異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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代官が来たぞ! 即身バレした!

 駆け出しの冒険者に盾を売ってから数日が経過した。

 

 その間に来た客はいない。近くに武器も販売している店があるから客を奪われているのだ。またそもそも冒険者が少ないこともあって、専門店は肩身が狭い。

 

「パパ〜。今日もお客さんが来ないね。お店潰れちゃう?」

 

 今日も天使のように可愛いリリィにまで心配されてしまったが、過去にアーティファクト級のマジックアイテムを貴族に売りつけていたので、金だけは余るほどある。

 

 少なくともリリィが大人になるまでは資金は持つので心配は不要だ。

 

「お客さんがお店に来なくても潰れないよ」

「どうして?」

 

 お金があるからと教えたら、あれもこれも欲しいと言ってくるだろうか。

 

 もしそうなったら際限なく甘やかしてしまいだろう。

 

 リリィには平民として普通の感覚を持って欲しいので、心を鬼にして贅沢をさせないようにしている。

 

 だからといって心配ばかりさせても俺の甲斐を疑われてしまうので、お客が全くいないと思って欲しくもない。

 

 ここは嘘をついて誤魔化しておくか。

 

「お店に来ないお客さんがいるからだよ」

「どうしてこないの?」

「忙しいから、かな。リリィは知らないと思うけど、たまに外へ出て防具を納品しているんだ」

「そうなんだ。パパも大変だね〜」

 

 俺の言葉に納得してくれたようで、リリィはカウンターの上にある紙を見た。

 

 文字が書かれていて、必死に計算をしている。

 

 普通の平民が通う学校なんてものはないので、俺が出した問題を解いているのだ。読み書きは完璧なので、後は計算を覚えれば大人になっても仕事には困らないだろう。

 

 間違っても、本当の両親みたいに冒険者になるなよ。

 

 命がいくつあっても足りないからな。

 

 インクをつけた羽根ペンが動く音を聞きながら、今日は何をするか考えているとドアが開いた。

 

 近所に住んでいるロディックがやってきたのだ。

 

 いつもは笑いながらここに来るんだが、今日は雰囲気が違う。血の気が引いているように見えてた。

 

「代官様が来たぞ!」

「例の新しい人ですね。それがどうしました?」

 

 そりゃぁ仕事なんだから街に来るだろう。

 

 しかも就任したとお触れも出ていたので、今さら教えに来る必要も感じなかった。

 

「お前! 言葉は慎重に選べ……っ!」

 

 どういうことだ? と疑問に思っていると、ロディックを押しのけて一人の女性が入ってきた。

 

 美人なんだけど氷の様に冷たい目をしている。艶やかな白銀の髪は腰まで届いていて手入れは大変そうだ。群青色のドレスを着ており、デカい宝石が埋め込まれたイヤリングをぶら下げていることから、平民ではない事はすぐにわかった。

 

 初めて会うはずなんだけど、どこかで見かけたことがある顔だな。

 

「お客さんが来たね!」

 

 貴族令嬢は喜んでいるリリィに視線を向けると表情が柔らかくなった。

 

 冷たい見た目とは違って優しい性格をしてそうである。

 

「俺は用事があるから!」

 

 ロディックは慌てた様子で店から離れていった。

 

 残された貴族令嬢が入ってくると、もう一人女性がいることに気づく。セミロングの金髪を後ろに絞り、ホワイトプリムを頭に乗せている。黒いメイド服を着ているけど、歩き方からしてある程度は戦えるようにも見える。影のように主人の後ろに張り付いていて、身の回りの世話をするのと同時に護衛の仕事をこなしているのだろう。

 

 どんな人物なのかわからないが、とりあえず接客はしなければならない。

 

 立ち上がるとカウンターから出て、貴族令嬢の前に立った。

 

「いらっしゃいませと、歓迎したいという所ですが、この店は平民向けです。貴族様が満足するような商品はないと思います」

 

 遠回しに帰ってくれと伝えてみたのだが、貴族令嬢は気にした様子はない。

 

 この前作ったラウンドシールドを手に取ると、じっくりと見ている。

 

「相変わらず丁寧な仕事をされていますわね」

「……どこかでお会いになったことでも?」

 

 俺の鈍い勘がようやく危ないと教えてくれた。

 

 横顔を見て思いだしたのだ。

 

 貴族令嬢はクラリッサ・ローゼンベルクじゃないか! 悪役令嬢として学園にいたはずなんだが、ここにいるってことは主人公に負けて逃げてきたのだろう。

 

 すると今は、一章が終わったところか?

 

 大まかなストーリーしか覚えてないので、詳細がわからない。

 

 こうなるなら死ぬ前に、妹からもっと話を聞いておけば良かった。

 

「遠目で見たことを会ったと言っていいなら、二度目になるわね」

「もしそうでしたら、一度目のことはお忘れください」

 

 俺が貴族相手にアーティファクトを作っていたことを知っているのであれば、誰にも言いふらさないでねとお願いした。

 

 わかりにくい言い方だったと思うが、クラリッサには伝わったはずだ。

 

「わたくしのお願いを聞いてくださるのなら、過去のことは忘れてもいいわ」

「ご要望は何でしょう?」

「私の配下になりなさい!」

 

 クラリッサは自信満々に俺を指さしたけど、メイドの女性に腕を掴まれた。

 

「クラリッサお嬢様。自己紹介をせずに勧誘してはいけませんよ」

「あ、そうでした! わたくしが誰かわからなければ、検討すらできませんわよね」

 

 妹から悪役令嬢と聞いていたので、顔に似合うほどの冷徹な性格をしていると思ったんだけど、メイドとのやりとりを見る限り、どうやら違うみたいだ。

 

 クラリッサは改めて俺に視線を向けると、腰を当てて自己紹介を始める。

 

「わたしはクラリッサ・ローゼンベルク。ヴァルモントの代官になった者よ。そして貴方はガルド。世界で唯一、アーティファクトを作れる男よね?」

 

 確信を持って言われてしまった。

 

 移住してから数年は平和に暮らせていたのに、クラリッサには即身バレしてしまった。

 

 誤魔化すのは難しいだろう。言い訳は思い浮かばない。

 

 おおっぴらにしたい話ではないため、店番をリリィに任せると二階にあるリビングへクラリッサとメイドを連れて行くことにした。

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