異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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悪魔との戦い

 悪魔はファイヤーボール――火球を放って街を破壊していた。

 

 住民たちは逃げまとっている。その中にロディックもいた。隣にいる歳を取った女性は妻だな。夫婦共に生きていて良かった。

 

「ガルド! お前も無事だったのか!」

「そっちも大丈夫そうですね」

「ああ、運が良かった」

 

 逃げるのを中断したロディックは、立ち止まって俺を下から上まで見る。

 

 険しい顔になった。何をしに行くのかわかったんだろう。

 

「行くのか?」

「ええ」

 

 時間はない。覚悟を伝えるべく短く答えた。

 

 何を言っても考えが変わらないとわかってくれたんだろう。ロディックは出かけた言葉を飲み込んでくれた。

 

「俺の家に地下室があります。リリィも隠れているので、避難所として使ってください」

「任せろ。後ろは気にすんなよ」

 

 俺の肩を叩いてロディックは妻と一緒に行ってしまった。

 

 逃げる場所なんてほかにいくつもある。それなのに地下室を選んでくれたのは、俺がリリィのことを心配しているとわかっているからだ。

 

 戦いに専念できるようにとの気づかいだ。

 

 それが今はありがたかった。

 

 悪魔に向かって走っていると、姿がしっかりと見える距離まで着いた。弓が飛んでいて衛兵が生き残っていることがわかる。冒険者は避難誘導や消火活動もしている。

 

 顔が煤だらけになっているクラリッサとアリシアも見つけたので、何とか生き残ってくれたみたいだ。プロテクションリングを渡していて本当に良かった。

 

 だが安心するのも一瞬だけ。悪魔が片手を挙げると、上空に今まで見たことのない巨大な火球が生まれた。狙いは指揮を執っているクラリッサだ。

 

 あれはプロテクションリングでは防げない。

 

 クラリッサを守らなければ衛兵の士気はがた落ちして瓦解してしまうだろう。

 

 運命の分かれ目だ。

 

 限界を超えるほど魔力で身体能力を強化して走り、クラリッサの前に飛び出るてカイトシールドを構えた。魔力を流し込むと魔力で作られた盾がいくつも浮かんで周囲を守ってくれる。

 

「ガルド!」

 

 俺の名を呼ぶ声が聞こえたが、火球がぶつかった爆発音でかき消えてしまった。

 

 盾ごしから強い衝撃を感じるが、俺が作り上げたアーティファクトは耐えている。壊れることはなく、全てを受け止めてくれた。

 

 爆発が終わって周囲を見ると、ほとんど被害はなかった。

 

 俺の作ったカイトシールドが皆の命を守ってくれたのだ。

 

 大切な人、場所を守れたんだと実感が湧いて、それがとても嬉しい。

 

「この盾はクラリッサ様にお渡しします。衛兵の皆さんを守って下さい」

「ガルドはどうするの!?」

「俺の第二の故郷を壊そうとする不届き者を倒して見せますよ」

 

 鍛冶師としての仕事は終わりだ。これからは元冒険者としての俺を見せてやる。

 

 グレートソードに魔力を流すと魔法文字が光る。巨人を倒した時よりも多くの量を流したおかげで、身体能力は飛躍的に向上して、刃の切れ味も非常に鋭くなっている。頑丈そうな悪魔の肌も切り裂けるだろう確信があった。

 

 だがそれと同時に、戦意向上の効果が出すぎてしまった。

 

 普段は少し興奮するだけなのだが、今は戦いたくて仕方がない。意識せずとも歯をむき出しにして笑顔を作ってしまう。

 

 俺の平和を脅かそうとする敵と戦いたくて仕方がない。

 

 上空を見ると悪魔が迫ってきていた。

 

 グレートソードを背負うようにして構え、しゃがんで大きく跳躍する。

 

「うぉぉおおおっっ!!」

 

 悪魔と接触する直前。グレートソードを振るう。何かに当たった感触があったが、すぐに通り抜けて左腕と羽の一部を切り落とした。

 

 バランスを崩したようで、悪魔はクルクルと回転しながら落下して地面に衝突する。

 

 落下地点を調整してグレートソードを突き立てようとしたが、転がって回避されてしまった。

 

 立ち上がった悪魔には余裕の顔がなくなっていた。

 

「お前、何者だ?」

 

 斬り落とした左腕は灰になってしまった。悪魔の出血は止まっているようで、警戒しながら一定の距離を取っている。

 

「乗っ取った人間の記憶はないのか?」

 

 体の持ち主だったメイドは俺とクラリッサが会談したとき、部屋に入って邪魔しに来たことがあった。

 

 一度は出会っているのに初めて会ったような対応をされ、疑問に思ったのである。

 

「残っているぞ。だから何なんだ?」

 

 メイドは俺のことを覚えていなかったようだ。気にするような存在じゃないと忘れられたのだろう。

 

「寄生虫みたいな生き方をしているな」

 

 挑発してみたが悪魔は乗ってこない。

 

 俺は距離を取って様子を見たいと思ったのだが、戦意が我慢の限界に達していた。

 

 会話なんていらない。敵を倒せば全て解決だ。

 

 抑えていた戦意が思考を塗り潰していく。

 

 一気に距離を詰めて悪魔にグレートソードを振り下ろすが、銀色に光る盾が間に浮かんで止められてしまう。

 

「魔法の盾か!」

 

 防御魔法の一種なんだが、無詠唱で使ったらしい。

 

 攻撃を止めて悪魔は安心しているようだが、この程度で防げるわけないだろ!

 

 獣のような雄叫びを上げながら、足、腰、体、腕、すべての筋肉を限界まで使ってグレートソードを振り下ろす力を増す。

 

 パキッ。

 

 銀色の盾にヒビが入った。すぐに大きくなると砕けて消えてしまう。

 

 視界に悪魔の驚く顔が見えた。

 

「死ねぇっっ!!」

 

 ようやくグレートソードを振り切ったが、後ろに避けられて体に浅い切り傷を作るだけで終わってしまった。

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