ゲヘナ学園学区内。そこで俺はハンドガンをくるくる回しながらスマホを弄っていた。
「まさか本当に自分の身に起きるなんてなぁ」
周りを見る。周りには、ヘルメット団と呼ばれるヘルメットを被った不良どもが倒れていた。ぱっと見で10人ほどいるが、誰もが気絶している。
こいつら、さっき出会い頭に襲ってきたんだよな。まぁ、俺最強だったから全員返り討ちにしたけれど。
「貞操観念逆転キヴォトス、はじまるよー、ってか」
ここがどこかわからなかったからとりあえず近くにいたこいつらに声をかけたんだけど、あり得ん物を見たって感じの狼狽え方して、そのまま俺を放置して仲間内で急に話し始めたと思ったら、「お前をさらってやるぜー!」とか威勢のいい子と言い出して襲い掛かってきた。
「貴重な男の人だ!」とか「私らにもついにツキが回ってきた!」とか「ぐへへへへ男男男……!」みたいなこと言ってたから、制圧した後に都合よくポケットに入っていたスマホで調べてみると、どうやらこの世界は貞操観念逆転世界、というやつだった。というか男がほとんどいない、もしかしたら0に近しいのかもしれない。原作にも登場していないから、これが事実だった……ってコト!?
因みに、先生はまだ来ていないみたいだ。連保生徒会長がどうとかのニュースは見たけど、先生の話題なんてかけらも見当たらなかったから、多分そうだろう。
「いや、マジで最強でよかった。ここでバットエンドの可能性があったみたいだし」
そう、我、推定転移者。電車に乗って仕事に出かけてたんだけど、その道中でつい居眠りしちゃって、次に目が覚めたらゲヘナの公園のベンチで寝てたんだよね。ちなみにゲヘナって分かったのは、その公園出てすぐのところに【ゲヘナ学園はこちら】って書いてある看板があったからだ。
目が覚めたら知らない場所にいるし、ハンドガン2丁も持ってるし、なんかヘイロー持ってるし、スマホで見る限り服装はスーツのままなのに若返ってるみたいだしでテンパったけど、そういうこともあるかってことで落ち着いた。今流行ってるしな。
で、ヘルメット団の連中に襲われたわけだが、どうにも体に染みついているみたいに戦えた。すげー余裕で気絶まで持って行けたんだよね。元々は一般日本人ぐらいの身体能力しかなかったはずなのに。不思議なこともあるもんだ。
それに、今調べているこのスマホ。俺のものだけど、中身はキヴォトスでも使えるようになっていた。今まで使っていた連絡アプリの代わりにモモトークも存在していた。誰も登録されていなかったけど。登録されてた連絡先は闇にでも葬られたか…?
まぁ、現状だけで言えば仕事を無断欠席してるわけだし、上司に一言くらい連絡を入れたかったんだけど、流石に連絡先覚えてないしなぁ。
「あ、というか覚えてる電話番号にかけてみるか」
というわけでとりあえず実家に連絡。…………繋がらない。ま、そりゃそうだよな。そんなところだけ都合がいいわけがない。
「帰ったときに路頭に迷わなければいいけどなぁ」
ま、帰れるかわからないんですけどね!
「さて……とりあえず、一番近そうなゲヘナ学園に向かうか」
スマホの情報収集も限界があるしね。
次に会う人は出会い頭に襲ってこずに、話が通じると嬉しいんだけど。ゲヘナでその確率がどうなのかは置いておく。
「風紀委員よ。そこの人、少しお話を―――――」
「ん?」
「―――――えっ」
そんなことを考えていたら、背後から人がやってきた。
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空崎ヒナは、この日朝から少し運が良かった。目覚ましが鳴る前2分前に目が覚めたし、自販機でコーヒーを買ったら当たりが出たし、無くしたと思っていたボールペンが出てきた。そして何より、今日は書類が少なかった。
これなら普段より早く帰れそうね、と思いつつ珍しくのんびり仕事をしていたら、風紀委員の娘がヘルメット団が暴れてると報告してきて、丁度みんな出払っていたから、報告をしに来た子に留守番を頼み、仕方なしにヒナが出ることにした。そして、そこでありえないものと出会った。
「風紀委員よ。そこの人、少しお話を―――――」
「ん?」
「―――――えっ」
男の人。動物やロボットなんかじゃなく、人間。ヒナもギヴォトス生活が長いが、性別男の人間はほとんど見たことがない。最早都市伝説といってもいいほどである。
更に、その男の人はヘイローがある。大人は持っていないそれを持っているということは、どこかの生徒なのだろうかとも思う。
「おっ。ゲヘナの風紀委員の人か。ちょうどよかった」
「えっ、あっ、う?」
知らない男の人から声をかけられて、ヒナはキョドッた。それはそうだろう。なんせここまで生きてきて、男の人間と会話したことなどない。どうやって話せば?と考えていたところに先制パンチを食らえば誰だってそうなるのだろう。
「いやー、ゲヘナ学園に行こうと思ってて。道に迷ったらこいつらに絡まれたから撃退したところなんだ」
「えっ、あ、あなた一人?」
「おう。ぼっちですぜ」
向こうから話しかけてきたうえに、返答をもらった。実はこれ疲れから見えている幻覚なのではともヒナは思い始めた。
「で、良かったら学園まで案内して欲しいんだが」
「え、えぇ、私でよければ」
「やった!サンキューな!」
本当は目的とかあなたはどこの誰とか聞かなくてはと思ってはいるものの、なんとなく思考がまとまらない状態のまま、ヒナは了承の返事をした。
「俺は……ハジメ。そう呼んでくれ」
そう言ってヒナに手を差し出してきた。一瞬なんだこれはと思ったが、多少は冷静になってきた思考が握手だぞと訴えてくれた。向こうから握手を求めてくる男が存在するわけがない。やはりこれは幻覚に違いない。睡眠不足かしらと思いつつ、幻覚とはいえ握手に答えないのもどうかと思い、握手に応じる。
「そう…。知ってると思うけど、風紀委員会の空崎ヒナよ」
「よろしく!」
「っ!」
握手。今まで何百回としてきたそれなのに、まるで初めてしたかのような感覚がヒナを襲う。そこには確かに人の手の感触があった。疲れが見せる幻覚ではなかった。これが男の人の手…とヒナは握手した手を無意識ににぎにぎした。
「………………………」
「……あ、あの?空崎、さん?」
「………あっ、ご、ごめんなさい!!」
初めて握った男の人の手はゴツゴツと逞しく、なんだか温くヒナは感じた。
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「ここがゲヘナ学園、よ」
というわけで、ヒナにゲヘナ学園まで案内をしてもらえた。第一村人(ヘルメット団は話が通じなかったのでカウントしない)がゲヘナ風紀委員長とはついてるぜ。
しかしながら、先ほどの反応的に、やはりこの世界の住人は男に慣れてないみたいだ。キヴォトス最強とも謳われているヒナであの反応だったんだから、もしもの時に敵で男が出てきたら誰でもやられそうだな。
「――ハッ!」
その時、俺に電流が走る!もしこのまま男に慣れていなければゲマトリアが卑劣な作戦を展開して生徒を行動不能にしてくるかもしれない!いくら先生が原作さながら完璧ムーブを決めたとしても、戦力となる生徒が動けなかったり隙を晒せば、それは敗北=この世界が滅びることになりかねない。
死んだら元の世界に戻れるなんて保証はどこにもないんだから。
「?…どうかした?」
「いや、なんでもないよ」
そうと決まれば、俺がやるべきなのはこの世界の人間を男に慣れさせることだ。ま、同じ人間なんだ。すぐに慣れるでしょ。
「…あの、ハジメ、さんは―――」
「ハジメ、でいいよ」
「……ハジメは、どうしてゲヘナに?」
案内してもらっている間もチラチラとこちらを見ていたが、何も話しかけてこなかったヒナだが、着くまでに決心が固まったのかようやく話しかけてきた。まぁそりゃ疑問だよな。
「ちょっと用があってね」
「…その服、スーツよね。ミレニアムの生徒?」
ミレニアム?……あぁ、リオがそんな感じの服装してたっけか。どこかに所属していると言った方が今後有利かとも思ったけど、秒でバレそうだしやめておこう。
「違うよ。…どこから来たっていうのは、ちょっと説明が難しいんだけど」
「そう」
追及なし。よかった~。
「……今日は業務に余裕があるから、私が案内しましょうか?」
「えっ、いいのか!!」
着いたはいいけど、実際来てみるとあまりにでかいもんだからどうしようかと思っていたところだったんだよな。さすがヒナさんだぜ!
ここで男に慣れさせるため、喜びを表現するためにぐっと近づき、両手を握り、ブンブンさせる。
「!?!?!?」
おー。すごい顔真っ赤にして驚いている。いずれはこの程度、なんてことない顔して受け流してほしいものだが。
「いやー、本当に助かるわ!よろしく!」
実際、ヒナに案内してもらっている間は、周りからチラチラ見られたりしていたが、それ以上のことは起こらなかった。やはり力……力こそすべて……。
力で思ったけど、こちらの最強具合ってどのくらいなのだろうか。あとで模擬戦でも頼んでみるか。
「…と、とりあえず、視線が凄いから、風紀委員会のところに案内するわね」
「りょーかい」
そうしてヒナに連れられて、風紀委員の部屋に向かうことにした。
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羽沼マコトは、この日朝から少し運が悪かった。目覚ましをうっかりかけ忘れたようで寝坊しかけたし、休憩の時に自販機でコーヒーでもと思ったら売り切れていたし、ボールペンをなくした。そして何より、今日は書類が多かった。
本日、サツキは非番だし、イブキとイロハは見回りに出掛けているし、チアキは面白いものを探しに行ってきます!と元気に出て行ってしまった。仕方がないので、珍しく忙しく仕事をしていたら、チアキが凄い勢いで扉を開けて帰ってきた。
「うぉ!」
「マ、マママママママコト先輩!!!」
「…キキキ、なんだチアキか。うるさいぞ」
扉が壊れるぞと思いながら、視線をチアキに向けると普段ではなかなか見ないような慌てっぷりであった。
「たたたたた大変なんです!!!」
「…チアキ、万魔殿たるもの、常に冷静にだな――」
「ヒナ先輩が男の人を連れて歩いていたんですぅ!!」
「な、なにーーーーーーーー!!!」
冷静にはなれなかった。
「お、男って、あの男か!?」
「そう、あの男です!!」
「そんなのどこで見つけたんだ!?というか存在していたのか!?」
「わかりません!」
「今、ヒナとその男はどこに!?」
「風紀委員会の部屋に行ったようです!!」
「つ、連れ込みだと!!」
マコトは戦慄した。組織を束ねる長としてはほぼ同格であり、1年生のころから長い付き合いであったヒナが、自分のテリトリーに男を連れ込むなんて積極的なことをするなんて。
ふと、マコトの脳裏に、こちらを見下しながらふっと笑うヒナの映像が浮かんできた。あなたには無理でしょうけどね、と言いたげな表情と共に。
「チアキ!!今すぐ風紀委員会の部屋に行くぞ!!」
「えぇ!?」
「風紀委員長が風紀を乱しているんだ!これを見逃すわけにはいかん!!」
マコトは椅子に掛けていた上着を羽織ると、先ほどのチアキに負けず劣らずの勢いで扉を開け、風紀委員の部屋を目指して駆けだした。
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「飲み物は、コーヒーでもよかったかしら」
「うん、ありがとう。いただきます」
風紀委員の部屋。案内されたそこは、所謂モブ子ちゃんと呼ばれるおかっぱ目隠れな風紀委員の人が一人いるだけであった。彼女は俺を見るなり固まってしまったけど。
そんな彼女を尻目に、ここに座ってと指示されたソファーに座り、ヒナが持ってきてくれたコーヒーをいただく。うん、おいしい。
「……はっ!い、委員長!これはいったい……?」
ヒナが対面のソファーに腰かけたあたりでモブ子ちゃんが再起動した。こちらをチラチラ見つつヒナにこそっと話しかける姿はなんだかほっこりする。…お、目が合った。
「!?!?!?」
……いや、目が合っただけでその反応になるのか。
「…その、ごめんなさい。この子――というか私たち男というものに慣れてなくて……」
「ん?ああ、大丈夫だよ」
何故か申し訳なさそうなヒナに返事をしつつ、やはりこれはゲマトリアの卑劣な罠への耐性をつけなければと、決意を新たにする。
「それと……知ってると思うけど、うち――ゲヘナは治安があまりよくないから、男の人が一人で出歩くのはよくないと思う」
それは、そう。
「まぁ、それにはやむにやまれぬ事情があったというか……」
「そう。……も、もし出歩く必要があるなら護衛をつけた方がいいと思うの。ヘルメット団を一人で倒せる実力はあるようだけど、もしもがあるのだし」
それもそうである。なんか知らん力があるからって慢心しているといつか足元を掬われることになるだろうし。
「忠告ありがとう、空崎さん」
「…そ、それで、その、もしも何かあった時のために、あの、れ、連絡先を交換しておかない?あ、いや、別にこれは下心があるというかそんなことはちっともなくてただ純粋にハジメのことが心配でだから――」
「お、それは助かる」
なんかすごい早口で詠唱が始まった気がするけど、よく聞き取れなかったから気にしなくてもいいだろう。重要な部分は聞こえたし。
しかし、ゲヘナ最強と言われるヒナの連絡先があれば、この先もかなり役に立つだろう。俺の後ろには風紀委員長がいるんだぞって。ヒナの威を借りていけ。
あ、そうだ!(悪だくみ)
「空崎さん、交換ついでにお願いがあるんだけど」
「な、なに?」
「後で一緒にツーショット撮ってくれない?」
「!?!?!?!?!?」
凄い顔になった。
多分続かない