異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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獣人グリッドとの出会い

 ダンジョンが発見されて数ヶ月が経過した。

 

 ライバルが少ない内に魔石を荒稼ぎしようとする人が多く、仕事にあぶれていた低ランクの冒険者がかなり増えている。防具専門店である俺の店にすら客が来るほどだ。

 

 寂れて終わるだけだったヴァルモントの街が復活を始めているのである。

 

 本来は歓迎することなんだけど、同時に地元とは関係のない人間も増えているので、荒っぽいことをする人も出てきた。

 

 無銭飲食、乱闘、暴行、強盗、窃盗など例を挙げればキリがないほどだ。

 

 金は落ちるが同時に治安はかなり悪化していて、クラリッサの対応は追いついていない。何をするにしても金が足りないんだろうな。ちょくちょく俺の店に来ては愚痴をこぼしているところから、問題の解決は長引くかもしれない。

 

 のんびりとした生活を楽しんでいたのだが、どうやらしばらくはお別れしないといけないようだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「金はあるんだ。盾を生み出すマジックアイテムを作れ!」

 

 俺の店に入ってきた冒険者がカウンターに来るなり、前触れもなく怒り散らしてきた。頭に犬耳が乗っかっていて、ケツには尻尾がある。獣人の男だ。

 

 勉強をしていたリリィは声に怯えている。

 

 手で俺の背に隠して避難させると、天使を泣かせようとした男を見た。

 

「どこで俺がマジックアイテムを作れると聞いたかわからんが、マナーのなってない人に売る物はない」

 

 獣人は種族特性として弱い者を下に見る傾向がある。

 

 対等にやりとりするために強気に出た。

 

「なんだと? こっちは客だぞ!」

「俺は客だとは認めない。帰れ」

「てめぇ!!」

 

 冒険者らしく手が出やすいらしい。

 

 俺の胸ぐらを掴んできたので、腕を握ってひねる。

 

 引退はしたが、低~中ランク程度の冒険者に負けるほど俺は落ちぶれちゃいないぞ。

 

「いててて! 離してくれ!」

「断る。このまま腕を折ってやるよ」

 

 さらにひねりを強くすると、骨の軋む音が聞こえた。

 

 この辺が限界だな。もう少し力を入れたら本当に腕を折ってしまうだろう。

 

「本当にすまねぇ! 助けてくれ!」

「今回だけ許してやる。暴れるなよ」

 

 手を離すと、獣人の男はねじ曲げられた腕をさすっている。まだ痛みが残っているのだろう。

 

 俺を見ているが先ほどまでの勢いはない。怯えの色がある。

 

 どっちが上なのか、格付けは終わったようだ。

 

「俺がマジックアイテムを作れると誰から聞いた?」

「そこにある武具店のおやじっす!」

 

 リリィの槍を買った店だ。同業なのである程度の情報を開示していた。彼からなら問題はない。ひとまず安心する。

 

 もし別の、俺が知らない相手だったら、死を偽装したことがバレた可能性を考えなくてはいけなかった。

 

 危険が迫っているわけじゃないので少しは商売をするか。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 倉庫にいって手の甲から(ひじ)までを守るアームガードを取り出した。半円にした黒い金属――クロム鋼鉄を何枚か重ねて動作が邪魔にならないようになっており、裏側には魔法文字が三つある。一般的な言葉にするのであれば、『障壁』『浮遊』『固定』だろう。

 

 このアームガードが獣人の所望している盾を生み出すマジックアイテム。通称プロテクトアームだ。

 

 置いてきたリリィが心配になったので店に戻る。

 

「パパのお店で暴れちゃダメですからね!」

「すんません。兄貴があれほど強いとは思わず……」

「強い、弱いは関係ないよ」

「そうっすね!」

 

 リリィに対して獣人の男が頭をペコペコと下げていた。

 

 上位者として俺を認めたので、義娘も同様の扱いをしているのだろう。

 

 過剰なほど下手に出ているのが気になる。降参したように見せて何かを企んでいるのか?

 

 考えても答えは出ないので、今のところは客扱いして様子を見よう。

 

「盾を生み出すマジックアイテムは在庫にあった。これなら売ってやる」

 

 丁寧にカウンターに置くと、獣人の男は手に取って腕に付け始めた。

 

 革のベルトで四箇所を固定するタイプなのだが、不器用なようで苦戦しているようだ。

 

 俺は早く終わらせろよと思って眺めていたのだが、心優しいリリィは手伝うと決めたようだ。獣人の男にプロテクトアームを持たせて、ベルトを持って全力で締めようとしている。

 

 皮が固くて時間はかかっているけど、不器用なりに獣人の男も手伝ったので何とか固定はできた。

 

「兄貴! どうすれば使えるんっすか!」

「魔力を流し込めば発動する。やってみろ」

「うっす!」

 

 獣人の男は魔力を流したらしい。プロテクトアームから半透明の盾が浮かんだ。大きさはスモールシールドぐらいで、接近戦をするなら使い勝手はいいはずだ。さらに魔力で作られているので、物理的な破壊は難しい。巨人の一撃を食らってもヒビは一つも入らない。自信作だ。

 

 獣人の男はシャドーボクシングするような動きをして装着具合を確かめている。

 

「最高っすね! これを求めてたんですよ!」

 

 満足してくれたようだ。

 

 そろそろ商売の話に戻そう。

 

「金貨100枚だ。払えるか?」

「高いっすね」

「バリスタぐらいなら防げるほどの防御力だ。価格相応の能力はあるぞ」

 

 実際に矢を受けても壊れないが、衝撃を受けて体が持つかはわからない。

 

 持ち主の生死は、鍛え上げた魔力による身体能力強化がどれほどあるかで結果は変わる。

 

「マジっすか、うーん」

「なんだ。金がないのか?」

「あるにはあるんですが、払っちまうとその後の生活が厳しくなって……」

「防具を俺の店だけで買うなら80枚まで負けてやる」

「買います!」

 

 即答であった。

 

 それほど気に入っていたんだろう。

 

 俺としても黒字なうえに在庫整理できたので問題はない。

 

「交渉成立だな。俺はガルド、これからよろしく」

「グリッドっす!」

 

 握手を交わしてから金貨を受け取る。

 

 通常だとこれで話は終わりなんだが、俺には気になることがある。

 

 もう少しグリッドに付き合ってもらおう。

 

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