異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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狙われたガルド

 商隊用に店内の商品を渡してしまったので、補充用の防具を作業室で作っている。

 

 その中でも駆け出しの冒険者でも買えるワイルドボアの皮を使った胸当て、ガントレット、ブーツ、ヘルムのセットと高い防菌性と防刃性を兼ね備えているセリオス草の繊維を使ったワンピースの服だ。

 

 シアやルカスのサイズに合わせているので、来店したときにオススメする予定だ。

 

 義娘の面倒を見てくれていることも考えて格安で提供しよう。

 

 きっと気に入ってくれるだろう。

 

 新しく作った装備を持って作業場から店内に戻り、マネキンに革鎧の装備を着けていく。リリィはカウンターで勉強していたのだが、今は手を止めて俺の作業を見ている。

 

 何が楽しいのかニコニコしていて、尻尾はゆらりゆらりと揺れている。リラックスしている証拠だ。

 

「今日も勉強が終わったら槍の練習をするのか?」

「ううん。シアちゃんたちが街の外でお仕事しているから、ずっとパパと一緒だよ」

 

 魔物の討伐依頼でも受けたのだろうか。常に出ているのはゴブリンの駆除だったはずだ。あの二人なら無謀なことはしないだろうから問題ないと思うけど、少しだけ不安が湧き上がってくる。事前に言ってくれれば後を付いて様子を見てあげたんだが。

 

 リリィと友達になれる年齢の子供なんて数少ないんだから、このぐらいは甘やかしにならないだろう。

 

「それなら、仕事が終わったら少しだけパパが槍の練習相手になろうか?」

「いいの!?」

 

 席を立ってカウンターから身を乗り出すほどの勢いで俺を見ている。

 

「もちろん。元Aランク冒険者の実力を見せてあげる」

 

 冒険者のランク制度は下がDでAが最大だ。Sなんて特別なランクはないので、Aランクの間でも実力の幅は広い。俺は真ん中ぐらいだったはずだ。

 

 これでも一流と呼ばれる腕は持っていたんだから、リリィにいいところ見せるチャンスである。

 

「パパってそんな強かったんだ! すごい!」

 

 竜人の種族特性に強者との戦いを楽しむ、というのがある。リリィにもその血が受け継がれているのだろう。

 

 強いと言うだけで、俺の評価はかなり上がったようだ。テンション爆上がりである。

 

 リリィの体は頑丈で力もあるため、勉強が終わった後はハードな訓練になりそうだな。

 

 装備を飾り終えたのでカウンターに戻ると店のドアが開いた。

 

「いらっしゃい……」

 

 振り返って姿を見て口が止まった。

 

 代官のクラリッサが立っていたからだ。貴族にしては控えめな装飾をしたドレスを着ていて、耳には金のイアリングをぶら下げている。胸元は少し開いていて自然と目が行きそうなのを我慢した。

 

 後ろにはアリシアがいて俺と目が合うと軽く頭を下げてくれた。

 

 なんかこれから迷惑をかける、ごめん、と言われたような気がする。

 

 貴族の令嬢とは思えないほどの大股で歩いてくると、クラリッサは俺の前に立つ。

 

「暑いわね~~」

 

 胸元でパタパタと手を振っている。一体何がしたいんだろうか。

 

「今日は涼しいですよ?」

「そ、そうかしら」

 

 顔を赤くして手を止めると、クラリッサは深呼吸をした。

 

 覚悟を決めたような目で俺を見ると、上半身を近づけてきて、口を開く。

 

「回りくどいのは止めたわ」

 

 な、何が起こるんだ……。

 

「ガルド……わたくしと結婚しない?」

「はぁ??」

 

 いい年をしたおっさんに何を言い出すんだこの女は!

 

 俺にはリリィがいるから誰かと結婚するつもりはないし、そもそもの話、追放されたとはいえ公爵令嬢が平民と結婚できるわけないだろ! 追放されて頭がおかしくでもなったか!?

 

 頭が結婚一色になっていそうなクラリッサを無視して、メイドのアリシアを見る。

 

「クラリッサお嬢様、それでは何も伝わりませんよ」

「そうね。一から話しましょうか」

 

 近づいたままクラリッサが話そうとしたのだが、カウンターに乗ったリリィが間に入って俺に抱きついた。

 

 義親の俺が取られると思ったのだろうか、尻尾を体に巻き付けて警戒している。

 

 まだ甘えたい年頃なんだな。俺は背中に手を回して体をピッタリとくっつけた。

 

 ああ俺は、この温かみとほどよい重さのために、頑張って生きているのだと実感する。

 

「どうして結婚という話になったんですか?」

「夫婦になればアーティファクトを作ってもらえると思ったのよ!」

 

 一から説明するといったクセに、論理が飛躍していてクラリッサの考えが全くわからない。

 

 いや、わかるにはわかるよ。

 

 結婚祝いにアーティファクトを作って、貴族に売りつければ大金が手に入る。それを資金にして、何かしたいことがあるんだろう、とか。

 

 でもさ普通、思いついたとして行動するか?

 

 少なくとも俺はしない。

 

 唯一褒めるところがあるとしたら、その行動力だけぐらいだな……。

 

「クラリッサ様に求婚されて身に余る光栄に思いますが、見ての通り私には義娘がいますよ?」

「わたくしは気にしないわ」

 

 俺とリリィが気にするんだよ!

 

 どうして遠回しに断ったのに、わかってくれないんだ。

 

「アリシアさんは、この話どう思っているんですか?」

「私はクラリッサお嬢様のしたいことをサポートするだけです」

 

 助けを求めて話題を振ったけど、見捨てられてしまったみたいだ。

 

 無表情の中でこの状況を楽しんでいるように見える。彼女は頼りにならなさそうだ。

 

「結婚はともかくとして、アーティファクトを手に入れてどうするつもりなんですか?」

「政治が絡むから今は言えないわ!」

「結婚しても?」

「夫婦になったのであれば隠し事はなしよ。全て教えてあげる」

 

 隠したつもりなんだろうが、俺にはおぼろげながらも妹が話していたゲームの記憶がある。

 

 クラリッサの性格から資金を貯めて反乱を起こすとは考えにくいので、王妃に援助してもらって何とか回っている街を独立でもさせたいのだろう。

 

 もし成功すればゲームシナリオは破綻して反乱や革命なんて起こさず、俺たちは平和な生活を維持できるかもしれない。

 

 ものすごく魅力的な結果ではあるが……やっぱり結婚には問題が多い。

 

「知っていると思いますが、俺は死んだことになっているんです。結婚して生きているとわかれば、今以上の難題が降り注いでくると思いませんか?」

 

 現代でアーティファクトを作れるのは俺だけだ。何をしてでも手に入れようとしてくるだろう。

 

 王家だけじゃなく、クラリッサの実家だって動くはずだ。

 

 寂れた街での生活は完全に終わってしまう。それは俺とクラリッサは望まないことだ。

 

「確かにそうね……。忘れてたわ」

 

 俺の言葉で冷静になってくれたようだ。数歩下がって距離を取ると、考え込みだした。

 

 気合いが入るとポンコツになるってのは本当だったんだな。

 

 支えるアリシアも大変だっただろう。

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