SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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話数管理を見直しています。第5話(上)→3-1


 平和の国
3-1


CE71/2/12

 

「パナマ……ですか? アラスカではなく」

 

アークエンジェルの艦長室。

士官組とともにハルバートンに面会したマリューは、思わず先ほどの言葉を問い返した。

ハルバートンは深く頷く。

 

「アークエンジェルがアルテミスから送ってくれたデータのおかげだ。ようやく地上のボンクラ共もMSの有効性を認めた。……なにせ、ジン2機を圧倒し、あの<仮面の男>を含む4機と互角に渡り合い、エンデュミオンの鷹(ムウ)と協力したとはいえザフトのエースを墜とす直前まで行ったのだ」

 

ハルバートンの手元のモニタには、ヘリオポリスでのストライクのガンカメラが映像となって表示される。

操縦者であるキラは、コーディネイターであるとはいえ素人だ。

それがこれだけの戦果を上げたとなれば、座視できない。

 

「君らが持ち込んでくれたナチュラル用OSも追い風になった。実験データを見る限り、少なくとも数を揃えて運用する分には問題無く戦力になる。地球連合首脳部は、パナマに製造ラインを立ち上げ、早急に量産体制を整えることを決定した」

 

思わずマリューの胸に熱いものがあふれる。

ヘリオポリスでの開発、そしてここに至るまでの孤独な旅路。

その苦労が認められたのだ。

 

「アークエンジェルはパナマにてパイロットの増員を行い、ストライク、バスターおよび量産機の試験と実戦データ収集を行うことになる。……増員予定は、この3名だ。念のため、連合のコーディネイターも含めてある」

 

ハルバートンの差し出した紙片には、モーガン・シュヴァリエ、エドワード・ハレルソン、そしてコーディネイターと注釈のついたジャン・キャリーの名前が並べられている。

 

「これにフラガ大尉を加えて4名もいれば、わざわざ民間の徴用は不要だ。……よいかね?」

ハルバートンは鋭い視線をナタルへ向ける。

つい先ほどまで“キラを徴用すべき”と主張していたナタルは、短く敬礼した。

 

「……はっ」

それで充分だった。

マリューの頬に、静かに微笑が戻る。

 

 

「我々の意思が、いよいよ力になろうとしている。諸君らの今後の奮戦を期待する」

ハルバートンの言葉に、3人はそろって敬礼を返した。

 

 


 

CE71/2/14

 

艦内では重力制御が切られ、時折漂う器具が光に揺れている。

 

マリューは、ハルバートンとの会談を思い返していた。

完全な警戒態勢を敷いたアークエンジェルと第8艦隊に、ザフトは手出しをしてこない。

ラクスを引き渡したナスカ級は、遠巻きに航路を監視しているだけだった。

 

後数時間もすれば、ヘリオポリスから乗った民間人は船を降り、アークエンジェルは開発と戦いの日々に向かうことになる。

 

(その前には、少し話しておかなきゃね)

キラ・ヤマトはもちろん、トール・ケーニヒにも。

新たな道が開かれたのは、二人の少年のおかげだ。

 

そう考える間にも、アークエンジェルは大気を圧縮して突き破る。

僅かにかかる雲の下には、煌めく海と美しい島々が広がっていた。

 

 

 

 

トールたちはアークエンジェルから降り、オーブが手配した高速艇(勿論宇宙用ではなく、海上用)に乗り移っていた。

避難民たちは宇宙での鬱屈した気分を忘れようとでもしているように、陽光にきらめく水しぶきに歓声を上げていた。

嗅ぎ慣れない生臭さが鼻についた。

 

(さっき艦長に呼び出された時はバレたかとビビったけど……ああも素直に感謝されるとこそばゆいな)

ヘリオポリスからこっち、手元に置き続けた非常用バッグを抱きかかえる。

 

アークエンジェルから降りる直前、キラとトールはマリューに呼び出され、感謝と激励を伝えられた。

 

「戦争が終わったら、また会いましょう、か」

別れ際にそう語ったマリューには、確かな自負と覇気を身にまとっていた。

悪夢の中の悲壮な雰囲気とは大違いだ。

 

悪夢を通してトールが戦況を知っているのは、あと2ヶ月分だが、おそらくそのころには現実は大きく変わっているのだろう。

 

それがトールの影響だと思えば、面映さもあった。

 

(変わったといえば、この人たちも、な)

髪を2つに結んだ少女が、恐らくは人生で初めての海にずっと歓声を上げている。

その姿は、夢の中ではなかったものだ。

志願した学生組を除いたアークエンジェルの避難民は、大気圏で塵と消えたのだったから。

 

「どうしたのトール? 女の子を見てニヤニヤして」

訝しげなミリアリアが声を掛けてきた。

軍服は返却したので、トールと同じように煤で汚れたままの私服を着込んでいる。

まるでこの一ヶ月足らずが、夢の中だったようにも感じた。

 

「いーや? 俺等も子供が出来たら、家族で船に乗りたいな、なんて」

一瞬目を見開いたミリアリアは、顔を赤らめながら「……そうね」と言ってトールの隣に腰掛けた。

今だけは確かに、温もりを感じている。

 

 

 

 

港に着いたキラたちを迎えたのは、家族の歓待と大勢の報道陣だった。

ヘリオポリス崩壊は当然大きなニュースになり、救助され帰国した市民へのインタビューも加熱したが、唯一その様子を内側で見たとされる学生組をメディアは大注目していたらしい。

その顛末を黒塗りの護送車の中で両親に聞かされたキラは、あまりの温度差に平和ボケという言葉が頭に浮かんだ。

 

帰宅したキラは母の盛りだくさんの料理を珍しくも平らげ、ウズミ・ナラ・アスハ代表が引責辞任し混乱が広がっているというニュースを聞き流し、新たな自宅でベッドに沈んだ。

家族と話して気が緩み、ようやくゆっくりと眠れる気がする。

 

だが、心に刺さったトゲが鈍い痛みを持ち続けていた。

 

両親は、キラがパイロットとして敵を撃ったことを知っていた。

キラが生きてさえくれればいい、お前はよく頑張ったと、父は抱きしめてくれた。

港で交わされたその言葉は、間違いなくキラを救ってくれた。

(……それでも、アスランと戦ったことは、言えなかったな……)

ゆるゆると意識が闇に沈む。

夢を見ることもなく、キラは眠りについた。

 

家から出ることもなくメディアをやり過ごし、コロニーとは違う、時間ごとに様相を変える天気に慣れるころには、数日が経っていた

 

 

そして今、キラはトールとともにオノゴロ島のモルゲンレーテを訪れていた。

モルゲンレーテはオーブの国有企業であり、技術の粋。

アークエンジェルで最新のMSに関わった元カトウゼミの4人に、スカウトを持ちかけてきたのだ。

ただ、サイとカズイは断ったらしい。

学籍を移行された本土のカレッジに入学した、との連絡が回ってきた。

 

キラもそうするべきかと思ったし、両親もモルゲンレーテの招きを断っていいと言っていた。

ただ戦場に出て人の命を奪い、それでも生き延びたキラは、今更すべてを忘れることも出来なかった。

今も、何をすればいいかというのはよくわからない。

それでもモルゲンレーテから電話で語られた、「オーブを守るために力を貸してほしい」という言葉に心を動かされた。

ここには友人も、家族もいるのだから。

 

同じく誘いに応えたトールは、「ヘリオポリスから本土へ逃れることは出来たけど、本土から逃れる先はもうないからな。せいぜいアメノミハシラか? 物資がなきゃ干上がるけど」といつものように軽く語っていた。

ミリアリアの両親にも改めて挨拶し、籍も近日中に入れるつもりと聞いて流石にそのスピード感に驚いた。

 

受付に来訪を告げ、ロビーで仲間内のチャットに回すまでもない近況を色々やり取りしていると、ジーンズ姿の女性が近寄ってきた。

 

「キラ・ヤマト君、トール・ケーニヒ君……よね? 私はモルゲンレーテのエリカ・シモンズ。貴方たちを歓迎するわ」

 

握手を交わした後、「付いてきて」と言われて、そのとおりにする。

奥まったエレベーターに入った彼女は、更にコマンドを操作する。

エレベータの階数表示が色を緑から赤に変え、やがて動き出した。

 

「連合のG兵器に関わったあなた達には当然分かっているだろうけど、アレにはモルゲンレーテも協力していたわ。察しが付くだろうけど、自国防衛用のMSを開発するパートナーとして、大西洋連合と組んだってわけ。……そうそう、あんまりオイタしちゃ駄目よ。調べようと思えば、ヘリオポリスでのアクセス履歴だってこちらで確認できるんだから」

シモンズの言葉に、思わずキラはぎくりとした。

事を荒立てるつもりはないようだが、事の発端となった不正アクセスはどうやらバレているらしい。

少し身を竦める。

 

やがてエレベーターは止まり、扉が開くと広大な空間が闇に閉ざされている。

シモンズが壁面のスイッチを操作すると、明かりがその威容を照らした。

 

「ガンダム……! 量産されていたんだ」

ストライクと同じ意匠の頭部と、よりスリムな、貧弱と言ってもいいシルエット。

数機が並ぶそれにキラは思わず声を上げるが、「ガンダム?」とシモンズは首を傾げた。

 

「……そういえば、OSの表示をアクロニムにすると、そう読めるわね。G兵器と区別しやすいし、そう呼びましょうか」

ぱちんと両手を叩いてそう告げると、目の前のMSを仰ぎ見る。

 

「これがオーブを守る力、ガンダムM1アストレイよ。PS装甲こそ無いけれど、発泡金属を用いた軽量な回避重視の機体。連合から得たビーム兵器も装備して、火力は上々。操縦系は十分とは言えないけど、スペックで言えばザフトのジンを凌駕し、ストライクとかとだって渡り合えるわ」

意気揚々と告げるエリカの言葉に違和感を覚える。

 

守る力と言うし、オーブの理念を考えれば基本防衛用なのだろうが、その機体の特徴が回避と火力というのはなんだかチグハグだ。

そもそもパイロットはどうするつもりだろうか。

オーブにもコーディネイターは居るとはいえ、プラントほどには居ないだろう。

 

「PS装甲は盗めなかったから仕方なく回避重視。ついでに言えばOSも未完成だから木偶の坊、ってことでしょ?」

バッグをゴソゴソしながら訳知り顔でトールは言う。

 

シモンズは顔をしかめた。

「……痛い所を突くわね。まぁ、そういうわけだから、あなた達の手を借りたいの。特にキラ君は実際にストライクを操縦していたんでしょ? OSの改修に向けて、なにか気づきがあればと思って」

キラは思わずキョトンとする。

どうやら地球連合とその辺りの都合は同じらしい。

 

(また1から作らなきゃいけないのか……。流石に細かいソースコードまで覚えてないし)

キラが逡巡している間に、トールはバッグからノート型端末を取り出した。

カレッジ時代から使っている、トールの個人端末だ。

OS開発でも種々のデータを入れて使用した。

 

あ、と思わずこぼしたキラの思考が追いつくより早く、トールが口を開いた。

 

「そんなことだろうと思いました。……ところでシモンズさん。ここにストライクとバスターの設計データと実戦データ、あと実戦投入済みのナチュラル用OSがあるんですけど。……いくら出します?」

 

 

錆びついたようにぎこちない動作でトールを見つめると、彼はニヤッと笑った。

「いったろ、できることは全部やるんだよ、俺は。……ついでにいうと、手段もあんまり選ばない。報酬は山分けでいいだろ?(お前も共犯者だぞ)

 

 

 

 

 

慌てて各所に連絡をとったシモンズにより、トールの傷ついた端末は一般人の生涯年収並の価格で買い取られることになった。

と言っても、一時金以外は給料に上乗せという形にしてもらった。

あまり一度にまとめて渡されても、扱いに困る。

 

(オーブにたどり着いたとはいえ、今後ザフトと連合の戦いがどうなるかわからない。皆を守るためには、力が必要だ)

 

キラとともにモルゲンレーテから渡される譲渡や雇用の契約書に次々とサインをしながらも、頭の中を整理する。

シモンズは、目の前で譲渡された端末を開き、凄まじい速度で読み込んでいる。

どうやら彼女もコーディネイターのようだ。

 

散々悪夢に泣かされて育ってきたトールは、悲観論で物事を考える。

オーブが、このまま単純に中立を守っていられるというのは、願望に過ぎない。

それを実現しようと思うのであれば、相応の力が必要だが、技術はあっても国土の制約がつきまとう以上、生産力やパイロットには限りがある。

できるだけ早期に生産を進めることと、少数精鋭を成し遂げるだけの高性能機が必要なのだ。

 

 

そうして、トールはモルゲンレーテに就職した。

エリカを筆頭とするMS開発班にキラとともに加わり、テストパイロットやアイディア出しを行う。

モルゲンレーテではデータ取りのためとしてストライクとバスターのコピーの建造が進み、M1アストレイの列に見慣れた機体が並んだ。

そんな日々が、一ヶ月ほど続いた頃だった。

 

キラから、一週間ほど休暇を取ると告げられた。

 




トールの端末は地味に貼っていた伏線でした。
こいつやりやがったと思っていただければ幸いです。
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