都内のデパートで開催された古代メソポタミア展にて展示されていた、磨き抜かれて黒く輝くブラックダイヤモンドを材料に、精巧な装飾を施された『漆黒の蝶』を象ったオブジェ――それはこの世界には存在しないはずのモノを象ったモノ――ある世界において神話の時代から存在する、
テレビの報道で偶然その存在を知った土浦 市は、深夜にでもデパートに忍び込んで、『漆黒の蝶』のオブジェを詳細に調べる予定だったが、その前に『漆黒の蝶』のオブジェは展示会場から姿を消し、その危険性を肌で感じ取った市はオブジェが消えてから半年もの間に手がかりを求めて捜索を続けていた。
そしてある夜――遂に彼は『漆黒の蝶』に繋がる手掛かりを見つけた――大都市 東京から離れた山中に深夜に集まる人の影――漆黒の鉱物で作られた簡素な鎧をまとい、
怪しい集団を追って北海道は室蘭にまで来た市は、そこで怪しい集団 冥界の先兵である
三人の
「――くっ!? 『メロウポインズ』!」
手甲に内蔵されたヒドラの牙が
「――ちぃ!?」
何とか回避した市であったが肩のプロテクターに亀裂が入る。
「中々、しぶといな」
「この人数差では逃げる事も出来まい」
「そろそろ諦めたらどうだ?」
三方から包囲されて背後は海というまさに絶体絶命の状況だったが、それでも市はにやりと笑ってみせる。そんな市の様子に訝しげに眉を寄せる
「……な、なんだ?」
「……きゅ、急に気分が」
それぞれ身体の不調を訴える
「は~、やっと効いてきたか。息を止めるのも苦しかったぜ」
あ~潮の香りが、などとボヤきながら市は二三回深呼吸をすると、ゆっくりと男達に近づく。
「テ、テメェ。何をした!?」
「ヒドラの毒には種類が有ってな、牙から垂らした毒液が気化して周囲に広がった訳だ。この毒はダブンに良く似た性質を持っていて即効性が強く、吸引したり皮膚に付着すれば痙攣や呼吸困難に陥るのさ」
神話によれば、ヒドラの毒は少量でも死に至り触れただけでも激痛と共に焼け爛れるという。確かにヒドラの毒は強い……だが、ただ強いだけでは使い勝手が悪い、だがこの海へび座ヒドラの
まぁ、そんな努力のおかげで、知識のある毒ならその場で錬成可能となったのだ。
「……ひ、卑怯な真似を」
「三人がかりで襲ってくる奴に言われる筋合いはないでやんす」
仮面の下での男の非難を鼻で笑う市……その悪人顔も相まって、どちらが悪役か分からなくなってくる。その言葉に怒りを誘発された男が立ち上がって大鎌を振り上げたが、その前に市の技が炸裂する。
「――『ゴージャス・ファング』!」
小宇宙を爆発させた衝撃波を放って相手を吹き飛ばす市。そのまま追撃に移ろうとした時、白い糸のようなものが市の身体を絡めとろうとする。それに気付いた市は無数の糸のようなものを回避するが、糸は意志を持っているかのように避けた市を追尾して来た。
「くっ、この――なっ!?」
「捕まえたぜ!」
糸から逃れる事に集中しすぎて
「中々手間取らせてくれましたね」
いつの間にか近付いてきた、金属で出来た幼虫――地妖星パピヨンが牙の付いた口より白い糸を吐き出し終えると、金切り声で喋る。
「この男の始末は私がします。貴方達は洞窟の探索をお願いします」
「……分かりました」
戦いを横からかっ攫われた形になった
「では準備しましょうか」
北海道は室蘭にある海岸線には人目に付きにくい所に誰も近づかない洞窟があった――アイヌの散文物語という
その洞窟の前には人間と同じ大きさの白い塊が一つ置かれており、それに亀裂が入ると中から手が出てきて亀裂を裂いてボロボロの鎧を纏った男が転がり出てくる――それは
「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った」
白い糸に絡め取られて身動きが取れなくなり、窒息寸前でなんとか脱出する事に成功したが、巧みな連携を見せた
「……奴らはどこに?」
待ち構えているだろう
「問題は奴らの行き先だが……んっ? 何だこれは?」
亀裂はどんどん大きくなっていき、中から漆黒の鎧を纏ったパピヨンの
「……君は、確かうさぎちゃんの友達の――
「誰の事か分からないけど、どこかで会ったかしら?」
思わず問い掛けた市にパピヨンの
「君は美春ちゃんだろ? 天川 美夏先輩の妹の――」
天川 美夏の名前を出した途端、笑っていた美春の様子が一変した――それまでにこやかな表情を浮かべていたのに、一気に無表情となり冷たい雰囲気を纏っていた。
「……貴方が私達の障害になるのなら、地妖星パピヨンの美春がここで排除します」
パピヨンが纏う冷たい雰囲気が圧力となって周囲に伝播していくと、市の周りに光る蝶が幾つも現れる。
周囲を舞う蝶に囲まれた市は、それをあえて無視してパピヨンと対峙する――残っている
「蝶の羽ばたきの中で消えなさい――『フェアリースロンギング』!」
「百蛇圧殺――『ハンドレットグースネィク・スタイフォー』!」
パピヨンの
「うぐぐっぐぐ!?―――うわぁああ!?」
光る蝶の圧力は市の肉体にも襲い掛かり彼の身を守っていたヒドラの
「本来の『フェアリースロンギング』は相手を死界へと誘うもの……貴方はどこに消えたのでしょうね」
只一人地上に建つ地妖星パピヨンの美春は、大きく抉られた大地を一瞥した後に歩き出した。
人気のない海岸で人外同士がぶつかり、大地に大きな傷跡を残していた。既にパピヨンとヒドラが激突して一日以上が立っている――日は暮れて暗闇が支配する海岸線の一角にボロボロと男が流れ着いていた。仰向けに倒れた男の胸は微かに上下しており、それは男が生きている証明となっていた。
男は緩慢な動きであったがズボンのポケットに手を入れると宮司から手渡された小型の通信機を取り出して何処かに通信をつなぐ……程なくして通信はつながった。
『――はい。火野です』
「……レイちゃんか」
『――市さん!? 今まで、何処をほっつき歩いているんですか!』
家庭の通信網に潜り込んだ通信機の先では、現在お世話になっている氷川神社の巫女さんである孫娘であるレイが応対しており、彼女はお怒りのようだがそれに付き合う気力はなかった。
「……すまないが、源一郎さんを呼んでくれないか?」
『――もう、後でお説教ですからね』
どうやら祖父である源一郎を呼んでくれるようだ。
程なくして電話に源一郎が出た。
『おお、市くんか。どうしたね?』
「じいさん、ヘルプ……」
そこまで言うのが限界だったのか市は通信機を持ったまま意識を失い、通信機のスピーカーからは源一郎の声が響いていた。
どうも、しながい小説書きのSOULです。
地妖星パピヨンの
――そして美春は東京の地に姿を現す。
では次回『第八話 蝶の煌き』1/1投稿予定です。
ではでは~。