混迷渦巻く現代社会――20世紀も終わりが見えて、21世紀という希望に満ちた時代の到来を迎えるこの時代――前世からの使命を帯びて、愛と正義のセーラー服美少女戦士として活動するセーラームーンこと月野うさぎは、ここF県に家族と共に旅行に来ていた。
チャーミングだが怒ると怖いママが、商店街の福引で当てた特等一泊二日の温泉旅館の宿泊券を利用して、家族そろって温泉旅行と洒落こんだのだ。
「わぁ~~、きれいな小川」
「……ここら辺は、まだ開発されていないのね」
東京の港区立十番中学2年生である月野うさぎは、土産物店に足を運んだ両親と弟と別れて、相棒である黒猫の『ルナ』と共に旅館から少し離れた所を流れる小川に散策に繰り出していた。
小川の傍を歩きながら、うさぎは思う……こんなにゆっくりしたのはいつ以来だろうか? 普通の中学生であった自分が、『ルナ』と出会った事でセーラー戦士として覚醒して、人々からエナジーを奪う敵と戦う事になるなんて。
そんな事を考えながら歩いていると、一緒に歩いていた筈のルナが居ない事に気付いて振り返ると、ルナは少し離れた場所に立ち止まって山の方を見ていた・
「……ルナ?」
来た道を戻ってルナの傍まで行って声をかけるうさぎ。
だがルナはそれに声を返す事無く、真剣な表情を浮かべながら「……なに、この巨大なエナジーは? これまで感じた事もない……邪悪なモノではないと思うけど、よく分からない……」と己が思考の海に沈んでいた。
「ルナぁ!!」
「――わっ、びっくりした!? 脅かさないでよ」
返事をしないルナが悪いんでしょう、考え事をしてそれ所じゃなかったのよ、と仲の良い友人同士のじゃれ合いのような会話をしながら、そんなに気になるなら今晩にでも行ってみようと話がまとまる……そこに、何が待ち受けているのかも知らずに。
その日の夜、こっそりと旅館を抜け出した月野うさぎは、相棒のルナと共に昼間に感じた巨大なエナジーの発生源である、少し離れた山の山中へと足を踏み入れていた。
「う~~、歩きづらいよぉ」
「しっかりして うさぎちゃん、もう少しで目的地だから」
「ぎゃぁあ! 虫っいいい!?」
「うぁああ! しっぽに付いたぁあ!?」
中々騒がしいコンビだが、それでも何とか目的地である巨大なエナジーを感知した場所――山の中腹辺りまで到達する事が出来たのだが、目的地周辺まで来てあと少しという所で一人と一匹の足が止まる……どうにも先に進む気になれない……どうしてそう思うのかは分からないが、とにかく足が進まないのだ。
「……ねぇ、ルナ。戻らない?」
「――何言ってるのよ、うさぎちゃん! せっかく此処まで来たんだから、あのエナジーの正体が何なのか突き止めなきゃ!」
弱音を吐くうさぎを叱咤するルナ……叱られて しょんぼりしながらも、うさぎはトボトボと歩き出す……しばらく歩いていると山の中腹に設けられた広い場所へと出た……広範囲の木々がなぎ倒されて、剝き出しになった山の斜面が削られて大きな広場となっており、見上げるほどの石の層が聳え立っている。
「……なに、ここ?」
「……あの後、夜になるまで少し温泉街で情報収集したのだけど、どうも2か月ほど前にこの辺りが豪雨に見まわれて、あちらこちらで地滑りが起こったらしいのよ」
「……ってことは、この場所も?」
「……そうみたいね。どうやら地滑りを起こして、あの石の層が出てきたみたいね」
けど、こんなに近い場所で地滑りが起きたなら、温泉街でも話題に上がっても良い筈なんだけど……聞いた事がなかったわねぇ、と首を傾げているルナ……全く話題に上がらない事を不思議に思っていると、月の光に照らされて石の層がまるで荘厳なモノに見えてくる。
「ルナァ~~、何してるの置いてくよ!」
「ちょ、何してるのよ うさぎちゃん!?」
考え込んでいたルナを置いて、すたすたと月の光に照らされた石の層へと歩いていく うさぎに気付いたルナが慌てて追いかけて行く……だが、広場に足を踏み入れて、じゃれ合いながら歩いていた一人と一匹だったが、石の層に近付くにつれて口数が少なくなり歩みもゆっくりとしたモノへと変わっていく。
「な、何か寒いね……」
「そ、そうね……雨でも降るのかしら……」
足取りが重い、どうにもあの石の層に近付くのが躊躇される……だが、心の奥底にある“何か”が、進め――手遅れになる前に、と彼女たちを進め――遂に岩の層の近くにまで到達し――見上げるほど巨大な岩の層の根元に人影がある事に気付いた。
こんな山の中なのに黒いスーツを着た長身の男性が、聳え立つ岩の層を見上げていたが、こちらに気付いたのか首だけを向けて、切れ長の青い瞳でうさぎ達を見つめた。
「……金髪、外国の人かなぁ?」
「……」
短く整えられた金色の髪と外国人特有の彫りの深い顔立ちに、若干頬を染めながらミーハーな事を言う うさぎに呆れたような視線を向けるルナ。
だが、そんな少女たちを前に、長身の男性は冷たい光を湛えた青い瞳を細めて誰に聞かせるでもなく呟いた。
「……人払いの結界を張り巡らせていたと言うのに、こんな子供ごときに侵入されるとは……」
ぼそりと呟いた後、男性は身体ごと うさぎたちへと振り返ると、唇を開くと深く響く声を発する。
「――見たな小娘。どうやって入り込んできたか知らんが、見られたからには消えてもらおうか」
「――うさぎちゃん!!」
まかりなりにも妖魔との戦いの経験から来る焦燥感が背筋を伝い、ルナの声に反応したうさぎはその場を飛びのき――直後、うさぎたちが居た場所を見えない衝撃が吹き飛ばす。
「――あぶっなぁ! ちょっと、なにすんのよ?」
「……ほう。今のを避けるか、只のネズミではないようだな」
少しだけ意外そうに片眉を上げた長身の男性は次々と衝撃波を放ち、見えない衝撃波がうさぎを襲うが野生のカン(?)で何とか避ける……だが次々と放たれる衝撃波は周囲の地面を掘り起こし、荒れた地面に足を取られそうになるうさぎに向けて、同じように衝撃波を避けていたルナが叫んだ。
「――うさぎちゃん、『変身』よ!」
「――でも、相手は人間だよ!?」
「……これだけの事が出来るなんて、とても只の人間とは思えない。それに先ほどから感じる強大なエナジー……『変身』しなきゃ、勝ち目は無いわ!」
人間相手に変身して戦えと言うルナに反論するうさぎだったが、彼女もまた目の前にいる男性から強大なエナジーを感じていた。邪悪なモノではないとは思うが、恐ろしく強大で側にいるだけで委縮しそうになるほどのエナジー……そんな強大な力を持つ男性が、自分たち目がけて攻撃してくるのだ……確かに、ルナが言う通りに『変身』しなければ、生き残る事すら出来ないかもしれない――うさぎは覚悟を決めた。
「ムーン・プリズムパワー! メイクアップ!」
右手を高く上げて宣言したうさぎの身体が虹色の光に包まれ、光が収まった時には白を基調としたバトル・スタイル――セーラー戦士へと『変身』を完了した。
「愛と正義の、セーラー服美少女戦士 セーラームーン! 突然襲い掛かてくるような人には、月に替わってお仕置きよ!!」
月の加護を受けて、愛と正義を守護するセーラー戦士へと変身したセーラームーンは、長身の男性へと口上を告げながら戦闘態勢へと移行する……だが長身の男性は、そんな闘志あふれるセーラームーンを鼻で笑った。
「ふん、
「な、なんですって!?」
「――うさぎちゃん、敵の挑発よ! 乗っちゃダメ!」
「身の程を教えてやろう、小娘」
――その男性から発せられるエナジーが膨れ上がり、セーラームーンは殆ど勘だけで横に飛びのく――すると、それまで彼女のいた場所が大きく抉れて、そのまま大地を切り裂いていった。
「――なっ!?」
何をされたのかは分からないが、長身の男性が繰り出したであろう攻撃の威力に、驚きの表情を浮かべるセーラームーン。もし、あのまま攻撃を食らっていたら身体が真っ二つに裂けていたかもしれない。
恐ろしい威力を秘めた攻撃を繰り出した長身の男性の視線が再びセーラームーンを捉え――背筋に冷たいモノが走ったセーラームーンは その場を飛び退いて、衝撃が彼女を追う様に地面に傷跡をつける。
「ひっぇええ!?」
「ほらほら、どうした? 反撃の一つもしてみせろよ、小娘」
呆れるような視線を向けながら長身の男性は嬲るようにセーラームーンを攻撃していく……これまでは何とか避ける事が出来ているが、このままではいずれ直撃を受ける事になるだろう――セーラームーンは額にある赤い宝石のついたサークレットを外すと、サークレットに光が集って円を描く。
「――ムーン・ティアラ・アクション!」
周囲の光を集めて輝く円盤となったティアラは、一直線に長身の男性へと向かっていが、男性は避ける素振りを見せない。
「――何しているの! 避けて!?」
避ける素振りを見せない男性に向けて、思わず声を上げるセーラームーン……妖魔と戦って来たとは言え、十代前半である彼女にしてみれば、同じ“人間”相手に攻撃を加えるのには抵抗があるようだ――だが、そんなセーラームーンの言葉に失笑を浮かべた男性は、迫り来る光の円盤を避ける素振りを見せずに、光の円盤は男性に直撃する――が、男性とぶつかった光の円盤は虚しく弾き飛ばされた。
「……えっ?」
「何を呆けている、この程度の児戯が通じると思ったか?」
――攻撃とはこうやるのだ。
「――グリード・ザ・ライヴ!」
男性は両手を上げて頭上で交差させると、そこに強大なエナジーが発生して衝撃波となってセーラームーンへと襲い掛かかった。
「きゃぁああああ!?」
強烈な衝撃波をまともに受けたセーラームーンは吹き飛ばされて、華奢な彼女の身体は衝撃波の威力によってズタズタに引き裂かれ、セーラームーンは力なく地面に落下して2,3度バウンドした後に仰向けに倒れ込んだ……衝撃波によって全身に無数の裂傷が刻まれ、深く切り裂かれた事で命を支える血液があふれ出し、彼女の胸が小さく上下している事で生きている事は分かるが、その呼吸も弱弱しく何時止まっても不思議ではなかった。
「……うさぎちゃ…ん……」
衝撃波の余波で吹き飛ばされたルナは 相棒であるセーラームーンの心配をするが、岩壁に叩き付けられた事で意識を保ってられずに地面に倒れた。
弱弱しい呼吸を繰り返しているセーラームーンへと近付いていく長身の男性……限りなく冷たい光を青い瞳に宿した男性は、右手を上げる。
「……苦しいか? いま楽にしてやろう」
右手を伸ばして手刀を形作ると、弱弱しい呼吸を繰り返しているセーラームーンの首筋目がけて一気に振り下ろす――が、それは透明な“何か”に阻まれた……甲高い音を立ててはじき返された手刀を解いた長身の男性は、小娘を守る不可視の障壁を観察する。
そして、いつの間にかセーラームーンを守るように立つ半透明な女性に向けて問いかけた。
「……冥府から迷い出た亡者が、何を血迷って小娘を守る?」
『……この子を害させはしないわ』
どうも、初めましての方は初めまして、そうでない方はお久りぶりです、しがない小説書きのSOULです。
続いて後編をお送りします。