異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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(クラリッサ)監視役を付けられる

「その話、本当だな?」

「概算上ではそうなっています。何か気になることでも?」

「実はマティルダ王妃から売上の一部を渡せと言われていてね。こちらも懐が厳しいんだよ」

 

 上手く進めればダンジョンの売上は街を復活させる起爆剤となるのに、どうしてデシアン子爵が無理なことを言ってきたのかようやくわかったわ。

 

 元々おバカな上に、裏でマティルダが横暴を働いていたようね。

 

 貴族は無条件で王家に従っているわけじゃないんだけど、デシアン子爵は何か弱みを握られているのかしら。または将来手に入れられる利権を狙っているとか。

 

 考えれば考えるほどいろいろな可能性は思い浮かぶけど、正直に話してくれないだろうことはわかっているので、無理に聞きだそうとはしないわ。

 

「それは大変ですね」

「ああ、頭が痛いよ」

 

 悩みを忘れたいのか、デシアン子爵はグラスに入ったワインを一気に飲んだ。

 

 すぐにアリシアが近寄って、空のグラスにワインを注ぐ。

 

「まあ金の件は私の方で処理をしておこう。利益の3割を街に残すから発展に尽力してくれ」

「承知いたしましたわ。この身を賭してご期待にお応えいたします」

 

 お金の話になるかもと思って、落とし所を用意しておいて助かったわね。

 

 予定通りの結果になってほっと安心する。

 

 わたくしもワインを飲んで、アリシアに注いでもらい一息ついた。

 

 会話が終わったタイミングでもあるので、メインディッシュの肉料理が置かれる。

 

 ナイフとフォークを使って切って口に入れる。塩と肉の旨みが広がって幸せを感じた。ちゃんと熟成していたみたいで、柔らかく溶けていく。手間暇を惜しまずに作ったお肉ってのは、これほどまでに心を震わせるものなのですのね。

 

 昔は高級な物ばかり食べていたから気づくことはなかったわ。

 

 貧素な生活を続けられたからこそ感じられる贅沢ね。

 

「そういえば、メイドは一人だけなのか?」

 

 お肉に感動してデシアン子爵の存在を忘れていたわ。

 

 今は接待をしているのだから集中しないと!

 

「はい。屋敷の管理等を全て任せておりますわ」

「いかんな。これから忙しくなるのだから、もう少し手足は必要だろう。私の所から数人、メイドを派遣する」

「それは最終的なご判断ということでして?」

「うむ」

 

 わたくしがダンジョンを適正に運営しているのか監視をつけるつもりね。

 

 建前があるせいで、正当な理由がなければ断るのは難しい。

 

 助けを求めるようにアリシアを見ると首を横に振った。

 

 これは一旦受け入れるしかなさそう。

 

「ご配慮感謝いたしますわ。アリシアの下で働かせてもよろしくて?」

「問題ない。私が戻ったらすぐによこす。こき使ってくれ」

「かしこまりました」

 

 言葉通りに受け止めたらダメね。客人とまでは言わないけど、ある程度は配慮してあげなきゃ。

 

 これで用件が終わったみたい。デシアン子爵は黙ってメインディッシュを平らげて、最後に出てきた蜂蜜のクッキーも食べてしまった。わたくしも同じペースで進めていたけど、無理してたから少しお腹が苦しいわ。

 

 でも会食はもう終わり。

 

 後はワインを飲みきって解散よ。

 

 早くベッドに入って横になりたいわね。

 

「商隊を作ったらしいな」

 

 思って油断したところで、本日最大の驚きがわたくしを襲った。

 

 隠していたのに情報が漏れていたみたい。

 

「何のことでしょうか?」

「とぼけなくてもよい。マジックアイテムをどうやって手に入れた?」

 

 取り扱いの商品まで漏れているのね。

 

 アリシアが裏切ったとは思えないので、商隊に選んだメンバーの中でデシアン子爵と繋がっている者がいると考えた方がよさそうだわ。後で洗い出しておかないと、ガルドに迷惑をかけてしまいますわね。

 

「どなたから、そのようなお話をお聞きになさったので?」

「我が領地のことなんだ。何でも知っているさ」

 

 ワイングラスを眺めながら、デシアン子爵は嫌みったらし笑みを浮かべている。

 

「先ほどの質問に答えてもらおうか」

 

 相手は領主で、わたくしは代官。拒否権はない。でも正直なことを言ったら、ガルドの正体がバレてしまうわね。

 

 大きな嘘をつかず、真実を隠す。

 

 上手く切り抜けましょう。

 

「住民が持っていたマジックアイテムを買い取りましたの」

 

 今は寂れていても十年ぐらい前は栄えていた街よ。裕福な家庭も多かったからマジックアイテムを貯蔵している家があるのは当然で、その点についてはデシアン子爵は疑問を持たないことでしょう。

 

 商隊にもたせたマジックアイテムは国外に出せる程度のものだから、中身を調べられても疑いを持たれる可能性は少ないはずよ。

 

「資金はどこから出した?」

「半額はマティルダ王妃様の支援金ですわ。残りは売れた後に支払う予定ですのよ」

「そんな条件をよく飲んだな」

「少々無理しましたから」

 

 細かいことまでは言わない。

 

 相手に想像させて、勝手に自分が納得する答えをお出しになってもらいましょう。

 

「住民がこれ以上出て行かれるのは困る。あまり強引な方法をとるなよ」

「さじ加減は心得ておりますわ」

「本当か? 学園の時とは違うんだぞ」

 

 チクリと、デシアン子爵がわたくしのトラウマを刺激した。

 

 注意したことをイジメと受け取られ、婚約破棄された場で相手の悪事を暴露しても信じてもらえなかったあの日の屈辱は心に深く刻み込まれているわ。

 

 復讐したいとは思いませんが、決して許すことはないでしょう。

 

 この恨み、決して忘れません。

 

「わかっております」

 

 反論したい気持ちをグッと抑えて、平常心を装って返事をした。

 

「それならいい。よい結果が出ることを待っている」

 

 デシアン子爵は残っていたワインを一気に飲み干すと、グラスをテーブルに置いて立ち上がった。

 

 食堂を出て行く際、私の後ろに来て肩に手を置く。

 

「マティルダ王妃はお金を稼ぎすぎることを嫌がっている。気をつけることだな」

「どうして……?」

「追い詰めたいからだよ。君に味方はいない。諦めるんだな」

 

 振り返るとデシアン子爵は食堂を出てしまった。

 

 先ほどの警告は善意で教えてくれたのかしら。

 

 ヴァルモントが潤えば領主のデシアン子爵、そして派閥の長であるマティルダ王妃にも大きなメリットがあるのに、どうしてわたくしを追い詰めようとしているのかしら。

 

 嫌われてるから?

 政治的な思惑がある?

 まさか婚約破棄したクローヴェン第一王子の嫌がらせ?

 

 これだといった理由は思い当たらないわね。

 

 マティルダ王妃が何かを企んでいるのであれば、商隊の邪魔をされるのは間違いなさそう。後にした方がよさそうね。

 

 しばらくはダンジョン運営に力を入れましょうか。

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