美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

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第六話 本当の戦い

 

 貴重な休日に都内のデパートで開催されている古代メソポタミア展へと繰り出した男二人組……元麻布高校で女生徒に絶大な人気を誇り、時折浮かべる愁いを帯びた横顔が良いと評判の長身の男性と、報酬に釣られて女生徒に男性を売ろうとした事が露見して、ペナルティとして虫よけに使われている強面のチンピラ風の男……信じられない事に、これで長身の男性よりも年下だというのだ。

 

 古代メソポタミア展にて展示されている出土物を興味深そうにみながらも土浦 市は、目の前を歩く高校の先輩であり恩もあれば良いように扱き使ってくる地場 衛と歩く――どうも今回出土した物の中から装飾品が展示されているブース辺りから、衛は目に見えて意気消沈していた。

 

「先輩、何を急に黄昏てるんです?」

 

 市は同行している地場先輩へと声を掛けるが、メソポタミアの出土物に視線を向けたままの衛から返答はない……一体何があったのやら。お目当ての物が無かったのか、それともこの展示会自体が お気に召さなかったのか? どちらにしろ、彼にとってはこの展示会に来たのは失敗だったのだろう――だが、そんな事に構っていられなくなった。

 

 まもなく市達は、問題の冥衣(サープリス)に良く似たオブジェが展示されている場所へと到達する。数ある出土品の一つだから、それほど視線を集めておらず人だかりは少ないかと思っていたが、見るとオブジェの前に思ったよりの人だかりが集まっていた――特徴的な髪型を持った、ここ最近見慣れた少女達の姿が。言うまでもなく世話になっている神社の孫娘レイとその友達だった。

 

「……おいおい。何をやってんだ、こんな所で?」

 

 思わず声をかけると、それに反応した少女達がそれぞれの反応を見せる。聞くと仲良しグループで展示会の見学に来たらしい……仲の良いことで、もしくは暇なのか? など聞かれたら不機嫌になりそうな事を考えている市だったが、ふと視線の中に衛の姿が映る……相変わらず元気がないと言うか心此処にあらずと言った具合か、恐らく何時も軽口を叩きあっていたのだろうお団子頭の少女も普段と違う地場衛の態度に訝しげに眉を寄せている――だが市にはそんな事に構っている余裕はなかった。問題の冥衣(サープリス)もどきが目の前にあった。

 

 例の大男が纏っていた冥衣(サープリス)もどきと同じく冥界の死の気配は感じなかったが、見れば見るほど地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)と同じ姿をしており、とても無関係とは思えなかった。

 

「……きれい」

 

 妙に艶っぽい呟きが聞こえて市は声の聞こえた方向に視線を向ける――そこには先程まで衛に視線を奪われていたショートボブの可愛らしいローティーンの少女が、パピヨンの冥衣(サープリス)もどきをじっと見ていた……その横顔がどこかで見たような気がする。それが何処だったかと考えていた市は、少女の横顔が二年の天川 美夏(あまかわ みなつ)先輩に似ている事に気付いた。

 

「ねぇ、君は天川 美夏(あまかわ みなつ)って人知っている?」

 

 そう市に問いかけられた少女は、夢見るかのような表情から一変する――最初は声をかけられて反射的に振り向いたが、声をかけた主が強面の目つきの悪い男だった事に怯えをみせていたが、話の内容に理解が及ぶと表情を曇らせて下を向いてしまう。

 

「……姉です」

 

 か細い声でそう答える少女の変わりように戸惑う市。そんな二人のやりとりに気付いたお団子頭の少女が、美春を庇うように身体を割り込ませると市を睨め付ける。

 

「市さん! ダメじゃない、美春ちゃんをいじめちゃ!」

「そうよ市さん。タダでさえ悪人顔なんだから」

「い、いや。イジめていたわけじゃないよ、うさぎちゃん! それと悪人顔はヒデェでぇよ、レイちゃん」

「あ~ら、ごめんなさい。おほほほ」

 

 うさぎには責められ、尻馬に乗ったレイにディスられた市は、とほほとばかりに気落ちする……それから市達は人の流れに乗りながら出口へと向かって行く。途中でいたいけな中学生をいじめていたわけではないと力説する市を、顔が怖いからと一刀のもと両断した五人の荒くれ女子中学生は美春を円の中心に据えると、そそくさと出口へと向かう……妙に後ろ髪を引かれて振り返る美春の意志を無視して。

 

 後に残された市は『所詮顔か』と背中を煤けると、護と共にトボトボと歩いて行く。

 

(……今夜にでも忍び込んでみるか)

 

 歩きながらも市は、展示されていた冥衣(サープリス)もどきを詳細に調べる必要を感じて今夜にでもデパートに忍び込もうと考えていた。

 

 だが、その考えは徒労と終わる――その夜、展示会から蝶を象ったオブジェが忽然と姿を消したからだ。

 

 


 

 

 その日、港区立十番中学二年の天川 美春(あまかわ みはる)は不機嫌であった。

 気まぐれで入った展示会で目にした蝶を象ったオブジェ。その夜を詰め込んで形にしたかのような黒い宝石の如き輝きは、美春の心を捕まえて離さない。その輝きは美春の心に不思議な安定をもたらして何時までも見ていたいと言う気持ちにさせたが、聞きたくもない雑音によりそれは叶わなかった。

 

 また明日も見に行こう――美春がそう心に決めた時、窓の外に小さく光る輝きがある事に気付いた。なんだろう? 小首をかしげながらも美春は座っていた椅子から立ち上がると、窓へと近づく――すると小さな輝きは、窓をすり抜けて部屋の中へと入ってきたのだ。

 

「きゃ!? な、何……輝く、蝶?」

 

 何事かと目を丸くした美春の周りを回る小さな輝きをよく見ると、それは小さな蝶の形をしていた。驚きながらもパタパタと小さい体で一生懸命羽ばたく蝶を見ていた美春はそっと掌を上げると、そこに輝く蝶が止まった。

 

「なに、お前どこから入ってきたの?」

 

 不思議な蝶に話しかける美春だったが、当然返答はない。それでも美春は輝く蝶を見続ける。そこには普段浮かべないような優しい微笑みが浮かんでいた。

 

 それから数十分後、母親から様子を見に行くよう言われた姉の美夏(みなつ)は、タンクトップとショートパンツといったラフな格好で肩を軽く叩きながらも妹の部屋へと歩いて行く……肩口まで伸ばした髪と大きめの瞳が相まって可愛らしいという印象を与え、美春より三つ年上の美夏は今まさに大人へと変貌しようとする寸前といった所だろう。

 幼い頃は姉妹の仲は悪くなかったが、ここ最近は美春の方から壁を作っており、中々コミュニケーションが取りづらいという状況になっている事が悩みであった。美春の部屋の前に到着すると二、三回ノックするが返事がない。寝ているのだろうか? 仕方なく美夏は扉のドアを開ける。

 

「美春? お母さんが早くお風呂に入れって……居ない」

 

 美夏は部屋の中に美春の姿がない事に首をかしげて部屋から出る……それから更に時間が経って、美春が家のどこにも居ない事に気付いた家族が捜索を始めたが、全ては遅かった。

 

 


 

 

 季節は巡り、市がこの火川神社に来てから半年がたった。

 境内の掃除をしながら作無衣姿の市は、これまでの事をため息と共に思い出す――古代メソポタミア展に展示された地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)もどきを調べようとした市は、深夜にデパートに忍び込んだ。だが展示会場にパピヨンの冥衣(サープリス)もどきは無く、それ以降行方不明となってしまったのである。

 

 退魔組織に属する源一郎によれば監視の為の人員は派遣していたが、誰も蝶のオブジェが運び出された所を見ていないという。どれだけの人員が配備されていたのかは分からないが、仮にも退魔師を相手にまったく感知されずに運び出すとは、どれほどの手練か考えただけで頭が痛くなる。

 

 市としてもこのままには出来ないので、手がかりを探して様々な場所で探索したが手がかりとなる物は何もなかった……それでも探索の手を緩めなかったある日、ソイツらは居た。

 

 最初に出会った大男より鋭利で堅く闇の気配を持った鎧を纏い、大きな鎌を携えた冥闘士(スペクター)もどきに。着ている鎧は相変わらず死の気配を感じはしないが、その形は冥闘士(スペクター)の雑兵スケルトンに似ていた。そんな鎧を着込んだ男が数人で人目を忍んで森を疾走しているのに気付いた市は仮面の下の悪人顔を引き締めると、その集団の後を追った。

 

 暗い森の中を恐ろしいスピードで走る男達は、関東から上って東北から青森へと走り抜けて青函トンネルの点検通路を通って北海道へと足を踏み入れる。

 

 一体どこに行く気なのか? 最初に出会った大男とは比べ物にならないほど小宇宙(コスモ)を使いこなしている男達は、函館の傍を通って札幌へと向かうかと思ったが急に方向を変える……いや、あの迷いのなさは此方が正解か。

 

 奴らが向かう先は室蘭か。明治初期より開拓が始まり様々な工場を持つ街ではあるが、奴らは市内ではなく海側に向かうと海岸線を走り、やがて洞窟が見えてきた。岩陰に身を隠しながら様子を伺う市。すると洞窟の前で止まった男達の前に異形のモノが姿を現した。

 

 それは黒い輝きを放つ金属で出来た幼虫であった……ただ、そのサイズが人間と同等となれば、興味よりも嫌悪のほうが先立つだろう。

 

(……おいおい、あれはパピヨンの第二形態じゃねぇか)

 

 額に汗を流しながら驚く市――此処に至って一年前に見失った。地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)の姿を目にする事になるとは思ってもいなかった――あの異様さは敵の強さに応じて卵から幼虫となり成虫へと姿を変える地妖星パピヨン固有の能力のはずだ。

 

「私の呼びかけに応えてくれて有難うございます」

 

 ギチギチと口を動かして話し始めるパピヨンの幼虫、その声は口の構造が違うためか耳障りな金切音が響く。

 

「ですが貴方達は余計なモノまで引き連れてきたようですね」

 

 不穏な言葉に続いて幼虫が鎌首を擡げると、市が隠れている岩影に向けて白い糸のようなモノを吐き出した。危険を感じた市が飛び出すと同時に今まで居た場所に白い糸が命中する。大きく跳躍して糸を回避した市は、海岸に着地すると振り返るスケルトンの冥衣(サープリス)もどきを来た男達と対峙する形となる。

 

「――貴様、いつの間に!?」

「妙な仮面を被って、一般人ではあるまい。何者だ!?」

 

 スケルトンもどきが三人とパピヨンもどきの幼虫が一体。スケルトンもどきは即座に行動して市を包囲する。冥闘士(スペクター)ほどの実力はないにしても、まかりなりにも小宇宙(コスモ)を宿している相手が四人。どれだけの実力があるのか相手の実力は未知数であり、市は油断なく周囲に鋭い視線を向ける。

 

「どこの誰だか知らないが、舐めた真似をしてくれたな」

「コケにしやがって、ぶっ殺してやる」

「まぁ、待て。その前にコイツの背後を吐かせてからだ」

 

 スケルトンもどき達がそれぞれ獲物である大鎌を構えて、ジリジリと市に迫る。左右と後ろを取られ前方には金属の幼虫が陣取るこの状況で、市はにやりと笑ってみせる。

 

「雑兵が吠えるじゃないか――『クロストーン』! やれるものなら、やってみやがれ!」

 

 市は胸元から水晶が付いたペンダントを取り出すと天高く掲げる――すると水晶が激しい光を放って、光の中にアメジストで出来たかのような蛇の形のオブジェが浮かび上がると分離しながら次々と市の身体に装着されていく。

 

「そ、それはまさか!?」

「貴様、聖闘士(セイント)か!?」

「ば、馬鹿な。この世界に聖闘士(セイント)がいるなんて!?」

 

 聖衣(クロス)を纏った市の姿に、スケルトンもどき達は驚きを顕にする。奴らの驚きようから、最初の大男と違って聖闘士(セイント)を知っているようだ――ならば名乗りを上げよう。

 

「地上に邪悪が現れるとき必ず現れるという希望の闘士――うみへび座ヒドラの聖闘士(セイント)聖衣(クロス)装着!」

 

 わざわざポーズを取って決める市。

 

「……聖闘士(セイント)? 何です、それは?」

「え!? パピヨン様、知らないんですか?」

「アレですよ、我らの原型が冥界のゆりかごに揺られていた時に邪魔してきたという罪人の名ですよ」

「我らが冥界へと還る事への障害となりえる存在だから、ここで始末します!」

 

 名乗りを上げた市に強い敵意を向けるスケルトンもどき達は大鎌を構えると一斉に襲いかかって来た――左右から大鎌を振りかぶり両断しようとするが市は紙一重ですり抜ける。

 

「まだまだ!」

「ぐっ!?」

 

 すり抜けた瞬間を狙って三本目の大鎌が襲い掛かる――なんとかソレも回避するが、その切っ先は鋭く回避したはずの市の聖衣(クロス)に傷を残した。

 

「……これは」

 

 市が転生してから様々な事件に巻き込まれたが、聖衣(クロス)に傷が付いたのはこれが初めてであった。幼少の頃より何者かによって知識を流し込まれてから様々な敵と戦ったが、ある時より右手に握りしめていた『クロストーン』内包された聖衣(クロス)もどきは原典であるアテナの聖闘士が纏う聖衣(クロス)に勝るとも劣らない強度と硬度を持って市の身を守ってきた。

 

 だがもどきとは言え、ヒドラの聖衣(クロス)に傷をつけるとは――コイツらは、正規の冥闘士(スペクター)と遜色ない実力を持っている。市の顔に緊張が走る――コイツらと戦うならば全力で戦わなければならない――独自の修練によって開花させた力で戦ってきた市は、今初めて本当の戦いに臨んでいた。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 スケルトンもどきと戦いを繰り広げる市……多数に無勢だったが、なんとかスケルトンもどきを無力化する事に成功するが、そこに地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)もどきを纏った冥闘士(スペクター)が立ち塞がり―ーその顔を見た市は驚愕を露わにする。

 では次回『第七話 地妖星パピヨンの脅威』12/31投稿予定です。
 ではでは~。
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