SEED:Overcomers トールのトリガー/シンの選択 作:reex
CE71/4/1
「では、アスラン・ザラ。再度確認する」
会議室に、カーペンタリア基地司令の平坦な声が響いた。
副官が議事録を取っている。
「3月28日。本基地は何者かによる侵入工作を受けた。監視カメラ、各種センサはすべてループ処理による上書きをされており、非常に遺憾ながら、侵入者の照会をすることは出来ていない」
「君は捕虜尋問中、特別房にて侵入者と交戦。格闘戦のさなかに、捕虜にカードキーを奪われた。その結果、君自身が特別房に閉じ込められ、侵入者と共に捕虜は逃亡。……これが君の供述ということで間違いないな?」
「は。間違いありません」
アスランは背筋を伸ばし、はっきりと答えた。
「しかし君は、アカデミーの総合首席だ。ナイフ・格闘戦首席、射撃・爆薬処理次席」
机上の書類を叩くトントンという音が響く。
「侵入者がどれほどの手練れであったにせよ、時間稼ぎもできず制圧されるというのは理解し難い。君の“正義感”を疑うわけではないが……他の尋問官から、君が捕虜に対し異常に同情的だったとの報告も上がっている。これについては、どう説明する?」
一瞬だけ視線を伏せ、アスランは答えた。
「報告のとおりです。私の不徳の致すところです」
「ふむ……不徳、か。君ほどの者が」
司令官はわずかに鼻を鳴らし、目を細める。
「君には、捕虜逃亡扶助の嫌疑がある。本来であれば、国防委員会での審議を要する重大案件だが……」
言葉を区切り、視線をアスランに向ける。
「国防事務局より通達があった。今回の件は政治案件として処理、審議の対象外とする。
以上をもって、本査問会は終了とする。……お父上に感謝するのだな」
「……了解いたしました」
短く答えるアスランの声は、かすかに震えていた。
基地司令は、わざとらしく椅子の背にもたれた。
「君は、プラントを背負う男になると思っていた。だが、どうやら私の見込み違いだったらしい」
アスランは目を閉じ、深く息を吸い込む。
そして、静かに敬礼した。
「……申し訳ありません、司令。責はすべて、私にございます」
(周りに迷惑もかけたし、父の名誉も傷をつけた。……だけど、これで良かったんだ)
カガリを助けることが出来たし、キラと和解することも出来た。
迷惑をかけた分は戦果で償うしか無いだろう。
だが、今ならばどんな敵でも打ち破れると感じていた。
しかし返答を聞いた基地司令は、冷笑して立ち上がった。
「本件については、レジスタンスへの関与も含めてオーブへ抗議している。……が、“証拠”がなくなってしまったからな。すでに虚偽であるとの反論が来ているが、このまま水掛け論がせいぜいだろう。であれば、かわりの手段を取るしかあるまい」
立ち尽くすアスランの脇を抜けて、基地司令は会議室を出ていこうとする。
すれ違いざまに、苛立ちを込めた声を上げる。
「……私の経歴に傷をつけたのだ。君が泥をかぶったところで、無意味なのだよ」
アスランは目を見開いた。まさか、オーブへなにか仕掛けようというのか。
晴れやかだったはずの気持ちに、暗い雲がかかった。
CE71/4/1
同時刻、キラの自宅。
アスランと別れた後、キラとカガリは味方と合流してカーペンタリアを脱出した。
そもそも、手筈としてはキラが基地のセンサーとカメラを誤魔化し続け、その間にオーブの特殊部隊がカガリの場所を捜索、深夜になって夜勤に切り替わるタイミングで救出を行うこととなっていた。
しかし、既存港湾設備と無理やり連携されていた基地システムは予想以上に脆く、キラはループ処理とマスターコードの生成に成功してしまったのだ。
折り悪く、護衛が整備主任に咎められ、点検を装って別ルートに移動していた。
護衛に報告しようとピットから頭を出したキラは、ザフト兵と鉢合わせ。
なんとか誤魔化せたものの、その場を離れざるを得なかった。
そんな中、ドタドタと走り回る音を聞いたキラは、侵入がバレたと思って過剰反応の末、マスターコードを使って手近な部屋に入り込んだ。
よりにもよって、それがカガリの特別房だったという顛末だ。
実際のところ、後に聞いた話では特殊部隊の一人が、調査の陽動として機材で鳴らした音だったそうだが。
キラはすぐに味方に連絡を取ったが、想定外の時間にカガリという”お荷物”を抱えたことで計画は大いに狂った。
無事脱出できたのは奇跡的と言っていい。
トールに休んだ理由を聞かれたキラは、見逃してくれたアスランの寛容さを誇るように、侵入からここまでを電話で語りきった。
『……スパイ映画みたいで面白かったけどさ、今さらだけどそれ俺が聞いていい奴だったの? 電話で話すのすらヤバいやつのような……』
キラはキョトンとした声を上げた。
「別に口止めされなかったし……。国内だから大丈夫じゃないの?」
『ホントかよ……。怖いお兄さんが突然家の前に来たりしたらビビるぜ』
若干怯えるような様子のトールに、あっけらかんと答える。
「せいぜい注意と口止めぐらいじゃない? なにか言われたら、そもそもウズミ様のせいでしょって返したらいいよ。僕も口添えするから」
キラだって、便利に使ってくれたウズミに含むものはあるのだ。
『……お前、普段はおとなしい割に、キレたら結構ムチャ言うよな……』
「今更だよ。
諸々含めて激怒したハルマが、後日感謝に訪れたウズミの顔に一撃をくれていた。
流石にウズミも甘んじて受け入れたが、「ウズミ様は面倒を見れないほどお忙しいようだから、カガリもヤマト家で引き取りましょう」という言葉には、鼻血を垂らしながら悲痛な声を上げて拒絶していた。
『でもそれじゃ、11日の予定は大丈夫そうだな』
安堵したようにトールが声を上げた。
「うん、ちゃんと行くよ。……トールとミリアリアの結婚式」
キラは微笑みながら答える。
ミリアリアとすでに籍を入れたトールは、モルゲンレーテからせしめた一時金を使い、自分の両親、ミリアリアの両親含めた3世帯が住むマンションを1棟買い上げていた。
仕事やら引っ越しやらでバタバタした結果、4月にずれ込んだ結婚式はトールの誕生日である4/11に行われることになっていた。
『せっかくだから、式にそのカガリも呼んでみろよ。中々仲間内が集まるタイミングもないし、その場で紹介しちゃおうぜ』
トールの提案に、キラは思わず声を上げた。
「へ?! ……いや、みんなびっくりしちゃうでしょ?」
『それがいいんじゃないか。元代表の娘にして、キラの妹だぜ。……いやぁ、俺もびっくりしたよ。まさかカガリがなぁ……』
トールの口ぶりに少し違和感を覚えたが、うまく言語化出来なかった。
キラは気を取り直して問いかける。
「それより、モルゲンレーテの方はどう? なにか進捗あった?」
『
トールの返答にキラは驚いた。
「え?! 早いね、PS装甲の設計反映したの先週でしょ」
『そんだけオーブも本気だってことさ。それとさ~』
怒ったミリアリアがトールの端末を取り上げるまで、二人の通話は続いた。
CE71/4/11
(どう考えても私、場違いだよな……)
薄緑のドレスにベージュのジャケットを羽織ったカガリは、式場の隅で縮こまっていた。
つい先日"きょうだい"だと知ったキラの、友人の結婚式にお呼ばれしたのだ。
式の前にゲストに紹介されたが、周りが驚きに包まれる中、緊張するカガリの姿を見て爆笑している
苦しそうな表情で「いや~よく似合ってるよ、プフ」と笑いながら言ってくるのには思わず手が出かけたが、流石に初対面の、かつ式の主役にそうするわけにもいかず我慢した。
普段の様子も知らない赤の他人に、何故そこまで笑われなければならないのか。
かわりに花嫁のミリアリアがトールの頭をはたいてくれたので、いくらか溜飲を落とした。
トールはともかく、彼女とは仲良くできるかもしれない。
そう思い返していたカガリの視線の先を、しずしずとトールとミリアリアが進む。
やがてステンドグラスから優しい光が降り注ぐ中、司祭の前に並んだ。
司祭が口を開く。
「今日、ここに婚儀を報告し、またハウメアの許しを得んと、この祭壇の前に進みたる者の名は、トール・ケーニヒ。そしてミリアリア・ハウか?」
「はい」「はい」
静寂に二人の緊張しがちな声が響いた。
「この婚儀を心より願い、また、永久の愛と忠誠を誓うのならば、ハウメアは其方達の願い、聞き届けるであろう。今、改めて問う。互いに誓いし心に偽りはないか?」
「偽りなく、永久の愛と忠誠を誓います」「はい。……私も同じです」
トールとミリアリアの指が絡められた。
「……よかろう。母なる
司祭の一際真摯な言葉が響いた。
「我ら子らに息吹を与え、再びこの地に、生命の和を戻したまえ」
「正しき心と愛を、再び満たしたまえ」
「今このとき現れた夫婦に、魂を燃やし、正しきを見極める力を」
「風はやさしく、雨は豊かに。やがて生まれ出る子らが、健やかでありますように」
祝詞に合わせて向かい合ったトールとミリアリアは、両手を結ぶとくるりとまわる。
そして抱き合った二人は、赤らめた頬で天を仰ぎながら声を合わせた。
「「光の世界を生みし母、ハウメアよ。再びの命に、感謝を捧げます」」
思わずカガリの目にも涙がこぼれる。
オーブで育った女子には、憧れのシーンだ。
火山の象徴でもあるハウメアは、破壊と再生の循環を司る、豊穣の女神。
別の人生を歩んできた新郎新婦は、この式でもってして一組の夫婦として産まれ直し、新たな人生を歩むのだ。
お互いの両親や友人たちの集まったこじんまりとした式は、万雷の拍手で終わった。
いくらか余韻に浸った後、ガヤガヤと騒ぎながらパーティー会場へ移動する。
春の花に彩られた渡り廊下を進みながらも、カガリはぼんやりと考えた。
立場上、カガリにも
というか相手はやぶさかでもなさそうなのだが、”女性らしさ”を押し付けてくるユウナはカガリの好みではなかった。
どんな相手と、考えたところで、どこぞの不器用な男の顔が浮かびかけたが、慌てて頭を振る。
あり得ない。彼はザフトなのだ。
「アークエンジェルも頑張ってるみたいだな。ザフトのエースを撃破! みたいなの最近ニュースで見るぜ」
「みたみた。モラシム隊とかだろ? ”魅惑の大天使”とか言って、艦長の写真大写ししちゃうのは、笑っちゃいそうだけど」
「まぁ艦長、顔もスタイルもいいからなぁ。プロパガンダには使いやすいだろうさ」
パーティー会場で盛り上がるトール、カズイ、サイに、ミリアリアが呆れのため息を吐いたかと思うと、カガリに近寄ってきた。
「ごめんねぇ。初対面なのに式に巻き込んじゃって」
照れくさそうに頭を下げるミリアリアに、慌てて首を振る。
「いや! いいんだ。……あんまり結婚式とか見る機会なかったから、その……感動した。貴方も、綺麗だった」
そう返すと「アリガト」といってミリアリアは微笑んだ。
「トールもいろいろ抱え込んでたんだけどさ、ようやく話してくれたから。……これからは夫婦一丸となって頑張って参ります!」
わずかにトールを見やると、ぎこちない動きで敬礼するミリアリア。
思わずカガリも笑いが漏れた。
「ドレス姿には、流石に似合わないな」
「あはは……。まぁこんな時代だからね。オーブもどうなるかってのはあるし。気合い入れていかないと」
乾いた笑いとともにミリアリアが何気なく言った言葉が、ズキンと胸を刺した。
4月以降、ザフトはオーブに対する圧力を強めていた。
EEZには頻繁に
果てには近隣のマーシャル諸島に、簡易ながらも拠点が開設されたそうだ。
(私のせい、なんだろうな)
自分が捕らわれたこと、それ自体は取るに足らない駒のひとつだったはずだ。
だが、ザフトの最大拠点に侵入を許した事実は、軍の面子を踏みにじったに違いない。
物的証拠を消し去ったと言っても、状況はオーブの関与を示しているのだ。
下を向いたカガリをミリアリアが心配してくるが、誤魔化して立ち去る。
キラにはひと声かけて、護衛を呼んで一足先に家路についた。
(
向こう見ずに立ち向かえばいいとは、もう思っていない。
それでも、できることを探したかった。
ハウメアって現実ではハワイの神様なんですね。
一応検索してそれっぽくしてみました。