美少女戦士セーラームーン 異伝 星たちの輪舞   作:soul

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第七話 地妖星パピヨンの脅威

 

 都内のデパートで開催された古代メソポタミア展にて展示されていた、磨き抜かれて黒く輝くブラックダイヤモンドを材料に、精巧な装飾を施された『漆黒の蝶』を象ったオブジェ――それはこの世界には存在しないはずのモノを象ったモノ――ある世界において神話の時代から存在する、冥闘士(スペクター)の一人 地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)を思わせるモノであった。

 

 テレビの報道で偶然その存在を知った土浦 市は、深夜にでもデパートに忍び込んで、『漆黒の蝶』のオブジェを詳細に調べる予定だったが、その前に『漆黒の蝶』のオブジェは展示会場から姿を消し、その危険性を肌で感じ取った市はオブジェが消えてから半年もの間に手がかりを求めて捜索を続けていた。

 

 そしてある夜――遂に彼は『漆黒の蝶』に繋がる手掛かりを見つけた――大都市 東京から離れた山中に深夜に集まる人の影――漆黒の鉱物で作られた簡素な鎧をまとい、大鎌(サイス)で武装した不審な集団。

 

 怪しい集団を追って北海道は室蘭にまで来た市は、そこで怪しい集団 冥界の先兵である雑兵(スケルトン)と、以前見失った『漆黒の蝶』地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)を纏う冥闘士(スペクター)もどきと出会う――問答無用で襲い掛かって来た雑兵(スケルトン)ながらも彼らの実力は、正規の冥闘士(スペクター)と遜色ないもので市は苦戦を強いられる。

 

 三人の雑兵(スケルトン)冥衣(サープリス)を纏った男達のコンビネーションは巧で、男達が振るう大鎌(サイス)が煌めけばヒドラの聖衣(クロス)に亀裂が入った。

 

「――くっ!? 『メロウポインズ』!」

 

 手甲に内蔵されたヒドラの牙が大鎌(サイス)を振り抜いた男に突き刺さろうとする寸前に、死角から別の男の大鎌(サイス)が市の身体を貫こうとする――攻撃を中止して大鎌(サイス)を回避する為に大きく跳躍した市だったが、二人から距離をとった途端に予測していたかのように回り込んでいた男の大鎌(サイス)が市を両断しようと振り吹かれた。

 

「――ちぃ!?」

 

 何とか回避した市であったが肩のプロテクターに亀裂が入る。雑兵(スケルトン)の男達の連続攻撃をなんとか凌いだが、既に市の聖衣(クロス)は様々な傷が付いて満身創痍とも言えた。両手両膝に内蔵されていたヒドラ自慢の牙も数本は折れており、状況は圧倒的に不利であった。

 

「中々、しぶといな」

「この人数差では逃げる事も出来まい」

「そろそろ諦めたらどうだ?」

 

 三方から包囲されて背後は海というまさに絶体絶命の状況だったが、それでも市はにやりと笑ってみせる。そんな市の様子に訝しげに眉を寄せる雑兵(スケルトン)の男達だったが、突然立ちくらみのようなものを感じて片膝を付いたり大鎌(サイス)にもたれ掛かる者もいた。

 

「……な、なんだ?」

「……きゅ、急に気分が」

 

 それぞれ身体の不調を訴える雑兵(スケルトン)の男達を尻目に、市は大きく息を吐いた。

 

「は~、やっと効いてきたか。息を止めるのも苦しかったぜ」

 

 あ~潮の香りが、などとボヤきながら市は二三回深呼吸をすると、ゆっくりと男達に近づく。

 

「テ、テメェ。何をした!?」

「ヒドラの毒には種類が有ってな、牙から垂らした毒液が気化して周囲に広がった訳だ。この毒はダブンに良く似た性質を持っていて即効性が強く、吸引したり皮膚に付着すれば痙攣や呼吸困難に陥るのさ」

 

 神話によれば、ヒドラの毒は少量でも死に至り触れただけでも激痛と共に焼け爛れるという。確かにヒドラの毒は強い……だが、ただ強いだけでは使い勝手が悪い、だがこの海へび座ヒドラの聖衣(クロス)に装備されたヒドラの牙が操る毒には種類があるようで、それに気づいた市は修行中の山からふもとの町へと降りて、町の図書館で毒に付いての専門書を読み漁ったのだ……もっとも、目つきの悪いガキが危ない蔵書を読み漁っている姿は目立ち、警察に追い掛け回されたのは苦い思い出だったが。

 

 まぁ、そんな努力のおかげで、知識のある毒ならその場で錬成可能となったのだ。

 

「……ひ、卑怯な真似を」

「三人がかりで襲ってくる奴に言われる筋合いはないでやんす」

 

 仮面の下での男の非難を鼻で笑う市……その悪人顔も相まって、どちらが悪役か分からなくなってくる。その言葉に怒りを誘発された男が立ち上がって大鎌を振り上げたが、その前に市の技が炸裂する。

 

「――『ゴージャス・ファング』!」

 

 小宇宙を爆発させた衝撃波を放って相手を吹き飛ばす市。そのまま追撃に移ろうとした時、白い糸のようなものが市の身体を絡めとろうとする。それに気付いた市は無数の糸のようなものを回避するが、糸は意志を持っているかのように避けた市を追尾して来た。

 

「くっ、この――なっ!?」

「捕まえたぜ!」

 

 糸から逃れる事に集中しすぎて雑兵(スケルトン)に接近に気付くのが遅れた市は、雑兵(スケルトン)に拘束されてしまう……ここら辺の甘さが、獣や妖魔相手に戦ってきた弊害なのだろう。糸のようなものは勢いをましながら、器用に雑兵(スケルトン)を避けて市を絡めとり、毒の影響から回復した三人の雑兵(スケルトン)大鎌(サイス)を構える中で市は糸に埋もれていく。

 

「中々手間取らせてくれましたね」

 

 いつの間にか近付いてきた、金属で出来た幼虫――地妖星パピヨンが牙の付いた口より白い糸を吐き出し終えると、金切り声で喋る。

 

「この男の始末は私がします。貴方達は洞窟の探索をお願いします」

「……分かりました」

 

 戦いを横からかっ攫われた形になった雑兵(スケルトン)の男達は渋々ながらもパピヨンの言葉に従い洞窟の方へと歩き出す。

 

「では準備しましょうか」

 

 


 

 

 北海道は室蘭にある海岸線には人目に付きにくい所に誰も近づかない洞窟があった――アイヌの散文物語という酋長談(ウエベケル)には、あの世への入口であるアフンルパルと呼ばれる海岸や洞窟の伝承が多々あると言う。この洞窟も古代ではアフンルパルの一つとして恐れられていた場所である。

 

 その洞窟の前には人間と同じ大きさの白い塊が一つ置かれており、それに亀裂が入ると中から手が出てきて亀裂を裂いてボロボロの鎧を纏った男が転がり出てくる――それは雑兵(スケルトン)達の猛攻で聖衣にダメージを負った市であった。

 

「はぁはぁはぁ、死ぬかと思った」

 

 白い糸に絡め取られて身動きが取れなくなり、窒息寸前でなんとか脱出する事に成功したが、巧みな連携を見せた雑兵(スケルトン)達との戦いで市自慢の聖衣(クロス)は傷ついて幾つもの亀裂が入っていた。

 

「……奴らはどこに?」

 

 待ち構えているだろう雑兵(スケルトン)達に対処すべく周囲に視線を向けるが雑兵(スケルトン)達の姿は見えなかった……どこに行ったのか。奴らは目的を持ってこの場所にやって来たはずだ。ならばその目的を果たそうと行動するはず……問題はその目的が何かという事だが市には皆目検討も付かなかった。

 

「問題は奴らの行き先だが……んっ? 何だこれは?」

 

 雑兵(スケルトン)達の姿を探して周囲を見回していると、少し離れた所に大きな白い繭のような物が存在している事に気付いた。何だ、これは? 一瞬疑問に思った市だったが、直ぐに地妖星パピヨンの特性――相手により形態を変える事を思い出して構える。

 

 雑兵(スケルトン)達との戦いで聖衣は亀裂だらけであり、体力もあまり残ってはいない……先制攻撃を仕掛けるか、一度撤退するか、今までの戦闘経験では劣勢に陥ってからの挽回などほとんど経験なく、逡巡している間に白い繭に亀裂が入った。

 

 亀裂はどんどん大きくなっていき、中から漆黒の鎧を纏ったパピヨンの冥闘士(スペクター)もどき――いや、もはやもどきではないだろう。繭から出てきた冥闘士(スペクター)は思ったより小柄な体格をしているようだ。背中に備えられた特徴的な羽が世界に羽化した事を告げるかのように大きく広がり、パピヨンの冥闘士(スペクター)は、ひらりと大地に降り立ち市と対峙する……マスクを被ったパピヨンのその顔に市は見覚えがあった。

 

「……君は、確かうさぎちゃんの友達の――美春(みはる)ちゃん?」

「誰の事か分からないけど、どこかで会ったかしら?」

 

 思わず問い掛けた市にパピヨンの冥闘士(スペクター)は、にこりと笑いながら答える――パピヨンの冥衣(サープリス)を纏っているのは、以前デパートで開催された古代メソポタミア展で出会った。レイの友達であるうさぎの知り合いの女子中学生の美春であった……そういえば市の学校の先輩である天川 美夏(あまかわ みなつ)の妹が、最近行方不明になったらしいという話しを小耳に挟んだ事があった事を思い出す。

 

「君は美春ちゃんだろ? 天川 美夏先輩の妹の――」

 

 天川 美夏の名前を出した途端、笑っていた美春の様子が一変した――それまでにこやかな表情を浮かべていたのに、一気に無表情となり冷たい雰囲気を纏っていた。

 

「……貴方が私達の障害になるのなら、地妖星パピヨンの美春がここで排除します」

 

 パピヨンが纏う冷たい雰囲気が圧力となって周囲に伝播していくと、市の周りに光る蝶が幾つも現れる。

 

 周囲を舞う蝶に囲まれた市は、それをあえて無視してパピヨンと対峙する――残っている小宇宙(コスモ)燃やして最大の威力の攻撃を繰り出そうとするが、相対するパピヨンの燃やす小宇宙は市のそれを大きく上回り、その強大さは市の知識の中にある黄金聖闘士(ゴールドセイント)に匹敵する程であった。

 

「蝶の羽ばたきの中で消えなさい――『フェアリースロンギング』!」

「百蛇圧殺――『ハンドレットグースネィク・スタイフォー』!」

 

 パピヨンの小宇宙(コスモ)が爆発的に膨らみ、光の蝶が凄まじいスピードで市を襲う――対する市もヒドラの牙を展開して迎撃するが、その拳の全てが光る蝶の圧力に押し負けて牙がへし折られる。

 

「うぐぐっぐぐ!?―――うわぁああ!?」

 

 光る蝶の圧力は市の肉体にも襲い掛かり彼の身を守っていたヒドラの聖衣(クロス)が圧力に負けて砕け、市はパピヨンの攻撃の前にあっけなく吹き飛ばされて―――海の中へと消えた。

 

「本来の『フェアリースロンギング』は相手を死界へと誘うもの……貴方はどこに消えたのでしょうね」

 

 只一人地上に建つ地妖星パピヨンの美春は、大きく抉られた大地を一瞥した後に歩き出した。

 

 


 

 

 人気のない海岸で人外同士がぶつかり、大地に大きな傷跡を残していた。既にパピヨンとヒドラが激突して一日以上が立っている――日は暮れて暗闇が支配する海岸線の一角にボロボロと男が流れ着いていた。仰向けに倒れた男の胸は微かに上下しており、それは男が生きている証明となっていた。

 

 男は緩慢な動きであったがズボンのポケットに手を入れると宮司から手渡された小型の通信機を取り出して何処かに通信をつなぐ……程なくして通信はつながった。

 

『――はい。火野です』

「……レイちゃんか」

『――市さん!? 今まで、何処をほっつき歩いているんですか!』

 

 家庭の通信網に潜り込んだ通信機の先では、現在お世話になっている氷川神社の巫女さんである孫娘であるレイが応対しており、彼女はお怒りのようだがそれに付き合う気力はなかった。

 

「……すまないが、源一郎さんを呼んでくれないか?」

『――もう、後でお説教ですからね』

 

 どうやら祖父である源一郎を呼んでくれるようだ。

 程なくして電話に源一郎が出た。

 

『おお、市くんか。どうしたね?』

「じいさん、ヘルプ……」

 

 そこまで言うのが限界だったのか市は通信機を持ったまま意識を失い、通信機のスピーカーからは源一郎の声が響いていた。

 

 




 どうも、しながい小説書きのSOULです。

 地妖星パピヨンの冥衣(サープリス)を身に纏った美春の前に手痛い敗北を喫した市。
 ――そして美春は東京の地に姿を現す。

 では次回『第八話 蝶の煌き』1/1投稿予定です。
 ではでは~。
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