艦隊の祥、艦娘の鳳   作:瑞穂国

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お久しぶりです

今回の話は、何というか・・・

うん、多くを語るのは後にしよう!久しぶり(二年ぶりくらい?)の瑞鳳視点です


瑞と祥

「よしっ」

 

桜の季節が花吹雪と共に終わりを迎えて、いよいよ木々が青々と葉を茂らせ始めました。明るい色の太陽に目一杯葉を広げ、その間を風が吹き抜けると、さわさわと心地の良い音がします。そんな、新しい季節の始まりを感じつつ、わたし、瑞鳳は、一先ずやり終えた仕事に満足して、腰に手を当てました。

 

お姉ちゃんとわたしの部屋。季節の変化に合わせて、模様替えをしてたんです。さすがに、もう厚い掛布団は必要ないですし。

 

箪笥の上、春に合わせた小物を選んだのは、わたしのお姉ちゃんであり同室の祥鳳。そんな彼女は、わたしの上げた声に、ほんの少し残っていた桜のような笑いを浮かべます。

 

「なんだか、やっぱりくすぐったいわね」

 

「えー、何よそれ」

 

お姉ちゃんがくすぐったいと言ったのは、わたしが箪笥の上に置いた、写真立てのことです。

 

写真立ての中に納まっているのは、わたしとお姉ちゃん、二人で撮った写真です。丁度一か月くらい前かな。休暇を使って、二人だけでお花見に行ったときに、撮ってもらったものです。

 

こういう写真って、今までなかったのよね。

 

あ、もちろん、お姉ちゃんと二人で映ってる写真は、あるいよ?ていうか、わたしの宝物にして、大事に保管してるけど。

 

そういうことではなく。わたしたち二人が、鎮守府の外で映っている写真、っていう意味。

 

まあ、艦娘だし、仕方ない面もあるのよね。特に、鹿屋基地は対潜哨戒の中心部隊だから、軽空母は重宝がられるんです。

 

―――「すみません、できれば、二人一緒に休みとかにしてあげたいんですけど」

 

あの、どうしようもないくらいお人好しの提督は、そう言ってたっけ。

 

ともあれ。滅多にない二人揃っての休日をもらえたのが、四月も半ばになった頃。その前週に、七駆の皆が行ったという近場の公園に、お姉ちゃんと繰り出したんです。

 

二人で早起きして、はりきってお弁当も作って。レジャーシートを持って、出掛けました。

 

公園の桜はまだ散り始めたばかりで、満開の状態。芝生にシートを敷いて、心地よい陽気の中、お姉ちゃんと春を楽しみました。

 

えへへ、あの時は、楽しかったなあ。

 

そんな、大切なお姉ちゃんとの思い出が詰まった写真だから。わたしは写真立てに入れて、箪笥の上に飾っています。

 

それがどうも、お姉ちゃんには歯痒いらしいのです。

 

ふむ。逆で考えてみようかな。例えばお姉ちゃんが、わたしの写真を、とっても大事そうに、飾ってくれていたら。

 

・・・確かに、すっごく嬉しいけど・・・同じくらい恥ずかしいっていうか、こそばゆい?かも?

 

お姉ちゃんも、そんな気持ちなのかな。

 

使った掃除用具や冬物の衣類を片付け終わると、まだお昼ご飯には早い時間でした。午後はお姉ちゃんが定期の哨戒に出てしまうので、二人で少しゆっくりできる時間があってよかったです。

 

「・・・提督は、執務終わったかな?」

 

ふと、何気ない風に、お姉ちゃんが呟きます。

 

むう。お姉ちゃん、また提督の話してる。本人に自覚はないみたいんだけど、お姉ちゃんは暇さえあると、提督のことを気にしています。

 

そりゃあ、まあ。一応、わたしは二人の仲を認めてるし。お姉ちゃんが幸せそうだから、別にいいんだけど。

 

妹としては、多少なりと面白くないものがあります。

 

・・・はあ。ま、それでも、もしかしたら未来の兄になるかもしれない人だしね。

 

「気になるなら、行って来たら?どうせもうやることないし」

 

「・・・そ、そうね。うん、行ってくる。ありがとう、瑞鳳」

 

やっばい、わたしのお姉ちゃん可愛すぎなんですけど。

 

それはそれは嬉しそうに、身支度をして部屋を出ていくんだから。あはは、何も言えないよ、もう。

 

提督、これで貸し一つだからね。今度、執務中にうたた寝しちゃったお姉ちゃんの写真を要求するから。

 

 

 

「ねえ、瑞鳳」

 

お姉ちゃんがわたしの名前を呼んだのは、二人で並んで布団に入り、寝ようとした時でした。

 

「どうしたの、お姉ちゃん?」

 

「ううん、ちょっと・・・ね」

 

うん?結局、何だったんだろう?

 

元々は、確かに遠慮しがちなお姉ちゃんだったけど。提督と付き合うようになって、少しずつ、ちゃんと自分のことを主張してくれるようになりました。そういう点、提督には感謝してるのよ?

 

それでも、言い淀むなんて・・・気になります。

 

「話してくれないと、不貞腐れるよ?」

 

「・・・わかったわ」

 

観念したように、お姉ちゃんが苦笑しました。

 

「ねえ、瑞鳳の布団に、入ってもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

「ありがとう」

 

そう言って、お姉ちゃんがわたしの布団に入ってきます。もう一人分の体温が加わって、艶やかな黒髪からは甘やかないい薫りが漂ってきました。くらくらしちゃう。

 

でも、そんなものは序の口でした。

 

ギュッ

 

次の瞬間に起こったことを理解するのに、わたしは数秒の時間を要しました。

 

お姉ちゃんが、わたしの頭を胸元に抱え込むようにして、抱き締めてきたんです。

 

えっ!?ふあっ!?あ、えあの、えっと、え何、どゆこと!?何が起こってるの!?

 

髪とはまた違う、とても優し気な薫りが、わたしを包み込みます。

 

てゆか・・・っ!おっぱいが・・・っ!お姉ちゃんのおっぱいが・・・っ!

 

前々からおっきいとは思ってたけどっ。マシュマロみたいにふわふわとして、暖かい双丘に、わたしの脳味噌がとろけて消えてしまうんじゃないかと思いました。

 

ああ・・・ここが天国・・・。わたし、今なら死んでも悔いがない気がする・・・。

 

完全に放心状態になりかけていたわたしは、何とか意識を繋ぎ止め、お姉ちゃんの服を摘まみます。

 

そのまましばらく、わたしはお姉ちゃんの抱き枕になっていました。

 

「お姉ちゃん・・・どうしたの?」

 

そろそろ呼吸困難に陥りそうになっていたわたしは、お姉ちゃんのおっぱいから顔を上げます。優しい手つきでわたしの頭を撫でてるお姉ちゃんは、とてもとても、穏やかに微笑んでいました。

 

「瑞鳳は、わたしのこと、好き?」

 

ズッキューン、ですよ。お姉ちゃんはわたしのハートを何回撃ち抜くつもりなの?

 

「も、もちろんっ!お姉ちゃんのこと、大大大大大っ好きだよっ!」

 

たった一人のお姉ちゃんで。とても大切な人で。わたしの憧れの人で。

 

もちろん、大好きに決まってるじゃない。

 

「ありがとう」

 

お姉ちゃんはそう言って、より一層、わたしを強く抱きしめます。うん、お姉ちゃんは、わたしをこのまま昇天させるつもりなのかな。

 

お姉ちゃんみたいな天使にお迎えしてもらえるなら、本望かも。

 

「わたしも、瑞鳳のこと、大好き」

 

はい死んだ!今わたし死んだよ!

 

本当に、現実の意識を手放しそうになっていたわたしは、でも次の一言で、否応なく今に繋ぎ止められました。

 

「でもね・・・提督のことも、瑞鳳と同じくらい、好きなの」

 

ハッとして、わたしはお姉ちゃんの顔を見ます。だって、お姉ちゃんがここまではっきり、提督のことを好きって言ったことは、今までなかったから。

 

きっと何か、よっぽどの理由があるんだろうって。

 

「お姉ちゃん・・・?」

 

「瑞鳳、私・・・私、ね」

 

 

 

「提督に、ケッコンを申し込まれたの」

 

 

 

心臓が、止まるかと思いました。

 

ケッコン。その言葉の意味くらいは、わたしも知っています。

 

ケッコンカッコカリと呼ばれる、システム。それは表向き、あくまで艦娘の能力向上を目的とした、システムです。

 

でも、そこに含まれる意味は、それだけではありません。

 

わかってますよ。提督にとって、お姉ちゃんは大切な人で。お姉ちゃんにとって、提督はかけがえのない人。

 

ケッコンカッコカリ。その能力を発現するために交わされる指輪の意味は、二人にとって、もっとずっと大きなものだから。

 

「私は、お受けしようと、思ってる」

 

断固たる意志の込められた答え。わたしはただ黙って、頷くしかありませんでした。

 

「ケッコンして、何かが大きく変わるわけじゃ、ないと思うの。私はいつも通りに出撃して、執務を手伝って、この部屋に帰って来るわ」

 

違う。違うよ、お姉ちゃん。きっと、全てが同じ、なんてわけにはいかない。わたしには、わかるもん。

 

お姉ちゃんは、いつまでも純粋で、変わらず、ちょっぴり鈍感。そこに、甘えてたわたしがいたのも、事実。

 

身勝手で、わがままで、ちっとも「いい妹」なんかじゃない、けど。でも、言わなくちゃ。

 

わたしだって、お姉ちゃんが大好きだもん。提督に負けないくらい、大好きだもん。

 

「・・・や」

 

自分の声は、掠れて、震えていました。

 

「や・・・いやっ!渡したく、ないっ!わたしの、お姉ちゃんだもん!たった一人の、大切な人だもん!」

 

お姉ちゃんの寝間着を、力の限り、ぎゅっと掴みます。そうしていないと、全てを言い切る前に、泣いてしまいそうだったから。

 

「やっと、会えた!たくさん、たくさん一緒にいた!これからもずっと一緒がいい!ずっと・・・わたしだけのお姉ちゃんでいい!」

 

あーあ、何言ってるんだろ、わたし。わたし一人のエゴを押し付けて、駄々をこねて。

 

でも・・・いつかはきっと、言わなくちゃいけなかったことだから。

 

結局泣いていたわたしの話を、お姉ちゃんは何も言わず、静かに聞いていました。暖かな手だけが、わたしをなだめるように、背中をさすり、頭を撫でます。それが益々、わたしの涙を溢れさせました。

 

「わかってるよ・・・わかってるよっ!だって、お姉ちゃんの妹だもん。お姉ちゃんが、どれだけ提督のことが好きかなんて、わかってるよ」

 

だから、わかっちゃうもん。だって、誰よりも、一番近くにいたんだから。

 

「・・・お姉ちゃんは、提督と一緒が、幸せでしょ?想いを伝えなくちゃいられないぐらい、好きでしょ?」

 

しゃくり上げながらの問いかけを、お姉ちゃんは何も言わずに、肯定します。

 

そう。そんなの、わかってたことだから。否応なく、思い知らされてきたことだから。

 

いつかはきっと、向き合わなきゃいけなかったこと。

 

わたしたちは姉妹。妹である私にとって、お姉ちゃんが幸せなのが、一番嬉しいから。

 

涙を、拭います。

 

「ごめんね、わがまま言って」

 

「ううん。瑞鳳こそ、正直に言ってくれて、ありがとう」

 

違うのに。感謝されるようなことじゃ、ないのに。お姉ちゃんは、こんな時でも、優しくて。

 

一つ、呼吸を挟む間があった後、お姉ちゃんがポツリと、口を開きます。

 

「・・・私も、ちょっとだけ、わがままを言ってもいい?」

 

「・・・うん」

 

散々わがままを言ったわたしには、それを止める権利なんて、ない。

 

「私は、提督のことが、大好きよ。できるなら、いつまでも、お傍にいたい」

 

でもね。優しく語りかけるように、お姉ちゃんの言葉は続きます。

 

「私が今、幸せなのは、皆のおかげなの。鹿屋基地の皆がいたから、私も、提督も、幸せになれたの。だって私には、皆みんな、かけがえのない、大切な仲間だから。家族だから」

 

ギュッ。お姉ちゃんが、もう一度強く、わたしを抱き締めます。細くしなやかな体の、どこからそんな力が出るのか。どこか必死に、こちらの息が詰まるくらい、わたしを抱き締めてきます。

 

「だから私は、皆にお返しがしたい。今度は私が、皆のことを、幸せにしてみせるから。・・・それが、私のわがまま」

 

・・・。

 

もう。それはわがままじゃなくて、宣言だよ、お姉ちゃん。

 

どうしようもない安心感と、ぽっかりとした喪失感。けれども不思議と、悪い気分じゃありません。

 

いつか、元帥が言っていたように。お姉ちゃんは、人と艦娘の在り方を、変えようとしているのかもしれません。

 

「お姉ちゃん」

 

お姉ちゃんは、幸せだと言った。わたしたちを、幸せにしたいと言ってくれた。

 

「幸せ」、っていうのが、どんなものかは、きっと人それぞれだろうけど。お姉ちゃんならできる。

 

だって、わたしのお姉ちゃんだもん。わたしの、自慢のお姉ちゃんだもん。

 

 

 

「ケッコン、おめでとう」

 

 

 

その夜は、わたしが眠りにつくまで、ずっとお姉ちゃんが抱き締めてくれていました。




・・・いかがだったでしょうか?

このシリーズを書き続けて三年あまり。二つ目の区切りを、迎えられそうです

次回は結婚式!と行きたかったのですが・・・

一話、曙ちゃんの方の話を、投稿しようかと思ってます(いつ投稿できるかはわからない)

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