「へえ、相川さんは打鉄(うちがね)か」
手に木刀、殺気を纏う修羅一人。
「打鉄は純日本国産の第二世代型のIS。日本刀のような2m超の近接ブレードを基本武装とし、防御に重点を置いた、初級者から上級者までの多くの操者から高い評価を獲得した機体です。」
顔を朱に染め、拳を握る修羅ここに。
「いやぁ、山田先生は詳しいですね~」
頬を染め、ため息混じりに出席簿を構える修羅が座す。
「こ、これでも先生ですからっ」
あはははは。
今日が俺の命日かも。
理由は簡単。見損なったぞと何度も呟き、殺気を纏う箒。
ハレンチだと何度も呟きながら殺気を飛ばすセシリア。
その二人に囲まれながら、さらに箒の隣に座す千冬姉。
こんな場所で…とか、まだ早いとか、私になら…とか、子供は…とか、呟いてるけど一体なんの話だ?千冬姉?
まぁそんなわけで、試合が終わるまで待ってやると慈悲深い御言葉をくれた箒に感謝し、アリーナに登場した相川さんに目を向けた。
山田先生の説明通り、日本産のIS『打鉄』を纏った相川さんがそこにはいた。
特訓の最中、俺と箒が使用していたISだ。
「千春はどっちなのかな?ラフォールと打鉄」
「え?…どう言うことですの?」
俺の言葉にセシリアが反応する。
その表情は若干険しい。
「ん?特訓中にさ、千春はラファールか打鉄で俺達と戦ってたからな。両方使えるんだよ」
「ああ、そう言うことですの。…多分、どちらでもないですわよ?」
クス、とセシリアは笑う。
「どう言うことだ?千春はそのどちらかしか使っていなかった……まさかっ!?」
箒はセシリアの言葉に気づいたのか、目を見開きアリーナに目を向ける。
「箒?まさかって――」
何かしらに気付いたらしい箒に聞こうとするも、アリーナに爆発音にもまさる歓声が鳴ったからだ。
「千春?…なんで…」
ISを付けてないんだ?
それに、制服のままなんだ?。
◇
……久しぶりに私の視点になった気がする。
まぁいい、今は試合に集中しよう。
目の前に広がるはアリーナ。そこに『打鉄』を纏った相川さんがいた。
緊張で顔が強張っている。
なかなか可愛いもんだ。
しかし手心は加えない。
行くわよ、私…っ!
「展開っ!」
首に付けた黒のチョーカーに触れる。
チョーカーがほどけ、量子分解される。
次いで光が私を包む。母の腕に抱かれるような心地よい感覚だ。
「『グラデーション』……ここに見参!」
私は灰色の鎧を纏う。
名をグラデーション。『色彩』を纏う。
◇
え!?あたしの視点こんだけ!?
もうちょっとやらせてよ!
……では気を取り直して、
「……専用機?」
思わず呟いた。
(一夏ああぁぁっっ!!)
何故か千春がタパー、と涙流してる。どうかしたのかな?
千春のISは打鉄でも、フランスのラファール・リヴァイブでもなかった。
非固定型の翼や武装が一般化して来た今頃では珍しく、固定された計六枚、三対の多方向加速推進翼。
スラリと伸びた脚部や腕は一般的なISよりも人間味があり、なにより胸部、
制服から一瞬でISスーツに着替えた千春の胸はISの胸部装甲により、持ち上げられるように固定され、山田先生よりある――――(僅差だが、中学時代の親友との、二人の胸部写真を交えて論議した結果、千春の方が大きく、形が良いと完結付けた。余談だが、その友人は山田先生のベビーフェイスと背丈、そしてスタイルなどが好みにマッチしているらしく、ロリ巨乳最高ーーー!!などと、ほざいていた。)――――胸がさらに強調されていた。
もはや眼福というレヴェルではない。
ヤバイのだ。
ドカッ!バキィッ!スッパーンっ!!
もはや何も語るまい。言うなら一言、
しかし俺は傷みをこらえそれでも幻想を望み続ける。
理想を抱いて溺死しろ――とはよくいったものだ。千春からの受け売りだけど。
「がっ、がふっ……なんでセシリアまでやんだよ」
しかし溺れていないのに死にたいとは思わん。
最初の打撃音の殴り担当者、セシリア・オルコットに非難の言葉を――――
「お黙りなさい変態!」
「へんっ!?んなっ!!」
「否定するつもりか一夏っ!きっ、貴様、千春の…そ、その…胸をっ見ていたであろう!?鼻を伸ばしニヤニヤとっ!」
真っ向から叩き斬られた。そりゃあよう真っ向唐竹割りみたいな感じで。
二人とも腕で胸を隠すようにし、顔を赤くしていたのはなんでさ?
「確かに大きさでは叶わん、しかし私とて感度では負けんっ。胸もある方だ、それに別に女の魅力は胸だけではない。
腰のくびれや尻、うなじや脚。もはや玄人の域だが鎖骨を愛でる者もいるのだしな……
だが、一夏の好みは一体なんなのだ?部屋の中を物色したが出るのはグラビア程度、しかも分かりやすい所にだ。明らかに
千冬姉、貴女はぶつぶつと何を………………
「あっ!始まるわ!」
俺の席の後ろ辺りから声が聞こえ、俺はその言葉に呼応しアリーナを見る。
アリーナの上空には投射型ウィンドウ(千春から貰ったやつの大型版だ)に写されたのは円の中にある数字の五。
四
まるで映画の始まる時のカウントのように円が消えていき、数字が減る。
三
先程まで騒いでいた観客が静まりかえる。
二
―――シンッ……と、静まり帰ったアリーナ。
しかし、静かなのは確かだが、それは所謂嵐の前の静けさだ。
一
零
始まりの鐘が鳴ると共にアリーナは歓声に包まれる。
ドオォンッ!!
先に仕掛けたのは相川さんだ。
後付け武装(イコライザ)のバズーカを展開し、開幕直後にぶちかます。有効な手だ。
しかし、届かない。観客席から見ていたからわかったが、相川さんが放ったバズーカは千春に当たる前に爆発した。
爆煙が千春を包む。
一刻置いて、爆煙からそれは現れた。
「機体の色が!」
「これが3.5世代型、か。なるほど、確かに追加装甲は付けていないな」
俺は声をあげた。
装甲を深い蒼で染めた千春のISは翼を拡げ飛翔する。
「織斑先生、千春のISの特徴を知っているのですか?」
箒が千冬姉に問いかける。
うむ、と千冬姉は頷き、脚を組んだ。
「ブリュッセル、奴のISの名称は『グラデーション』機体の装甲色(モード)によりまた別名が付く。
奴の最大の特徴はモード別に得意距離(レンジ)が異なり、それを『戦闘中』に変更、選択ができる事だ」
「へ?」
それだけ?
「それだけ?とでも思ったな?」
千冬姉はジロリ、と俺にジト目を向けた。
い、いや…だって…ねぇ?
その凄さがよくわからんし。
「今各国は第三世代型ISの開発・研究に勤しんでるのは知っていますよね?」
山田先生が人差し指をピンと立てて聞いてきた。
確かこの前の授業で習ってたはずだ。
なんでも、
第一世代型は『IS』の完成を目指した世代。
第二世代型は後付け装備(イコライザ)による戦闘の用途の多様化。
そして第三世代型は『イメージ・インターフェース』を用いた特殊兵装の実用化を目指した世代だ。
「その通りです。そして、実際には第三世代型は実用化できるレベルにはまだ達してません。その理由のほとんどが燃費の悪さが上げられるのですが……ブリュッセルさんのISは、その第三世代型ではなく、卓上の空論と言われている第四世代型を目指したISなんです」
山田先生がゴクリと生唾を飲み込み、神妙な顔つきで解説してくれた。神妙なのだが、山田先生の童顔のせいでなんか可愛く見えた。
「目指した……ああ、だから3.5世代型なんて言われてるのか」
いまだ完成はしておらず、故の3.5。
装甲を蒼く染め上げたそのISは、翼を拡げ空を舞う。
迫る弾丸を踊るように避けるその様はまるで…
「クッ、幻惑の魔女、いや踊る妖精(ダンシング・フェアリー)か。よくいったものだ」
千冬姉が面白そうに呟き、セシリアを目だけ向けて見る。
「………相も変わらず…悔しいですが、認めるしかありませんわね…」
そのセシリアは舞う千春の姿を忌々しい物を見るような目で見ていた。
千春が飛ぶ姿は誇張も何かしらもなく美しかった。
千春の舞いはこのアリーナにいる者全てを魅了する。
対戦相手である相川さんも例外なく。
俺の席の周りの女子達も見惚れているようだ。
なのに何故、セシリアは親の仇を見るような目で……。
「あっ……はぁ、彼女――Ms.カレンデュラと合間見えたのはBT兵装の評価試験の際ですの。わたくしと彼女は当時、試作品とも呼べぬソレを装備したISで評価試験、模擬戦を行いましたわ」
俺と目があったセシリアはため息を漏らすも、千春を目で追いかけながら呟くように語り始めた。
観客が魅了されていたのは幸いだ。
小さめのセシリアの声が良く聞こえる。
「しかし、彼女はそんな事はどうでも良いとばかりに、そのISで空を飛び始めました。わたくしも、最初こそ武装を展開し彼女を撃ち落とそうとしましたわ。……けれど、彼女はその時も、全てを魅了するあの舞いで魅せました……空を游ぐように……」
空を游ぐ……確かにな、と頷く。
「その場にいたスタッフ一同魅せられ、十分以上経った後に気付いたのか、慌てたように戦闘を促しましたわ。結果は彼女の勝利……魅せられていたわたくしは、突如攻撃に転じた彼女について行けず、負けてしまいましたの。……二度目の戦闘では速攻で終らせわたくしが勝ちましたが」
ふふんと鼻をならし胸を張った彼女は千春をまた見る。
「あいも変わらず、魅せる機動ですわ」
セシリアは大きくため息を付いた。
「だから、サーカスなのか」
俺は一週間前、セシリアが言っていた言葉を思い出す。
「確かに幻惑の魔女だな……本当に…綺麗だ」
俺は思わず立ち上がり、空を舞う妖精に見惚た。
◇
さて、そろそろ決めるかな?
私はアサルトライフルから放たれる弾丸を回避しながらも、手に持った二八口径ビームライフル『ディ・バスター』で相川さんを狙い撃っていた。
結構な数を当てられ、シールドエネルギーが底をつき掛けているのか、若干処じゃない焦りがみえる。
さて、と思った時、ハイパーセンサーの視界内にある人物を見つけた。
「一夏…?」
直立不動で私を見る一夏に、私はクスリ、と笑ってしまった。
身体を前に傾ける。ソレだけで私は前へ向かって飛べる。
段々と一夏が近くに見えて来た。ハイパーセンサーを使わずに、だ。
そして私は止まった。アリーナを取り囲むバリアーの目の前で。
「一夏」
◇
名を呼ばれた。
織斑一夏は弾けるように席から離れ、アリーナと観客席の境界線まで走る。
シールドバリアーで隔てられ、二人はその場に立ちつくす。
どちらかが先にシールドバリアーに触れた。
それ以上まえには手は進まず、それは透明な壁だ。
そしてどちらかが次いでシールドバリアーに触れる。
触れあう事など出来ない。
壁一枚隔ててのふれ合い。
しかし本来伝わるはずのない温かさが伝わった気がした。
「一夏」
「千春」
同時に互いの名を呼ぶ。
「待ってる。勝って来い」
「待ってろ。絶対に勝つ」
互いにニヤリと笑い、どちらからでもなく手を離す。
妖精は飛び去り、青年は見送った。
◇
千春と相川さんとの試合後、15分のインターバルを挟み、俺とセシリアの試合が始まる。
言わずもがな、千春は相川さんに勝利した。
打鉄にも装備されていた刀型の近接ブレードを二振り。
それを交差させて構え突撃、打鉄とぶつかり合うと同時に振り抜く、するとどうだろう。なんとか十字切り、とかクロス・ブレード!なんて必殺技の名前が着きそうな剣の軌跡を生み出した。
いやまぁ実際に千春が必殺技を叫んでたしね、オープンチャンネル大音量で。
妖精のような舞いからの荒々しい攻撃は、なかなか心を揺さぶるものがあった。千春の胸も揺れていた。
バキィッ!!
「ふっ、不埒な事を考えていただろう?しかも千春でっ」
箒が放った木刀の一撃を脳天に一発食らった俺は第三アリーナAピット内の床を転りまわった。
「しっ、仕方ないだろ!?箒だって見てただろうが!あの胸を!人類の秘宝を!胸革命(バストレボリューション)を!」
バキィッ!!ズバシャァッ!グチャァッ!!
拳を振り上げ力説していた俺に箒が放つ三連撃が直撃する。
またしても転がる俺。頭いてぇ
「篠ノ之、よくやった」
どこからか現れた千冬姉がサムズアップ。
「千冬姉?なんでここに?」
「本来この戦いは一組だけで処理するものだった。しかし全校生徒を巻き込んでしまった以上他の教員も出る羽目になってしまってな。故に一回戦こそ休みを貰ったが後の三回戦までは私と山田先生がジャッジを担当する」
なるほど、山田先生も千冬姉もお疲れ様です。
「そう思うなら面倒を起こすなよ?」
だから千冬姉、いつの間に読心術なんか……独身だけに読心術、なんちて
「ふん、安心しろ、馬鹿な弟にかける手間がなくなれば、見合いでも結婚でもすぐにしてやるさ。………まあ手間がなくならなければ…」
千冬姉はどこか寂しそうな顔でため息ついた。最後の方はごにょごにょと呟いて聞こえなかったけど。
「にしても、……俺のIS来ないな」
「来ないな」
そう、来てないのである。
一回戦目で千春達が先に試合をしていたのも、俺の専用機の到着が遅れるかららしいのだ。
だが…
「流石に時間がキツいか、……千冬姉、打鉄は出せる?」
「打鉄か?……どうするつもりだ?」
千冬姉が怪訝な表情になる。
「最悪、打鉄でセシリアと戦うよ。特訓中に使ってたから、動かしなれてるし」
そう。箒と千春、二人と特訓してた時はずっと打鉄を使っていた。
打鉄で勝つのは難しいだろうが、不戦敗なんてことにはなりたくない。
「そうか、では―――――」
千冬姉は頷き、踵を返そうとした。
その時、
「織斑くんっ織斑くんっ!来ましたっ!来ましたよっ!」
スピーカーを通しての山田先生の声がAピット内に響く。
来ましたって……まさかっ
「織斑くんの専用機がっ、来ましたっ!」
ピットの搬入口が音を立て開いていく。
そこに鎮座していたのは、
白だった。
無骨な装甲は須らく白。純白の白を纏ったそれは、王に忠誠を誓う騎士の如く待っていた。
そう、こうなる事をずっと前から待っていた。この時を、ただこの時を――――
「これが…俺の…」
「はいっ!織斑くんの専用IS 『白式(びゃくしき)』です!」
白式に触れる。
試験の時、初めてISに触れた時に感じたあの電撃のような感覚はない。
いや、そんな『弾かれる』ような感覚じゃない。
むしろ俺を白式が受け入れようもしてるとさえ思える。
「…俺は…こいつを知ってるか?……」
様々な情報が頭の中で錯綜する。
わかる。理解出来る。これが何なのか、何のためにあるのか……
全てがわかった。
武装はただひとつ、近接ブレードただ一振り。
「雪片。……なんの因果か千冬姉と同じブレードか……」
雪片、その名を呟けば千冬姉が目を見開いた。
「参ったな……負けられないじゃないか。いや、元より負けるつもりはなかった……問題ないか」
千冬姉は人類の中で最強の部類に入る。
だがしかし『最強』ではない。
この雪片はその千冬姉を『最強』と呼ばせた一因。
一夏は確信した。
これならセシリアに、勝てる…と。