異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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天才の中の天才

 発見したダンジョンを探索するには時間が遅かったので、話し合いという説得をした結果、探索は明日になりクラリッサたちは家へ帰った。

 

 今はお昼過ぎぐらいだ。

 

 明日に備えて雑貨屋へ行って保存食を買い漁り、探索に必要な道具もついでに購入する。結構な金を使ってしまったが、未調査のダンジョンは何が起こるか分からないので、慎重になりすぎるぐらいがちょうどいい。

 

 装備だって俺が作った最高のものを持って行く予定だ。

 

 家に帰ると一階の倉庫に入って布をかぶせた場所に立つ。

 

 ホコリが溜まっていて長年手をつけていないことがわかった。

 

「パパ~。何しているの?」

 

 一人で暇だったのだろう。リリィが俺を探しに来たみたいだ。

 

 にっこりと笑う顔は天使すら逃げ出すほどのかわいさがある。

 

 側頭部に生えた角を撫でてあげると気持ちよさそうに目をつぶった。

 

「明日ダンジョンに入るから準備をしているんだ」

「私も付いていきたい!」

「危険だからダメだ」

「えーー。シアちゃんも行くんだよね? 私も行きたい!」

 

 普段は聞き分けのよい子なんだけど、今回はどうしても譲りたくないらしい。

 

 かわいさの余り無条件でいいよと言ってしまいそうなんだけど、心を鬼にして無茶なことを言うことにした。

 

「ランサーのスキルを覚えたらな」

 

 ジョブのスキルは鍛冶師のように一つでなんでもできる場合もあれば、複数用意されている場合もある。ランサーは後者だ。

 

 刃に魔力をまとわせる魔力刃、突くときに穂先の分身を作り同時攻撃する乱れ突き、穂先に魔力の竜巻をまとわせて突進力と攻撃範囲を広げる嵐閃(らんせん)といったのがある。

 

 これらは槍を練習しているだけじゃ身につかない。例えば魔力刃であれば、穂先に魔力を通して維持する訓練が必要で、一朝一夕じゃスキルに昇華はできないのだ。

 

 仮に才能があったとしても、スキルを覚えるのに数ヶ月は必要だろう。

 

 今回の探索には間に合わないので、この条件をクリアするのは不可能だ。

 

「それじゃ参加できるね!」

「ふぇっ!?」

 

 一ヶ月ぐらい前にランサーのジョブに就いたばかりだぞ?

 

 あり得るのか?

 

 でもリリィは嘘をつくような娘じゃない。

 

 ええっと……どうしよう。

 

 悩んでいるとリリィは近くにある木製の槍を手に持った。これも昔、練習がてら作った物だ。二メートル近くあるので、子供が持つと非常に大きく見える。

 

「見ててね」

 

 穂先に赤い魔力が集まって刃の形になった。発動から完了まで一秒未満だ。ベテランと遜色がないどころか上回るほどだぞ!

 

 才能があるってレベルじゃない。天才の中でも群を抜いている。

 

「魔力刃か! いつの間に覚えたんだ!」

「ちょっと前にだよ。上手くできたかな?」

「完璧だ! これならすぐ実戦に……」

 

 リリィの体を持ち上げてグルグルと回っていたのだが、途中で止まってしまった。

 

 ダンジョン探索の条件をクリアしてしまったからである。

 

「パパは嘘をつかないもんね」

 

 にっこりと笑う顔には、いつもと違って圧があった。

 

「未調査のダンジョンは何が出てくるかわからない。危険だぞ……」

「でもパパはスキルが使えばいいと言ったよ」

「いや、でもな……」

「ダメ、なの?」

 

 目に涙を溜め始めた。

 

 男は女の涙に弱い。ましてや愛娘であれば、その効果は数倍、数十倍となるだろう。

 

 スキルが使えるぐらいジョブの習熟度が高く、引率者としてベテランの俺がいれば危険ではあるが許容範囲内という事実もあって、すぐに拒否はできない。

 

 この世界は昔にいた日本よりも危険で物騒だ。

 

 早めに実戦経験を積んでおくことは、将来のためになるとも考えられる。

 

「うーーん……ダメじゃない!」

「やったー! パパ大好き!」

 

 手を伸ばしてきたので抱きしめた。

 

 我が家はお手製のシャンプーを使っているので、花の爽やかでやや甘い香りがする。

 

 肌もきめ細かく綺麗なので、貴族令嬢と言っても通じるだろう。

 

 義娘成分を補充して満足したので、地面に下ろして離れる。

 

「少し離れててくれ」

「は~い」

 

 部屋の隅まで移動してくれたので、俺は布を取った。

 

 中には両手で振るうグレートソードがある。刀身には魔法文字が8つもあって、誰が見てもアーティファクトだとわかる。

 

 俺が防具専門になる前に作った武器で、危険すぎて市場には流せずに取っておいたのである。

 

 他にもドラゴンの住処だけに発生する魔力濃度の濃い、ドラゴ鉱と呼ばれる鉱石を使った防具一式も置いてあった。派手な赤い色をしているが、これはレッドドラゴンの魔力を吸収した影響で変色したのだ。

 

 氷のブレスを吐くブルードラゴンであれば、青色のドラゴ鉱になっていただろう。

 

「赤い鎧を見ていると見ているとぽかぽかするね」

 

 リリィドラゴンと人の間にできた子供の子孫と言われる竜人族だ。遠い祖先の魔力を感じて親しみを覚えているのだろう。

 

「これはドラゴ鉱と呼ばれる非常に高価な素材で作った鎧だ。裏側に魔法文字を刻んでいて、耐久度と衝撃吸収能力を高めている。王都の高級店でも滅多にお目にかかれない逸品だぞ」

「触ってもいい?」

 

 うなずくと、リリィは恐る恐る赤い鎧の胸当ての部分を触った。

 

 同族の魔力が反応しているのか鎧が僅かに光る。

 

 目を奪われるほどの美しい光景だ。

 

「この素材ってまだ残ってるの?」

「少しだけな。子供サイズなら胸当てぐらいはいけるか」

 

 成長してすぐに使えなくなってしまうだろうけど、未調査のダンジョンに入るのだからもったいないという考えは捨てるべきだ。

 

 安全第一で行くべきだろう。

 

「パパが防具を作ってくれるの?」

「ああ、武器は店で買う形になるがいいか?」

「うん! 楽しみ~」

 

 胸当て以外にも防具は必要なので、赤みのある皮を探して作業部屋に行く。

 

 俺の仕事を見学するみたいで、リリィは近くに置いてある木箱に座った。

 

「暇じゃないか?」

「ううん、パパのお仕事見るの好きだから大丈夫だよ」

「そっか」

 

 会話を終えると作業台に皮の素材を置いて、防具を作り始める。もちろん魔石を使ってマジックアイテム化するのも忘れない。

 

 一晩寝ずに作り続けて、防御性能だけでいえばベテラン冒険者級の物ができあがった。

 

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