異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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ポンコツの予感

「先ほどはありがとうございました。恨みに飲み込まれたまま、あの怪しい書物を手に取るところでしたわ」

 

 理不尽な理由で婚約破棄されて寂れた街に左遷されてしまったのだ。

 

 恨みがないと思う方がおかしい。クラリッサの中では忘れられない出来事なんだろう。

 

 怒りは時間と共に薄れるが、恨みや憎しみは長く続くという。味わった屈辱以上の幸せが来ない限り、負の感情から抜け出せないのかもな。

 

「あれは何だったのかしら?」

「デシアン子爵が持ってきたのは悪魔の書と呼ばれているものです」

「名前からして怪しいわね。上位存在と言っていたけど、実際は悪魔と契約させるものなのかしら?」

「その認識であっております。本を読むだけで悪魔と契約でき、尋常ではない力を手に入れられますが、体を乗っ取られてしまうので大抵は破滅の道をたどることになりますね」

 

 俺の言葉を聞いてクラリッサは頬を引きつった。顔色も悪く血の気が引いているように見える。

 

 もし止めなければ自分は破滅していたかもしれないと思っているんだろう。シナリオのことを考えれば、その認識は正しい。きっと悪魔と契約して周囲を恨みながら暴れ、死んでいったことだろう。

 

 デシアン子爵やマティルダ王妃、そしてクラリッサ。

 

 全員ゲームに登場した人物ではあるが、感情を持ち独立した思考を持つ人間で、決められた行動を繰り返すNPCではない。だがその人が置かれている環境が乙女ゲームの設定と変わりないので、シナリオ通りに動くことも多い。

 

 例えばクラリッサの婚約破棄や左遷などが該当する。

 

 他にも俺が関与したことでヴァルモントは盛り返しているが、マティルダ王妃にまでは変えられてないので、破滅の道を進めようとさせられてしまう。

 

 悪魔の書を捨てたとしてもデシアン子爵は次の手を打ってくるかもしれない。

 

 単純に断るだけじゃ破滅はやってくるので、滞在している間に彼の考えを変えられないだろうか。

 

「デシアン子爵はどうしてクラリッサお嬢様に悪魔の書を渡そうとしたのでしょうか」

 

 疑問を口にしたのは、外に人の気配がしてないか警戒しているアリシアだ。

 

 仕えている主人が危機的な状況だったこともあって、目が冷たく不快感を表している。静かな怒りを覚えているようにも感じた。

 

「そうねぇ……デシアン子爵が実はクローヴェン第一王子派で、私を陥れたいとか?」

「あの男が派閥の乗り換えをしたと、おっしゃりたいのですか?」

「いえ。あの男は、そんな大それとことをできるような性格じゃないわよ。今もわたくしと派閥は同じよ。彼は操り人形なだけなので、裏にいるマティルダ王妃が、わたくしの破滅を願っているのよ」

 

 結局はそうなるよな。

 

 マティルダ王妃と接触できなければ、狙われている理由はわからない。

 

 中途半端な知識しかないので、何も言えずに黙ったままだ。

 

「ダンジョンのコアを入手する話だって、どこまで本当かわからないわね。王家に確認を取ってみたいところだけど、実家の伝は使えないし、友人もいないから難しいわ」

 

 婚約破棄という特大のスキャンダルを抱えてしまったのだ。関わりたくないと思って人は離れていったのだろう。

 

 クラリッサは元悪役令嬢であり、現ボッチ令嬢のようだ。

 

「マティルダ王妃に直接聞いてみましょうかしら」

「それはオススメしません。こちらが悪意に気づいていると知られてしまいます」

 

 俺たちのアドバンテージは、マティルダ王妃が裏でクラリッサを破滅させようと動いていると気づいていることにある。またその手段についてもだ。

 

 マティルダ王妃を警戒させるわけにはいかない。

 

「ガルドはどうするのがいいと思うの?」

「デシアン子爵がこちらの味方になってくれるのが一番なんですが」

「それは無理よ。権力のないわたくしに付く理由がないもの」

「では次善策として、彼には破滅の道をたどってもらいましょう。悪魔の書を直接渡そうとするぐらいには焦っているようなので、一押しすれば勝手に落ちていくのではないかと思います」

「本当に後がないならガルドの言う通りね」

 

 考えを整理したいのか、クラリッサは黙り込んでしまった。

 

 部屋が静かになると鳴き声が聞こえてくる。窓を見ると木の枝に複数の小鳥が休んでいた。

 

 風が吹いたようで枝が揺れる。

 

 平和な光景だ。

 

 悪魔に破壊なんてさせない。

 

「今日の晩餐でダンジョンコアの話が本当か確認してみるわ! 当たって砕けるわよ!」

 

 悩んだ上で出した結論だからなのか、すごくやる気が出ている。

 

 何だか嫌な予感がするのでアリシアを見ると、呆れた表情をしていた。

 

 このまま送り出すと失敗する。間違いないと確信した瞬間だった。

 

「クラリッサお嬢様」

「何かしら?」

「ポンコツの出る気配がしております」

「なによそれ! わたくしは完璧よ!」

「普段はそうですが、妙にヤル気があるときは……」

「わかった! わかったわ!」

 

 続きは聞きたくないといった感じで、クラリッサは耳を塞いだ。

 

「私がローゼンベルク家で働いている元同僚に聞いてみます。クラリッサお嬢様は普段通りにお過ごしください」

「何も出来ないのが悔しいけど、それがいいかもしれないわね。お願いするわ」

 

 時間はかかるが安全に進められる。アリシアの申し出は助かった。

 

 これで会議は終わりだ。俺も店へ戻れると思って緊張を解くと、建物全体が揺れた。

 

 上から悲鳴が聞こえてくる。窓を見ると外壁が落ちてきたみたいで、小鳥が止まっていた木の枝がポッキリと折れてしまっていた。

 

 建物の振動は一度だけではない。継続して続いている。

 

 驚いていると天井に大きなヒビが入った。

 

 とっさにアリシアを抱きかかえ、クラリッサの元へ走る。

 

 到着したのと同時に瓦礫が降ってきたが、俺とアリシアの持っているプロレクションリングが同時に発動して、何とか防ぐことができた。

 

 一体何が起こったんだ。

 

 原因不明のまま、安全な場所へ逃げるために移動を始めた。

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