異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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不測の事態

 遅れてやってきた三人を乗せると馬車は走り出した。

 

 リリィは友達とのお出かけにはしゃいでいて、シアと一緒に窓から外を見ながら楽しんでいるようだ。

 

 思った通りの反応をして嬉しいのか、クラリッサは自慢げに馬車の素晴らしさを驚いているルカスに話していて、全体的に空気は良い。

 

 そんな光景を見て俺はふと思う。

 

 平民にも優しく接するような女性が悪魔と契約して反乱を起こすのだろうか。

 

 またそもそもの話、主人公の女性をいびり、婚約破棄するまで悪事を続けていたとは思えない。

 

 実際のクラリッサとゲーム情報に齟齬が発生している?

 

 俺がシナリオを変えるために奔走していたらあり得るとは思うが、距離を取っていて放置していたのだ。原因が思い浮かばない。またシナリオ通り代官として追放されたことからも、その可能性は低いと思っている。

 

 本人に聞けばすぐに答えは出るだろうが、貴族に追放された原因を教えてくださいと言えるわけがない。

 

 聞くとしても、もう少し仲良くなってからだろう。

 

 しばらくは要経過観察だな。

 

「何か気になることでもありますか?」

 

 考え事をしながらクラリッサを見ていたら、メイドのアリシアが警戒しながら聞いてきた。

 

 メイド服の上に金属製……これは魔法銀製の胸当てとガントレットを着けている。武器は同じ素材のレイピアだろう。席に立てかけてある。細かい装飾をされている辺り、貴族の護衛が使うに相応しい。主人と同じくマジックアイテム化はされていないので、特別な効果はないだろうが切れ味や耐久性は高そうだ。

 

「美しい装備だなと思いまして」

「職業柄、気になると?」

「ええ、貴族様の装備を見る機会なんて滅多にありませんから」

「私のレイピアでよければじっくり見てみますか?」

「ご迷惑でなければ」

 

 レイピアを渡してくれたので、受け取ると思っていたよりも重かった。魔物相手には力が必要となる場面もあるので、重力を味方にするため重くしたのだろう。

 

 鞘から抜いて刀身を見る。

 

 よく手入れされていて刃は鏡のように美しい。歪みや傷も全くない。未使用と言われても納得してしまいそうだ。よく見れば刀身からオーラが出るほど魔力も丁寧に込められている上に重量のバランスもいいので、高レベルの鍛冶師に作ってもらったんだろう。

 

 追放された割には、素晴らしい装備をしている。

 

 少し踏み込んで聞いてみるか。

 

「素晴らしいできですね。高かったのでは?」

「代官になる記念としていただいたので値段はよくわかりませんが、ガルド様ほどの鍛冶師がそう言われるのであれば、高いのでしょうね」

 

 デザインが統一されていることから推察するに、アリシアとクラリッサの装備全部がもらい物なんだろう。

 

 これほどの品を追放されたタイミングで渡すか。

 

 裏に誰かがいると教えてくれたようなものだ。クラリッサならともかく、しっかり者のアリシアなら偶然ではなく意図的に伝えてくれたんだろう。

 

 後ろ盾がいるから舐めるなよ、と言いたいのか?

 

 それとも俺の正体をその人だけに伝えたいから、その前フリとか?

 

「これほどの品であれば王都でも作れる方は少ないと思いますよ」

「それは良い贈り物をしてもらいました」

「どなたかお聞きしても?」

「問題ありません。マティルダ王妃からです」

 

 反乱を起こす際に命令か協力をしてもらった存在だ。

 

 細かいことを覚えていなくても、このぐらいはわかる。

 

 やはりシナリオ通りに進んでいるのか。

 

「王妃様ですか! 素晴らしいレイピアである理由がわかりました」

 

 ちょっとわざとらしかったかもしれないが、驚きながらレイピアを返した。

 

「ガルド様なら、これ以上の物を作れますか?」

「防具であれば間違いなく」

「即答ですか」

「事実ですからね」

 

 職人としてのプライドもあるので、この点は誤魔化さない。

 

 俺ならもっと魔力を込められるしマジックアイテム化もする。

 

 レイピアを作った鍛冶師は一流だが、俺はその上を行っている自負があった。

 

「やはり商隊とダンジョン。両方ともガルド様がいればなんとかなるかもしれません」

 

 無意識だったんだろうが、ギリギリ聞こえる声でアリシアがつぶやいた。

 

 シナリオを破壊できるのであれば協力するのは嫌じゃない。それが商売につながるのであればなおさらだ。

 

 クラリッサを気に入り始めているので、できる限りのことはしようと思っている。

 

「俺で役に立つなら遠慮なく頼ってください」

「…………よろしいので? 私たちは意外と重い女ですよ」

 

 冗談っぽく言ってきたけど、重いのは本当だろう。なんせ手を差し伸べなければ助けてくれる人はいないんだからな。

 

 遠慮なく寄りかかってくるはずだ。

 

「ヴァルモントの代官として街を盛り上げてくれるのであれば、重いぐらいがちょうどいいです」

「クラリッサお嬢様のだからですか?」

「個人的に好感をいだいていることは否定しません。その認識で相違ありませんよ」

「ではマティルダ王妃様が、クラリッサお嬢様とは別の命令を出したらどうしますか?」

 

 裏に王妃がいると教えた理由は脅すためか? 違うな。アリシアの口調や表情から敵意は感じられない。俺の覚悟を問われたのだろう。

 

「俺にとって飲み込めない内容であれば、また逃げるだけです」

 

 相手が権力を振りかざしてくるのであれば、アーティファクトを使って逃げるだけだ。

 

 俺とリリィだけなら造作もない事である。

 

 次は隣国にでも行って再スタートするさ。

 

「素晴らしい回答ですね。権力に屈しない男性は大好きです。やはり私たちの救世主はあなたしかいない」

「ええ!?」

 

 よくわからないが強気に出たら告白されてしまった。

 

 前のめりになって顔が近づいてくる。

 

 人生で初めての出来事に頭は真っ白だ。王妃がどうこうなんて、すっ飛んでしまっている。

 

 席に座っているので後ろに逃げることはできない。匂いがわかるほど近づき――。

 

「パパ~。一緒に外を見よう」

 

 接触する寸前でリリィが声をかけてくれて、アリシアは退いてくれた。

 

「ふふふ、冗談ですよ。冗談」

 

 そう言っているが、さっきの目は本気だったぞ!

 

 手段を問わず俺を取り込もうとする意志を感じた。

 

 女性に迫られる経験なんてなかったので、どう対処をすればわからなかった。リリィが割り込んでくれたのは正直助かったよ。

 

 ドキドキと鼓動の激しい心臓を何とかして落ち着かせると、俺はリリィ一筋だと言い聞かせながら、ダンジョンに着くまで外を眺めることにした。

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