美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

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第九話 リターンマッチ

 

 繁華街において、巨大な黒い『ダイモーン』が暴れてから一週間が経った。幸い『ダイモーン』によってもたらされた被害少なく、街は一応の平穏を取り戻していた。だがテレビでは巨大な黒い『ダイモーン』の映像が流れて、識者達が様々な論議を交わしており、未だ人々の関心の高さを伺わせる……そして、その巨大な黒い『ダイモーン』立ち向かう少女たちの事も議題には上がっていた……だが、不思議な事にテレビカメラや報道用の高性能カメラはおろか個人のカメラにすら写真は残ってはいなかったようだ。

 

「と、世間の関心は未だ高い状態なのよね」

 

 大型ディスプレイに映し出されたテレビ番組を見ていたうさぎ達セーラーチームを前に、額に三日月型のアザを持つ特徴的な黒猫ルナは、ため息を付きながら解説する――以前より時々出現していた謎の生物『先祖返り』と呼称される『ダイモーン』とは、オスティー(聖体)を抜き去られた人間に憑依して暴れまわる超生物の失敗作であり、異星からの侵入者『デス・バスターズ』の尖兵として暴れまわっていた。

 

 だが『デス・バスターズ』はセーラー戦士達によって倒され、『ダイモーン』の驚異も消え去ったと思った矢先に最後の『ダイモーン』が現れて街を荒らしていたのだ。

 

「まぁ、これで『ダイモーン』も全部倒した訳だし、一先ずは安心ね」

 

 セーラーヴィーナスこと愛野美奈子は気楽に言うが、ルナは首を振って、新たな問題が現れた事を告げる。

 

「確かに『ダイモーン』の驚異は去ったわ――けどね、美奈子ちゃん。問題は『ダイモーン』だけじゃないわ」

 

 ルナの操作によってディスプレイに映し出されたのは、闇のように冷たく暗い輝きを放つ鎧を纏う一人の少女の姿が映し出された。

 

「これは、亜美ちゃんがスキャンしていた画像よ――彼女は天川 美春。元うさぎちゃん達のクラスメイトで、一年前から行方不明になっていたんだけど、先日最後の『ダイモーン』との戦いの場に突然姿を現した……恐ろしいほどの力を持って」

「……彼女からは星の守護の力は感じなかった……霊力とも違う、別の力ね」

 

 圧倒的な存在感と共に目の前に立っていた美春の姿を思い出して、セーラーマーズ火野レイは柳眉を顰める――セーラー戦士はそれぞれ守護星を持ち、その加護で超常の力を行使していた。だが美春は違う――彼女は未知の力を使う別の存在だった。

 

 ディスプレイには光る蝶を大量に召喚して『ダイモーン』を消し去る光景が映し出された。巨大な質量を持つ『ダイモーン』を文字通り消し去るその力は彼女達には驚異に感じられた。

 

「……あの鎧」

「どうしたの美奈子ちゃん?」

「あの美春って娘が着ている鎧なんだけどね」

「彼女が纏っているのは全身を覆うタイプのようね」

 

 操作盤の前にいるルナはキーを操作してディスプレイに美春の姿を映し出す――黒い輝く鎧を纏う彼女の姿に、う~んと唸っていた美奈子がようやく思い出したのか、手をぽんと叩く。

 

「そうよ! あの胡散臭い仮面を被った聖闘士(セイント)とか言う奴の鎧に似ているんだわ!」

聖闘士(セイント)?」

「ええ、うさぎちゃん達と合流する前にあった事件で遭遇した相手よ」

 

 美奈子は首を傾げてハテナマークを浮かべるうさぎ達に事件のあらましを伝える。

 

「銀行に押し入った鎧を纏う大男と、それを倒した毒を操る聖闘士(セイント)か……しかもその聖闘士(セイント)はマスクを被って正体を隠していた――うん、胡散臭い」

「そうね」

 

 美奈子の話を聞いたまことと亜美は揃って断言した。

 そんな二人に「でしょう!」と美奈子も同意する。

 

「……つまり、私達の知らない間に鎧の力を行使している者が増えている訳ね」

「……私達とは全く違う力……新たな敵が現れたのかしら」

 

 ディスプレイに映る美春の姿を見ながら、ルナとレイは今まで感じたこともない力を持つ鎧を使う未知の存在の出現に、脅威を感じて難しい顔で話し合う。

 

「――待って、ルナにレイちゃん! 私は美春ちゃんが敵だとは思えない! だって私達を助けてくれたじゃない!」

「そうだよ! 私とうさぎを襲って来た、あの気持ち悪いのを止めてくれたもん!」

 

 触手によって追い立てられていたのを美春によって救われた形になったうさぎとチビうさの二人は美春を擁護するが、亜美はそんな二人に向けて首を横へ振った。

 

「それは結果論であって、貴方達を助けようとしたのかどうかさえ分からない……彼女は異質すぎるわ」

 

 


 

 

 港区にある無限洲に有った無限学園の跡地。突然の地盤沈下により無限学園の入っていたビルが崩落して、今は立ち入り禁止のテープが貼られて無人の廃墟と化していた。

 

 先日、その廃墟から先祖帰りと呼ばれた生物――研究の為に隔離されていたモノが崩落により檻が破損して逃げ出したなど噂されていた――が現れて周囲を破壊しながら都心へと向かい、黒く輝く鎧を纏った美春によって倒されたのだった。

 

「……やっぱり、美春ちゃんは居ないねぇ」

「――ばっかじゃないの? うさぎは何でこんな所に居ると思ったのよ?」

「――だって! 探しても全然居ないんだもん……」

「……うさぎを信じた私が馬鹿だったわ」

「……ちびうさ…」

 

 立ち入り禁止のテープのすぐ傍で頭を垂れる特徴的なツインテールを持つセーラームーンこと月野うさぎを、キレの良い毒舌でディスるツインテールながらも短めの髪を持つちびムーンことちびうさは、これ見よがしに肩を竦めて嘆息してみせる。

 

「……美春ちゃん何処にいるんだろう?」

「あの人って、うさぎのクラスメイトなのよね?」

「……とは言っても、去年の夏休みに行方不明になったんだけどね」

 

 当時の事を思い出すうさぎ――夏休みが終わって二学期が始まっても天川美春は登校せず、暫くしてから担任の教師から彼女が失踪した事が告げられたのだった。噂では捜索願を出した家族の人達が、街頭でも情報提供のビラを配ったりしたが何の情報も得られなかったと言う――だが、その一年後に彼女はふらりとうさぎ達の前に現れたのだ――しかも不思議な力を持つ鎧と共に。

 

「……もしかしたら、行方不明になったのは『力』に目覚めたからなのかもしれない」

「……『力』に目覚めた所為で、家に居られなくなった?」

「……だから、行方を晦ませなければならない事情があるのなら――力になってあげたいの」

 

 拳を握りながら己の決意を示すうさぎに、柔らかな笑みを向ける幼女ちびうさ――そんな彼女の眼に件の人物、ゆるふわの白いTシャツとデニムのパンツという装いのラフな格好をした美春が、首筋から掛けた大きなガーネットを加工して作られた十字架を手で弄びながら無限学園跡の廃ビルを見上げていた。

 

「うさぎ!? あそこ!」

「――へっ?」

 

 思わずと言った感じで声を上げるちびうさの指先の方向に視線を向けたうさぎは、探していた人物美春が立ち入り禁止のテープを乗り越えて瓦礫を避けながら中へと入って行く姿を見た。

 

「ちびうさは此処に居て!」

「うさぎ!?」

 

 それを見たうさぎは、ちびうさにそう言って立ち入り禁止のテープを乗り越えると、美春の後を追って無限学園跡の廃墟へと入って行く……後に残されたちびうさは暫くアワアワとしていたが、持っていた通信機で二,三やり取りした後にテープを乗り越えてうさぎの後を追ったのだった。

 

 


 

 

 それを感じたのは遅めの朝食を取った後のコーヒーの香りを楽しんでいる時であった――自らに向けて放たれる攻撃的な小宇宙(コスモ)を肌で感じて、高級ホテルのスイートでテレビに流れる数日前の奇妙な生物の特集を見ていた美春の柳眉が寄せられる。

 

「……この小宇宙(コスモ)は……為すすべもなく負けたくせに、性懲りもなく」

 

 放たれる小宇宙(コスモ)に既視感を感じ、暫く何処で感じたのか思い出そうとしていた美春は、以前遭遇した聖闘士(セイント)と呼ばれる存在から感じた小宇宙(コスモ)であると思い出して苦々しい表情を浮かべる――あの時に倒したと思っていた相手が生きていて、こうして小宇宙(コスモ)を放って此方を挑発して来ているのだ。

 

 美春は座っていたソファーから立ち上がると、着ていたパジャマを脱いで着替える……このまま攻撃的な小宇宙(コスモ)を放たれ続けるのも面倒だし、何より仕事は完遂する性質であると自認している。少し大きめのTシャツにデニムのパンツと言うラフな格好になった彼女は、部屋を出てエレベーターに乗り込み一階へ降りて広いロビーを一直線に歩いて玄関へ到達すると客待ちをしていたタクシーに乗り込み南へと向かった。

 

 


 

 

 今も送られてくる攻撃的な小宇宙(コスモ)を辿りながらタクシーを走らせる美春。景色は流れて周囲の建物も少なくなり、何時しかタクシーは再開発地区へと向かっていた。運転手の話では、この先には局地的な地盤沈下によって周囲には被害がないのに一つだけ倒壊したビルの廃墟しかないと言う――そこが待ち合わせの場所なのだろう。

 

 無限学園とかいう巨大な学校施設があったというビルの廃墟の前まで来たタクシーから降りた美春は、瓦礫を撒き散らして今にも崩れ落ちそうな廃墟を見上げる。

 

 見た瞬間に分かった――この場所は死んでいる。

 

 何が有ったのかは分からないが、瓦礫にまみれた廃墟は静寂に支配されている――だが冥闘士(スペクター)である美春にとっては、死は恐れる必要はない。首から下げた十字架を触りながら戦闘意欲を高めた美春は立ち入り禁止のテープを乗り越えて、瓦礫の中へと足を踏み入れる。

 

 地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)に選ばれてから身体能力が飛躍的に高まっている美春は、瓦礫の山を軽々と飛び越えて奥へと進んで行くと広い空間へと出る――そこには海水でも流れ込んだのかまるで湖のような様相をしており,その湖面には一人の男が立っていた。

 

 以前の仕事場――北海道で邪魔をしてきた聖闘士(セイント)。演劇で使う白い仮面を被り、人を小馬鹿にしたような男は何の足場もない湖面に立っている……恐らくサイコキネシスの変形だろう。

 

「生きていたんですね。けど、しつこい男は嫌われますよ?」

「何、この前の事が忘れられなくてね」

「……すみません、ストーカーは遠慮したいのですが」

「ははは、もう少しバインバインなってから言え」

「……(怒り)」

 

 ニヒルに決めているつもりなのだろうが、仮面の所為で怪しい人物にしか見えない。その意味も込めて美春は毒を吐くが、男――ヒドラの聖闘士(セイント)は構わず胸元から水晶のペンダントを取り出す。

 

 ――来い、ヒドラの聖衣(クロス)

 ――来て、パピヨンの冥衣(サープリス)

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 まばゆい光を放ちながら浮かび上がる聖衣(クロス)に対抗して、美春の声に呼応するように赤い輝きを放ちながら浮かび上がる冥衣(サープリス)――それぞれがパーツに分解して装着されていき、聖衣(クロス)冥衣(サープリス)を着た二人は自然体ながらも緊張感を持って対峙する。

 

「その鎧、以前とは違いますね」

 

 美春の言葉の通りにヒドラの聖衣(クロス)は以前とは違い、胸元を守るプロテクターは大型化しており手足を保護するアーマーは硬度と強度を増しているのを誇示するかのように輝いている。

 

「ヒドラの聖衣(クロス)の特性でね、脱皮をするたびに強くなる――気を付けろよ? 今のヒドラは白銀聖衣(シルバークロス)並みの力を、強度を持っているぞ」

 

 

 北海道の室蘭の海岸線で、地妖星パピヨンと対峙した海へび座の聖闘士(セイント) 土浦 市はパピヨンの力の前にあえなく敗北した。聖衣(クロス)は粉々に砕かれ、全身に傷を負った市は冷たい海の底へと沈んだが、源一郎の属する退魔組織の退魔師によって救助された後に病院にて手当てを受けたのだ。

 

 運び込まれた病院で手当てを受けて、全身ミイラと化した市はベッドの上で身動き一つ取れない状態でも思考だけは進める……パピヨンの攻撃で砕かれた聖衣(クロス)は、今は胸のペンダントに収まって自己修復しているようだが、修復されたとしても能力的には今までと同じであり、このままではパピヨンには勝てない。

 だが、どうすればヒドラの聖衣(クロス)が強くなるのか皆目見当が付かず……それ以前にパピヨンに地力でも押し切られた市は、自分が聖衣(クロス)の性能に頼りきりであった事を痛感して、早急なレベルアップをする必要を感じていた。

 

 故に市は源一郎の所属する退魔組織から情報提供を受けて、邪悪な力を持つ妖魔や悪霊と戦って実戦経験を積み自らの小宇宙(クロス)を鍛えるという、正規の聖闘士(セイント)の鍛錬を濃厚な密度で行う事により短期間でのレベルアップを可能とした――そして副次的な成果として聖衣のランクを上げる条件を発見する。

 

 それは巨大な鬼と戦っている時に気付いた――日本三大妖怪の一柱『大嶽丸』を思わせる程の力を振るう大鬼の力は凄まじく、炎と氷と相反する属性を操る大鬼との死闘は市の身体にかなりのダメージを与えたが、倒した大鬼の返り血を浴びた聖衣(クロス)は命の脈動に満ちて強く輝いたのだ。

 

 おいおい、マジかよ。

 

 それに気付いた時、市は思わずボヤいた……相手の血を浴びる事で強さを増すなど、何処ぞの中二病の吸血鬼のようではないか。強さを求めた市に対する、神の如き何者かの強烈な皮肉を感じながらも市は覚悟を決めた。

 

「良いだろう、背負ってやろうじゃねぇか!」

 

 大鬼を粉砕した市は覚悟を――血に塗れた人生を歩む覚悟を決めたのだ。

 

 


 

 

 崩壊した無限学園跡地で、地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)を纏った美春と新生ヒドラの聖衣(クロス)を纏った市は静かに対峙している――だが、お互いに内に秘めた小宇宙(コスモ)を高めながら相手を見据えていた。

 

黄金(ゴールド)白銀(シルバー)青銅(ブロンズ)……三つのクラスに分類される聖闘士(セイント)のランク。最下位の青銅(ブロンズ)ごときが随分と大きな口を叩くんですね、白銀(シルバー)並みの強度ねぇ、身の丈に合っていないじゃないですか? あんなに無様に負けたくせに」

「ふん。冥衣(サープリス)におんぶに抱っこの、ケツの青い小娘が良く(さえず)る」

 

 程度の低い舌戦を交わしながらも二人は油断なく相手を見つめ、ジリジリと距離を詰めていく……常人とはかけ離れた能力を持つ二人であったが――否、かけ離れた能力を持つが故に少しでも己の有利なポジションを得ようとしていた。

 

「その悪趣味な冥衣(サープリス)を剥ぎ取ってやろう」

 

 市がそう言った途端、美春はバッと音がするくらいの速度で両腕で身体を隠すと、まるで生ゴミでも見るかのような冷たい目を向ける。

 

「変態だ、変態だ、と思っていたけど女の子の服を脱がそうだなんて……この痴漢! ロリコン!」

「ちょっと待てぇい!? 誰がロリコンだ、人聞きの悪い事を言うんじゃない!」

「その悪趣味な仮面からして、マトモじゃないと思ってたけど……」

 

 両腕で身体を隠しながら蔑んだ目を向ける美春に、仮面の下で市は「このアマ、粉々にしてやろうか」などと青筋を立てたが、そこに頭の痛い乱入者が割り込んできた。

 

「待ちなさい!」

 

 突然その場に鳴り響いた声に視線を向けると、そこには複数の人影が立っていた。何時か見たセーラー服をモチーフにした防御力など皆無のような戦闘服を身にまとった、特徴的なお団子から長い髪を流す少女と、同じようなコスチュームを身にまとった六人の少女達……どう見てもレイと友人のうさぎちゃん達だった。

 

「こんな人気のない所に女の子を呼び出してイタズラしようだなんて、言語道断! そんな悪い子は、月に変わってお仕置きよ!!」

「……おい」

 

 どうしてそうなる……おもわず頭を抱える市であった。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 廃墟と化した無限学園の地で対峙する聖衣(クロス)を纏った市と冥衣(サープリス)を纏った美春――双方が激突する寸前に颯爽と姿を現したセーラーチーム……盛大な誤解をしながら。

 では次回『第十話 敵はセーラーチーム?』1/3投稿予定です。
 ではでは~。
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