美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

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第八話 蝶の煌き

 

 地妖星パピヨンとの戦いから三ヶ月が立った。火川神社の宮司に助けを求めた市は、繋がったままの通信機の電波を頼りに宮司の所属する退魔組織に救助されて病院に搬送され九死に一生を得た。

 

 病院の一室でミイラとなりながらも市は考える……最初に冥衣(サープリス)もどきを見たのはセーラー戦士とやらと戦っていた大男が纏っていたものだった。それはお粗末にも程があり、強度も硬度も全く足りていなかったし、大男自体の小宇宙(コスモ)が弱すぎた。そして次に出会ったのが三人の雑兵(スケルトン)の男達だ。相変わらず死の気配は感じないが、鎧の強度や硬度は桁違いに強化されて本来の冥衣(サープリス)と遜色ない物になっていた――そして何より三人の息のあった巧みな連携に何ら有効打を打つことが出来なかった。

 

 そして古代メソポタミア展に展示されていた蝶のオブジェ――いや、地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)を纏った少女、美春の存在。数ヶ月前から行方不明になっていた少女が、どういう因果か冥衣(サープリス)を纏い市の前に立ちふさがった――死の気配こそしなかったが彼女が内包する小宇宙(コスモ)は、この短期間に市の小宇宙(コスモ)を大きく上回っていたのだ。

 

「……何故この世界に冥衣(サープリス)が存在するのか? それが、俺が選ばれた理由か」

 

 幼少の頃に突然流れ込んできた知識――神話の時代より延々と続く『神々の戦い』――己が奉ずる神の為に、厳しい修練の果てに究極の闘法『小宇宙』に目覚めた闘士同士の戦い『聖戦』。

 

 究極の闘士の身を守る不破の鎧『聖衣(クロス)』……この世界において見た事も聞いた事もない神話と、神秘の鎧……何か途方もない存在の掌で踊らされている気がしてならなかった市だったが――ようやく得心が言った。

 

「……これは本格的に鍛錬しなけりゃならないな」

 

 冥衣(サープリス)を纏う冥闘士(スペクター)もどき――いや、実力だけなら冥闘士(スペクター)と呼んで差し支えない物がある。彼ら冥闘士(スペクター)が何を目的に活動しているのか探る必要もある……まさかとは思うが、冥闘士(スペクター)が奉ずる神『冥王 ハーデス』でもご降臨されたら、目も当てられない。

 

 このままにしておけば碌でもない結果になるような気がしてならないのだ。

 

「……まずはじいさんに連絡を取って情報を貰うとするか」

 

 胸元から取り出した水晶のペンダント(クロストーン)を眺める。

 

「頼むぜ、ヒドラの聖衣(クロス)

 

 


 

 

 彼女(美春)が東京に帰ってきたのは実に一年ぶりの事であり、水色のワンピースと薄手のカーディガンを纏って夏の季節に対応した装いの少女は途中で買ったアイスを食べながら、人ごみの中をゆっくりとした足取りで歩いていた。

 

 栗色のセミショートに大きな瞳が愛らしい少女は、時折胸元のガーネットを加工した十字架を指で触りながら久しぶりの都会を満喫していた……1年前の夏の日に彼女を取り巻く環境が一変してから今日まで様々な事があり、ようやく休暇と呼べるほど纏まった休みをもぎ取って街に繰り出したのだった。

 

 アイスを片手にウインドショッピングを楽しみながら少女は楽しい時間を過ごしていく。楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、最後にどこかの店でも冷やかそうかなどと考えている時に通りの先が何やら騒がしい事に気付いた。

 

 何かイベントでもあるのだろうか? アイスを舐めながら彼女はそんな呑気な事を考えていると、通りの先から大勢の人がコチラに走ってくる――その表情は恐怖に塗れ、通りの端に避難した少女の前を必死の表情で駆け抜けていった。

 

「……何かあったのかな?」

 

 未だ呑気な事を言っている少女は、自分の周りが何かに遮られて暗くなっている事に気付いて上を見上げると、そこには全身を黒い表皮に覆われた不気味な巨大な生物が牙の生えた口を広げて、今にも覆い被さって来そうな状態で存在していた。

 

「……なに、このブサイクな生き物は?」

 

 そのあまりに醜悪な成りように少女は呆れたようにため息を付いた。それが気に障ったのか、黒い巨大生物は不気味な咆哮を上げて少女に襲いかかろうとする。

 

「そこまでだ、『ダイモーン』!」

「その子から離れなさい!」

 

 その声に反応した黒い巨大生物『ダイモーン』が振り向く。少女も興味を惹かれて声のした方に視線を向けると、そこにはセーラー服をモチーフにしたらしい戦闘服というには防御力、面積共に乏しいコスチュームを纏った三人の女性の姿があった。

 

 髪を短く揃えた凛々しい顔立ちの女性と、それに寄り添うかのように立つウェーブの掛かった髪の美しい上品な顔立ちをした女性、そして長い髪を高い位置で束ねた理知的な女性が黒い巨大『ダイモーン』と対峙していた。

 

 なんだろう? それほど大した力を持っているようには見えないが、妙に自信に満ちた立ち姿だ……アレか、おみ足に自信があるのか。そうでなければ、あんなに短いスカートで外には出られないだろう……何故かやさぐれた気分になる少女だったが、自身に向けて黒い巨大『ダイモーン』から触手のようなモノが繰り出されて自由を奪われてしまった。

 

「――貴様!」

 

 触手によって三人への盾のように前面に追いやられると、それを見た凛々しい顔立ちの女性が怒りを顕にし、それを見た黒い巨大『ダイモーン』が笑ったような気がした。

 

 それからは黒い巨大『ダイモーン』の一方的な攻撃が始まった――黒い表面から無数の触手を繰り出して対峙する女性達を拘束しようとするが、それらを掻い潜って女性達が反撃しようとすると捕えた少女を盾にする……その卑劣な行為に女性達の顔が怒りの色に染まる……そしてそれは拘束された少女も同じであった。

 

 女性達が手を出せない事を良い事に、黒い巨大『ダイモーン』は触手の数を増やして攻撃を繰り返す。それらを回避しながら女性達は囚われの少女を救出する隙を待つが相手もそれを理解しており、女性達が近付こうとすると更に触手の数を増やして攻撃の激しさが増した。

 

「くっ! 近付けない」

「何とか隙を見て、あの娘を助けないと」

「ウラヌス、ネプチューン。三方から同時に仕掛けましょう」

 

 女性達が囚われの少女を救出しようとした時に、遅れてきた彼女達の仲間が到着する――特徴的なお団子からショートカットの少女と長い髪をストレートに下ろした色取り取りの少女達。そしてその中には少女達の半分位の身長しかない童女すらセーラー服を模した衣装を纏っていた。

 

「ウラヌス、ネプチューン、プルート!」

 

 特徴的なお団子からツインテールを流した少女が戦っていた三人に声をかけると、三人の視線が一瞬だけ後からやって来た六人へと向けられるが直ぐに目の前の黒い『ダイモーン』へと向けられる。

 

「来たのね、セーラームーン」

「私達も戦うわ、ネプチューン」

「必要ない」

「ウラヌス!?」

「この程度の敵、私達だけで十分だ」

 

 お団子頭――セーラームーンがウェーブの掛かった女性ネプチューンに助勢を申し出るが、凛々しい顔立ちをしたウラヌスが一刀の下に切り捨てる。その後も少女達と女性達が問答を繰り返していたが、そんな事はお構いなしに黒い『ダイモーン』は遅れてきた六人にも触手による攻撃を始める。

 

「くっ!? みんな気をつけて!」

 

 ショートカットの少女マーキュリーとかいう少女が触手を回避しながら仲間に警告を出すが、触手の攻撃は激しさを増してセーラー戦士達に襲い掛かった。

 

「――これじゃあ近付けない」

「マーズ、後ろ!」

「!?」

 

 紅いセーラー戦士の背後から触手が襲い掛かるが、仲間の警告で間一髪回避する事が出来た。そして触手はセーラームーンと童女-ちびムーンへと向かい、二人は妙にコミカルは動きで集中攻撃を回避して行く。

 

「わあっ! コッチに来た!?」

「コッチに来ないで! 何とかしてよ、セーラームーン!」

「そんな事言ったって、人質が居たんじゃ攻撃できないじゃない!」

 

 セーラームーンの視線は黒い巨大『ダイモーン』に囚われている水色のワンピースを着た少女へと向けられ……その少女に見覚えがあるような気がして小首を傾げた――瞬間、無数の乱れ舞う触手の全てがまるでその場に縫い止められたかのように動きを止めた。

 

「えっ!? なに、どういう事?」

「動きが止まった?」

「――いえ、良く見ると触手は小刻みに動いているから、何かがその場に固定しているんだわ!」

 

 突然無数の触手の動きが止まった事に訝しげに眉を寄せるセーラー戦士達の周囲には、その場に留まりながらも小刻みに震える触手群をあり、まるで気味が悪いモノでも見るかのように表情を曇らせながらも触手を避けながら集まる――そんな彼女達の耳に聞き慣れない声が聞こえてえくる。

 

「まったく、折角お休みを頂いたと言うのに」

 

 セーラー戦士達は声の主を探して周囲を見回す――聞こえてきたのは触手群の源――黒い巨大『ダイモーン』の傍から。セーラー戦士達の視線が集中する中、黒い『ダイモーン』の表面から触手を押し退けて囚われていた少女が歩き出していた。

 

「……美春ちゃん?」

「……本当、彼女だわ」

 

 水色のワンピースの裾を気にしつつ、カーディガンに付いたホコリを払いながらダイモーンから離れた少女を見たムーンとマーキュリーがその顔に見覚えがある事に気付く――それは同じクラスに在籍しながら一年前から行方不明になっていた天川 美春であった。

 

 その顔立ちは確かに天川 美春の物であったが、その雰囲気は以前とはまるで違うモノであった。以前の彼女はもっとオドオドしていたように思うのだが、今の彼女からは妙に余裕のようなモノを感じられるのだ。

 

「……美春ちゃん?」

 

 戸惑いながらも彼女を呼ぶムーンであったが、当の美春はムーンに視線すら向けずにダイモーンから少し離れると『ダイモーン』へと向き直った。

 

「何をしているんだ!」

「早く逃げなさい!」

 

 ウラヌスとネプチューンが避難するよう呼び掛けるが、美春は動かなかった。それどころかワンピースから伸びる足を広げてしっかりと大地を踏みしめて胸元より十字架を取り出した――ワインレッドの輝きが光る。

 

「たまの休みを台無しにされた乙女の恨み――思い知りなさい」

 

 来て、パピヨンの冥衣(サープリス)

 

 美春の声に反応してガーネットの十字架が赤い光を放ち――光の中に漆黒の宝石とでも言うべき輝きを持つオブジェが浮かび上がる――それは蝶の形をした精巧なオブジェだった――オブジェは独りでに分解して美春の身体に装着されて行き――闇のように底知れぬ暗さ、月のように冷たい輝きを放つ鎧を纏った美春が大地に立つ。

 

「地妖星パピヨンの美春、冥衣(サープリス)装着」

 

 蝶のような羽を背中に背負って美春は身動きが取れない黒い巨大『ダイモーン』に向けてにこりと笑い掛ける。

 

「身動きが取れない気分はどう? さっきまで触手で雁字搦めにされたお返しだけど、気に入って貰えたかな?」

 

 こてんと首をかしげながら問い掛ける美春に、咆哮を上げるしか出来ない黒い巨大『ダイモーン』。コミュニケーションが取れるか分からない相手に対して笑みを向けながら語り掛ける美春の姿は、傍から見れば滑稽であり、ある意味傲慢な態度とも取れた。

 

「……『ダイモーン』を止めているのは君か?」

「そんな馬鹿な、あれほどの巨体を止めるなんて!?」

「ありえないわ」

 

 驚きながらも問い掛けるウラヌスに、信じられないといった顔で向けるポニーテールのジュピターと美しく長い髪を持つヴィーナス。周囲には無数の触手が動きを止めており、これだけの触手を止めるなど星の守護を持つ彼女達とて不可能に近い事であったのだ。

 

 戸惑うセーラー戦士達を尻目に、黒く輝く鎧を纏った美春は右手を高く上げる――すると、どこからともなく光る蝶が舞って周囲を埋め尽くす。

 

「……これは?」

「……蝶がこんなに……一体何処から?」

 

 巨大な黒い『ダイモーン』やセーラー戦士の周りで動きを阻害された無数の触手の間を舞う光る蝶の群れ――その光景は現実感が無く、幻想的というよりも原始の恐怖を呼び起こす光景であった。

 

「蝶の羽ばたきの中で消えなさい――『フェアリースロンギング』」

 

 高らかに宣言する美春の声に答えるかのように、光る無数の蝶はまるで弾丸を思わせるような速度で巨大な黒い『ダイモーン』に殺到してその巨体を覆う――それでもなお無数の蝶が恐るべき速度で向かって行き、蝶の輝きで覆われた『ダイモーン』の悲鳴の如き咆哮が鳴り響き……少しずつ弱まって行き……最後には途切れる。

 

 全ての音が消えた静寂の中で、羽ばたく音すら無く輝く蝶が消えて行き、“そこには”何も残されていなかった。

 

「……あんなに大きかった『ダイモーン』が跡形もなく」

「……消えた」

 

 蝶の輝きの中に消えた後に何も残っていない事に、セーラームーンとちびムーンが呆然とした表情のまま呟く。あれほどの巨体を誇った黒い『ダイモーン』が跡形もなく消えた事に、驚きを顕にしているセーラー戦士がふと気付いた時にはそれを成した美春の姿もその場から消えていたのだっだ。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 異星からの侵略者『デス・バスターズ』の残照―巨大なダイモーンを倒したのは、一年前に行方不明になっていた学校のクラスメイト 天川美春であった。
 ――そして彼女は、廃墟と化した無限学園の地に向かう……そこに待ち受けていたのは。


 では次回『第九話 リターンマッチ』1/2投稿予定です。
 ではでは~。
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