にケラケラと笑う千春。

 

「んふふ。怒れちゃうわね」

 

そして俺の隣でクスクスと笑う水色の髪の女の子。

…………あー、なんか嫌な予感がするってばよ。

 

「ほいっ」

 

「えっ?」

 

クスクスと笑っていた女の子が、俺を軽く押す。

倒れそうになったので足を開きふん地場ろうとしたが、どうやら足を開いた先にちょうど都合良く石鹸(未使用)が置かれていたらしく、俺はツルッと景気良く転ぶのだった。

 

「のわぁっ!?」

 

「きゃっ♪」

 

スッテーン! と転んだ俺に待っていたのは、痛みではなく心地よさ。

顔は何かに遮られ暗いが、柔らかい物が視界を遮っているのが解る。

……そして、なんとなくだが俺はその柔らかい何かが何かを理解していた。

 

「い、一夏っ!? どうしたんだっ!」

 

ガラッ、とシャワー室の扉が開かれる。

 

嗚呼、千春。俺を心配してくれる君が愛おしい。だがしかし今は来ないでくれ。

 

「いちっ―――……か?」

 

俺を心配し駆けつけたくれた千春。

 

そこにはタオルがはだけ、二つの丘と女性の秘境が露となった女性。そしてそれに覆い被さっている俺。

 

「……ご、ごゆっくりっ!」

 

弁明の余地も無いよ!

 

「千春!」

 

しかし弁明せずにいられず千春を呼び止めようとするが、千春は顔を真っ赤にして走り去って行ってしまった。

 

「ち、千春ぅ」

 

「捨てられた子犬みたいな表情ね」

 

ぐすん。

って!

 

「一体なんなんだよ君はっ!」

 

千春に有らぬ誤解を植え付けた原因を探ると、明らかにこの少女に行き着く。

俺は少し語気を荒くして聞く。

 

「そこ、どいてくれる?」

 

「えっ?……てうわあぁぁっ!? す、すみません!」

 

見ると俺の右腕は彼女の柔らかい乳房を鷲掴んでいて、俺は大きく飛び退いた。

 

「ふふっ。結構ごーいんなんだ」

 

「ち、違っ、こ、これは事故でっ!」

 

「あっ」

 

「え?……」

俺の後ろに視線をずらす少女。なんだろうと思って俺も後ろに視線をやると――――

 

 

AM8:07

 

新学期の生徒総会の為一年から三年までの全生徒が集まる中、一夏は体育館での正座を強いられていた。

女子達の視線が痛い。

 

「……さて、遅刻の言い訳は出来ているのか? 織斑よ」

 

間違いなく人類最強であろう姉、織斑千冬の日本刀より優れた切れ味を持つ視殺線に、織斑一夏の精神ポイントは切り刻まれていた。だがここで退くわけにはいかないのだ。何しろ遅刻した理由は自分にはないのだから。

……多分。

「ち、違うんだ千冬姉! 朝特訓した後でアリーナのシャワーを使ってたら見知らぬ女の子が現れて、でも後ろを向いた瞬間に居なくなってて……!」

 

ありのまま言った。

「……以上か?」

言葉は届かず! ……じゃない!

 

「いや、あの……あのですね? だから、見知らぬ女子がですね?」

 

「ではその女子の名前を言ってみろ」

 

「だ、だから初対面だってばですよ!?」

 

「ほぅ。……では貴様は初対面の女子との会話を優先して遅刻したと?」

 

「イエス・マム。罰は如何様にも受けます」

 

言い訳無用。

 

成る程畜生、千冬姉らしいぜ。

 

「……では放課後にグラウンド十周で許してやる。速く列に戻れ」

 

「イエス・マム! ……?」

あれ? なんか罰が軽い? 千冬姉ならもうプラス五周プラス、グラウンドの地慣らしとか追加されるものなんだが……。

 

「何を見ている。そんなに周回をプラスして欲しいのか?」

 

「い、いえっ! なんでもないです!」

 

地獄の教師(ヘルズ・ティーチャー)の気が変わらぬ内に急いで戻れ!

 

 

「随分遅かったね一夏。何かあったの?」

 

「ああ、シャルか。ちょっとな」

 

体育館の大体真ん中ほどに位置する一年生の列の中に、我らが一年一組のメンバーを見つけ、その列に駆け寄っていった俺に声を掛けてきたのはシャルだった。

 

「それって千春の様子がおかしいのと何か関係してる?」

 

シャルが言いながら前を向く。すると、前方には耳まで真っ赤にしてカタカタと震えながら前を向いている千春の姿。

 

あー……確実に俺のせいだ。

 

あ、こっち向いた。 

 

あ、更に顔真っ赤にして前向いた。

 

「関係あるみたいだね、一夏?」

 

「まて、待つんだシャル。ISの無断展開はご法度だぜ!?」

 

ジャコッ、と巨大なパイルバンカーに薬莢を装填するシャル。

 

「あはは。そうだったかな? なら後四人にもちゃんと言って置いたほうが良いかもよ?」

 

天使の微笑みが指す方を見ると、……oh、箒にセシリア、ラウナ、そして隣の列の鈴までもがISの部分展開と共にメイン武装の展開を終えていた。

 

「……お前ら仲良いよね、ホント」

 

こう言う時の息の合いようは賞賛に値するよアハハハハ。

 

「……やあみんな、おはよう」

 

……?

 

なんだ?体育館の壇上にあがった女の子がそう言うと、さっきまで騒がしかった周りが急速に静まり返ったぞ?

シャルを始めとした候補生達までもが前を向く。

 

「一体………ってああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!??」

 

そこには、先ほど俺を陥れた女の子が! な、なんであんなところに!?

 

「何を騒いでいるか愚か者!!」

 

「ぶげっ!?」

 

スパーーーンッ!!

 

俺の後頭部に走る衝撃と数瞬遅れてやって来た炸裂音。

 

「ち、千冬姉ぇっ…い、いや、織斑先生っ、あ、あの子がさっき言っていた女の子ですっ」

 

「何? ……やはりか、更織(さらしき)

 

激痛に耐えながら申告すると千冬姉を額に手を当てため息をついた。

 

「……ふふふ」

 

ぞくっ! ……な、なんだ? この千春が悪巧みを考えた時の寒気みたいなものは!?

 

彼女と目が合うと背筋を冷たいものが走った。……要注意、って事か。壇上の少女に戦慄を覚えていると、件の彼女は一歩前に歩き出て、

 

「さてさて、今年は随分と立て込んでいて正式な挨拶はまだだったね? と、言うわけで自己紹介と行こう。……私が君達学生の長、『生徒会長』だ。よろしく頼むよ」

 

そう言った彼女、生徒会長は凄まじい威圧感を放ちながら軽く会釈した。

 

………強い。

 

俺だけではないのだろう。少なくとも専用機持ちの六人は表情を堅いモノにしている。

 

先ほどの冷やさせとは違う、まるで鋭利な刀で背中をなぞられているような、そんな感覚を俺は覚えた。

 

千冬姉のような圧倒的なまでの暴力のような殺気とは違う、刀を突きつけられた時のような殺気だ。

 

「ふふふ。……さて、今回みんなに集まって貰ったのは他でもない、今月中盤に開催される大イベント、『学園祭』についての重要事項を伝えるため……だったけれど、今回はもう一件、別の重要事項を伝えさせてもらうわ」

 

生徒会長の言葉に、ようやく辺りがざわめき出す。

 

そう、俺達は今月学園祭においての重要な件を聞くために体育館にまで集まったのだが……

 

「ふふふ。今学期から私達の仲間となる生徒を紹介させて貰うわ」

 

そう言い、生徒会長は一歩後ろに下がった。

 

そして、舞台の袖から人影が現れる。

 

「「「「「ッ!!?? 」」」」」

 

ざわついていた生徒達が、図らずとも一斉に息を呑み、静かとなった。

 

「………初めまして、暦四季(こよみしき)と言います」

 

IS学園においてもっとも珍しい男子用(・・・)の制服を身にまとった彼は壇上の真ん中で立ち止まり、全校生徒へ向き直って、そう言って一礼した。

 

「一応、世界で二人目の男のIS操縦者です」

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