美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

2 / 16
 見知らぬ土地で、正体不明の人物と相対した美少女戦士セーラームーンは、圧倒的な実力を持つ相手の前に倒れ伏した。
 弱弱しい呼吸を繰り返しているセーラームーンへと近付いていく長身の男性……限りなく冷たい光を青い瞳に宿した男性は、右手を上げる。

「……苦しいか? いま楽にしてやろう」

 右手を伸ばして手刀を形作ると、弱弱しい呼吸を繰り返しているセーラームーンの首筋目がけて一気に振り下ろす――が、それは透明な“何か”に阻まれた……甲高い音を立ててはじき返された手刀を解いた長身の男性は、小娘を守る不可視の障壁を観察する。

 そして、いつの間にかセーラームーンを守るように立つ半透明な女性に向けて問いかけた。

「……冥府から迷い出た亡者が、何を血迷って小娘を守る?」
『……この子を害させはしないわ』



前章 後編

 長身の男性の片眉がぴくりと上がる……半ば本能だけで動く亡者と違い、この女の亡者は知性を持っているようだ……それは“この場所”が、彼が探し求めていた場所へと繋がる証拠であった……内から湧き上がる歓喜の感情をおくびにも出さずに、長身の男性は邪魔だてする亡者に向けて鋭い視線を向けた。

 

「亡者ごときが小癪な、消えろ」

 

 自らが有するエナジーを込めた拳を繰り出して半透明な女性の霊を消し去ろうとするが、半透明な女性の霊に届く前に何かに阻まれた。

 

「むっ? 障壁か、生意気な」

 

 己が拳を防がれた事が癪に障ったのか、むっとした表情を浮かべた長身の男性は、今度こそ確実に目の前の女性の霊を消し去るべくエナジーを込めた拳を何度も繰り出すが、その全てが防がれた事で鋭い視線を半透明な女性の霊に向ける。

 

「……俺の拳をここまで防ぐとは貴様ただの亡霊ではないな、何者だ?」

 

 鋭い視線を向けた長身の男性は、拳を構えたまま足を少し開いて初めて戦闘態勢を取る……だが半透明の女性の霊は、男性の問い掛けに反応を見せず彼女は両手を組んで祈るような姿勢を取る。

 

『――『銀水晶』よ、私の願いを聞き届けたまえ……私は、娘が死ぬ所など“二度も”見たくはない』

 

 半透明な女性の祈りに答えるかのように、彼女に守られているセーラームーンの胸元に小さな光が灯ると、それはどんどん大きくなって無数の花弁を持つ光輝く水晶の花が出現した。

 

「――なんだ、それは!?」

 

 ここに来て長身の男性が初めて驚愕の表情を浮かべた――亡霊は良い、それはこの場所が彼の探し求めてきた場所へと繋がりがある証拠とも言えるのだから……だが今、後ろに庇われている小娘の身体から出現したものはなんだ? “アレ”が出現してから、この場所が神聖な力に満たされた、正に聖域(sanctuary)と呼ぶべきものへと変質したのだ。

 

 ――しかも変化はそれだけではなかった。

 

 小娘の胸の上に出現した輝く宝石から強烈な光が放たれ、それが収まった時、今までこの場に存在しなかった第三者の姿が現れたのだ――この場には自分と、結界を物ともせずにこの場に現れた小娘の二人しかいなかったのに、光と共に現れたのは目の前で倒れている小娘よりもさらに幼い少女のようだ。

 

 だが、新たに現れた小娘は、身体にフットした白い服を纏っているが、その所々だけでなく栗色の髪も血に汚れて呼吸も浅く、今にも息絶えそうな有様だ……そしていつの間にか女の亡者の姿も消えていた。

 

「……何のつもりかは知らんが、こんな死にぞこないを呼び出す為に力を使い果たしたか……だが、こんな死にぞこないが、何の足しになると言うんだ!」

 

 自分から瀕死の小娘を守る為に力を使い果たして、呼んだ結果がまた死にぞこないの小娘だとは……気分を害した長身の男性は怒りのままにこれまでで最大のエナジーを込めた拳を新たに現れた少女に向けて撃ち出した。

 

「……『SHIELD(障壁)』」

「――なにっ!?」

 

 血堪りに倒れ伏す少女が一言呟くと、これまでで最大のエナジーを込めた拳を半透明な何かが阻んだ……そして地に倒れ伏していた少女は片手に力を込めてゆっくりと顔を上げる――その真紅の瞳で、己が拳を防がれた事で一気に警戒感を上げた長身の男性を睨み付ける……本来ならば、幼いながらも整った美麗な顔立ちをしているのだろうが、頭部にも傷を負っているのだろう流れる血にまみれて凄絶な凄みを持っていた。

 

 光に包まれたかと思えば、見知らぬ場所に飛ばされて、見知らぬ男から敵意のこもった拳の洗礼を受けた……何者かは知らないが、傷つき倒れ伏しているとはいえ、この『IMPERIAL・GHOST(帝国の亡霊)』に敵意を向けたのだ、その報いを受けさせるべきだろう。

 

「――『光球暴風舞(スターダスト・ハリケーン)』」

 

 痛みの走る反対側の腕を上げて長身の男に狙いを定めると、崩壊寸前の“領域”からエネルギーを汲み出して無数の光弾を放つ――それは様々な軌道を飛びながら長身の男性に向けて殺到し、長身の男は迫る無数の光弾を弾き返すが、如何せんその数が尋常ではなかった。

 

「――このっ!?」

 

 無数の光弾の嵐を処理するのに手間取りはしたが、高度なテクニックを屈指して光弾を弾いて致命的な攻撃を受ける事はなかった……だが、光弾を処理するのに気を取られて、わずかにだが男の注意が少女から外れ――それを敏感に感じ取った少女は狙いを定めると、腕に備え付けられている蒼い結晶体を射出する。

 

『――『重力弾(グラビティ・ブレット)』!』

 

 腕に備え付けられていた蒼い結晶体が射出されて、凄まじいスピードで長身の男へと迫る――それに気づいた男は、持ち前の反射神経で迫る蒼い結晶を撃ち落とそうとするが、繰り出した拳の全てが弾き飛ばされて、迫る蒼い結晶を両手で受け止めるが、勢いを殺せずにそのまま吹き飛ばされていく。

 

「――なっ、なんだとぉおおお!?」

 

 切り札ともいえる蒼い結晶体――重力結晶を用いた攻撃で、むかつく顔をした男を返り討ちにした血まみれの少女 クリス・エムは、そのまま仰向けに倒れ込むと大きく息を吐く。

 

 己が半身ともいえるリバィバル級戦艦『アルテミス』の中枢指令室に姿を現した、ミスティと呼ばれた『十二羅将』と、彼女が傅く『聖王女』とかいう これまたすまし顔のむかつく女に良いようにされて殺されかけた時、中枢司令部に“何か”が現れて気が付けばどこかの惑星上に転移させられていた。

 

 体内に存在する修復システムが損傷した肉体の修復を始めているが、受けたダメージが酷すぎて完治するには今しばらくの時間が必要になるだろう。

 

 ……さて、問題は自分をこんな場所に転移させた見も知らぬ存在の意図だろう……恐らくは高位存在か、それに準ずる存在の仕業だろうが、『十二羅将』や『聖王女』とかいうむかつく奴らに情けなくも敗北した自分に一体どんな利用価値があると言うのか?

 

 ……生命の枠から昇華した存在の思惑など、考えた所でわかる筈もないのだから、今は肉体の修復に専念して何があっても良いように備える事が先決だろう……これからの事を考えながら、息を吸い込むだけでも痛みが走る身体で何とか息を吸い込むと、大きく吐き出しながら、修復システムによってようやく少しは動けるようになった時、クリスは小さなうめき声のようなモノに気付いた。

 

「……?」

 

 少し離れた場所に誰かが倒れているようだ……地面に仰向けに横たわっているのは、自分と同世代か少し年上の女性のようだが、体中に傷を負って弱弱しい呼吸を繰り返していた……突然攻撃してきた先ほどの男とでも戦って敗北したのだろうか? まぁ、見も知らぬ相手の生き死になど それほど関心がないし、こちらも修復を行っているとはいえ、完治するまでにはかなりの時間を必要としている身分だ。

 

 未だ痛む身体を無理矢理立たせて、何処かで休める場所を探すべく歩き出そうとしたクリスの耳に、弱弱しいながらも仰向けに倒れている女性のか細い声が聞こえてくる。

 

「……痛いよぉ……パパ…ママ……助けて……進悟…死にたくないよ……」

 

 弱弱しい呼吸と共に助けを求めているようだが、彼女の呼吸は段々浅くなり、このままでは遠からず絶命するだろう……彼女の声を聞いたクリスは歩みを止めると、振り返って仰向けに倒れている女性の傍まで来ると、彼女の傍で膝を付いて その顔を見詰める……そっかぁ、アンタも死にたくないんだね。

 

「…… 一緒だね、私と」

 

 そう呟いたクリスは、彼女――セーラームーンの胸にそっと手を置いて、未だ本調子ではない“領域”からエネルギーを汲み上げる……『十二羅将』との戦いで無茶をした反動で未だに痛みを伴うが、無視してエネルギーを汲み出して、最近ようやく解析が完了した ある『魔法式』を起動する。

 

「――はぁああああ!」

 

 気合の声と共に、周囲に眩しい光があふれ出した。

 

 


 

 

 どれだけの時間、気絶していたのだろうか? 長身の男性から攻撃されて吹き飛ばされたセーラームーンが目を覚ました時、長身の男性の姿は無く、地面から身を起こしてベタベタと身体を触って怪我の有無を確認していく……おかしい、長身の男性の攻撃を受けた時はものすごく痛かったのに、こうして確認してみるとコスチュームの所々が裂けてはいるが、身体には何の傷もない。

 

「……なんで?」

 

 疑問に首を捻っていると遠くから自分を呼ぶ声が聞こえて声の方向に顔を向けると、パートナーである黒猫のルナが此方に向けて歩いていた。「……痛たったた、腰打ったみたい…」とボヤキながら、ひょっこりひょっこりと歩いている所を見ると、長身の男性からの攻撃に巻き込まれてどこかを打ったのだろう。

 

「……痛たったた、うさぎちゃんは大丈夫? ケガしてない?」

「……うん。不思議と無傷みたい」

 

 月の光に照らされた山中で、一人と一匹は首を捻る。

 

「「……結局、何だったんだろうあの人は?」」

 

 


 

 

 セーラームーンが謎の男と戦っていた頃、F県より離れた別の場所では、うす暗い山中を歩く軽装の男女が草木をかき分けながら歩いていた。この文明の発達した現代において、そこは人工の明かり一つ無い暗闇の支配する平原であった。人里離れた山間であり地方の県境である事も相まって、深夜のこの時間に人の姿がある事など皆無の場所の筈であったのだが。

 

「……あ~、だりぃ。何で、こんな辺鄙な所に来なきゃならねぇのかね……本当に“ココ”なんだろうな、沙織?」

「……もう、疑り深いなぁ『ザコへび』さんは」

「……誰がザコだ! 『うみへび』だってんだろうが!? 『う・み・へ・び』! で、問題の洋館には後どのくらいだ?」

「ん~、もうすぐ見えてくるはずなんだけどなぁ」

 

 暗闇の中に明かりすら灯さずに生い茂る草木に身を隠しながらも小声で言い合っているのは、細身ながらも鍛え上げた肉体を持つまだ若い男性と、彼が疑いの眼差しを向けている艶のある髪を肩まで伸ばした整った顔立ちをした少女であった。

 

 話の内容はともかく、若い男女がこんな人気のない暗闇に居れば邪推してしまうが、当の男性が髪を短く切り揃えて、視線も鋭く強面の顔をしている事で、とてもまっとうな人間とは思えず……どうみても少女に良からぬ事をしようとする輩にしか見えない。

 

「……そう言いながら、もう5時間経ったよな?」

「……ほんっとうーに、『ザコへび』さんは細かい事をウジウジと、顔が地味だと性格まで悪くなるのかしら?」

「……おめぇのような、外見詐欺に言われたくねぇ」

 

 軽口を言い合いながら茂った草木をかき分けながら進んでいた二人の足が止まる……今彼らの目の前にあるのは、こんな山奥には不釣り合いなほどの立派な洋館であった。少女――沙織の話では、この洋館は太平洋戦争後の混迷の時代に富を築いた男性が住んでいたらしい……だが、その男性はそうとうに難しい性格をしていたらしく、晩年にはこんな辺鄙な山奥に居を構えただけでなく、人との関り合いを断って最低限の使用人だけでこんな辺鄙な所で暮らしていたという話だ。

 

「……で、そんな偏屈な爺さんが、どうしたって言うんだ?」

 

 そんな男性も数年前にこの世を去って、それから男を看取った使用人たちも居なくなり、立派な洋館も今では廃墟と化していた……そして、最近になって廃墟と化した洋館の噂が流れて、暇を持て余した者たちが、わざわざこんな辺鄙な所まで肝試しと称して不法侵入などという迷惑行為が、近隣の町で流行っているらしい、と言うのが沙織の話だった。

 

「そんな暇人たちが帰ってこない、と。自業自得じゃね?」

「……おバカさんたちだけなら、警察にでも任せておけば良かったんだけどね」

 

 ……なんでも、暇人たちの中も一人が、どうやらウチの『組織』のメンバーの身内だったようで、暇人の母親に頼まれて渋々洋館へと赴いた後、連絡が途絶えたらしい。

 

「……なるほど、それで俺たちにお鉢が回ってきた――って、なんでやねん。俺たちゃ慈善事業をしているわけじゃ無いんだぞ」

「……けどね。そのメンバーっていうのが、結構なやり手だったらしくて、普通の人じゃ手に負えないだろうって判断なのよね」

「……やり手……つまり、そういう事か?」

「……そういう事」

 

 沙織の説明を受けた若い男性は、凶相に好戦的な笑みを浮かべた――彼の名は土浦 市(つちうら いち)、この物語のもう一人の主人公である。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。
 クリスマスプレゼント替わりに投稿しました、翡翠ちゃんシリーズ第三弾『美少女戦士セーラームーン外伝 星たちの輪舞」が始まりました。
 
 とはいえ、相変わらず小説を書く時間が殆ど取れていませんので、今回は出来ている所 第14話までの連続投稿になりますので、お付き合いくださいませ。

 では次回 第一話 チンピラ十番街に来るでお会いしましょう
 ではでは~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。