SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択   作:reex

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話数管理を見直しています。第5話(下)→3-2
R.I.P.キサカ



3-2

CE71/3/28

 

オーストラリア大陸にあるカーペンタリア基地は、ザフトの地球における最大の拠点だ。

親プラント国である大洋州連合から事実上の土地供与を受け、既存の港湾に寄り添う形でわずか48時間で建設された。

 

カーペンタリア湾自体浅い海であり、海上・海中戦力の投入も難しく、四方を大陸と半島、ニューギニア島で囲まれた基地を攻略するのは、非常に困難である。

 

だが、少人数であるなら抜け道はいくらでもある。建設の経緯からザフトは全域を監視しているわけではないからだ。

さらに、内陸側から伸びるインフラは戦前から変わっていない。

もとより隣国であったオーブは、様々なルートを把握している。

 

かつて海戦が起きたことでも知られる半島の対岸、珊瑚海。

停泊した漁船に、朝焼けに微かに照らされながらウェットスーツの手が伸びた。

やがていくつかの影が漁船に登り、手早くスキューバを外していく。

 

「こっから先は、内陸側から大回りだ。気をつけて行くんだな、カーペンタリアまで」

老人が潮焼けした声でそう言って緑の軍服を差し出す中に、キラの姿があった。

 

 

 

CE71/3/26

 

キラがオーストラリア大陸へ入る数日前。

 

モルゲンレーテから家路についたキラは、自宅から聞こえる言い争いの声に戸惑いを浮かべた。

 

「2度とお目にかからない! そういうお約束だったじゃないですか?! あの子を巻き込まないでください!!」

 

「申し訳ない。そうとしか言えない。……ただ、私はカガリを愛している。それに、貴方にとっても姪の話だ。……なんとか、お力を貸していただきたい」

 

「そんな事を言って……! そうでしたら、外に出さなければよかったのに!!」

普段穏やかな(カリダ)のヒステリックな叫びも、それに答える男性の声も、聞き慣れないものだった。

ただ男性の声も、どこかで聞いた覚えはあるように思える。

 

家の前までくれば、黒服の男性が玄関先にまっすぐ立っていた。

思わず足を止めると、折り目正しくお辞儀をしてくる。

 

戸惑いがちに小さく会釈を返して玄関をくぐり、小さくただいま、と言って家に入る。

リビングを覗き込むと、壮年の男性が母に対して大きく頭を下げていた。

 

「っキラ……。母さんは大事な話をしているの。外に出てなさい」

母がそんなことを言い出し逡巡するキラに、頭を上げた男性がキラを見つめる。

 

「キラ君、だね。こうしてみると、やはりどこか似ている。……君に、お願いがあってきた」

 

「ウズミ様!!」

咎めるように声を遮る母の言葉にハッとする。

聞いた覚えがあるはずだ。

つい先日まで、長年オーブの代表を務めたウズミ・ナラ・アスハが、そこに居た。

 

「カリダさん、母としての貴方の気持はよく分かる。それでも、私も父なのだ……モルゲンレーテを通さず、直接ここに来たことを誠意と思ってほしい。それに、最後はキラ君の判断だ」

ウズミの言葉に、母は歯を食いしばるように下を見つめた。

 

改めてテーブルに着いた3人。

気まずげな沈黙が漂うが、ウズミが毅然とした態度で口を開いた。

 

「あまり表には出ていないが、私には娘がいる。跳ねっ返りで、正義感ばかりが先に立つ子でな。世の中を単純に見すぎているのが心配だった。……だから私は、世界を見てこいと送り出した。地球連合、ザフトのどちらにも従わぬ、知己のレジスタンスへ」

 

ウズミは、手のひらを見つめたまま小さく息を吐いた。

「あの<明けの砂漠>という組織は、理想だけを抱えた小さな集団だった。ザフトに噛みついたところで、あしらわれるのが関の山。……私もそう高をくくっていたのだ」

 

そこまで言うと、彼は拳を握り締めた。

「だが現実は違った。若い者たちが過激になり、ザフトはついに拳を振り上げた。組織は壊滅し、娘は連れ去られた。……報せを届けてくれた護衛も、現地で息を引き取ったよ」

 

低く、地を這うような声だった。

「情報によれば、娘はカーペンタリアに移送された。オーブとの交渉材料としてな。だが、娘一人のために国を屈させるわけにはいかん。レジスタンスに居た事が明かされるだけでも、オーブの中立が終わる」

 

ウズミは立ち上がり、テーブルに両手をついて頭を下げた。

「事を収めるためには、完全に極秘裏に娘を救出した上で、その場でハッキングしてすべての形跡を消す必要がある。モルゲンレーテでの仕事を見ても、今のオーブに君以上の情報処理能力を持つものは居ない。……特殊部隊に手を貸し、共にカーペンタリア基地へ、向かってほしい」

 

ウズミの長い話を咀嚼したキラは、未だ頭を下げるウズミを見やる。

「……経緯は、わかりました。貴方が父親失格だってことも。それでも、なぜ僕が協力しなきゃならないんですか?」

 

貴方しか出来ない、宇宙では散々言われてきたことだ。

だが、銃を取るのであれば、せめて自分で決めるべきだと、そう思い始めた。

それはハッキリとした切っ掛けがあるわけでもなく、モルゲンレーテの中で国を守るために働く人々を見て感じたことだった。

 

それでも、オーブのためにどうしてもとウズミが言えば、キラはそれで納得するつもりだった。

しかし、一瞬カリダの様子を伺ったウズミが言い放ったのは、全く別の言葉だった。

 

 


 

CE71/3/27

 

 

(地球の潮風ってのは、本当に嫌だな。髪がベタつく)

アスランの髪を、屋内でさえ生ぬるい風が通り抜ける。

 

隊長のクルーゼが、次の作戦に向けた準備の為プラントに残る中、アスランたちは事前に地球へ降りていた。

パナマを押さえてしまえば月基地は干上がる以上、次の作戦の目標がパナマというのは規定路線だ。

宇宙と地上では、重力への対応やビームライフルの対流など、MSの運用は大きく異なる。

その慣熟訓練として、アスランたちはアジア方面への攻撃に参加していたのだ。

久しぶりに戻ってきたカーペンタリアは、やはり熱気と湿気が煩わしかった。

 

通路を歩いていたアスランは、いくつか並ぶ部屋の一つの前に立ち止まる。

要人向けとしてベッドスペースも備えたそこは、カメラも置かれていない特別房だ。

ロックも通常の手順と異なるが、司令に頼み込んで借り受けたカードキーをかざす。

 

ここで、オーブの要人が尋問されているという。

 

 

(オーブは……なぜ地球軍に加担した?)

宇宙で、ラクスからキラの話を聞いた。

キラはただ巻き込まれただけで、アスランが戦場で向かい合うことになったのは、不幸な偶然だったのだ。

オーブがMSなんて開発しなければ、キラは彼らしく平和に暮らしていたはずだ。

 

「失礼します。尋問中に恐縮ですが」

その言葉は最後まで続かなかった。

 

視界に飛び込んできた光景に、アスランの喉が凍りつく。

擦り切れたような痛んだ赤服をまとった男が、金髪の少女に馬乗りになっていた。

手錠をかけられた腕を床に押さえつけ、もう片手は喉を抑えている。

乱れた上着の下で、白い肌が無防備に晒されていた。

 

一瞬、空気が弾けた。

 

「何をやっている!」

 

アスランの怒声と同時に、体が勝手に動いていた。

男の肩口を押しやろうとする。だが男は少女を盾にして転がり、距離を取る。

 

「邪魔すんなよ。今尋問、の最中なんだが?」

 

アスランを見上げながら、赤服の男は口元をゆがめる。

少女はバタバタと足を動かして抵抗しようとするが、男はため息を吐くと腕を絡めて少女の首筋を締め付けた。

少女の体から力が抜ける。

 

「お前は……一体何をやっている……!」

 

怒鳴りながら、アスランはその襟を掴み上げた。

男は小さく息を吐き、面倒くさそうに答えた。

 

「こいつ、オーブの要人の娘なんだとさ。でもまぁ口が固くてよ。多少遊んでやったほうが、よく喋るんじゃないかってだけさ」

 

アスランの拳が反射的に動くが、男はそれを滑らかにかわした。

赤服を着ているのも伊達ではない。

 

「捕虜への暴行は禁止されている! それ以上に……人間として恥ずかしくないのか?!」

 

アスランのかすれた怒声が部屋を揺らした。

だが男は、鼻で笑うように口を開いた。

 

「まぁナチュラル相手に手を出すのも萎えちまいそうだけどよ、仕事だから仕方ないだろ?」

 

激昂を押さえつけ、突き放すように襟から手を離す。

言うだけ無駄だ。

 

「……尋問は俺が引き継ぐ。二度と近づくな」

 

 

男はわざとらしく肩をすくめた。

「おいおい、赤服同士だろ? 何様のつもりだ?」

 

アスランは舌打ちする。

ザフトには厳密な階級がない。命令権を盾にできる立場でもない。

ただ更にその上の名前は、使おうと思えば使えた。

 

「……俺の名前はアスラン・ザラだ。父に報告してもいいんだぞ」

使うつもりのなかった言葉が空虚に響く。

 

数秒の沈黙の後、男は乾いた笑いを漏らした。

「なるほどなぁ。そりゃ強気にもなるわけだ」

 

吐き捨てるように言うと、視線を逸らして壁を殴りつける。

拳の鈍い音が部屋に響いた。

細めた目で再びアスランを睨むが、やがてカードキーをかざして扉を開け、そのまま部屋を出ていった。

 

 

アスランは渋い顔のままため息を吐くと、少女の介抱に移った。

膝をついて、少女の投げ出された身体を仰向けに正し、首筋に手を当てる。

脈を確認するとおとがいを軽く押して気道を確保し、頬をぺちぺちと叩いた。

 

「……んぅ?…………ッ?!」

少女はぼんやりと目を開けたかと思えば、ばっと身を起こした。

混乱した様子できょろきょろと周りを見回す。

 

アスランはわずかに身を引いて、口を開いた。

「……大丈夫か? 聞きたいことはあったが、明日にしよう。ゆっくり休んでおくといい」

 

すっと立ち上がると、少女が一瞬声を上げようとしたようだが、喉が動かず慌てて咳き込んだ。

 

アスランはその様子を僅かに見やると、部屋から出た。

すぐ扉脇の壁に身を預けて腕を組む。

(……あの男が戻ってきたら厄介だからな)

 

そうして、夜間照明に切り替わるまでそこに立ち続けた。

 

 

 

CE71/3/28

 

起床ラッパがなって早々、PXでアスランは赤服の男について聞いて回った。

聞くところによれば、腕は確かだか素行が悪く、どうやら嫌われているということだった。

今日からはまた任務に出るらしいが、そこまで聞けばアスランにも想像がつく。

 

(つまり俺を良い警官にしたいわけか、司令官は)

粗暴な人物の後に温厚な人物が尋問を行い、協力的にさせる古典的な手法だ。

合理的ではあるが、アスランの口には苦いものが混じった。

 

だが、そうであるならば話は簡単だ。

自分の食事を軽く済ませると、捕虜用の食事を受け取り昨日の部屋へ向かう。

念の為いくらかノックすると、「入るぞ」と声をかけながらロックを解除し中に入る。

 

金髪の少女は、両膝を抱くようにベッドに座ったまま、こちらに警戒の目を向けていた。

扉が自動で閉まりロックが掛かる。

内側からもカードキーがなければ開かないし、カードキーを取られるような間抜けはザフトにいない。そういう思想だ。

 

「……昨日の奴は任務に出た、当面は心配しなくていい。体は大丈夫か?」

トレイを机の上に置く。

サブマリンサンドにチリソースがかかっている。捕虜に出すには贅沢すぎるほどだろう。

野良猫のような雰囲気のまま少女が口を開いた。

 

「ふん、あれぐらい、私にだってなんとかできたさ。……でも、ありがとう」

憎まれ口を叩きながら、のそのそとベッドから降りると、机についてサンドにかぶりつく。

あっという間にパクパクと食べきると、半眼でアスランを睨みつけた。

 

「……それで、なんの用だ。言っとくが私は何も喋らないぞ」

喋らないと言いつつ用事を聞くさまに、思わずアスランは笑いを漏らした。

少女はすねたように腕を組んであらぬ方向に視線を向けるが、真剣な表情に戻ったアスランが口火を切ると、動きを固めた。

 

「オーブは……なぜ連合に協力してMSを作った? そうでなければ、ヘリオポリスを攻撃することもなかった」

 

少女は、まるで幽霊でも見たような表情でアスランを見つめ返す。

「まさか……お前、ヘリオポリスにいたのか?」

 

返された言葉に、アスランの方も困惑した。

その言い方はまるで、とアスランの思考が追いつくより先に、少女が言葉を続けた。

「私もいたんだよ、あの時。ヘリオポリスに」

 

記憶が巻き戻る。

砕かれた大地が漂い、人の営みが虚空へ消えていく。

そしてアスランは見た。見てしまった。

ラウ・ル・クルーゼのシグーが、意図的にコロニーにとどめを刺すさまを。

だからこそ、ヘリオポリスを破壊するのは仕方なかったと、そのための理由を求めて無理やり尋問に参加しようとしたのだ。

 

喉を締め付けられたようにアスランは押し黙る。

察しがついたのだろう、ダンッと机を叩く音とともに少女は立ち上がった。

トレイに残された樹脂の皿が、カラカラと音を立てる。

 

しかし、幾ばくもしないうちにしぼむように少女は座り込んだ。

 

「……まぁ、いいさ。結局強者が力を振りかざせば、弱者は黙るしか無い」

俯いて下を向く。

 

「ザフトも連合も変わらない。平和に支配されず暮らしたい、そう思っていても、結局力がなければ虐げられる。今なら、オーブがなりふり構わず地球連合と協力してでも力を求めた気持ちがわかる」

 

「っそんなことはない! ザフトは連合の圧政に立ち向かうために戦っているんだ!」

今度はアスランが立ち上がって咆えるが、少女は虚ろな瞳を向けてくる。

 

「……私の居たレジスタンスは、元々アフリカ共同体に対して民族自決を訴える組織だった。アフリカ共同体がザフトに転んでからは、期待するものも居たと聴いた。……でも、何も変わらなかった」

 

「表面上の面倒は見てくれるさ、流石にな。だけど富を吸い上げ、しわ寄せを民衆に押し付けるのは変わらない。だから彼らは武器を取ったんだ。……触発された私とキサカも加わった」

キサカという名を口にする時、少女は一際顔をしかめた。涙が目尻にこぼれる。

 

「そりゃあ迷惑だっただろうさ。それでも最初は見逃してくれた辺り、たしかにザフトは寛容だったのかもな。でも、最後には……」

 

少女の瞳から涙が溢れ出す。嗚咽混じりの声が悲痛に響いた。

「街を締め上げて、夫を、父を、子を差し出させた!! 背後から撃たれた皆はすぐボロボロになって、悠々訪れたザフトは簡単にトドメをさしていって……私を守ろうとしたキサカも……」

 

話を聞いてアスランは押し黙った。

 

地域に密着したゲリラを外から排除するのは難しいから、合理的手段ではある。

それでもやられた方からすれば、堪ったものではないだろう。

 

そんな中で彼女を守り通したのだ。

(キサカ……優秀な人物だったのだろうな)

そもそも彼女が捕虜とされたのは、余りにも強力な護衛がついていたのがきっかけだ。

一時は陸戦小隊、9人のコーディネイターを1人で撃退し、遺体収容時にも飛び起きて行方をくらました。

そこから護衛対象と思わしき彼女の容姿が検索され、オーブの氏族パーティー写真に姿があったことから捕縛されたと聞いていた。

 

 

「ホントは私もあそこで死ぬべきだったんだ……。今からだって舌を噛み切って、オーブに迷惑をかけないようにしないといけない。でも、キサカから生きろって言われたから……」

 

涙を流し続ける少女に、思わず近寄って肩を抱く。

 

「……舌を噛んで死ぬのは、血で呼吸困難になるからだ。基地内であれば医療体制は整っているから、死ぬようなことにはならない」

 

「何だよそれ……。死のうとしても逃さないって意味か? それともまさか慰めているつもりか?」

呆れたように泣き笑いで語る少女の頬を、アスランの手が拭った。

 

少女が泣きやむのを待って、また話をした。

好物や趣味、普段の過ごし方など。

 

素性を話そうとはしない少女だったが、言葉の節々から上流階級での生活の跡が見えた。

しかしそのうちにアスランが名乗ると、躊躇いがちに少女も名乗った。

カガリと。

 

 

やがてアスランが昼食を、その後には夕食を持ち込んだ頃だった。

ピ、と電子音を上げて扉のロックが解除される。

(まさか、あの男がもう戻ってきたのか……?!)

 

背にカガリを庇い、扉から距離を取る。

しかし開いた扉から転がるように現れたのは、全く想像だにしない相手だった。

 

空間が凍りついたかのように、アスランも相手も動かない。

やがて怪訝な表情をしたカガリがはっと声を上げた。

 

「おまえ?! ヘリオポリスにいた……」

声に弾かれたように二つの影が動く。

アスランが銃を抜くのと、相手がタックルを仕掛けてきたのは同時だった。

 

もみ合いになり、銃がはね飛ばされる。

鉄の床に跳ねた音が、妙に長く響いた。

 

「……キラ! なんでおまえがこんなところに?!」

 

「アスランこそ……!」

力は一瞬均衡したが、訓練を積んだアスランの方が強い。

 

キラがはねとばされ、受け身を取る。

 

「どうしてお前がここにいる?! なぜザフトの軍服を着ているんだ?! ……まさか地球軍の潜入工作……!」

仮にキラがプラントに行ったとしても、今ここにいるのは不自然だ。

そしてザフトの基地に進入しようというなら、地球連合が最も疑わしい。

 

しかしキラは首をふると、カガリを見つめて、ふっと笑うように言った。

「地球連合は、もう除隊したよ。……ここに来たのは、跳ねっ返りの妹を助けにきただけさ」

 

「い、妹……?」

頭が言葉を受け付けないアスランと、唖然とするカガリをよそに、キラは円を描くようにアスランから距離を保ったまま、カガリに近づいた。

 

 

「僕も知らなかったんだけどさ。母さんは実の母親じゃなくて、叔母なんだって。実の両親は、研究だかなんだか知らないけど、わざわざナチュラルとコーディネイターで双子に産んで、結局それぞれ別に預けたらしい」

キラ自身未だ現実感に乏しいとわかるほど、彼は淡々と語った。

 

 

アスランははっとカガリを見る。

そう言われてみれば、カガリの表情に幼い頃憧れたキラの母(カリダ・ヤマト)の面影を感じる。

 

「な、なんの話だ、それは!?」

そう吼えるカガリに、キラは小さな紙片を取り出して「僕らが生まれたときの写真、だってさ」と告げる。

カガリは食い入るようにそれを見つめていた。

 

「だから、アスラン。お願いだ。……僕らを見逃してくれないか?」

どんな弁明よりも真摯な、心の底からの願いだった。

 

アスランはしばし言葉を失う。

ヘリオポリスで交わした銃口の記憶が脳裏を過ぎる。

(また、キラを撃たなければならないのか……?)

 

だが次の瞬間、アスランの口から出たのは皮肉めいた問いだった。

「仮に、見逃さなかったとして……。お前、そこの扉のロックどうするつもりだ?」

 

「……えっ?」

扉にはオートでロックが掛かっている。外側ならともかく、内側からは当然ハッキングするようなコネクタもない。

 

(まぁ俺からキーを的確に奪えるなら、それでもいいんだが)

無防備な様子で扉を見るキラに、呆れてため息を吐く。

 

 

アスランがカードキーを投げ渡すと、キラは慌てて受け取った。

「まぁいいさ、ラクスを助けてもらったんだ。キーを奪われた間抜けのふりぐらいするさ。……代わりに約束しろ、二度と地球軍に関わるな。俺はもうお前に、銃を向けたくはない」

命令でも説得でもなく、ただの懇願。

親友として、同じ痛みを知る者としての叫びだった。

 

キラは受け取ったカードキーを胸の前で握りしめた。

そこに、ヘリオポリスでの炎の光景がよぎる。

 

キラは大きく頷いた。

「……わかっている。僕も、アスランと戦いたくない」

短い沈黙のあと、アスランはわずかに笑った。

 

 

未だ戸惑うカガリの手を引き、キラは部屋を出ていった。

アスランは小さく手を振り見送る。

 

閉じた扉に再びロックが掛かると、アスランはぼんやりと部屋のベッドに寝転がった。

微かに甘い香りが漂った気がした。

 




原作のラクス人質返還/アスランがオーブに潜入の展開を反転してみました。
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