美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

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第十一話 最凶の闘士

 

 崩壊した廃墟の中で、海へび座の聖闘士(セイント) 土浦 市は、かつてない脅威を前にして委縮して動けずにいた……この世界において本来あり得ないモノ、冥闘士(スペクター)へと変貌した少女 美春や、小宇宙(コスモ)とは異なる力を持って妖魔と戦うセーラー服美少女戦士とか言う荒くれ少女達と戦いを繰り広げていた市だったが、今彼の目の前には 夜よりもなお深く、冥府の宝石の如き輝きを持った冥衣(サープリス)を纏った男が現れたのだ。

 

青銅(ブロンズ)ごときとはいえ聖闘士(セイント)聖闘士(セイント)、ここで始末するか」

 

 ラダマンティスと呼ばれた男から発せられる威圧が増して市だけでなく、市と戦っていたセーラー戦士達もラダマンティスの威圧をまともに受けて硬直して動けなくなってしまう――その時、緊迫した空気を切り裂くように一輪の薔薇が飛来してラダマンティスの足元に突き刺さった。

 

「暴力を持って可憐な花たちを手折るなど、世界への冒涜。このタキシード仮面が許しはしない」

 

 シルクハットとタキシードに身を包みアイマスクで目元を隠した麗人は、ラダマンティスの前に降り立つと一気に距離を詰めてステッキを繰り出すが、ラダマンティスは軽く躱して無造作に腕を振り抜く――轟音と共に振り抜かれた腕はタキシード仮面を捉える事は無かったが、タキシード仮面のシルクハットは振り抜いた腕が起こす暴風に吹き飛ばされる。

 

「――タキシード仮面様!?」

 

 タキシード仮面の事を心配したセーラームーンが声をかけるが、ラダマンティスと戦いを繰り広げているタキシード仮面に余裕がなく、セーラームーンはタキシード仮面の勝利を祈るだけであった。

 

 巨大な二対の羽根を持ち刺々しい印象を持つ冥衣(サープリス)を纏った大男は、ただそこにいるだけで凄まじいプレッシャーを放ち、周囲にいる者を委縮させていく。

 

 だが、そんな強大な敵を前にしてもタキシード仮面の闘志は揺るぎもしない――その背中には守るべき者達が居るのだから。

 

 

 突如として現れた禍々しいワイバーンの冥衣(サープリス)を纏う男、何者かによって流し込まれた“知識”の中にある、冥界を統べる神『ハーデス』のしもべ 108の魔星の中でも最高峰たる『冥界三巨頭』の一人 ラダマンティス……“紛い物”である自分とは違い、その小宇宙(コスモ)は強大無双の益荒男。

 

 彼の強大な小宇宙(コスモ)を目の当たりにした市は、その威圧感に一歩も動けなかった。この世界にはあの『神々の戦い』―-『聖戦」の逸話がない事は確認している……なのに、今前の前には強大な力を有する正真正銘の闘士が立っている……委縮し、足が震えて一歩も動けなかった……何が、俺が選ばれた理由か、だ……本物の冥闘士(スペクター)を前にしたら、足が竦んで動けないじゃないか。

 

 委縮し自己嫌悪に苛まれている市の目に、ラダマンティスに果敢に挑む仮面の男の姿が写る……アイツは何でラダマンティス相手に戦いを挑めるんだ? 刺々しい印象を与えるワイバーンの冥衣(サープリス)を纏うラダマンティスが放つ暴力的な小宇宙(コスモ)を物ともせずに戦うタキシード仮面の姿に、市の中に小さな灯が灯る。

 

 


 

 

「どうした優男、そんなヌルイ攻撃では当たってやれんな」

「くっ!?」

 

 漆黒の宝石のような素材で形作られた巨大な翼を持つ鎧に身を包んだ、ラダマンティスと呼ばれた謎の男――その威圧は物理的な力を持つかのように周囲の人間に影響を与える中、黒いタキシードに身を包んでマスクで目元を隠したタキシード仮面は、常人には見切れないほどの速さでステッキによる連続攻撃を仕掛けるが、当のラマダンティスは余裕すら感じる動作でそれらの攻撃を悉く避けると煽るような物言いで挑発し、タキシード仮面が繰り出すステッキの速度も上がるがその全てが見切られて、逆にラダマンティスが繰り出した軽いジャブがタキシード仮面の頬を掠めて浅い切り傷が出来る。

 

「そら、速度が落ちてきているぞ」

「――くっ」

「さて、貴様の相手をするのも飽きてきたな。そろそろ潰すか」

「させん! タキシード・ラ・スモーキング・ボンバー!」

 

 タキシード仮面の右手が白銀の輝きを放ち――極光の輝きを撃ち出すが、それをラダマンティスは軽々と躱す……そしてラダマンティスの圧が増して、冷たい光を湛える青い瞳がタキシード仮面を見据えた。

 

「……もう気が済んだか? ならば、今度は此方の番だな」

 

 ラダマンティスの瞳に危険な光が宿り、タキシード仮面が知覚できない一瞬の間に彼の間近まで接近したラダマンティスが拳を繰り出す寸前――「させるかよぉ!」――小宇宙(コスモ)を宿した拳がラダマンティスを襲う――敵の強大さに委縮して臆していたが、ラダマンティス相手に果敢に戦いを挑むタキシード仮面の姿に触発されて、なけなしの勇気を振り絞った市がもっとも使い慣れた『メロウポイズン』で攻撃を仕掛けたのだ。

 

 


 

 

 突然最後の『ダイモーン』との戦いに姿を現した天川 美春の痕跡を負って、『デスバスターズ』との決戦の地にへと再びやって来たセーラーチームは、廃墟の奥底で正体不明の鎧を纏う『聖闘士(セイント)』と名乗る男と対峙する美春の姿を見付けた。

 

『その悪趣味な冥衣(サープリス)を剥ぎ取ってやろう』

 

 最後の『ダイモーン』との戦いの時にも纏っていた、漆黒ながらも輝く宝石のような光を放つ黒い鎧に身を包んだ美春に向けて、鎧を纏った『聖闘士(セイント)』と名乗る男の宣言を聞いたセーラーチームは、揃って柳眉を逆立て、不埒な輩に制裁を加えようとしたその戦いの最中に突然姿を現した美春と同じく漆黒ながらも宝石のように輝く鎧を纏った男――ラダマンティスと呼ばれた男の放つ強烈なプレッシャーに足が竦んで動けなくなるセーラーチームの前に、1輪のバラと共に姿を現したタキシード仮面が現れ、ラダマンティスと呼ばれた男相手に戦いを挑んだ。

 

 だが、ラダマンティスと呼ばれた男にはタキシード仮面の攻撃は一切当たらず、タキシード仮面の方が劣勢である事は見て取れて、彼の勝利を願い一心に祈るセーラームーンに向けて、同じく見守っていたセーラーヴィーナスが話しかけた。

 

「セーラームーン、敵は強大よ。セーラー・プラネット・アタックを使いましょう」

「ヴィーナス」

「先程から戦力分析をしているけど、あのラダマンティスという男に勝つのは難しいわ」

「マーキュリー」

「私達も出来る事をしてタキシード仮面を援護しましょう」

「やろう、セーラームーン」

「マーズ、ジュピター……やりましょう!」

 

 仲間達の声を受けてセーラームーンもその気になった時、タキシード仮面とラダマンティスの戦いに乱入者が加わった――仮面を被った聖闘士《セイント》と名乗る男が、ラダマンティスに攻撃を加えたが、その拳はあっさりと躱されて、それを好機と見たタキシード仮面がステッキによる攻撃を加える――そこに円陣を組んだセーラー戦士達の声が朗々と響き渡った。

 

「「「「「セーラー・プラネット・アタック!」」」」」

「むっ!」

 

 それぞれが守護星の力を極限まで高めて強力なエネルギー波を放ち、五つの光は輝きを増しながらラダマンティスに降り注いて輝きの中にその姿が消える――その光景を見たセーラー戦士達やタキシード仮面は倒したか、そこまで行かなくてもかなりのダメージを与えたと思った……だが、その輝きの中から漆黒の宝石のような輝きを放つ鎧が現れた時、セーラー戦士達の顔が驚愕に歪む。

 

「……うそ」

「……まったくダメージを受けていないのか」

「……鎧に傷一つ付いていないわ」

 

 冥府の宝石のように漆黒の輝きを何一つ損なう事なく悠然と歩くラダマンティスの姿は、底知れぬ実力の象徴とも言える物であった。何者も傷つける事叶わず、何物も阻む事出来ず、威風堂々、一歩一歩大地を踏みしめてラダマンティスはタキシード仮面の前に立った。

 

「さて、冥府へ旅立つ用意は出来たか? 案ずるな、後ろの女達もまとめて送ってやろう」

 

 ラダマンティスの威圧が増すと共に鎧を構成する二対の翼が大きく広がる。強者の気配が物理的な力となって周囲の空気を震わせて、タキシード仮面はおろか少し離れた所に居るセーラー戦士達をも震わす――にやりと笑いったラダマンティスの眉間に黒いリングのようなモノが現れると、そこに何らかの力――小宇宙(コスモ)が集中する。

 

「受けるが良い、『グレイテストコーション』!」

「――下がれ!」

 

 両腕を突き出して必殺の技を繰り出そうとするラダマンティスの前に躍り出たのは、彼の強大な小宇宙(コスモ)に萎縮しながらも気力を振り絞って立ち上がった市であった――数々の妖魔と戦う過程で、強化されたヒドラの聖衣(クロス)を纏った市はタキシード仮面を庇うように立ち、手甲よりヒドラの牙を出すと全ての小宇宙を込めて一点に撃ち出した。

 

「全てを貫けヒドラの牙――『グリムソン・ファング』!」

 

 パピヨンの冥衣(サープリス)を纏う美春との戦いにおいて敗北を喫した市は、地力の底上げと共にパピヨン冥闘士(スペクター)と化した美春を倒す為の新しい必殺技を生み出す必要を感じていた……ヒドラの聖衣(クロス)に備え付けられている毒の牙の『メロウポイズン』と広範囲攻撃である『ゴージャス・ファング』そして無数の拳で相手を押し潰す『ハンドレット・グースネィク・スタイフォー』の三つの技で今まで戦ってきたが、格上の相手を倒すには力不足を感じていた……そこで市は知識にある聖闘士(セイント)の技の中で再現可能なモノを中心に新技の構築し、一点集中型の新必殺技を開発したのだ――これは爪に小宇宙(コスモ)を乗せて相手の神経を撃つ『スカーレット・ニードル』を参考に、ヒドラの牙に研ぎ澄ました全小宇宙(コスモ)を乗せて撃ち出すものだった。

 

 『グリムソン・ファング』を打ち出した市は、その身を盾にして『グレイテストコーション』の光弾を受ける――新生ヒドラの聖衣(クロス)と言えどその圧力に負けて無数のヒビが入り、白銀に輝くヒドラの聖衣(クロス)はボロボロと崩れ落ち、市もまた激痛のあまり膝をついた。

 

「お、おい!?」

 

 突然目の前に現れて、身代わりのように相手の攻撃を受けた仮面の男に思わずといったように声をかけるタキシード仮面……だが市にはそれに返事をする余裕すらないようだ。

 

「……驚いたぞ。たかが青銅(ブロンズ)風情の技がワイバーンの冥衣(サープリス)に傷を付けるとは」

 

 ラダマンティスの纏うワイバーンの冥衣(サープリス)は一見何ら傷ついていないように見えるが、良く見るとブレスト・プレートの部分に小さな傷が一つ付いていた。

 

「……はははっ、全霊を込めた拳でも傷一つかよ」

 

 『グレイテストコーション』をまともに喰らい激痛により膝を折っている市だったが、全力で放った攻撃がまったく効いていない事に乾いた笑いしか出なかった……目の前に立つラダマンティスは、ゆっくりとした動作で右手を構える。

 

「今度こそ冥府に送ってやろう」

 

 ラダマンティスが右手を振り下ろそうとした時、それまで後ろに控えていた美春が声をかける。

 

「ラダマンティス様」

「……どうしたミハル」

「スケルトンさん達から連絡がありまして――冥府への、黄泉比良坂への入口を見つけたとの事です」

「そうか……ようやくか」

 

 様々な思いが込められているのだろう。重く、ひたすら重く吐息を一つ付いたラダマンティスは呟いた後に踵を返して歩き出し、それを追い掛けるように美春が後に続いて行く。まるで興味を失ったかのようにあっさりと全てを置いて歩き去る後ろ姿に苦痛を押し殺した市が声をかけた。

 

「ま、待て、待ってくれ! アンタ達は、一体何をしようとしているんだ!?」

「――決まっている。ハーデス様の下に馳せ参じるのだ」

 

 立ち止まったラダマンティスは、それだけ答えると美春と共に無限学園の跡地より消えた。

 

 

 


 

 

 ラダマンティス達が去った後、無限学園の跡地には重苦しい空気が流れていた……ラダマンティスの圧倒的な強さの前にへし折られた市とタキシード仮面そしてセーラー戦士達は、暫く口を開くことなくその場に座り込んでいた。目の前で荒れ狂った暴風の如き猛威に、セーラー戦士達は放心状態となっており……今までの敵とは根本的に何かが違うと感じていた。

 

「無事か、みんな」

「タキシード仮面様」

「ええ、何とか……」

 

 何とか立ち上がったタキシード仮面にセーラー戦士達それぞれが大丈夫だと答える――周囲を見ればラダマンティスが放った『グレイテストコーション』によって爆撃でも受けた跡のように破壊され尽くしている……そんな状況の中でセーラー戦士達が無事だったのは、セーラーヴィーナスの視線の先にいる聖闘士(セイント)を名乗る男が『グレイテストコーション』の殆どを受けて盾となったおかげであった。

 

「……美春ちゃん、あの人と一緒に行っちゃったね」

「……あの人、恐ろしく冷たい眼をしていた」

「……最後に言っていた黄泉比良坂って何?」

「黄泉比良坂っていうのは『古事記』にも登場する、この世とあの世の境界にある坂の事よ……あの美春って子、黄泉比良坂を見つけたって言っていたけど……まさか、本当に?」

 

 美春の言っていた黄泉比良坂に付いて語っていたセーラーマーズだったが、死者の国へと続く道が見つかる可能性など考えた事もなく、半信半疑であった。

 

「……それは彼に聞くのが一番だろうな」

 

 タキシード仮面が向ける視線の先には、立ち上がった仮面の聖闘士(セイント)――市が廃墟の外へと向かって歩き出そうとしていた所であった。幾つもの視線が彼の背中に注がれるが、市は何も語らずその場を去ろうとする――そんな市の背中に向けてタキシード仮面は言葉を掛けた。

 

「無視する事は無いだろう、市?」

 

 その途端、一瞬大きく揺れた仮面の聖闘士(セイント)の身体は歩みを止めて、まるで錆び付いたかのようにゆっくりとした動作で振り返った。

 

「……あ、あっしは市なんて素敵な名前じゃないでやんすよ?」

「……声が変だぞ」

 

 動揺して若干声のトーンが高くなっている仮面の聖闘士(セイント)に、タキシード仮面は哀れみさえ含んだ口調で突っ込む。微妙な空気が流れる中、同じく微妙な表情を浮かべたマーズが声をかける。

 

「ねぇ、市さん」

「だから、あっしは市なんて――」

「貴方の被っている仮面、ひび割れて顔が見えているわよ?」

「――へっ?」

 

 呆けた声を上げて思わず仮面を確認する聖闘士(セイント)……確かに正体を隠すために被っていた仮面には幾つものひびが入り、中でも仮面の右半分のパーツが剥がれ落ちているようだ。

 

 ラダマンティスという脅威が去った事で気が抜けていたのか、仮面が剝がれている事に気付いていなかったのだろうか? タキシード仮面を始め、セーラー戦士達の哀れみの視線が深まる。

 

 ……そして何より。

 

「身長170センチ、体重は50キロ前後。そして、そこまで凶悪に目じりが吊り上がった男性と言うと、候補は絞られる……というか一人しか居ないと思うのだけど」

 

 皮肉げに笑うタキシード仮面の言葉を補足するように、マーキュリーが解析したデータを読み上げ、セーラー戦士達の哀れみを含んだ視線がジットリとしたものに変わり、仮面の聖闘士(セイント)は躱しきれないと思ったのか破損して正体を隠す機能をほぼ失った仮面を外し……仏頂面をした土浦 市の顔が現れる……ひでぇよ、亜美ちゃん。そんな市の不貞腐れたような表情を見たセーラームーンが笑みを浮かべる。

 

「ま、市さんの顔って、一度見ると忘れない程のインパクトが有るもんね……夢でうなされる位にね」

 

 ……ひでぇよ、うさぎちゃん。市の渋面はより深いものとなった。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 脅威は去った――だが、正体が露見した市は、世話になっている火川神社にて尋問を受ける――そこで彼はこの世界には存在しない、遥かなる神話の時代の伝説を語る。

 では次回『第十二話 遥かなる聖闘士(セイント)伝説』1/5投稿予定です。
 ではでは~。
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