美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

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第三話 美しき戦士

 

 その日は美少女戦士として戦ってきたセーラーヴィーナスにとって最悪の日であった。いつものように相棒とパトロールをしていた時に邪悪な気配を感じた彼女は、セーラーヴィーナスに変身すると邪悪な気配の元へと急行する――そこで見たモノは、銀行の壁に大穴が空いている光景だった。

 

 犯罪の匂いを嗅ぎとったセーラーヴィーナスは、警戒しながら大穴を乗り越えて人気のない銀行内に突入して奥を目指す――そこには巨大な金属製の金庫の扉を手刀で切り裂いている全身黒ずくめの男がいた。

 

「何をしているの!?」

 

 その声に男はゆっくりと振り返る――全身を黒光りする金属の鎧を着込んで刺々しい装飾を施しているその姿は、今まで彼女が戦ってきた相手とは一線を画していた。

 

「何だ? サツかと思ったら露出狂のガキかよ」

「なっ!? 誰が露出狂よ! 誰が!!」

 

 失礼な物言いに激昂しながらも、彼女は華麗にポーズを決める。

 

「――愛と正義のセーラー服美少女戦士セーラーウィーナス参上!! 見るからに怪しい格好をした泥棒め! 大人しく縛につけ!!」

「はっ、生意気なガキめ。お前相手では物足りないが、相手をしてやろう!」

 

 双方にらみ合っていたが、次の瞬間には大きく距離を取ってセーラーヴィーナスは蹴りを、男は拳を繰り出す――セーラーヴィーナスの蹴りは男の拳を弾くが、その硬さに柳眉を歪める。接近戦は不利と感じたのか、セーラーヴィーナスは外へ出ると、追ってきた男相手に高さを生かした立体的な機動から攻撃を加えた。

 

「くっ、何て硬さ」

「そんな軽い攻撃が通用するか」

 

 様々な角度から攻撃を加えるが、男の纏う鎧に傷一つ付ける事が出来ない。セーラーヴィーナスは、手を伸ばして指先を巨漢の男へと向ける。

 

「クレッセント・ビーム!」

 

 必殺の一撃を放つが、それすらも鎧に虚しく弾かれる。

 

「何てインチキ! 反則よ!?」

「ははは、貴様が弱すぎるんだよ」

 

 歯噛みするセーラーヴィーナスに向けて獰猛な笑みを浮かべた男は拳を繰り出して仕留めようとするが、それを辛くも避けた彼女の背後の壁が爆発したかのように粉砕される。

 

 次第に戦いはセーラーヴィーナスの防戦一方の様相へと移行し、手を変え、品を変え、フェイントを盛り込み、角度を変えて、反撃を加えるが男の防御を抜くことは出来ずにジリジリと後退を余儀なくされ――とうとう解体中のビルの中へと追い込まれてしまった。

 

 ビルの一室へと追い込まれたセーラーヴィーナスは、解体作業で脆くなった壁を粉砕して周囲に塵を充満させると、『クレッセント・ビーム』で点火して男を巻き込みながら粉塵爆発を起こすが大したダメージを与える事は出来なかった。

 

 攻撃が全く効かない相手と長時間戦うというストレスから疲労が蓄積していたセーラーヴィーナスは、足元の小さな瓦礫に躓くという小さなミスを犯してしまい、その隙を逃さない男の大きな手が彼女の細い首を掴んで柔肌に指がめり込んでいく。

 

「ふはは、やっと捕まえたぜ」

「うぁあ、ああ……は、放せ」

 

 腕一本で少女のか細い身体を釣り上げてじわじわと締め付けていく……男の顔に愉悦の笑みが浮かび、少女の細い首を太い指に力が入る度に苦悶の声が漏れる――そんな時だった。その場に第三の声が響いた。

 

「その手を離しな」

「ん? 誰だテメェは――うをっ!?」

 

 突然現れた第三者は、くだらない問答をするつもりはないらしく目に留まらないほどのスピードのパンチを繰り出した。その拳を慌てて避けた男は、その拍子に掴んでいたセーラーヴィーナスを放り投げる形になり、放された彼女はゲホゲホと咳き込んでいる。

 

「いきなり何しやがる! 何なんだテメェは!?」

 

 いきり立つ男は突然現れた第三者の男を睨みつける――自分が纏う鎧に似たアメジストのような輝きを持つ鎧を身に付け、その表情を白い仮面で隠した謎の男の出現に警戒していた。

 

「知らないのか?」

「何?」

「――この世に邪悪が蔓延る時、必ず現れるという希望の聖闘士(セイント)を」

聖闘士(セイント)? 何だそれは!?」

 

 冥衣もどきを着た男と直接対峙した市は、仮面の下で小さく笑みを浮かべていた――コイツは聖闘士(セイント)を知らない。あの神話を知らない! ならばコイツは冥闘士(スペクター)ではない――つまりは冥王『ハーデス』の加護である不死は無い! ――それならば、この三下にはとっとと冥衣(サープリス)もどきの入手経路を喋ってもらおうじゃないか。

 

 何者かによって詰め込まれた知識と共にもたらされたクロノストーンに内蔵されていた『海へび座』の『聖衣(クロス)』を展開して装着した市は、改めて冥衣(サープリス)もどきを纏う大男と対峙する――これはオリジナルであるアテナの聖闘士(セイント)の一人、青銅聖闘士 海へび座ヒドラの聖衣(クロス)のコピーである。

 

 だが単なるコピーでは物足りない――聖衣(クロス)には青銅(ブロンズ)の上に白銀(シルバー)黄金(ゴールド)聖衣(クロス)があるのだ! とはいえ紛い物である自分に白銀(シルバー)黄金(ゴールド)聖衣(クロス)を纏えるとは思えない。

 だが、そこであきらめるのは癪に障る――『クロストーン』に内包されていたのが海へび座の青銅聖衣(ブロンズ・クロス)だと分かった時、彼は心に決めた――ヒドラといえば早い話がヘビ。ならば脱皮で強くなっても問題ないはずだ。(キリッ!)修練を積み、己が小宇宙(コスモ)を限界以上に高めれば、きっと手が届くはずだと。

 

「俺は海へび座ヒドラの聖闘士(セイント)――その鎧について喋ってもらうぜ!」

 

 喋りながら一気に距離を詰めた市は、スピードに反応できずにガラ空きとなっている腹部を撫でるように軽く小突く――冥衣(サープリス)もどきには傷はつかないが、弱々しい小宇宙(コスモ)しか纏えない男はその衝撃だけで大げさに吹っ飛んで資材の置かれた小山に激突して瓦礫に埋もれる。

 

「おいおい、挨拶でこれかよ」

「……く、くそ。何てスピードだ」

「何を言ってる――アンタがスローすぎるだけだぜ?」

 

 今の一撃が効いたのか、ヨロヨロとガレキから起き上がる男だったが足腰はおぼつかないようである。ならばと追撃をかけようとした市に、呼吸を整えて立ち上がった少女――セーラーヴィーナスが待ったを掛ける。

 

「――うん?」

「あの男と戦っていたのは私よ。助けてもらってなんだけど、手出ししないで頂戴」

 

 あれだけダメージを受けながら未だに闘志を失っていない少女の姿に、仮面の下の眉が上がる――中々負けず嫌いな所だあるようだ。まぁそうでもなければ、年端もいかない少女の癖にこんな格好で大男相手に大立ち回りを演じられないよなぁ……どこぞのお札を投げ付けてくる巫女さんを思い出すが、中々見所があるじゃねぇか。市は大いに感心したかのように頷く……伊達に痴女寸前の格好で戦うだけはある。だが、市にも譲れない理由があるのだ。

 

「悪いが聞けない話だ――コチラにも理由があるんでね」

 

 仮面越しに少女に告げた後、市はヨロヨロと立ち上がるだけで精一杯の男に向けて拳に内蔵された牙を向ける。

 

「ヒドラの毒牙を受けるが良い――『メロウポイズン』!」

 

 ショック死されたら元も子もないので極力スピードを抑えた拳が大男の冥衣を貫き、衝撃で再び男は再び瓦礫に埋没する。それを見た市はゆっくりとした足取りで埋もれている大男に近付いて行き、瓦礫の中に手を突っ込んでうめき声を上げる大男を片手で引きずり出す……丁度先ほどの少女と大男の配役が入れ替わった構図に仮面の下で小さく嘆息すると極力優しい声を掛ける。

 

「どうだね、ヒドラ特性の毒の味は? 神話によればヒドラの猛毒を受ければ必ず死ぬという――そろそろ四肢が痺れて感覚がなくなってきた頃じゃないかね?」

「……うっ…は、放せ」

「ヒドラの毒を受けた者は激痛に喘ぐと言う、苦痛から逃れようと自ら命を断つくらいにな。だが俺も鬼じゃない――いま撃ち込んだ毒はそこまでの苦痛はないが、身体の末端から徐々に熱が消えていき、最後には心臓を止める訳だな」

 

 『クロストーン』に内包されているのが海へび座の青銅聖衣(ブロンズ・クロス)だと分かった時、彼は一時的に山を下りてふもとの町にある図書館へと通って神話の怪物『ヒドラ』について調べたのだ。神話によれば、ヒドラの猛毒は受けた者に激痛をもたらして必ず殺していたという。

 

 それから彼は山奥へと戻り、海へび座の聖衣(クロス)を纏っての実践訓練を行う中で、この海へび座の青銅聖衣(ブロンズ・クロス)には知識の中にある海へび座の聖衣(クロス)には無い機能がある事に気付いた――海へび座ヒドラの聖衣(クロス)は、拳やニーパットに『ヒドラの毒牙』と呼ばれる武器が内蔵されているが、この海へび座ヒドラの聖衣(クロス)の毒には複数の種類があったのだ。

 

 それを知った市は、再びふもとの町へと降りて図書館で毒に付いての専門書を読み漁った……今にしては不思議な事に、難解な専門書なのに すらすらと頭の中に入ってくる。

 

 専門書の中身を頭に叩き込むのに夢中で、子供らしからぬ厳つい顔をした少年が、毒に付いての本を読みながらニタニタしていたら周囲の人間が不振がるのも当然だった。

 

 当然警察に通報された市少年は、国家権力から逃げ回る羽目になったのだ……話が逸れた。

 

 手足の先から感覚が無くなり徐々に冷たさすら感じなくなるという無の感覚に、大男の顔に恐怖の相が現れる……敵を前に身体の自由が効かず、徐々に身体の感覚がなくなるというのは如何程の恐怖か……そんな大男に努めて優しく語りかける。

 

「まあ、解毒剤がある訳だが。俺の質問に答えてくれれば進呈するのも吝かじゃないし、このまま見逃しても良い――どうするね? 時間切れまであまり余裕はないぞ」

「――わ、分かった! なんでも喋るから、解毒剤を!?」

 

 流石に四肢の末端から感覚がなくなるのは初めての感覚なのか、今の彼は身体に触れている地面の感覚すらも分からないだろう――それが恐怖となり、冥闘士(スペクター)もどき故に大した訓練を受けていないだろうという読みは当たったわけだ……後ろの方で『……なんて嘘臭い、ペテン師の手腕だわ』とツッコミを入れているそこの痴女、黙ってなさい。

 

「その鎧はどうやって手に入れた?」

 

 弱々しいとはいえ、まかりなりにも小宇宙(コスモ)を操るなど気になる点はあるが、最大の関心ごとでもある冥衣(サープリス)もどきの入手経路を聞くのを優先させる――冥衣(サープリス)ほどの防御力はないとはいえ、タングステン並みの硬度はあるだろう。そんな戦車の装甲に使われるようなモノで鎧を作るなどどんな酔狂な作者か興味があるし、もしも――冥衣(サープリス)暗黒聖衣(ブラッククロス)に繋がっていたりすれば目も当てられない事態になる可能性がある。

 

「……この鎧は―――」

 

 大男が喋り始めたその時――市とその後ろで所在なさげに立っていたセーラーヴィーナスは、突然周囲の空気が重くのし掛かり背筋が総毛立った――それはねっとりとした空気が己を押しつぶさんばかりに粘り付き、人としての危険を察知して回避するという原初の感情を呼び起こすモノ――殺意に似た“何か”だ。

 

「な、なに。この怖気の走るような気配は!?」

「……この攻撃的な小宇宙(コスモ)は――向こうか!?」

 

 殺意にまみれた攻撃的な小宇宙を感じた市は発生源へと振り返ると、自分達へと向かって来る禍々しい漆黒の炎の塊を見て咄嗟にセーラーヴィーナスを抱えると横に飛び退いた。

 

「――え? な、なに」

 

 状況を理解できないセーラーヴィーナスが呆けた声を出した時、漆黒の炎が轟音と共に飛来して今まで市達が居た場所を焦がしながら通過していく。

 

「な!? ぎ、ぎゃぁぁあ!?」

 

 炎は毒により身体の自由が効かない大男に命中すると、瞬く間に全身を燃やした。瞬時に全身が炎に飲まれた大男は苦痛のあまり絶叫を上げるが、麻痺した身体は動かず大男は生きながら焼かれていく。

 

 市はセーラーヴィーナスを抱えたまま炎の飛来してきた角度から襲撃者の居る方向を予想して、近くのビルの影――死角となる物陰に隠れる……どうやら追撃はないようだ。恐らくだが離れた場所に鎧を与えた者かその仲間が監視していて、簡単に入手経路を喋ろうとした大男を始末したのだろう……そう推察していると、抱え込んだセーラーヴィーナスが腕を叩いて逃れようとしている。

 

「ちょ、何時まで抱えてんの!? 早く放してよ!」

「――ん? ああ、スマン」

 

 一言謝罪の言葉を掛けて市はセーラーヴィナスを開放する。ようやく自由になった彼女は、これみよがしに大きく息をすると市に事情の説明を求める。

 

「さっきのアレ、大きな黒い火の玉のような物が飛んできたけど、何なの?」

「……先程までの戦いは誰かが監視していたようだ。雲行きが怪しくなったんで口封じに及んだ訳だ」

「なっ!? じゃあ、あの人は――」

 

 大男の身を案じて駆け出そうとするセーラーヴィーナスを止める。

 

「もう手遅れだ。行かないほうが良い」

 

 唇を噛み締めて悔しさを顕にするセーラーヴィーナスだったが、仮面を被った聖闘士(セイント)を名乗る男が立ち去る気配を見せたので慌てて止めた。

 

「ま、待って! 貴方は一体? そもそも聖闘士(セイント)って何? あの男が纏っていた鎧と色違いの鎧を着ているし、あの男と何か因縁でも有ったの?」

 

 捲し立てるかのように質問してくるセーラーヴィーナスの姿に、市は仮面の下で苦笑いを浮かべ――聖衣(クロス)を指さしながら、一つ訂正しておかねばならない事を伝える。

 

「因縁などないさ。これは聖衣(クロス)と言って我ら聖闘士の正装であり、あの冥衣(サープリス)もどきと一緒にされては困るな」

 

 そう応えて市は両足に力を込めて跳躍する。置いてけぼりをくらった彼女が何か叫んでいるが、気にせずその場を離れた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……って、もう居ない――見てなさいよ! 必ず捕まえて全部吐かせてやるんだから!!」

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 冥衣(サープリス)を彷彿とさせる鎧に身を包み、お粗末ながらも小宇宙(コスモ)を操る相手と相対した市……

 では次回『第四話 日常生活にちらほらと見える美少女戦士たち(笑』12/28に投稿予定です。
 ではでは~。
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