異世界に転生して35年。追放令嬢を支えた伝説の鍛冶師~寂れた街を再生するスローライフ~   作:わんた

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(クラリッサ)正直、ヴァルモントはもうだめかもしれない

 代官になって一ヶ月が経過した。

 

 その間、屋敷で前任が残した書類を読み漁っていたんだけど、税収が急激に下がっている以外の情報がなかった。

 

 裁判の記録すらほとんどないのはどういうこと!?

 

 仕事をしてなかったにしてもほどがあるでしょ!

 

 もし、わたくしの目の前に前任者がいたら、首を絞めて骨を折っているところだったわ。近くにいなくて正解だったね。

 

 文句を言ってもヴァルモントは衰退していくだけなので、外貨を得る一手として進めている商隊の計画表を確認する。

 

 商品は目玉のマジックアイテムの他に高品質な防具と並程度の武器、あとは日用品を販売していく予定で考えている。ガルドの商品がなければ、失敗していただろうラインナップね。

 

 あの時、馬車で発見したわたくしを褒めたいぐらいだわ。

 

「クラリッサお嬢様、入ってもよろしいでしょうか」

 

 ドア越しからアリシアの声が聞こえた。

 

 用事があって執務室に来たのでしょう。この屋敷で唯一信用できる相手なので、何の警戒もせずに許可を出す。

 

「どうぞ」

 

 ガチャリとドアが開いてメイド服姿のアリシアが入ってきた。

 

 両手で銀のトレーを持っていて、中には封蝋がされた手紙が入っている。

 

 わたくしの前までくるとトレーごとテーブルに置いた。

 

「この紋章は王家のね」

「恐らくマティルダ王妃様からかと」

 

 第一王子のクローヴェン殿下から婚約破棄されて、廃れた街へ左遷されたわたくしに手紙なんて珍しいと思ったけど、王妃様なら納得ね。

 

 手駒として使われるときが来たのかしら。

 

 天使が彫刻された銀のペーパーナイフで封を切ってから中身を取り出す。

 

 内容はクローヴェン殿下と新しい婚約者が王宮内でワガママを言い放題という愚痴だった。高級なアクセサリーやドレスを買いあさり、王家の財政を圧迫してきているみたい。また結婚もしてないのに初夜を迎えたらしく、マティルダ王妃が激しく追及している。

 

 曰く、平民の血と混じるのは良くないとのこと。

 

 わたくしとしては、貴族と平民は同じ血だと思っているのだけど、この考えは異端なのよね。まだ誰にも言ったことはないわ。

 

 他にもアルフォンス陛下が、また側室を取ったと不満を漏らしていて、この手紙を見せたら面白いことになりそう。……そんなことしないけどね。

 

「どのような内容でした?」

「クローヴェン殿下が王宮で好き勝手しているらしいの。婚約破棄されたとき、思いっきり殴っておけば良かったわ」

「不敬罪で処刑されてましたよ」

「でも気分はスッキリしたと思わない?」

「それは否定できませんね」

 

 いつも鋭い突っ込みをするアリシアも同意してくれた。

 

 罪をなすりつけられたことにすら気づかない男なんて、殴られて当然よね。わたくしの考えが間違ってなくてよかったわ。

 

「他に何か書いてありましたか?」

「後はマティルダ王妃の愚痴ばっかりよ。思っていたよりも不満が高いみたい」

「嵐が来そうですね」

 

 女性が好きなアルフォンス陛下と、婚約者に操られているクローヴェン殿下、王座を狙っている第二王子のライネル殿下とマティルダ王妃。これだけ揃って争いが起こらないなんてあり得ない。

 

 わたくしとアリシアは近いうちにことが起きると睨んでいる。

 

 その時、ヴァルモントの街はマティルダ王妃側として扱われるはず。無茶苦茶な依頼をされるはずだわ。

 

「どうされます?」

「嵐が来る前に逃げたいわね」

 

 今はマティルダ王妃の資金援助があるから、なんとか政務ができているので、先ずはお金の問題を解決するべきね。経済的に自立できればマティルダ王妃に頼る必要はないので、手を切って中立的な立場を取りましょう。

 

 出世は見込めないけど、嵐からは逃れられるはずよ。

 

 今住んでいる街が気に入ってきたわたくしは、それでいいと思っている。

 

「商隊の成否が運命を左右するのですね」

「そうと言いたいけど、成果が出るのに時間がかかるわ。マティルダ王妃の状況を考えるに、猶予は思っていたほどないかもしれない」

 

 左遷されたわたくしに不満を漏らすぐらいなのだから、側近は嫌ってほど聞いているはずよ。

 

 決戦の時は近いって戦力を集めているかもしれない。

 

 お金と時間、なにもかもが足りないわね。

 

「クラリッサお嬢様はどうするつもりですか?」

「幸運を祈るわ。わたくしが統治する街に産業が生まれますように~って」

 

 手を組んで祈るフリをしたら、アリシアは呆れた顔をしてため息までついてしまった。

 

 主人の前よ!?

 

 もう少し、取り繕うぐらいのことはできないのかしら。

 

「冗談よ。ガルドにアーティファクトを頂戴って泣きつくわ」

「現実的なアイデアが、それって悲しくなりません?」

「言わないで! 本当に泣きたくなるわ!」

 

 どれほど愚かなことを言っているかなんて、自分が一番よくわかっている。

 

 お金を出しても買えないからこそ、アーティファクトと呼ばれているのだから、頂戴と言って作ってくれるわけないもの。交渉材料が必要となるわ。それもとびっきりの。

 

「いっそ、クラリッサお嬢様とガルドさんが結婚でもすれば、現実的になるのですけどね」

「それねっ!!」

 

 テーブルをドンと叩いて思わず立ち上がってしまった。

 

 追放されてしまった身で、結婚相手に身分なんて求めないわ。有能でほんのちょっと優しければ他は何もいらない。

 

 その点で、ガルドは条件にピッタリと合う。

 

 現時点で理想の男性と言っても過言じゃないわ。

 

「結婚祝いとしてアーティファクトの一つ……ううん、五つぐらい作ってもらいましょう」

「なぜ、受け入れてもらえる前提なのでしょうか……」

 

 またアリシアが小言をこぼしたけど、聞き取れなかった。

 

 きっとどうでも良いことなんでしょう。

 

 ああ! 早くガルドに会いに行かなければいけませんわね。

 

 すぐに出ましょう!

 

「ドレスに着替えるわ! とびっきりの用意して!」

「地味な一着しかありませんよ」

「うっ……」

 

 そうでした。家から追い出されたときに、わたくしの物は全部捨てられてしまったのよね。

 

 お金がないから普段着る用のドレスしか持ってないの。

 

 求婚しに行くのに、そんなのでいいのかしら。

 

 少し悩んだけど諦める。

 

 だってお金も時間もないんだもの!

 

「それでいいわ! すぐに出るわよ!」

「はぁ~、かしこまりました」

 

 ため息を吐いて呆れられてしまったけど、わたくしは成功する未来しか見えない!

 

 色気で落としてみせるわ!

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