十番街から少し離れた簡素な住宅街に一台のバスが到着する。
昇降口から仙台坂上のバス停で降りたのは、見目麗しい少女達であった。十代前半であろう四人組の少女とローティーンの女の子が一人――月野うさぎと水野亜美そして ちびうさが歩き、その後ろが木野まことと愛野美奈子というセーラー戦士が私服姿で氷川神社に向かっていた。
「まったく、うさぎったら日曜だからって何時までもグーすか寝てるんだから」
「うるさいわね、ちびうさ!」
「まあまあ、二人共その辺で」
何時も通りの喧嘩をする二人を宥める亜美。
「そうだね、何とかバスには間に合ったんだから」
「ギリギリだったけどね」
フォローするまことに鋭いツッコミを入れる美奈子。
話を纏めると休日に約束をしていたようだが、例の如く寝坊したうさぎの所為で予定していたバスに乗り遅れそうになったようだ。未だうさぎを責めるちびうさの様子から余程起こすのに苦労したのだろう――ワイワイと騒ぎながらも、どうやら目的地である氷川神社の前に到着した。
「あ! レイちゃん」
鳥居の側で待っていた火野レイの姿に気付いたうさぎが嬉しそうな声を上げて近寄って行き、他の者達もそれに続く。巫女装束を身に纏ったレイは箒を手にしており、寸前まで神社の清掃を行っていたようだ。
「レイちゃん、市さんは?」
「知人を迎えに行くって朝から出ているわ」
「ええぇ~~」
「ちょっと! 人を呼んどいて、どういう事よ!」
レイの説明を聞いたうさぎが驚き、休日を指定してわざわざ呼び出した本人が不在であると聞いて怒りの声を上げる美奈子――実は市から衛経由でセーラーチームに連絡が有り、美春たち
「市が迎えに行ったのは、事件解決に必要な人物だという話だよ」
「ま、彼自身が胡散臭いから怒る気持ちは分かるけどね」
「あら、いくら本当の事とは言え失礼よ、はるか」
そう言いながら鳥居を括って来たのは緑のジャケットと黒いシャツとパンツを着た地場衛であり、その後ろからデニム生地のパンツルックにベストとシャツというラフな姿の天王はるかとマリンブルーのブラウスとフレアスカート姿の海王みちるが揃って毒を吐き、胸元に赤いリボンが付いた紫のスーツをきた冥王せつなは苦笑しながら後に続いて境内に入ってくる。
「相変わらず辛辣ね、はるかさんにみちるさん」
苦笑を浮かべる亜美……はるか達三人は、異なる世界からの転生者などと世迷言を言って煙に巻こうとする市にあまり良い感情を持っていなく、彼の話題になると決まって口調がキツくなるのだ。
「それで衛さん、事件解決に必要って?」
「市の知り合いの情報屋で、
「情報屋? 信頼出来るのかな」
「市の話では凄腕らしい」
「……凄腕ね」
美奈子の問いにそう答える衛だったが、まことやはるかは懐疑的な様だ……どうやら市の信用は暴落しているらしい。そんな微妙な空気が漂う中、玉垣の方からワイワイと賑やかな声が聞こえてくる。
「あのザコへびさんに女の子の知り合いが、しかも中学生だなんて犯罪の香りがチラホラと?」
「あのな沙織、オメェは俺をなんだと思ってるんだ」
「ザコいへび」
「……ぶっ飛ばすぞテメェ」
見慣れた悪人顔が絡んでいるのが、迎えに行ったという知人なのだろう。鳥居を潜る市の後に続いて、うさぎ達よりも少し年上だろう少女も鳥居を潜る――ナチュラルなメイクが施された小顔にツヤのある黒髪を肩まで伸ばし、赤いオフショルトップスと白いワイドパンツに合わせたパンプスを履いた少女は、面白そうにニヤニヤとした表情を浮かべてうさぎ達に視線を向けると挨拶をした。
「はろ~。可愛い子がいっぱいだ~、お姉さん嬉しいよ」
妙にフレンドリーな気の抜けた挨拶をする沙織に市が「襲うなよ」とツッコミを入れれば、「ザコへびさんじゃないんだから」と返す――そんな気安い関係を見てうさぎ達は目を丸くする……今まで市は、衛とは先輩後輩の関係もあり気安さを見せていたが、うさぎ達には一歩引いた姿勢か皮肉げな笑みを浮かべると言うスタンスを取っていたのだ。
戸惑いながらも挨拶を返すうさぎ達だったが、沙織が頻りに口にする『ザコへび』と言う言葉に興味が湧いたのか、その事を話題にする美奈子やレイ。
「あの悪人顔を見て思ったのよねぇ、物語の最初であっけなくヤラれて『ひでぶ!』とか言ってそう」
「わかる、わかる」
「あのビジュアルはどう見ても悪役よね」
朗らかに笑いながら酷い事を平然と話す沙織に、笑顔で頷きながら同意する美奈子やレイ……楽しそうに話す三人の様子に興味を惹かれた他の少女達も話に加わっていく……同じ“共通認識”を持つ故に直ぐ打ち解けたようである。
「無茶苦茶言われているぞ」
「……腕だけは良いんだよ。腕だけは」
苦笑を浮かべる衛に市は渋面を浮かべたまま答えた。
色々と紆余曲折があったが、流石に何時までも遊んでいては話が始まらないと。問題の
「さて、ザコへびさんからの依頼――鎧を纏った者達の動きの調査だけど、結論から言えばそれらしき動きは確認できなかったわ」
沙織の報告に落胆するうさぎ達。そんな姿を黙って見ていた市は『相変わらず性格が悪いな』と苦笑いを浮かべる。
「けどね、依頼時にあった冥界への入口があると伝承されている場所を特に調査してくれと言われていたので調査した結果、島根県に大勢のアジア系の外国人が潜伏している事が分かったわ」
「アジア系の外国人?」
「観光じゃないの?」
「青森の恐山や佐渡の賽の河原にも外国人の観光客は居るけど、島根県の松江には普通じゃない職業の外国人がかなり居る事が分かったわ……恐らく密入国ね」
「「「「「密入国!?」」」」」
沙織の説明を聞きながら疑問の声を上げるまことと、ボケをかます美奈子。だが説明が進むと、きな臭い犯罪の話が出て驚きの声を上げる一同。
過去からの因縁や未来からの反逆者そして宇宙からの侵略者と激しい戦いを繰り広げてきたセーラーチームだが、生々しい犯罪の話が出てきた事への戸惑いを浮かべる……そんな中、レイが何かを考え込んでいる事に気付いたうさぎが声をかける。
「どうしたのレイちゃん?」
「……まさか。本当にあの観光スポットが、黄泉比良坂への入口だというの!?」
「観光スポット?」
話の飛躍について行けないうさぎが素っ頓狂な声を出す。流石にそれでは理解出来ないと思ったレイは説明を始めた。
「島根県の山中にあるしめ縄のされた石柱と巨石が、黄泉比良坂への入口だという伝承があるの」
「島根県には古く出雲の国と呼ばれていた頃からの伝承や、銅鐸や銅剣が出土するなど古代文明が栄えていたらしいわ」
「ふ~ん」
「って、うさぎちゃん。この前歴史の授業でやってたじゃないか」
補足する亜美に軽い相槌を打つうさぎに、授業内容を覚えていない事にツッコミを入れるまこと。そのまま女子中学生の謎パワーでワイワイ騒いでいるうさぎ達……その間、沙織はと言うと喋らず普通の猫のフリをしているルナとアルテミスを構い倒していた。
「はいはい、何時までもじゃれていないの」
パンパンと手を叩いて軌道修正を促すみちる。
静まった所で視線を沙織に向ける……続きを話せと言う事だろう。
「周囲にある廃屋などに不法滞在して何かを探しているようだけど、つい先日から北欧系の男達も合流したようよ」
そう言って狭霧は数枚の写真をテーブルの上に置く――長距離から望遠を使って撮影された物のようで画像は荒いが、長身の男達がホテルから出てくる様子が写されている。その中でも一際身長の高い男からは写真からでも分かるほど別格な存在感を醸し出していた。
「――間違いない。この男はあの時の闘士だ」
「……確かラダマンティス」
「……ラダマンティス。ギリシャ神話に登場する冥府の審判者の一人と言われている伝説上の人物と同じ名前を持つ人」
「伝説の人物にあやかってるのかな?」
写真を見ていた護が唸るような声を出し、レイのつぶやきに亜美が持ち前の博学を披露してまことが推測する……流れるような会話に仲が良い事でと感心している市は、そろそろ話を戻そうと考える。
「さて、古代の伝承が多い場所に大量のアジア系や北欧系の外国人が入り込み、その中にはラダマンティスらしき男も確認された――ラダマンティスを、いや
ラダマンティスの、いや
「ラダマンティスの言った言葉――『ハーデスの元へと馳せ参じる』。額面通りに受け取れば、此処とは別の世界の冥界にいる自分達の神の下へと向かうと取れる」
「……別の世界?」
話を聞いていた沙織が疑問の声を上げるが、後で話すと言って沙織を黙らせて市は改めてラダマンティス達冥闘士の目的を推察する。
「黄泉比良坂。冥界への入口と言われる、この世とあの世の境界であり、冥界の最奥部には嘆きの壁と呼ばれる堅牢な壁と、その向こうに広がる超次元の先には、ハーデスの居る楽園『エリシオン』が存在していると言われている」
市に流れ込んできた知識によれば、地上へと侵攻してきた冥王ハーデスと、108の魔星
「この世とは異なる世界である冥界、その冥界とも違う超次元――恐らく数多の世界と隣接しているだろうそれは、この世界もしくは黄泉比良坂の先にある死者の世界とも隣接しているのかもしれない」
だが超次元は常人を寄せ付けない次元流が渦巻いており、そこは神の加護を受けた者しか突破はできない。それは冥界三巨頭であったラダマンティスも知っている事だろう。
「常人を寄せ付けない超次元を突破する“何か”を用意している可能性があるが問題はそこじゃない、
「……冥府の風が流れ込むとどうなる?」
「負の感情に塗れた冥府の風が流れ込めば、現世は確実に影響を受ける――世界は鬱屈した空気に飲まれ、些細な事で生き物は争うようになるだろうよ」
問い掛ける衛に淡々とした口調で答える。
「……それって」
「正に地獄絵図って事だ」
青い顔をしたうさぎに、市はシニカルな笑みを浮かべて答えた。
「奴らをこのままにしておけば、間違いなくロクな事にならない。とは言え、俺達だけでは戦力不足なのも事実――だから力を貸してくれないか?」
改めて問われて押し黙るうさぎ達――ラダマンティス、あの怜悧な目を思い出すと今でも身体に震えが走る。あの人を人とも思っていない傲慢不遜な態度を見れば、目的の為にならばどんな犠牲が出ても一顧だにしないだろう。
ならばセーラー戦士として放ってはおけない――そしてなにより美春の事が気になる。普通の女の子だった彼女が
「分かったわ、市さん。私も――」
「うさぎちゃん、学校はどうするの」
「あう!?」
決意を胸に返答しようとしたうさぎに、亜美の鋭いツッコミが入る。出鼻をくじかれた形になったうさぎが、あうあうと言葉にならない声を上げるが、レイやまことや美奈子に諭されている。それでもうさぎは食い下がっており、四人は困った顔をしている……その表情を見るに心情的にはうさぎと同じく美春の事が気にかかるのだろう。後はうさぎの頑張り次第だが、協力は取り付けられるだろうと市は考える。
それからもうさぎ達は議論を続けていたが結論は出ず、後日改めて返事を聞くと伝えた市達は、別に用事があると告げて火川神社を後にしようとしており、その後ろには天王はるかと海王みちると地場衛の三人が見送りとして鳥居の近くまで来ていた。
「……まったく、とんでもない話を持って来てくれた物だな」
鳥居を潜って神社を出ようとしていた市と沙織に、はるかは呆れたような冷めた視線を向けており、見るとみちるは困ったかのように小首を傾げて衛は眉間にシワを寄せている……何か言いたい事が有るようだ。
「黄泉比良坂と現世が繋がって黄泉の風が流れ込めば、世の中に殺伐とした空気が蔓延する……警察が大忙しになりそうね」
みちるが頬に手をやり、如何にも困ったような表情を浮かべながら皮肉ってくる。そう言われても困るというのが市の本音だ……まさかラダマンティス達
「それでも何とかしなければ、現世は地獄になる」
この世に生を受けて16年と少し、それなりの愛着というものもある。
「おおっ、ザコへびさんがシリアスだ」
「……沙織、お前も強制参加だからな」
「ええっ!?」
シリアスな雰囲気をワザと壊すようなセリフを入れる沙織に、冷たい視線を向ける市。軽口を叩きながらも鳥居の外へ向かっている所を見ると、混ぜ返すと言うよりも早く切り上げろと言う事なのだろう。
へいへい、と嘆息しながら踵を返した市だったが、何かを思いついたのか途中で足を止めると、難しい顔をして沈黙している衛に向けてにやっと笑う。
「ま、コッチも対策の一つや二つはあるからさ、あまり気を追わないでくれよ」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
強大な敵に対応する為に、市と沙織は人里離れた山中にある古びた山寺を目指す。
とはいえ、現在書いている途中なので、とりあえず今回の連続投稿はここまで。
また溜まったら投稿します。ではでは~。